お知らせ
NEWS2024.11.25
保護中: 【報告】人と動物の共生およびSDGs推進シンポジウム 2024 「ペットとの暮らしを活用する豊かな社会 -それを可能にする環境整備-(NPO法人老いの工学研究所/公益社団法人Knots)」
《第2部》
人とペットが幸せに暮らせる環境整備をどのように行うか?
- 事例発表 ①「高齢者とペットの居場所事例調査」(NPO法人老いの工学研究所/公益社団法人Knots)
<公益社団法人Knots発表>
Knotsで行った事例調査の一つ目は、神戸市の市営住宅についての聞き取りです。飼育ニーズの増加を受け、小規模戸数住宅で市がアンケートを実施し、入居者全員の同意が得られた住宅のみペット飼育可住宅へと転用を行っています。現時点では6ヶ所がペット飼育可能な住宅になっており、今後も増やしていく予定だそうです。
訪問した有料老人ホームでは、大阪のペット共生型有料老人ホーム「ペピイ・ハッピープレイスTAMATSUKURI」の事例を紹介しました。こちらの施設は、動物病院や動物の専門学校に隣接し、動物の手厚いケアも受けられます。入居者の9割がもともとペットを飼育されており、1割は入居後に飼育をされているそうです。万が一飼い主が飼育できない状況になった場合、ペットの行き場がなければそのままホームで飼育してもらうことができ、施設が最後まで責任を持ってお世話をすることも可能だそうですが、ペットの年齢や性格等を考慮して、新しい飼い主を探す対応もされています。
訪問した際、ちょうど、お散歩に出られる飼い主さんと出会いました。わんちゃんが施設のスタッフ皆さんに愛され、適正飼養のサポートを得ながらの快適な暮らしに満足していることをお聞かせくださいました。そのお姿を拝見して、ずっと一緒に安心して暮らせることを心強く感じておられる様子が伝わってきました。
さらに、現在、施設としてペットを飼育している高齢者の方のグループホーム、神戸の「グループホームうみのほし魚崎」の事例を紹介しました。以前、職員が飼えなくなった犬を飼育していたのを思い出し、利用者と職員の相互に良い影響があるのではと考え、施設でまた犬を飼うことを提案されたところ、利用者やそのご家族から反対の声は出なかったそうです。現在、リリーちゃんがいることで職員のストレスが減り、この半年間、離職希望する職員がいないそうです。今後は法人内の他の施設でも犬を飼うことを推進し、ゆくゆくはペットを連れて入所できる施設を作りたいという希望もお聞かせくださいました。
谷口先生のご講演からも学んだように、高齢者がペットと暮らすことで介護費が抑制されたり、認知症の発症リスクが軽減されるなど、健康寿命の延伸に効果があることがわかってきているにもかかわらず、現状ではペットを手離さざるを得ないという問題もあります。例えば介護保険等でペットの世話が対応可能になったり、官民連携によって飼い主の入院時などの預かりサポートを行うなど、ペットを手離さなくても良い方法を選択できる社会の仕組みづくりが必要不可欠となってきます。
私たちKnotsは、必要な方が必要な支援を受けられるペットとの共生プラットフォームを構築することで、地域の課題解決やコミュニティの再構築に貢献できると考えています。特に防災の面では、プラットフォームでの日常的な情報共有が、緊急時に「誰をどのように支援すれば良いか」事前に準備することを可能にします。支援の必要な方が、別の面では支援を提供する側にもなり、様々な世代の様々な課題解決を図ることができるコミュニティの力の醸成に貢献します。
<NPO法人老いの工学研究所 理事長 川口 雅裕氏発表>
東京と関西合わせて8物件、計963戸(1物件あたり120戸のマンション)を展開している分譲型高齢者住宅「中楽坊」は、個々への手厚い支援・サービスとは真逆の考え方で、常駐スタッフは2~3名いて必要な情報提供などは行いますが、主体性を持ち自立して暮らすことをコンセプトにしています。レストランはセルフサービス、物件により様々なサークル活動があり、活動運営も入居者の方々が自分たちで行っています。
全ての物件の管理規約において大きさや頭数の制限はありますが、「ペット飼育可」としており、全体の11%にあたる105戸でペットが飼育されています。最初の物件から約8年経過した現在に至るまで、全ての物件でペットが原因となるトラブルは1件もなかったそうです。
ペットが原因のトラブルが全く起こっていない理由は、入居者がコミュニティを大切にしているからではないかと考えられます。コミュニティが大切だから、ペットを飼っている人はコミュニティの仲間に迷惑をかけないように配慮し、飼っていない人は飼っている人の気持ちを理解しようとして、何かあっても話し合って解決しようとするのです。この「中楽坊」というコミュニティでの良好な人間関係があるからこそ、ペットに対しても寛容であり、ペットとの共生が実現できているのではないか、と発表されました。
ペットとの共生社会構築にあたり、大変示唆に富むお話しでした。
「事例発表 ①」→「事例発表 ②③」へのつながり
前述の第2部「事例発表 ①」では、高齢者が「ペットと共に最後まで安心して生活できる住宅面の環境整備」について考えました。次に示す「事例発表 ②③」では、「街に出るための環境整備としての側面がある」と考えペットツーリズムに注目しました。
谷口先生の疫学調査では、「犬と散歩をして、社会的交流を持つ」ことが健康効果のポイントになっています。ペットツーリズムによる「高齢者が安心して犬とお出掛けしやすくなる仕組みづくり」は、その地域の方にも活用されるものであり、「健康で楽しく温かいハートマークの街づくり」としても機能します。
「抄録」と「開催報告書」のデータをダウンロードしていただくことができます。
※表紙の画像をクリックするとPDFのデータが表示されます。
◎川口 雅裕(かわぐち まさひろ) 氏
NPO法人「老いの工学研究所」理事長(高齢社会の研究者)
一般社団法人「人と組織の活性化研究会」理事(組織人事研究者)
コラムニスト
1964年生まれ。京都大学教育学部卒。株式会社リクルートコスモス(現コスモスイニシア)で、組織人事および広報を担当。退社後、組織人事コンサルタントを経て、2010年より高齢社会に関する研究活動を開始。約1万9千名に上る会員を持つ「老いの工学研究所」でアンケート調査やインタビューなどのフィールドワークを実施。高齢期の暮らしに関する講演のほか、さまざまなメディアで連載・寄稿を行っている。
著書に、『なが生きしたけりゃ居場所が9割』(みらいパブリッシング)、『年寄りは集まって住め~幸福長寿の新・方程式』(幻冬舎)、『だから社員が育たない』(労働調査会)、『速習!看護管理者のためのフレームワーク思考53課』(メディカ出版)などがある。