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2014.10.01

シンポジウム Ⅸ 「奈良県いのちの教育 —子ども達へ「いのち」を伝える試み」

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シンポジウム Ⅸ
奈良県いのちの教育 — 子ども達へ「いのち」を伝える試み

日時:7月20日(日)14:00~17:00
会場:生田
主催:奈良県うだ・アニマルパーク振興室/公益社団法人日本動物福祉協会/公益社団法人Knots
サポート企業:マースジャパン リミテッド
趣旨:奈良県「いのちの教育」により、様々な「いのち」に向き合い、子ども達の共感力と相手を思いやる心を引き出していく過程とその評価を議論し、人と動物の健全な未来に資する姿を展望する。

座長メッセージ

天ヶ瀬 正博氏天ケ瀬正博先生
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奈良女子大学文学部 准教授

 

 

 

 

 

私たちは、倫理についての伝統的な人間中心主義的考えを放棄して、倫理の新しい根拠を得なければなりません。人間中心主義的な思想は、動物と区別して人間にだけ尊厳を与えます。この思想は人間のみが理性的な認識能力を有するという信条に基づいています。しかし、認識は、脳の中から外界を観察する「魂」や「心」によってではなく、環境への直接的体験となる身体活動(「身体化」)を通して生態の法則に同調することで成立するのです。この点で人間と動物に違いはありません。動物を含めて私たちは、環境と自身の結びつき、すなわち、より良い生き方において尊厳を有するのです。このことに基づいて、倫理を根本から再構築しなければなりません。

逆に言えば、倫理は、私たちの尊厳を保証し、より良い生き方、すなわち、幸福もしくは福祉を示さなければなりません。例えば、人間の福祉を実現するためには、少なくとも、人間の心身機能・身体構造、活動、社会参加を考慮しなければなりません(WHOの国際生活機能分類(ICF)を参考)。これは動物福祉にもそのまま当てはまるでしょう。動物福祉を考えるには、動物たちの生理と生態、すなわち、生き方についての理解が必要です。

動物福祉について学ぶためには、子どもたちは動物たちの生き方について実践的な授業を受ける必要があります。生き方は、生きることについての直接的な体験を通してのみ、体得することができます。それゆえ、動物福祉を教えるためには、動物たちと共に時間を過ごす機会を子どもたちに与えなければなりません。私は、グリーン・チムニーズ・スクールと奈良県うだアニマルパークでの教育プログラムに大いに期待しています。

 

 

 

 

体験教育で行う動物愛護教育とヒューメイン教育
— 国際的な最先端のアプローチ

マイケル・カウフマン氏 グリーンチムニーズ&ファーム サム&マイラ・ロス研究所 所長
木下 美也子氏 グリーンチムニーズ&ファーム サム&マイラ・ロス研究所 教育プログラム部長
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マイケル・カウフマン先生 木下美也子先生

 

 

 

 

 

 

 

 

グリーンチムニーズ学校で子供たちに動物愛護教育、自然保護教育、命教育をするにあたってもっとも効果的なアプローチは“子供たちに実際に体験する機会を与える”体験教育”である。 データによってその有効性が証明されている“体験教育”の概念は子供たちを直接自然や動物と触れ合わせることを奨励している。”動物にやさしくする“といったコンセプトはしばしばとても幅広い分野をカバーし、特に動物と触れ合う機会の少ない子供たちにとってははっきりとわかりにくい。今回の発表では子供たちのヒューメイン教育(人格教育、愛護教育)の長所、短所、そしてそれがもたらす機会の概要を説明した上でこのコンセプトが実際に友好的であるのか、そしてヒューメイン教育の最終的な目的は何であるかを見ていく。グリーンチムニーズにおける動物、植物教育を基点とするが、さらに幅広い国際的、多文化の観点からヒューメイン教育を考え、この体験教育がどのように日本で適用できる、そしてされるべきか、考えていく。

 

 

 

 奈良県「いのちの教育」事業への取り組み

藤井 敬子氏藤井敬子先生
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奈良県葛城保健所 係長/獣医師

 

 

 

 

動物愛護管理行政を担う全国の自治体では、この十数年間殺処分の減少と動物からの危害防止及び命を大切にする気風の醸成を目的として、動物愛護教育が様々なプログラムによって実施されてきた。しかし残念ながら、これらのプログラムでは、欧米においては動物に関する教育を実施する上で最も重要とされている「動物福祉」の考え方が基本に置かれてこなかった。
そこで我々は、動物福祉という日本人にとっては新たとも言える概念を基礎とした動物に対する価値観や態度を育成するための教育を根気強く行うことが必要であると考えた。そして、あらゆるいのちを尊重し、大切に扱う日本的な生命に対する姿勢を主軸とし、そこに動物への人道的な配慮を行う姿勢を融合させた新たなプログラムとして「いのちの教育」の開発に至った。
このプログラムキーワードは「気づき」「共感」「責任」である。自分に関わる動物に気づき、いのちを共感し、人が(社会)が果たす責任を考えることで構成されている。
我々はこのプログラムを通して、動物にフォーカスを当て、他者への共感とあらゆる命を大切にする心を育むことで、豊かな人格の形成及び豊かな地域づくりを目指している。
さらに今後は新しいスタイルのヒューメインエデュケーションの発信拠点として、関係者や関係機関と連携し、人と動物、そして人と人をつなぐ役割を担っていきたいと考える。

 

 

 

 「いのちの教育」プログラム実施自治体事例

小寺 澄枝氏
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小寺澄枝先生

和歌山県動物愛護センター 主査/獣医師

 

 

 

 

 

和歌山県は、狂犬病予防・動物愛護管理行政の拠点として、平成12年に県動物愛護センターを設置しました。センターでは、県立保健所が抑留・引取した犬猫の収容や処分を行う保護管理業務の他に、楽しみながら学べる常設展示、収容した犬猫の譲渡、適正飼養の講習会、犬のしつけ方教室、1日獣医師体験教室、イベントなどの啓発事業を行っています。
とくに小学生を対象とした動物愛護教室「わうくらす(Wakayama Animal Welfare CLASS)」は、啓発事業の大きな柱として展開しています。捨て犬捨て猫の現状を知り、犬とふれあい、命の大切さや動物をとおして他者とのかかわりを学ぶことによって、こどもたちの豊かな心を育むことを目的にしています。授業のメニューは10種あり、内容や回数は学校の希望に応じて行います。平成14年度から実施しているこの事業には、いままで約15,000人の児童が参加しています。
このたび「わうくらす」を実施した小学校において、奈良県が開発した「いのちの教育プログラム」を実施しました。この小学校では3年生63人を対象に平成25年5月~平成26年2月まで10回行いました。その内3回において「いのちの教育プログラム」の内容を行いました。すでに犬との接し方や野良犬野良猫の現状を理解している児童達は、ペットだけでなく家畜や野生動物たちとのつながりを理解し、彼らが幸せに暮らせるために自分たちができることを考え、発表しあい、とても有意義な授業となりました。
今後は「わうくらす」のメニューとして、積極的に「いのちの教育プログラム」を導入していきたいと考えています。