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2014.10.01

シンポジウム Ⅶ「高度動物医療と終末期動物医療(安楽死処置を含む:平穏死について)」の現状は?

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シンポジウム Ⅶ
「高度動物医療と終末期動物医療(安楽死処置を含む:平穏死について)」
の現状は?

日時:7月20日(日)14:00~17:00
会場:和楽

主催:公益社団法人日本獣医師会
サポート企業:DSファーマアニマルヘルス株式会社
趣旨:「家族の一員」、「社会の一員」であるペット(以下、家庭動物)に対する動物医療への要望が高度化かつ多様化する現代社会において、「高度動物医療と終末期動物医療(安楽死処置を含む:平穏死について)」という観点から獣医師、動物看護師、飼い主を交えてのシンポジウムを開催する。

座長メッセージ

細井戸 大成氏細井戸大成先生

公益社団法人日本獣医師会 理事/公益社団法人日本動物病院協会 会長

 

 

 

 

ペット(家庭動物)が愛玩動物から家族の一員、そして社会の一員と認識されるようになった現在社会において、動物と暮らす飼育者(ガーディアン?:保護者)からの動物医療に対する要望は多様化、そして高度化している。
このシンポジウムにおいては、動物病院の院長として臨床現場で診療しつつ、仲間の獣医師達と協働で社会から要望の強かった夜間救急動物病院を開設し、さらにはCT検査・MRI検査等の高度診断機器を導入し、脳腫瘍摘出術等の高度な動物医療に対応できるような二次診療施設の設立に尽力してきた横浜、大阪の獣医師と一次診療施設(地域に根付いた動物医療を提供するクリニック・アニマルホスピタル)と夜間診療・二次診療施設(ネオベッツER/VRセンター)での勤務を経験し、様々な問題を抱えた飼育者と動物達と出会い、入院動物に対する24時間体制での動物看護の重要性を痛感し、動物看護に真摯に取り組む動物看護師が脳腫瘍の摘出を経験した猫の飼育者の協力を得て、高度動物医療と終末期動物医療(安楽死処置を含む平穏死について)に関する現状をディスカッションする。
高度動物医療の在り方、終末期医療と終末期動物医療にある違い、安楽死処置に対する飼育者・動物病院従事者の多様な考え方・受け止め方、そして、平穏死について、また、地域による飼育者意識の違い等をこのシンポジウムに参加する人々と積極的に意見交換し、今後の家庭動物医療の在り方に関する指針作りに一案が示せればと考える。

 

高度動物医療の必要性と平穏死について

細井戸 大成氏細井戸大成先生
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公益社団法人日本獣医師会 理事/公益社団法人日本動物病院協会 会長

私が獣医師になった1979年当時、ペットに対する高度動物医療の提供など、話題にすらなっていませんでした。むしろ超音波試験(エコー検査)などは豚や牛の肉質を判断するために家畜の分野で多用され、牛における受精卵の移植術など高度な動物医療は産業動物分野で盛んであったと記憶する。

また、獣医系大学では、基礎系獣医学、公衆衛生学・家畜衛生学など応用獣医学、臨床分野では産業動物を対象とする教育が中心であり、現在とは違い、犬や猫に関する教育はほとんど受けることはできなかった。
その背景には、ペットは愛玩動物の位置づけであり、一般家庭では日本系雑種犬が番犬として庭で飼育され、一部の家庭でのみ血統書付きの純粋犬が座敷犬という表現で飼育されていた。
2003年に犬の室内での飼育頭数が屋外飼育での飼育頭数を上回るようになり、犬の存在がより身近なものとなり、その愛くるしいしぐさや人に対する忠誠心など犬が持つ魅力をより強く感じる飼育者が増え、以降、「犬を飼う」から「犬と暮らす」に変化していった。それに伴い、犬や猫などのペットに対する飼育者の認識が「愛玩動物」から「家族の一員」として変化し、動物医療に対する要望も多様化かつ高度化し、我々動物医療関係者もペットに対する様々な対応(主治医動物病院としての多様な対応、地域の獣医師が協働しての夜間診療体制や二次診療・高度動物医療体制の確立)が求められるようになり、動物病院はそれぞれの立場、地域で要望に応えてきた。
昨今では、ペットに対する高度動物医療の提供もようやく欧米並みになってきたが、獣医系大学における学内教育・卒後継続教育の整備と充実、飼育者・関係者間の動物観の整理(安楽死処置だけでも様々な考え方が存在する)等、まだまだ課題が多い。
このシンポジウムでは私なりに高度動物医療の必要性とさらにはペットが死を迎えるときの対応について「平穏死」という視点から検討したいと考える。

 

 

 

横浜における高度動物医療と終末期動物医療の現状

藤井 康一氏藤井康一先生
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藤井動物病院 院長/公益社団法人日本動物病院福祉協会 理事

 

 

 

 

 

ここ20年程の間に、動物医療現場における高額機器の導入で高度医療という言葉が獣医界で使われるようになりました。そして特に首都圏では四大学以外にも二次診療をうたう私設の動物病院が数多くできてきました。人医療では日本はOECDの各国中でMRI、CTの保有台数は人口比では1位です。人間の医療ではこれらの機器は通常の医療でも良く行われる検査になっているため、動物でもそれを求める飼い主が多くなるのは自然な流れなのかもしれません。しかしながらこうした高度動物医療と称されるものは、人医療と違い、多くの場合は全身麻酔が必要で、さらに保険がきかない動物医療では高額医療になってしまいます。そして何度も病院に通うようになるのも事実です。

一方、終末期医療も人医においては、耳にする機会が増えてきましたが、それほど多くの病院型の施設があると言うわけではなく在宅緩和ケアといった形が都心部では多く見られます。動物医療においては本格的にこの分野に取り組んでいる病院は殆どありません。以前は飼い主がお金をかけるのが嫌な人が検査もせずに自宅で看るという形が多かった時代から、近年では多くの検査を行い、最終的に助かる見込みがないと診断されると、苦痛だけを取り除いてあげたい、もう治療は可哀想だと在宅での終末期医療を望む飼い主も増えてきました。

私個人としては、これら二つの高度医療と終末期医療は相反するものではなく、将来的には、セットになって行われなければいけない事だと思います。動物を飼うと将来的に必ず動物の死に直面します。そしてその後、「もう一度と動物と暮らしたい。」と思える様な動物医療が本当に良い動物医療ではないかと思います。今回は横浜での高度動物医療と終末期動物医療の現状についてお話ししたいと思います。

 

 

 

25年間の夜間救急動物医療運営から見えてくる社会が求める家庭動物医療

本田 善久氏本田善久
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みゅう動物病院 院長/公益社団法人大阪市獣医師会 理事

 

 

 

 

 

我々が大阪の地に、日本初の夜間救急動物病院を開院したのは1989年です。夜間のリリーフ診療に徹し、翌日には必ず主治医に返すことを継続しております。それ以前は各病院が、それぞれに夜間の急患に対応していましたが、飼主様が、誰でも安心して診察に訪れることのできる夜間病院が必要になるだろうとの思いを共有した獣医師26名でスタートしました。当初は地域の獣医師に理解されないこともありましたが、しだいに紹介をしていただけるようになり、現在では良好な関係のもと、地域の夜間動物医療の一角を担っています。

開院当初は、夜間にどのような症例や飼主様が来院されるのか不安な部分もありましたが、基本的には昼間の病院と同様だと感じます。ただ、25年前と現在では来院理由が変化してきていることは確かです。開院から十数年は、ノーリードでの散歩が原因の交通事故、マンションからの転落事故、猫のけんかによる膿瘍、尿道閉塞、胃捻転、子宮蓄膿症、帝王切開、異物誤食、中毒など飼育環境や食餌内容などの問題が理由の病気が多かったように思います。しかし最近の5年間ほどは、飼主様の意識の高まりとともに、室内飼育が室外飼育より増えたこと、良質なフード管理、不妊手術の普及などの理由で、上記のような病気による来院は確実に減少していると思います。逆に増えていると感じる症例は、しっかり主治医で管理してもらっている慢性疾患、たとえば心臓病や腎臓病などが夜間に急変して来院されるパターンです。これはある意味では避けられないことと思いますが、正しく飼育することによって夜間にあわてて病院をさがすという状況は確実にへらすことができると感じます。

 

夜間救急動物医療に携わって25年、家庭動物を取り巻く環境は大きく変化したと感じます。今回はそれに伴い社会が求める家庭動物医療とはいかなるものかを、皆様とともに考えていきたいと思います。

 

 

 

高度動物医療と終末期動物医療~動物看護師の視点から~

富永 良子氏富永良子先生
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ネオベッツVRセンター・動物看護師長/一般社団法人 日本動物看護職協会・副会長

 

 

 

 

 

私が勤務するネオベッツVRセンターは、かかりつけの動物病院から紹介を受けて診療にあたる動物病院です。診療科には、脳神経外科、整形外科、軟部外科、腫瘍科、眼科があります。来院する動物たちは皆何かしら身体的な問題を抱えており、ほとんどが、麻酔をかけてCTやMRIなどの検査を受け、手術が必要と判断されることも少なくありません。中には状態が悪すぎて麻酔がかけられない程、死に直面している重症な動物もおり、「最後の砦」として何とか命を助けてほしいという気持ちで来院される飼主さんもいらっしゃいます。その期待に応えるために、当センターでは、動物看護師が24時間看護体制で入院看護にあたっています。皆で協同し治療にあたった結果、動物が元気になって飼主さんの元に帰ることができたとき、何よりうれしく大きなやりがいを感じますが、終末期にまさに数時間の延命も困難で死を意識するときにおいては、その見極めも重要で、最期をどのように迎えるかということも検討しなければなりません。動物の状態によっては獣医師から安楽死という選択肢が提示されることもあり、飼主さんの精神的サポートを行うことも動物看護師として重要な役割だと感じ看護にあたっています。

動物看護師としての14年間の中で、いろいろな患者さんと関わり、いろいろな最期に関わってきました。その中で思うことは、動物にとっては、苦痛なく、飼主さんと過ごせる時間が少しでも長くなるように、飼主さんにとっては、その動物と過ごした日々が、少しでも良い形のまま最期を迎えられるように、悔いの少ない動物医療を提供することが、私たち動物病院スタッフとして最も重要な役割だと思います。今回は動物看護師の視点から、私が経験した患者さんとの話を交えながらお話をさせて頂きたいと思います。