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2014.10.01

シンポジウム Ⅳ「ずっと一緒に居られる」社会へ — 飼い主を支えるシステムが実現する豊かな社会」

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シンポジウム Ⅳ
「ずっと一緒に居られる」社会へ
— 飼い主を支えるシステムが実現する豊かな社会

日時:7月20日(日)10:00~13:00
会場:生田
主催:事務局
サポート企業:ネスレ日本株式会社/ネスレピュリナペットケア
趣旨:飼い主を支える社会システムは、ビジネスで成り立つものと福祉の2本立てとなる。40%が高齢者に、37%が単身者になる未来に、人と伴侶動物が『ずっと一緒に』居られる社会は如何に構築され得るのか。その広範な可能性を議論し、人と動物の幸せな未来予想図を構築したい。

 

 

座長メッセージ

冨永 佳与子氏冨永理事長

公益社団法人Knots 理事長

 

 

 

 

 

国立社会保障・人口問題研修所の推計に寄れば、65歳以上の人口は、2035年には、3人にひとりを上回り、2060年には、39.9%になる。また、世帯動向では、2035年には、単身世帯は全体の37.2%になる。各演者の抄録にあるように、異なる世代が複数同世帯に居住する前提の現在の社会システムは、早期に改善されるべきものということを示唆している。

では、具体的にどのように取り組んでいけばよいのか。ひとつの考え得る方策が、飼い主支援である。自助・共助・公助が言われているが、特に伴侶動物(家庭動物)については、飼い主責任に重きが置かれ、自助努力のみを求めてきた側面がある。動物の保護への視点は多かったが、意外にも飼い主支援という視点は、今迄、余り顧みられて来なかった。

しかし、私達の前にある課題をみれば、そこに共助・公助の概念を加えると共に、更なる自助を支えるサービスの開発、飼い主の飼養を支える環境整備等により、「飼い主と動物は幸せ」になり、「産業体に新しいビジネスチャンスが生まれ」、社会の在り方としても「温かく豊かな社会が構築」される流れを創れる可能性があるのではないだろうか。

例えば入院した時、ペットを預けられる給付が直ぐに出る入院保険があれば、一人暮らしの方は、どんなに安心して暮らせるだろうか。最も弱いいのちを大切に扱うシステムは、同様に社会的弱者とそれを支える人々を守る工夫にも繋げていける筈である。

折しも緊急災害時には、いよいよ同行避難が本格的に考慮され始めている。これをひとつの契機に、家族の一員としての伴侶動物(家庭動物)の社会的存在を認知し、飼い主を支えるシステムの可能性を幅広く議論することにより、ヒトも動物ももっと幸せになれる未来の姿をお示しできればと思う。

 

 

 

尼崎市動物愛護基金条例について

田原 正規氏
profile_button1s田原正規先生

尼崎市健康福祉局保健部生活衛生課動物愛護担当係長/獣医師

 

 

 

 

 

昨今の財政難の中、事業予算の確保は年々厳しいものとなっています。このような状況下において、尼崎市では「人と動物が共に幸せに暮らせる社会」の実現に協力したいという市民等の想いを施策に反映することができるよう、平成24年4月から動物の愛護及び管理に使途を限定した寄付金の受付を開始し、同年11月に寄付金を積立及び管理するため「動物愛護基金」を設置しました。また、「ふるさと納税」が全国的に注目を集めていますが、本市では「動物愛護基金」の設置に併せて当該基金を「ふるさと納税」における寄付金のメニューにも追加しました。
現在、頂いた寄付金は、野良猫不妊手術費用助成拡充の取り組み、犬及び猫の適正飼養に係る普及啓発の取り組み、犬及び猫の殺処分数ゼロを目指すための取り組みに活用していますが、今後、税制上の措置などが見直されることにより寄付行為が私たちにとってより身近なものとなった時に、より多くの方に寄付をしていただけるような魅力のある取り組みが求められることになります。
これまで自治体は、税収を主な財源とした行政運営に取り組んできましたが、特定目的のための寄付を募り、それらを財源とした施策を推進するという新たな取り組みの経緯、現状、そして今後の課題等について発表を行いたいと思います。

 

 

家庭動物の社会的地位を確立するために~家族の一員から社会の一員へ~

細井戸 大成氏細井戸大成先生

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公益社団法人日本獣医師会 理事/公益社団法人日本動物病院協会 会長

 

 

 

 

 

近年、家庭動物の存在がもたらすものとして、高齢者の生きがいの創造、子供達の情操教育への効果だけではなく、平時、緊急時に関わらず、共に生活する人々の精神面への効用(心の支え)、身体面への効用(散歩の促進)、家族間・近隣との人間関係における効用(コミュニケーションツール)等が広く社会に認識されるようになってきた。

このことは、家庭動物が「愛玩目的動物」から「家族の一員」そして「社会の一員」として、社会に認められつつあることを意味する。

今後、少子高齢化社会をむかえる我が国において、家庭動物の存在と役割は、特に高齢者にとって、心の支え、健康促進の源として、ますます重要になってくると思われる。

また、家庭動物との生活は医療費の削減(特に高齢者における)にも貢献するというデータ等も欧米では認識されるようになってきている。(IAHAIO等での報告参照)

さらに、

・東日本大震災時における被害動物(家庭動物の実数)が正確に把握できなかったこと。

・狂犬病予防法に基づく登録を行っている真面目な飼育者が実際の約半数であること。

・家庭動物の存在及び動物医療の社会的な意義が認められるようになってきたこと。

・消費税増税の主たる目的が社会保障の充実であること。

・家庭動物と暮らす人々の義務と権利を明確にすること。

などを鑑みると、

家庭動物のマイクロチップによる個体識別の徹底、家庭動物に対して住民税(地方税)としてのペット税導入、住民票への記載、住民(ペット)共通カード発行、共通カード提示による家庭動物医療費・ペットフード購入時の消費税の減免措置の導入について検討できればと考える。

 

飼い主の今を探る

西澤 亮治氏西澤亮治先生
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特定非営利活動法人動物愛護社会化推進協会 事務局長

 

 

 

 

 

「ずっと一緒に居られる」社会へ - このタイトルは「犬や猫たちとずっと一緒に居ることが楽しく幸せである社会を作ること」そして、犬や猫たちも同様に人(飼い主)と居ることが一番の幸せであることを示しています。

私たちは世界に例をみない高齢化社会を迎え、多くの課題を解決・克服していかねばなりません。そして飼い主は、犬や猫たちの高齢化、長寿化も同時に経験することになります。社会や環境の大きな変化、それは、高齢化・少子化社会、65歳以上人口の増加と生産者人口の減少、核家族化・単身世帯の増加、社会保障や医療費、介護への不安、であり、また動物に関するものには、飼い主の責務と適正飼育、犬猫の高齢化・長寿化、動物のQOL、看取り・ペットロス、高度化・専門化する動物医療、ペット飼育者の減少(特に犬の飼育頭数の減少)、若い世代での飼育意向の低下、様々な理由から飼育放棄・遺棄、飼い主のいない犬・猫の問題、動物に関する法律の整備(動物愛護管理法、狂犬病予防法等)。この他にも多くの言葉や状況が思い浮かびます。

これらに対して私たちができることは何でしょう?

動物愛護社会化推進協会では毎年家庭動物に関わる様々なテーマ、話題を取り上げてシンポジウムを開催しています。今年5月は「災害時におけるペットとの同行避難」、昨年は「動物愛護法の改正」と「高齢者とペット」、一昨年は「ペットロス」と「ペットの平穏な死について」といった内容です。また家庭動物に関する問題や解決すべき課題についても、全国の犬・猫の飼い主約16万人を対象とした「飼い主の意識調査」を継続して実施しており、家庭動物に関する状況を正しく把握・理解するよう努めて取り組んでいます。これらの研究・調査を踏まえて、今何をなすべきか、業界の垣根を越えて取り組むべきものは何かについてお話させていただきます。

 

 

 

行政による犬猫の引取りから考える、
幸ある社会の実現のためにできること

湯木 麻里氏
profile_button1s湯木麻里先生

神戸市垂水衛生監視事務所 担当係長/獣医師

 

 

 

 

 

 

2013年10月にNPO法人動物愛護社会化推進協議会がペットを飼育している50歳以上を対象に行ったアンケート調査では、65歳以上の4割近くが「近い将来、高齢のために世話ができなくなりそう」と回答しています。これらは決して杞憂ではなく、自治体の動物保護施設では、人もペットも高齢化が進んだことによる問題が今まさに起こっています。

飼い主からの犬猫の引取り相談では、経済的困窮者、65歳を超える単身もしくは夫婦のみの世帯からのものが大半です。さらに、本人又は家族に重度の疾病があり、子や親戚といった血縁による援助も困難です。また、やむを得ず引取る犬猫たちもシニアの年齢となっていることが多く、譲渡は困難であり、殺処分という選択を取らざるを得ません。

長年一緒に生活した犬猫を引き渡す飼い主が言葉少なに「よろしくお願いします」と言って帰る姿を見送りながら、飼い主の今後をも憂慮せずにはいられません。そして獣医師としてその犬猫たちへ最期の処置を行う時は、この動物たちを護るために何をすべきなのかを祈りにも似た思いの中で自問自答しています。これらの問題を解決するためには、こうなる前の“予防”の対策が急務であり、それはもはや人の“福祉”と切り離して考えることはできません。自助・共助・公助という言葉があります。人と動物の双方にとって幸である社会を実現するためには、飼い主による自助と共助を促し、公助によりそれを補完するしくみが必要です。民間によるビジネス、公民連携、行政組織の横断的な協力体制、飼い主同士が支え合う地域社会、といった様々な角度からのアプローチが求められます。今回のシンポジウムでは、今まさに起きている現状をお伝えし、今からまさにできることを皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

 

 

 

ずっと一緒に居られる社会 ビジネスからのアプローチ

緒方 知行氏緒方知行先生

流通ジャーナリスト/月刊『2020 Value Creator』編集主幹

 ペットと人が豊かに幸せに共生できる社会、これが人間社会の幸せにとってこれからの大きな社会的課題になってきている。高齢化、少子化、人口減がかつてないレベルで起きており、そのなかで伴侶動物としてのペットの存在価値は大きなものとなっている。

 癒しを求める人の心、絆を大切にする人間社会の新しい欲求、物的充足をこえた新しい次元の豊かさへの希求の中で、健康が人にとって最も大きなニーズの一つであることは言うまでもない。

この心と身体の健康ニーズの充足において、ペットと共に生きる暮らしは、想像以上のものがある。現実に、欧米のデータでは、ペットとの共生による精神的、肉体的な健康にとっての効用の大きさが証明されているところである。子どもの精神的成長のケア、孤独な高齢者にとってペットと暮らすことのメリットは、欧米での実証事例で見てとれる。

 その意味では、まさにペット産業(ペットと人間の豊かな共生にかかわるあらゆる産業・ビジネス)は、人間にとって幸せ産業であり、健康産業であると言い切っても言い過ぎではない。

 国家財政における医療費負担が、年々増加し、深刻な問題になってきている。財政破綻さえ起こしかねないと言われている中で、政府もセルフメディケーションの推進に力を入れ始めた。このセルフメディケーションにおいて、ペットの果たす役割は大きい。

 ただ残念なことは、ペットと人間が豊かに共生できる社会環境が、我が国においては未だに十分に整備されているとは言い難い。ペットを飼いたくても飼えない状況が、世の中にはたくさんある。

 ペット産業は、このような阻害要因の解消に向かって立ち向かってもらいたい。それが自らの社会価値の創造に大きく貢献するという自覚のもとに、今、新たな活動を起こす時にある。

21世紀の我が国の課題解決に向けて
一人一人が生き生きと暮らせる社会を目指して

嶋野 武志氏嶋野武志先生
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長崎大学産学官連携戦略本部副本部長(人材育成部門) 教授

 私が社会に出た1980年代には、我が国は世界第二位の経済大国ともてはやされ、未来はとても明るく見えた。然るに、今や我が国は様々な課題に直面し、これから社会に出ていく学生たちに明るい未来を指し示すことは必ずしも容易ではなくなった。

 いずれの課題についても多様な議論が行われているが、少なくとも国民一人一人が生き生きと暮らせる社会を構築できなければ、躍進著しい新興国相手に競争優位を保つことも、国際的な信用を失墜しないよう財政を再建することもできないし、また、人口減少の果てに地域や国が衰退する不安におびえなければならないであろう。

 だからといって、伴侶動物・家庭動物と飼い主が一緒にいられるようにするために公的な予算を用いることは、現下の財政状況の下では、決して容易ではない。但し、明白な政策効果が認められ、それを国民や市民に説明できるのであれば、不可能でもない。そういう意味で、他の演者の方々がご指摘のような点を今後さらに議論し、動物と直接接触しない国民や市民の方々の賛同を得る道を追求していくべきではないか。

 そして、もう一つ考えるべきはビジネスの活用である。我が国ではビジネス=金儲けと受け取られる場合が少なくないが、近年、国内外で社会的な課題を解決しようとする「ソーシャルビジネス」が多数登場し、国内外の大学が「ソーシャルアントレプレナー」の育成を図る例もよく耳にする。一言で言えば、顧客にとっての価値を実現することで対価が支払われ、その中でコストが賄われるのであれば、その事業は持続するのである。既に伴侶動物を対象としたサービスも登場し始めているようであり、より広範なサービスの提供のための議論を深めていくことも有益であろう。

 私の父も犬が好きだったが、晩年は犬のいない生活を送らざるを得なかった。伴侶動物がいることで生き生きと暮らせる人が増えることを心から願ってやまない。