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シンポジウム Ⅱ
「動物達が開く心の扉 ~ CAPP活動15,000回を迎えて」
日時:7月19日(土)13:30~16:30
会場:北野
主催:公益社団法人日本動物病院協会
サポート企業:ロイヤルカナンジャポン
趣旨:公益社団法人日本動物病院協会は1986年より人と動物とのふれあい活動CAPP(Companion Animal Partnership Program)をスタートさせ、動物介在活動(AAA)、動物介在療法(AAT)、動物介在教育(AAE)の3分野に15,000回の活動を実践して来ました。この活動は、一般家庭に共に暮らす伴侶動物が飼い主(ボランティア)と共に人の福祉と医療と教育に大きな役割を担っています。
座長メッセージ
戸塚 裕久氏
公益社団法人 日本動物病院協会(JAHA) CAPP委員長
公益社団法人日本動物病院協会は、公益目的事業として、アニマルセラピー(CAPPボランティア活動=Companion Animal Partnership Program)推進のための事業を行なっています。本会では、この活動をその目的により次の3つに大別しています。
・動物介在活動(AAA/Animal Assisted Activity)
動物とふれあうことによる情緒的な安定、レクリエーション、QOLの向上等を主な目的としたふれあい活動で、一般的にアニマルセラピーと呼ばれる活動の多くはこのタイプです。
・動物介在療法(AAT/Animal Assisted Therapy)
人間の医療の現場で、専門的な治療行為として行なわれる動物を介在させた補助療法で、医療従事者の主導で実施します。精神的、身体的、社会的機能の向上など、治療を受ける人に合わせた治療目標を設定し、適切な動物とボランティア(ハンドラー)を選択する。治療後は、治療効果の評価を行ないます。
・動物介在教育(AAE/Animal Assisted Education)
小学校に動物とともに訪問し、動物との正しいふれあい方や命の大切さを子どもたちに学んでもらうための活動です。生活科や総合学習などのプログラムとして取り入れる学校も徐々に増えています。
このワークショップでは、JAHAで行なっている上記3つのCAPP活動について理解を深めていただくための講演をいたします。講演を聞いていただいた皆様に、活動の良き理解者となって支援していただけることを願っています。
人とペットのパートナーシップ
~ HAB (Human Animal Bond) の与えてくれるもの
トーマス E. カタンザーロ氏
国際獣医コンサルティング CEO
AAA(動物介在活動)の歴史は人類のそれとほぼ等しい。にもかかわらず、レオ・バスタード博士(デルタ協会の共同設立者)は、今日の関心事であるセラピーやコンパニオン動物に関して、「Human Animal Bond(HAB) (人と動物の絆)」という表現を意識的に掲げた(circa 1981)。
HABは動物と人間の間に存在する「無償の愛」と定義される。この言葉はよく、動物がいかに我々人間の生活を豊かにしてくれているかを説明するときにも使われる。このHABのパラダイムの中において、動物には下心がない。食べ物やシェルターについては下心があるのではないかと言う意見もあるが、経験上これが大事なつながりの要素ではないことは分かっている。
動物はリラックスするとき、身体も頭も心も休めている。たいていの人間はここまで完璧にリラックスすることができない。さらに突き詰めると、動物にとってストレスとは、単純に恐怖や争いである。一方人間の場合は、自分の存在価値や周りの人々の存在について悩む。これらの要因がAAA(動物介在活動)やAAT(動物介在療法)、その他のHAB関係にとって重要な役割を果たしていることが明らかになっている。
このセミナーでは、動物がいかに我々人間の気持ちを明るくし、クオリティーオブライフを充実させ、「今」を生きることを教え、日常生活の中で「与える関係」を築いてくれているかを解明する。
動物は何の批判もなく話を聞いてくれる。人間ではどのような関係の中でも、これほどまでに受け入れてくれることはまずない。ほったらかしにされたり、なりゆきで蹴飛ばされたり突かれたりしたとしても、ペット犬は友達としてちゃんと帰ってきてくれる。動物の存在は、人間にやすらぎを与えてくれる。そしてこれがHABの素晴らしいところである。 特にこのような反応は、戦場から帰還した兵士たちのPTSDの治療に使う。彼らに動物をコンパニオン動物としてトレーニングさせたり、またはセラピー動物として活用したりすることが、兵士のPTSDのストレス症状の緩和には大きく役立つ。セラピー犬には、決して文句を言わず、ただ与える精神で、自らの自由を犠牲にしてでも相手である人間のためになろうとする傾向が見られる。これがHABの実践の姿である。
アレルギーについて
犬と人とは太古からの友達である。国内で人と暮らす犬の数はいまや15歳以下の子どもの数に迫ろうとしている。しかし、今日のように多くの家庭において室内で飼育されるようになって、鼻炎、結膜炎、ぜんそく、蕁麻疹などの犬に対するアレルギー症状が問題になっている。原因物質(アレルゲン)はCan f1と呼ばれ、犬の毛にあるのではなく、犬のフケ、唾液、尿にある。また、アレルギー症状の原因には犬を飼うことによって起こるヒョウヒダニの増加も重なっていることがある。ダニは犬の皮膚炎の原因となることもあり、そうなると身震いや引っ掻きによって犬のフケの飛散も増える。アレルギーがあるけれど犬と暮らしたい人は増えており、様々なアレルゲンを減らすための工夫を重ねている。定期的にシャンプーする、寝室には入れない、犬と遊んだ服は着替えて洗う、できればメスを飼うなどである。床はウールや布素材は避けるなどの一般的なダニ対策も効果的である。その上でなお症状が強い場合は薬物治療が必要になるので、できればアレルギー学会専門医に相談するとよい。自身ではなく子どもが強い症状を示す場合は大人がいつも気を抜かずにできるだけのことをしてやらねばならない。一方、病棟に入院中の子どもたちが一時的に犬とふれあう場合は、たとえ犬アレルギーの既往がある場合でもいくつかの事に注意すれば問題ないと考えられる。犬に舐められないようにする、犬の体に手で触れた場合はそのままにせず流水で手を洗うことなどが望ましい。日本アレルギー学会は、「アトピー体質をもつ小児のペット飼育は推奨できない」と報告しているが、すでに飼っている場合はペットを飼うのをやめただけではよくならないのが普通であり、ともに暮らしていける方法を考えるのが双方の幸せにとって実際的である。
小児がん病棟に犬が来て
小児がんは今や70~80%が治るようになりました。日本では、小児がんの治療は1年前後の入院となります。
千葉県こども病院は今年開院27目を迎えます。後半は保育士も配属され入院中の患児の闘病環境は大分改善されました。中でも血液腫瘍科病棟では1997年から小児がんのお子さんを育てた経験のある井上富美子さんがボランティアで毎週来てくだり、病棟の中での楽しい時間が大幅に増えました。
2003年秋に日本小児がん学会での聖路加国際病院からの「病棟に犬が来る」という発表を聞き、日本動物病院福祉協会にご連絡し、約1年近くの準備期間を経て2005年3月から当科でもCAPP活動が開始されました。
犬たちに来てもらうことはこどもたちにとって単なる楽しみ以上のことが期待できます。動物を通して命のはかなさ、弱いものを慈しむ心、生物全体のこと、食事のこと、ボランティアの方々への挨拶やお礼の気持ちを持つこと、など多くを学べると期待できました。支援学校の先生方も勉強の時間を活動に割いてくださいました。千葉県こども病院ではCAPP活動の中のAAAとAAEが行われていることになります。
さて、実際に来ていただいての結果は予想以上でした。犬とふれあうことでこども達が楽しい、と親御さんがうれしい、それを見てスタッフもうれしくなる好循環が生まれます。これまでにアレルギーを含む事故は一度もありません。講演ではその様子をご紹介します。
こんなにも長く続けてこられたのはコーディネーター役のボランティアがいて活動の管理・記録ができること、支援学校の先生方が授業に上手に取り入れて役立ててくださっているからだと思います。全くのボランティアで来てくださっている犬たちと飼い主の皆様、CAPP活動を続けてくださっている方々に感謝の気持ちでいっぱいです。
「AAA、AAT、AAEにはどのような動物が参加しているのでしょう
(セラピー犬(動物)の参加基準)」
公益社団法人日本動物病院協会 相談役/赤坂動物病院 院長
ヒューマンアニマルボンド(HAB)の理念に基づいた動物介在活動/療法/教育に参加協力するボランティア及び活動動物には、世界共通の基準が適応されます。
1.伴侶動物の基準
動物を介在させる社会活動で最も大切な点は、動物の福祉や健康が守られていることです。
1) 参加動物の適性
- 人が好きであること。
- どのような場面でも落ち着いていること。
- 異種の動物に異常な興味を持たないこと。
2) 参加動物の健康管理
動物介在活動(AAA)での基準 | 動物介在療法(AAT)等での基準 |
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3) しつけ、トレーニング
- 飼い主のコマンドを正しく理解した行動が出来ること。
- 日常生活上、周囲に範をなす生活をしていること。
- 排泄のコントロールが出来ていること。
2.飼い主(ハンドラー)の基準
- 日頃からボランティアとしての健康管理をしていること
- 協会主催の講習会の受講
- 各種研修セミナーへの参加等
一般的に医療の現場で重視されるのは、適性と衛生管理であり、免疫の低下した入院中の子どもたちや重症者に接する医療施設への導入には各医療機関の感染症対策委員会等による厳しい検討が行われます。また、事故は決して許されませんが、危機に対する社会的責任の負えない団体や個人、グループが行うべきではありません。
公益社団法人日本動物病院協会の人と動物のふれあい活動Companion Animal Partnership Program (CAPP)活動がスタートした1986年5月から2013年3月までの活動実績は、次の通りです。
訪問回数:14,626回
参加獣医師数:22,882人
参加ボランティア:115,654人
参加動物:犬=85,631頭、猫=19,441頭、その他=6,712頭(数字はすべ
て延べ数です)
医療施設 36カ所
高齢者施設 253カ所
児童関係施設(学校含む) 72カ所
心身障害者(児)施設 58カ所
事故 0 アレルギー 0