シンポジウムⅥ 「畜産現場における野生動物被害」

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 シンポジウム Ⅵ
「畜産現場における野生動物被害」 

日時:7月20日(日)10:00~13:00
会場:和楽
主催:応用動物行動学会
趣旨:野生動物による農林業被害大きな社会問題となっている。近年、家畜生産や飼料生産を目的とした畜産の現場においてもその被害が認識されるようになってきた。そこで、本シンポジウムは、畜産現場における被害の実態と農林業被害との関連、そして、その対策および野生動物との共存について考える。

  

 

 

座長メッセージ

江口 祐輔氏江口祐輔先生
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農研機構近畿中国四国農業研究センター 上席研究員

 

 

 

 

 

野生動物による農林業被害が年間200億円を超え、大きな社会問題となっている。被害対策研究が進められるなか、その発生状況や要因が家畜生産や飼料生産を目的とした畜産の分野とも関連していることが明らかにされつつあり、畜産現場における野生動物被害についても、近年認識されるようになってきた。

そこで、本シンポジウムは、「畜産現場における野生動物被害」をテーマとし、畜産現場における被害の実態と農林業被害との関連、そして、その対策および野生動物との共存について考えたい。

現在、個体数密度推定の研究とそれに基づく捕獲が、我が国の被害対策の主流になっている。しかし、被害は収まるどころか拡大する一方である。動物の数だけを考えるのではなく、動物や人の行動を研究することにより、被害減少に結びつく対策が見えてくる。本シンポジウムはこのような考え方により、動物や人の行動を研究し、捕獲だけに頼らない被害対策を研究している方々にご講演いただき、被害対策のありかたを考え、我が国の被害対策の今後について議論したい。

 

 

 

野生動物による畜産被害の状況

塚田 英晴氏
profile_button1s塚田英晴先生

農研機構畜産草地研究所/主任研究員

 

 

野生動物による農業被害が社会問題となっている。畜産業だけでも被害額は41億円以上にのぼる(平成23年度農林水産省の統計による)。野生動物による畜産被害は、生産物への被害、人身被害、環境被害に大別できる。こうした被害は、基準となる値と動物によって影響を受けた値を比較することで正しく評価できるが、畜産被害として認識されていないケースも多い。生産物被害は、畜産被害として広く認知されており、直接的被害として、ニホンジカによる牧草の食害、イノシシによる草地の掘り起こし、イノシシやタヌキなどによる家畜飼料の盗食、クマ類によるトウモロコシの食害、ロールベールへのニホンジカや野ネズミによる食害などが挙げられる。その他に、鳥インフルエンザを始めとする家畜疾病の媒介といった間接的被害もある。一方、人身被害は、畜産との結びつきが必ずしも明確ではなく、畜産被害と認識されにくい傾向にある。クマ類やイノシシによる濃厚飼料の盗食に付随した人身事故、ニホンジカによる牧草地への侵入に付随した交通事故の発生などがこれらに該当する。さらに、野生動物由来の人獣共通感染症の発生と関連する被害、たとえば、キタキツネによる豚舎への侵入が、キツネの媒介するエキノコックス症の感染リスクを高めることなどもこうした被害に数えられる。環境被害は人身被害以上に畜産被害としての認識は薄いと思われる。アライグマやハクビシンによる家屋侵入や鳥類や獣類による糞害などがあげられる。畜産業の主たる現場である牧場は、中山間地に立地し、多くの野生動物の生息地と重なるため、必然的に野生動物による畜産被害も発生しやすい。さらに、畜産業は野生動物にとって良質な餌供給源にもなる。そのため、健全な畜産業を持続するには、適切な畜産被害対策が欠かせない。

 

 

 

 

大型野生動物の行動特性および被害対策

上田 弘則氏
profile_button1s上田弘則先生

近畿中国四国農業研究センター 鳥獣害対策研究グループ

 

 

わが国の畜産現場で被害問題を引き起こす主な大型野生動物は、ニホンジカ、イノシシ、ツキノワグマ・ヒグマである。畜産被害の中でも、飼料用トウモロコシや牧草などの飼料作物への被害が最も深刻である。このような被害を防ぐためには、被害状況と加害獣をしっかりと把握したうえで、圃場周辺を安心な餌場としないような環境管理と圃場への侵入を物理的ないしは心理的に防ぐ侵入防止対策が必要となる。例えば、イノシシによる飼料用トウモロコシへの被害の場合には、イノシシの行動特性を踏まえて、圃場周辺の藪の刈り払いなどによって見通しを良くした上で、電気柵を適切に設置・管理することで被害は防ぐことができる。現在報告されているイノシシの牧草地での被害は、掘り起こしによる被害がほとんどである。ところが、最近になり、冬場の寒地型牧草地では、掘り起こしの被害ではなく、地上部を採食される被害が発生していることが明らかになった。寒地型牧草地に赤外線自動撮影カメラを設置したところ、撮影された動画のうち実に7割で牧草地上部の摂食行動が確認されたのに対して、掘り起こし行動は全く撮影されなかった。このようなイノシシの地上部の被害は、シカによる被害に比べて目立たないために、被害そのものが見過ごされてしまうことがある。飼育個体に初めてイタリアンライグラスを与えても躊躇なく摂食することから、これまでに地上部に被害が確認されていない地域においても、イノシシによる地上部への食害が発生する可能性はあると考えられる。牧草地での被害の場合にも、動物の行動特性を踏まえて、被害を受けにくい草種の選定や電気柵などの侵入防止柵を正しく設置・管理することで被害を防ぐことができる。

 

 

 

 

中型野生動物の行動特性および被害対策

古谷 益朗氏
profile_button1s古谷益朗先生

埼玉県農林総合研究センター

 

 

野生動物による被害は深刻である。畜産現場でも被害が報告され経営を行う上で重要な問題となっている。直接的な被害では養鶏場の食害で最も多くの報告事例がある。主な加害獣は外来中型動物のアライグマとハクビシンであるが、在来種のタヌキ、キツネ、アナグマ、テン、イタチなども加害する。対策は防護柵による畜舎への侵入防止が有効だ。農作物対策用の電気柵で侵入を防止することは可能であるが、しかし、被害現場のほとんどが開放的な構造であり完璧に防ぐには大規模柵で畜舎全体を囲う必要がある。このため、メートル単価は安価でも全体の費用は膨大になってしまう。侵入防止柵は簡易で安価が基本であり初期投資が高いと普及は難しい。現在、農作物の被害現場では柵以外の対策として周辺の環境整備がある。加害動物を寄せ付けない技術である。そこで、畜産の現場においても環境整備技術の導入が可能と考え、被害現場の周辺環境に着目し調査を実施した。結果、侵入される畜舎周辺に幾つかの共通点があることがわかった。家屋、ゴミ捨て場、柿の存在である。これは農作物被害の現場と同様である。家屋は安全な寝屋として前線基地になり、ゴミ捨て場は年間を通じてエサを提供する。そして、柿の実は秋期から冬期にかけて中型動物の最良のエサになる。これらのエサ誘引された個体が畜舎の存在に気付き侵入して被害が発生するのだ。被害現場では”家屋の点検を強化”。”ゴミ捨て場は蓋か囲う”。”柿は放置しないで適期に収穫”。を心がけてもらいたい。被害が発生するということは、何らかの原因があるはずだ。被害を止めたければ“当たり前”を変えていく勇気が必要である。環境管理は生産者が自ら行える対策である。人任せにするのではなく被害の原因を自らが受け止めて改善していくことが問題解決の近道だ。