シンポジウムⅤ「One World, One Health 〜今、北極で何が起こっているのか?〜」

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シンポジウム Ⅴ
「One World, One Health 〜今、北極で何が起こっているのか?〜」

日時:7月20日(日)10:00~13:00
会場:北野

主催:日本野生動物医学会/日本クマネットワーク
趣旨:地球規模での環境変化は、さまざまな野生生物に大きな影響をもたらす。現在、地球温暖化により北極圏の環境に異変がみられ、そこに生息するホッキョクグマなど野生生物に多大な影響が出始めている。今回は、日本から遠く離れた地での現象について、情報を共有し未来を展望する。

 

座長メッセージ

坪田 敏男氏坪田写真
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北海道大学大学院獣医学研究科 教授

 

 

 

 

 

本シンポジウムでは、北極圏の生態系を代表する野生動物であるホッキョクグマの生態と最近の状況に焦点をあて、地球温暖化に伴う北極生態系の危機を広く日本のみなさんにも知っていただく機会にしたいと考えています。地球規模での環境異変はいたるところで見られていますが、とくに北極での変化は一層大きいと考えられています。年々海氷域が減少し、そこを生息地とする海獣類に影響を及ぼしています。とくに、生態系の頂点に位置するホッキョクグマはより大きなインパクトを受けています。そこでまず、30年以上にわたってホッキョクグマの研究をされてこられたアルバータ大学教授、アンドリュー・デロシエール博士に、近年のホッキョクグマ生態や彼らを取り巻く環境の変化についてご講演いただきます。続いて、直接的に北極をフィールドにされてこられたわけではありませんが、北米ノースウッズを中心に北方の野生動物を撮影してこられた大竹英洋氏に、ホッキョクグマを含めた野生動物の魅力に迫る多くの写真をご紹介いただきながら、プロの写真家としての感性を通じた自然観を語っていただきます。最後に、講演者お2人に加えて、主催者である日本野生動物医学会と日本クマネットワークより野生動物の専門家である福井大祐氏と山崎晃司氏、さらにコーディネーターである坪田が入り、パネルディスカッションを行います。ホッキョクグマの生物学的な特徴をはじめ興味深い生態や生理、他のクマとの相違や類似点、さらには近年のホッキョクグマを取り巻く環境変化について議論を深く掘り下げたいと思います。最後には、現在のホッキョクグマが抱える問題を整理し、北極の生態系の危機について情報を共有するとともに、将来的にどうすれば問題を解決(軽減)できるのかについて意見交換したいと思います。

 

 


  北極の象徴の消失:ホッキョクグマと失われつつある海氷 
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アンドリュー・E・デロシエール氏
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アルバータ大学 教授



北極周辺の海氷は、まさに世界で最後の野生が作り出す造形の一つであるが、地球温暖化により大きな生態系の変化が起こっている。その変化は、将来さらに大きくなると予測されている。北極の海域生態系の特徴は、海氷が存在することであり、1年の中でほんの一時期だけ海氷がみられる大陸棚は最も生産性の高い生息地環境である。1年の生産周期としては、氷が後退する春と夏に生産のピークが来る。北極における多くの動物種にとってエネルギーの増大がもたらされ、これを1年の残りの期間を生き残るために必要な脂肪蓄積に変換する。食物網の頂点に立つホッキョクグマは、移動、狩り、繁殖そして時に子育てのプラットフォームとしての海氷に依存している。

ホッキョクグマは海棲哺乳類と考えるのがよい。なぜならば、彼らの生活史すべてが海氷と関連しているからである。彼らがヒグマの祖先から枝分かれした400〜600万年の間に、ホッキョクグマは北極に適応した:毛皮は冬の世界に合っているし、頭骨は細長く流線型をし、臼歯はより肉食に相応しくなり、爪は鋭利で短く捕食に向いており、妊娠雌を除いて冬眠をしないなどの面で適応がみられる。

海氷は、短命な生息環境であり、森林の土壌と同じように、北極の海域生態系に不可欠なものである。ジャイアントパンダが竹を必要とするように、ホッキョクグマはアザラシを必要とする。ほとんどのホッキョクグマは、海氷が存在する場所にだけ生息する2種のアザラシを食べて生きている。海氷がなければアザラシはいないし、アザラシがいなければホッキョクグマは存在しない。予測される海氷の損失傾向は、今世紀半ばに世界のホッキョクグマの3分の2が消失することを暗示している。もしある動物が人間に温室効果ガスの生産を減らすよう仕向けるとしたら、それはホッキョクグマであろう。もしわれわれが彼らを絶滅の危機から救うことができなければ、将来の世代がわれわれを厳しく批判するであろう。

 

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北米ノースウッズに野生動物を求めて

大竹 英洋氏
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写真家/フリーランス

 

 

 

 

 

 

「ノースウッズ」とは、北アメリカ大陸の北緯45度から60度にかけて広がる森林地帯の呼称である。面積は日本の国土のおよそ4倍。10億年以上前に形成されたカナダ楯状地の平坦な地形が果てしなく続く。一年のおよそ半分を冬が占め、気温がマイナス30度以下になることも珍しくない。森は北方林(=Boreal Forest)に分類され、クロトウヒやジャックパインなどの針葉樹が主であるが、シラカバやアスペンなどの落葉広葉樹も生えている。また、約1万年前の最後の氷河期が残していった無数の湖が点在し、北米の湖水地方としても知られている。

 

「ノースウッズ」は湿地が多く、寒さの厳しい過酷な環境ではあるが、そこにはいまもなお、世界最大規模の原生林が残されている。シンリンオオカミ、アメリカクロクマ、ムース、ウッドランド・カリブー、シンリンバイソン、カナダオオヤマネコ、ビーバーなど、多様な野生動物たちが生息し、また、数えきれないほどの沼や湖は、アビ、ガン、ナキハクチョウ、絶滅の危機に瀕しているアメリカシロヅルなど、水鳥たちにとって、新しい命を育むのに適した環境を提供している。さらに、ノースウッズ北限にあたるハドソン湾南岸の泥炭層は、ホッキョクグマにとって貴重な営巣地ともなっている。彼ら野生動物たちは、この極寒の環境に適応し、生態系の微妙なバランスを保ちながら生き抜いてきた。しかし、その生息域は、気候変動、森林伐採、鉱山やダムなどの開発によってたやすく脅かされてしまうだろう。

 

本講演では、約14年に渡って「ノースウッズ」で追い求めてきた野生動物たちとの出会いを、実際の写真を交えながら語る。地球規模で環境問題が広がっている現代だからこそ、日本から遠く離れた自然について考え、野生動物たちが懸命に生きる姿を見つめる意味は大きいと考えている。

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