平成24年度 「いのちの教育」報告会
「いのちの教育」について考える
奈良県が取り組む
動物のいのちを通した子どもへの「いのちの教育」
最終日となる第4日目の報告会は、F小学校の5年生がプログラムⅢで「動物たちのために私たちができること」を学習する授業を見学しました。5年生になると、低・中学年に比べると体も随分大きくなり、使う言葉も少し大人っぽく感じます。プログラムⅢでは、低学年の子供たちには「動物とのお約束」という言葉で「私たちができること」を考えますが、高学年になると「人間の責任」という言葉で動物との関わりを考えることになります。そうした授業の組み立てができるのも、教育現場で指導をしているプロの教員と共に作り上げてきた成果だと言えます。
プログラムⅢでは、それぞれの動物に人が果たすべき責任、言い替えると私たちが動
物に対して取るべき行動を考えます。プログラムⅠⅡで既に学習した動物にも心や、ニーズがあるということを基に私たち人間には関わる動物の気持ちやニーズに応える責任があるということを学習します。
また、いのちの教育プログラムで使用している張り子の動物たちは、中まですべて新聞紙を丸めて作られていますので、持ち上げるとそれなりの重さを感じることができます。そして、少しユーモラスな表情と張り子という珍しさもあって、例えプログラム実施の期間が多少開いたとしても彼らの記憶の中に、張り子の動物への親しみと共に記憶されているようです。手作りの大変さはありますが、プラスチックやぬいぐるみの動物を使用すると、こうはいかないかもしれません。この日は、5年生の立場で考えた、動物に対する人間の責任がたくさん発表されました。
そして午後からはプログラムⅠとⅡの内容を、見学者が児童役になって体験します。こうした授業の内容はマニュアルを配布するだけでは伝えることが難しく、実際に体験しながら、先生役の指導者から要点を説明してもらいながら理解しなければ、中身の違ったプログラムとして伝わってしまう恐れがあります。そういう意味でも、少し遠方ではありますが子供たちに実施されている現場に足を運んで頂き、見学をしつつ自らが体験することができるこの報告会はとても意味のあるものだったのではないでしょうか。
報告会の参加者の皆さまは、授業の合間に奈良県動物愛護センターがこれまでに企画開発をして実施しているツール等の展示の見学と施設の見学をして、全ての授業の見学が終わった後には、奈良県が目指す「いのちの教育」の概要の説明を受けました。
半年前から実施が始まった「いのちの教育プログラム」ですが、すでに累計2000人以上(2012年 11月 現在)の子供たちがこの授業を受けています。また、学校だけでなく地域の教育機関等でも実施させて頂くこともあり、動物のためにある施設と思われていた愛護センターが、地域の人間教育のための施設として展開するきっかけになっていくのかもしれません。
奈良県の動物愛護センターでは、デモに使用する動物に多くのストレスを与える教育方針を止め、生体を使わずに、子供たちが「もし、これが生きている動物だったら…」という想像を行うことが出来る教育に切り替えています。こうしたユニークなツールに、参加者の皆さまは熱心に写真を撮ったりメモを取ったりしておられました。奈良県の「いのちの教育」とは、まさに「人づくり」であるという強い信念がとても印象的で、長年の課題であった「殺処分の減少」についても、地域振興の視点からのアプローチを取り、「いのちの教育」の背景には「豊かな人間性を持つ子供の育成」=「優良な市民を育て、心豊かな地域づくりへ」=「殺処分数の減少」という具体的なヴィジョンが明確に打ち出されていました。
また、少数のグループが集まった会合の場では、今後、国内に新築される動物愛護センターの役割や、設立までの下準備などに関する具体的で専門的な意見が交換され、自治体の枠を越えた繋がりが生まれました。こうした情報は、各自治体の中だけで完結するのではなく、今後は日本全国の教育や譲渡事業の在り方、そして日本から海外への発信というグローバルな視点での連携が、今後ますます必要になってくるでしょう。
今回の報告会で発信した内容が、日本各地の自治体や専門機関での良い刺激となり、それぞれの地域や団体に合った方法でのヒューメイン・エデュケーションが普及するきっかけとなれば嬉しく思います。