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ピックアップ 2023.03.03

【報告】令和4年度「いのちの教育」研修会

開催日:2022 年 10 月 28 日(金)/11 月 11 日(金)
開催場所:奈良県うだ・アニマルパーク 振興室 動物学習館
主催:奈良県うだ・アニマルパーク振興室/公益社団法人 Knots
後援:奈良県教育委員会/宇陀市教育委員会/公益社団法人 日本動物病院協会/公益社団法人奈良県獣医師会

10 月 28 日(金) 参加人数:8 名
・主催者挨拶(うだ・アニマルパーク振興室 葛本室長/公益社団法人 Knots 冨永代表理事)
・授業見学(小学生プログラムⅠ 気づき)~A 小学校~(40 分短縮授業)
・うだ・アニマルパーク「いのちの教育」の経緯及び取組について
・授業見学(小学生プログラムⅡ 共感)~B 小学校~(40 分短縮授業)
・小学生プログラムの現状と評価(アンケートの結果)報告
・今後の動物愛護教育についての意見交換
・動物愛護センター施設見学(希望者のみ)
・小学生プログラムⅢ 責任 概要紹介(希望者のみ)
・いのちの教育中高生プログラム概要紹介(希望者のみ)

11 月 11 日(金) 参加人数:11 名
・主催者挨拶(知事公室 南部東部振興監 藤井氏/公益社団法人 Knots 冨永代表理事)
・授業見学(小学生プログラムⅢ 責任)~C 小学校~
・小学生プログラムの現状と評価(アンケート結果)報告
・授業見学(小学生プログラムⅡ 共感)~D 小学校~
・うだ・アニマルパーク「いのちの教育」の経緯及び取組について
・今後の動物愛護教育についての意見交換
・動物愛護センター施設見学(希望者のみ)
・小学生プログラムⅠ 気づき 概要紹介(希望者のみ)
・いのちの教育中高生プログラム概要紹介(希望者のみ)

奈良県「いのちの教育」プログラムの普及展開を図るため、全国の自治体職員や教育関係者を対象に、毎年2回、「いのちの教育」研修会を開催しています。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で開催を見合わせていた、奈良県うだ・アニマルパーク振興室での「いのちの教育」研修会を、今回は3年ぶりに奈良県と当法人との共催で開催いたしました。研修会では、小学生が実際に授業を受けている様子を見学したり、子どもたちのアンケート等によるプログラムの分析方法等を通して「いのちの教育」プログラムの内容と効果を学んでいただきます。また、意見交換の場では、それぞれの自治体の現場における教育の取り組みや課題について出し合い、自治体の枠を超えて相談できる時間を設けています。

今回の研修の2日目には、奈良県総務部知事公室南部東部振興監の藤井さまが、冒頭の主催者挨拶をされ、自治体の関係者の中でもこのプログラムが高く評価されていることや、官民連携でのプログラムの推進によってさらなる拡がりが期待できることについても述べられました。公務の時間調整が難しい中、授業も最後まで見学され、子どもたちが集中して授業を受ける様子や、集中力が途切れないように先生が工夫して子どもたちに語りかける授業展開等、「いのちの教育」プログラムの評価が高い理由を実際に教育現場で感じていただくことができました。

今回の研修会では、オプションプログラム(選択制)として「動物愛護センターの施設見学」「小g学生プログラムⅢ 責任」概要紹介」(又は「小学生プログラムⅠ 気づき」概要紹介)、「いのちの教育」中高生プログラム概要紹介も行われました。「いのちの教育」中高生プログラムは、令和 3 年度は 8 校 49 名が受講しました。

また、この研修会では、参加された方々と様々な課題について意見交換する場をもたせてもらっています。多くの自治体は、少ない人員の中で「いのち」の大切さを伝えるための教育を地域の子どもたちに伝えるという課題に向き合っています。新たなプログラムを企画開発したり、導入するための予算の確保が難しいという現状があり、奈良県「いのちの教育」研修会に参加した自治体の担当者からも、教育への予算化が困難であるという声を数多く耳にします。
また、「校長会などで「いのちの教育」プログラム実施に向けて PR していきたいと思っているが、教育の領域に動物衛生の自分たちが参画して理解が得られるだろうか」「小学生プログラムのマニュアルを見ていきなり授業ができるだろうか」等、様々な不安を抱えながら取り組んでおられる姿を垣間見ることができます。この研修会の意見交換会では、そうした不安や課題などを自治体の枠を超えて共有することが次の取り組みの活力につながり、お互いの実践の中から対応策についてヒントを得られる場にもなっています。

子どもが心を開きやすい動物を入り口とした奈良県「いのちの教育」プログラムは、「他者へ共感する感性と自他の生命を尊重する態度の育成」「思いやりや協調性、道徳的心情などの豊かな人間性の基盤の構築」「社会的規範意識の醸成及び向上」という効果が期待される教育プログラムです。この「いのちの教育」プログラムの「動物からの学び」は、様々な分野に汎用性のある教育プログラムとして活用できる可能性があります。今後、更に多くの自治体・教育現場で展開されることを願っています。

【奈良県での「いのちの教育」プログラム実施体制】
奈良県「いのちの教育」プログラムは平成 24 年 4 月から実施され、同年 6 月には奈良県と当法人が連携協定を締結し、「いのちの教育」プログラムの普及展開を行ってきました。「いのちの教育」プログラムの実施内容や教育効果等の分析、普及展開に関する仕組み作りに関しては、奈良県「いのちの教育」研究協議会(会長:国立大学法人奈良女子大学・天ヶ瀬正博教授/副会長:当法人代表理事・冨永佳与子)が設置され、教育委員会や学校関係者、うだ・アニマルパーク振興室の職員等が共に定期的に協議を重ね、ブラッシュアップを図りながらより良い内容になるよう連携体制を構築しています。

平成 24 年のプログラム開始時は教育委員会から派遣された教員 1 名、愛護センター職員 1名が「いのちの教育」プログラムの授業を行っていましたが、翌年からは教員 2 名体制、令和 4 年度は教員が 3 名体制となり、県下 190 校余りの小学校の内、これまでに 70%以上の小学校が一度はこのプログラムを受けたことがあるという実績を挙げています。

うだ・アニマルパークは、およそ 10 ヘクタールという広大な敷地に動物とふれあうことのできる公園エリア、動物について学ぶための教室や、バター作りなどの体験ができる施設を備えた動物学習館、奈良県の動物行政の拠点となっている動物愛護センターがあり、県内外から多くの方が来園されています。奈良県「いのちの教育」では、「自分を含めたあらゆるいのちに共感し、いのちを大切にする心を育む教育」である奈良県「いのちの教育」プログラムを軸として、バター作り体験や餌やり体験などの「体験」、スタンプラリー等の「ワークショップ」の実施、総合的な学習としてインターンシップや職場体験の受け入れも行っています。「いのちの教育」の軸となっている「いのちの教育」プログラムは、3つのプログラムのうち1回は、遠足や校外学習の際にバター作りや乳しぼりなどの「体験」と組み合わせて受講してもらっており、残りの2回は、うだ・アニマルパークの職員が学校に行って授業を行うというスタイルをとっています。

【奈良県「いのちの教育」小学生プログラムの内容】
小学生プログラムは下記のプログラムⅠ~Ⅲの3つのプログラムで構成されています。
・プログラムⅠ「私たちと動物との関わり(気づき)」
・プログラムⅡ「動物と私たちのいのちは同じ(共感)」
・プログラムⅢ「動物のために私たちができること(責任)」

プログラムⅠでは、子どもたちが大型の張り子を「街」「牧場」「自然」の3つのすみかに運びます。「街」で暮らし人間が最後まで世話する《ペット》、「牧場」で暮らし、人間の役に立つために育てられている動物で、人間が管理し、世話をしている《家畜》、「自然」の中で暮らし、人間が世話をせず自分の力で生きている《野生動物》が、それぞれの環境や人間とどのようにつながっているのかということに、子どもたちが自ら気づいていきます。パネルを効果的に使って「にんげんとどうぶつはつながっている!」というような重要なキーワードを唱和するようにしていますが、これは子どもたちの記憶の固定化につながり、次のプログラムへの学びにつながっていきます。

プログラムⅡでは、動物にも人間と同じように感情があり、それぞれの動物には、私たちと同じように「生きるために必要なもの(ニーズ)」があり、気持ちがあることを学びます。「生きている証拠」を探し、「いのち」を実感できるものとして拡張心音計を用いて子どもたちひとりひとりの心臓の音を聞き比べ、同じ人間でもひとりひとりの心音に違いがあることを理解していきます。こうした体験を通して、人間と動物が同じたったひとつの「いのち」を持っていて、「こんなふうに暮らしたい」というニーズを持っている存在であるという「共感」を生みます。

プログラムⅢでは、私たちの周りにいる動物たちが幸せに暮らすためにどんなことができるのか、何をしなければならないか、私たち人間が果たすべき「責任」について考えます。
自分たちが動物の「いのち」のために果たすことができる「責任」を「私たちと動物とのやくそく」として認識させ、身近なところから自分たちができることを考えます。

プログラムⅡにおいては子どもたちが考えた動物の気持ちを、プログラムⅢにおいては私たち人間が動物のためにどんなことができるのかと考えた自分の意見を、子どもたちひとりひとりにミニホワイトボードを渡して書き込んでもらいます。このホワイトボードに書くという行為は、手を挙げて意見を述べるのが苦手な子どもでも、書くことで意見を出しやすくなり、書いた意見を発表したり、ふりかえりの記録に意見を残すことで、授業に一緒に参加したという実感を生む効果があります。

また、プログラムⅡ、Ⅲの授業では、前回学んだ内容を授業の冒頭に復習するなど、「ふりかえり」を重要視しています。また、プログラムの概要をイラスト化したクリアファイルを配布するなど、授業以外の場面でも子どもたちが「ふりかえり」を行うことができるような工夫もされています。奈良県「いのちの教育」研究協議会においても、この「ふりかえり」の重要性が指摘されていて、「ふりかえり」をしっかり行うことによって、長期的に子どもたちの中に学習効果が定着するそうです。

【小学生プログラムの現状と評価・分析】
奈良県では、プログラム実施前と実施後のアンケートの自由記載欄に書かれたコメントからキーワードを抜き出し、子どもたちの視点がどのように変化したのかを集計して分析を行っています。この意識の変化を数値化するという分析は、どのような効果があり、どの部分がうまく伝わっていないのか、などの改善の指針にもなり、こうした数値を元に「いのちの教育」研究協議会でも検証を繰り返し、プログラムのブラッシュアップを図ってきました。

例えば、「人間は、どうぶつがいなくても生きていけますか?」という問いに「生きられない」という回答の比率は、実施後には増加しています。人間と動物との関わりについて学び、食生活にも結びついて考えることができるようになったと言えます。また、自分たちが動物のためにできることとして、ブラッシングなどの手入れや乳しぼりなどのように自らの体験からイメージしやすい「世話に関する言葉」や、動物に合った餌や新鮮な水など「飢えと渇きからの自由」に関する記述も、事前より事後の方が増加しています。
一方、ケガや病気に対して人間が動物の健康を守るという責任の意識向上については大き
な数値の変化が見られませんでした。この課題については、子どもたちが自ら行うこと、自
分たちにできることとして認識するよりも、親や大人がやるべきこととして切り離した認
識になっていることではないかと推察されます。

また、「どうぶつのために何かできることがあると思いますか?」という問いに対しては、《ペット》に対して「最後まで責任を持って飼う」、《家畜》に対しては「感謝して食べる」、《野生動物》に対しては「自然を守る」「壊さない」など、通常の授業ではなかなか難しいと言われている「食育」や「自然環境」についての記述が増えていることに、「いのちの教育」研究協議会において教育関係者の皆様も驚いておられ、教育効果として注目されています。

【「いのちの教育」中高生プログラムについて】
「いのちの教育」中高生プログラムは、小学生プログラムを受講した子どもたちが成長し、社会に出て様々な課題に直面したときに、社会の一員として自らのこととして課題に向き合うことができる人材育成としての内容も含まれています。人と動物の関わりやニーズを理解するための動物福祉について知ってもらい、動物に果たす人の責任について考え、社会の一員として「いのち」を大切にする社会を目指して、自分にできることを考えるプログラムになっています。

プログラムは「基本編」「応用編」「展開編」で構成されています。
「基本編」では、動物福祉の指針のひとつである「5つの自由」をチェックポイントとして、動物福祉の考え方を学びます。

「応用編」では、動物に関わる様々な社会が抱える問題に対して社会の一員としてどのように課題に向き合い、考え、行動することができるのかを考えます。一例として、高齢の夫婦が伴侶の一人が入院をすることによってペットの世話が難しくなった場合というシチュエーションを設定し、その課題を個人の問題として切り捨てるのではなく、社会全体としてどのような仕組みがあれば解決することができるのかを一緒に考えます。

「展開編」は、奈良県動物愛護センターの現状を学び、施設見学やインターンシップに実際に参加することを通して実体験としての学びを得ることで、自分が大人になったときに、個人の問題から社会の問題へと視点を変えることで、社会の一員として行動することの大切さを学ぶきっかけを与えることができるプログラムになっています。