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【レポート】大分県の動物愛護教育「いのちの授業」の実施状況について

1. 取組の経緯

(1) センター開所(2019年2月)直後の4月1日に赴任。センター所長・愛護企画課長からの言葉

  • 本県は犬・猫の殺処分率がワースト5位(2016年度「環境省」より)。適正飼育の意識が希薄。幼少期からの教育が必要である。
  • 県と市で協力し、動物愛護センターとして、人と動物という視野にとどまらず、広い意味での「命の教育」の一環として、動物愛護教育(生命尊重教育)を行う。それには、子どもたちへの教育と子どもたちからの情報発信が有効であると考える。
  • 本センターの運営の4つの柱は、①責任ある飼育の指導と啓発、②動物福祉の教育と共生意識の醸成、③収容犬・猫の返還や譲渡、④世該当緊急時被災動物の避難救護活動拠点。②の柱と関連。
  • 県内小中学校児童生徒数は約9万人。先ず5%の5,000人(授業200回)を目標値としたい。
  • 教育の専門家を採用するセンターは数少ない。全面的に協力する。頑張ってほしい。

(2)開始に向けて取り組んだこと

  • 先進地視察(奈良県うだ・アニマルパーク動物愛護センター、大阪府)
  • 調査研究(動物介在教育実践校の調査、県内道徳・生活科の教科書調べ、新学習指導要領熟読等々)
  • 児童生徒の発達段階・価値項目等を考慮した「教材開発」(奈良県うだ・アニマルパーク振興室の「いのちの教育」プログラム等を含め12種類)
  • 課長とともに県教委に『命の授業』開始の通知文持参・説明及び協力依頼(その後市町村教委へ)。

(3)初年度(令和元年)4月~12月の業績

  • 申請数
    ・1学期{出張型授業(1校:172人)、来館型(1校:51人)}
    ・2学期{出張型授業(8校:1,304人)、来館型(3校:149人)}
  • 合計{授業数(13校)、授業対象人数(1,676人)}

(4)取組の改善(令和元年12月)

  • 全小学校に『命の授業』の意識調査アンケートを実施(回収率62.2%)し、問題点の分析・考察。
  • 問題点の分析
    ・学校は新学習指導要領の全面実施開始(小はR2・中はR3年度から)による「授業数増や内容増」等に備え、外部との関わりや行事等の「精選」作業に懸命。新たな授業は入れたくない意識。
    ・依頼文を通知したにもかかわらず、『命の授業』そのものがあまり知られてない(「知っている」と回答した学校は35.4%のみ)。周知方法を考える必要がある。
    ・令和元年度の3学期にコロナ問題発生。学校は長期臨時休業。外部関係者との接触を極度に警戒。
    ・事前打合せや事後補足、お礼の手紙等、担任は「負担過重」を考え、外部からの授業は拒否傾向。
    ・新学習指導要領改訂内容の趣旨は「主体的・対話的・深い学び」「問題解決的な学習展開」「アクティブラーニング」「ほぼ全教科に『見方・考え方』の文言が入る」「道徳が教科となる」等々と大きく様変わりした。加えて、大分県は「新スタンダード方式」の学習展開を推奨している。
    つまり、数年前までのように「学校には出来ない専門的な体験の場を提供する」や「教えてあげる」的な安易さでは,到底学校現場に入っていけない状況に変化してきている。
    ※ 学校で授業できなければ、何も始まらない。学校からの申請を得るには、先ず上記問題を全てクリアし、本センターの『命の授業』が学校から重要視される必要があると考えた。

(5)アンケート結果分析後、見直しをした取組

① 大分市や別府市などの校長会に出席し、直接説明する。

② ホームページに『命の授業』の項目を掲載し、少しでも内容・方法等が周知できるよう、図る。

  • 先ずは周知を図るため、大分市や別府市などの校長会に出席し、直接説明する。
  • HPに『命の授業』の項目を掲載し、少しでも内容・方法等の案内ができるよう、図る。
  • 命の授業の背景と概要、授業者の概要、各教材の内容や主眼、事前・事後の取扱い等々
  • 新学習指導要領の改訂のねらいとセンターの『命の授業』の関連性を学校に説明する。
  • 問題解決的な学習。多面的・多角的な見方・考え方を駆使し、対話的で深い学びとなる授業
  • 教材は、「価値ある素材(道徳的価値等)」「問題性ある素材(子どもが驚きや疑問を持つ等)」「可能性ある素材(子ども自身で追求可能等)」を全て包含したものを用意
  • 教材説明、学習指導案の提示による学習展開のイメージ化、事前協議の簡略化
  • 本物の犬の同行について、希望の有無を尋ねる。(※結果的には95%以上の学校が希望)
  • 子どもから撫でられることを喜び、むしろ学校に行きたがる犬を活用

 

2. 授業の様子の具体的な事例(中学校1年生):「ある犬のおはなし」の場合

(1)導入段階

① おおいた動物愛護センターの取組の概要説明

② 犬との交流(犬が歩く場合と児童生徒が来る場合がある)

(2)展開段階

③ 犬の可愛さを実感した上で、大分県の犬・猫殺処分率(2016年度:全国ワースト5)の数値を提示する。子どもは数値の高さに驚くとともに、切実感を持ち、自分事となり始める。ここで、殺処分にされた犬の立場の紙芝居(パワーポイント)を行う。

④ 感想を聞くと、多くの子は「悲しいお話」「可哀想で涙が…」等々と語る。

⑤ 「どんな問いが生まれるのかな?」と尋ねると、犬との交流により可愛さを実感し、大分県の殺処分率の高さを知ったからこそ、切実感をもち、「こんなかわいそうな犬を少しでも少なくするには、どうすればよいか?」等の問いが生まれ、子ども個々が問いを引き受ける。

⑥ 問いを吟味し、「課題」を位置付け、課題への考えをノートに書き(約3分間)、個々が考えを持つ。

⑦ 様々な考えを、着眼点の違いが明確になるように、板書に位置付け、相違点について討論する。

(3)終末段階

⑧ 子どもたちの考えを色チョークでまとめる。

⑨ 視点の違いから「振り返り」をしながら、本時の『命の授業』のまとめをする。

⑩ 授業の終末、改めて交流犬とふれ合う。

3. 授業回数と対象人数の年度別比較

① 対象学校種等

  • 『命の授業』を実施した学校種(幼稚園、小学校、中学校、県立高校、特別支援学校)
  • 学校以外の子どもへの『命の授業』(フリースクール、児童育成クラブ等)
  • 一般社会人への講演(国公立幼稚園教員、地域住民、ロータリークラブ等)

② 傾向性

  • 授業回数、対象人数ともに、着実に増加している。ただし、今年度の「来館型授業」については、予定されていた小学校(26校分1,941名)がコロナ禍のためキャンセルし、増加はしてない。
  • 令和4年度は1月現在、県内全市町村(18市町村)で「出張型授業」ができており、県周辺部にも広がりつつある。
  • 「来館型」と「出張型」をセットにして申請する学校が出てきつつあり、より効果が期待できる。

4. 今後について

授業増に伴い,令和4年度から、教員職(会計年度任用職員)が2人体制となった。ティームティーチングや分担しての授業等に取り組むとともに、相互批正をしながら、授業研鑽に努め、一層の充実に努めたい。

次年度、開所5年目となる。5年間で「授業対象延べ人数」が、県内小中学校全児童生徒数(約9万人)の3割に届くことを目指し、命を尊重する教育(『命の授業』)の取組の推進に努めたい。