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2015.05.24

第4回 神戸全ての生き物のケアを考える国際会議 —ICAC KOBE 2015 分科シンポジウム「シンポジウム 2」報告

日時:7月20日(月)10:00〜13:00
会場:コンベンションホール
主催:人と動物の共通感染症研究会
趣旨:近年、感染症は世界的規模で再び出現しつつあるが、最近30~40年間の間に新しく出現した新興感染症や一旦制圧された感染症が再び出現した再興感染症が主な感染症である。本シンポジウムでは、最近問題となった人と動物の共通感染症のなかで、エボラ出血熱、デング熱、重症熱性血小板減少症候群と動物由来感染症に対する厚生労働省の取り組みについて紹介する。

 

座長メッセージ

座長:吉田 博氏(姫野病院 名誉院長)

 

 

 

 

 

感染症は生活環境の改善、抗菌薬やワクチンの開発により制圧できると考えられていた。しかし、新しく出現した新興感染症やいったん制圧されたされたものの、再び流行し始めた再興感染症が新たな問題となっている。また、海外から持ち込まれる輸入感染症も増加している。2014年には、70年ぶりのデング熱の国内流行やエボラ出血熱の国内上陸への懸念など、新興・再興感染症や輸入感染症の脅威と対策の重要性が再認識された年であった。また、重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome〔SFTS〕)は2009年以降、中国中央部に発生しているダニ媒介性の疾患であるが、2012年以降、我が国固有のSFTSウイルスによるSFTSの症例の存在が確認された。2014年11月の時点で、西日本の15県で患者108名が確認され、35名が死亡している。一方、国内における犬や猫などのペットの飼育頭数も年々増加しており、動物由来感染症の報告も増加傾向である。動物由来感染症に対しては医師会と獣医師会が協力して、厚生労働省とともに対策を進めている。
このシンポジウムでは、西アフリカで大流行したエボラ出血熱に対するリベリアにおける支援活動、今年の夏も再流行が懸念されるデング熱に対する対策、重症熱性血小板減少症候群の最新の知見、最近問題となった動物由来感染症に対する厚生労働省の取り組みについてお話をいただきます。

 

 

「エボラ出血熱 ーリベリアにおける支援活動から学んだことー」

加藤康幸加藤 康幸氏(国立国際医療研究センター 国際感染症センター 国際感染症対策室医長)

 

 

 

 

 

エボラ出血熱(EVD)は,1976年にアフリカ中央部で見いだされた致死率の高い新興ウイルス感染症である。コウモリが病原体を保有していると考えられるが、今回の西アフリカにおける流行においても最初の患者が動物からどのように感染したかは不明のままである。この初発患者に続いて、患者をケアした家族や医療従事者に感染が伝播することにこの疾患の特徴がある。

演者は世界保健機関の短期専門家としてリベリアに派遣された。2014年8月に大統領による非常事態宣言が出され、首都モンロビアの主要病院は医療従事者の感染を契機に閉鎖されていた。EVDの治療施設は1カ所しかなく、患者の急増に施設が追いつかなかった。この頃には、EVDの流行が保健の問題から危機管理の問題に移行したという認識が広く共有され、国際支援が大幅に強化されることになった。リベリアの関係者や住民の協力により、2015年5月に終息宣言が出されたことは喜ばしいことである。しかし、ギニアとシエラレオネにおいては、未だに患者が発生している。

EVDの流行を征圧するには、患者の速やかな診断と隔離、接触者の調査、感染防止に配慮した遺体埋葬、疾患に対する啓発、を着実に行う必要がある。今回の流行の背景にはこれらを阻害する様々な要因があったと考えられる。マラリアなど致死率の高い別の感染症も多いことや内戦から復興して間もない社会環境も影響していただろう。偏見を恐れ、患者が受診を控えるような行動も認められた。感染症の流行は医学的な問題ばかりでなく、社会的な側面も大きいことがわかる。

EVDに限らず、西アフリカのような公衆衛生基盤の脆弱な地域で発生した感染症がわが国に波及する可能性もあり、現地支援が最も有効な国内対策にもなりうる。このような観点で、国内の専門家が海外の流行地で活動することについて、広く理解と支援を得られれば幸いである。

 

 

 

「70年ぶりの再興 ~デング熱国内流行とその対策~」

高崎智彦高崎 智彦氏(国立感染症研究所 ウイルス第一部 第2室長)

 

 

 

 

 

デング熱は蚊によって媒介されるウイルス感染症であり、熱帯や亜熱帯地域で流行する。デング熱は、決して新しい感染症ではない。デング熱・デング出血熱は世界的にも非常に重要な再興感染症と考えられている。1942-1945年の流行以前に我が国においても大正時代にすでに研究されていた感染症である。デングウイルスには4つの血清型が存在する。デング熱は突然の高熱で発症し、その多くは関節痛、筋肉痛、頭痛を伴う。発疹は約半数で発症からやや遅れて出現する。解熱傾向とともに、出血傾向を呈し重症化することがある。

1942 年の8月に長崎市で突然デング熱流行が発生し、佐世保や大阪、神戸でも発生したが、11月には終息した。しかし翌年の夏には再流行し1945年まで夏季にデング熱流行が発生した。その後、国内流行はなく非流行地であったため、医師のデング熱に対する認識は高くなかった。2014年8月下旬に69年ぶりに海外渡航歴のないデング熱患者が報告され、東京の代々木公園で感染したと考えられる流行が発生し、162例のデング熱患者が報告された。流行の原因となったウイルスはデングウイルス1型であった。

媒介蚊はネッタイシマカとヒトスジシマカであるが、ヒトスジシマカは広く日本に生息している。ヒトスジシマカの分布域は、70年前は福島県にはまだ定着していなかったが、現在では青森県を除く東北地方に定着している。

 

 

 

「動物を守り、自分を守る;ダニ媒介感染症SFTSの最新の研究から」

前田健前田 健氏 (山口大学共同獣医学部 教授)

 

 

 

 

 

犬におけるダニ媒介感染症として、バベシア感染症が重要です。一方、ヒトではこれまで日本紅斑熱、ライム病、ツツガムシ病などが報告されています。2011年に中国から、2012年末には国内でダニ媒介性感染症である重症熱性血小板減少症候群が報告されました。致死率が高く、周辺に存在するダニが媒介するということで、ダニ媒介性感染症に対して不安になったと思います。しかし、特別に恐れる必要はないです。改めてダニ媒介感染症を知り、“ペットを守り、そして自分を守る”ことが重要です。

 

【対策の概要】

  1. ペットにはダニの忌避剤を投与してください。
  2. 散歩にいったペットは家に入る前にブラッシングをしてください。
  3. ペットにダニが付いていれば動物病院で取ってもらってください。
  4. 歩き回るダニを見つけたらガムテープなどにつけて捨ててください。
  5. 山歩き、農作業を始める際は、ダニやカなどの忌避剤をつけてください。
  6. 可能な限り肌の露出を少なくしてください。
  7. 農作業や山に入ったときは家に入る前にダニが服に付着していないかチェックしてください。
  8. 農作業や山に入ったときは入浴時にダニが付着していないかチェックしてください。
  9. ダニが付着していればすぐに病院に行ってダニをとってもらってください。
  10. ダニに刺咬されたあとは、1-2週間発熱がないかチェックしてください。
  11. ダニに刺されてしばらくした後に発熱があった場合は、速やかに病院に行って、医師にダニに刺咬された旨を伝えてください。

 

 

「最近問題となった動物由来感染症に対する厚生労働省の取組みについて」

宮川昭二宮川 昭二氏(厚生労働省 結核感染症課 感染症情報管理室長)

 

 

 

 

 

昨年の西アフリカでのエボラ出血熱の流行や韓国での中東呼吸器症候群(MERS)など感染症の脅威は、日本で暮らす一般の人々にも様々な影響を及ぼしている。人における感染症のなかには、動物での感染症や動物が保有する病原体などによる例も多く、動物由来感染症対策は人での感染症対策を推進する上で重要な分野である。人と動物がともに暮らす社会においては、動物に由来する感染症に十分な注意を払う必要がある。本講演では、鳥インフルエンザや中東呼吸器症候群(MERS)など最近話題となった動物由来感染症と厚生労働省の取り組みを紹介する。


開催報告タイトル

【分科シンポジウム2】
7月20日 10:00~13:00/コンベンションホール

「最近問題となった人と動物の共通感染症」

 

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座長・吉田 博氏

人と動物との関わりは、伴侶動物や産業動物だけではありません。毎年、ニュースにも取り上げられているウイルスによる感染症の問題も、さまざまな動物や昆虫を介して人に影響を与える大きな課題となっています。とりわけ、エボラ出血熱、デング熱、中東呼吸器症候群(MERS)、SFTSは、私たちにも身近な問題として近年日本でも大きく報じられてきましたが、その実態を一般市民が深く知る機会はあまり多くはありません。

1976年にアフリカの中央部で見出されたエボラ出血熱は、昨年、リベリアの大統領から非常事態宣言が発令され、国家を揺るがすほどの危機的な状況であったことは、私たちの記憶に新しい出来事です。WHOチームの一員としてリベリアに派遣された加藤氏は、医療機関のみならず、医師や物資が足りない中での医療行為を紹介しつつ、これまではジャングルに隣接する小さな村だけで治まっていた感染が、アフリカの奥地まで広がった車社会によって都心部へと広がっている可能性も示唆されました。こうした背景には、近年増加の傾向を辿っているリベリアの人口に対する食料の確保や生活スタイル、交通手段の変化なども関係しているようです。

DSC_2405昨年、国内で流行の兆しを見せたデング熱の媒介蚊となったヒトスジシマカは、通常から日本国内に多数生息していますが、気候の変動によって年々その生息域の分布北限は北に移動しており、他にも日本で発生している新興感染症として、O157やノロウイルス、HIV、E型肝炎、トリインフルエンザ(H5N1)、新型ヤコブ病、そして今年になって韓国で発生したMERSなどがあげられます。

また、ダニを介して感染が拡大するダニ媒介感染症も私たちの身近に潜む感染症のひとつで、2012年には国内で致死率の高い重症熱性血小板減少症候群ウイルス(SFTSV)による感染が報告されました。特にペットなどに付着したダニから人に感染する可能性が指摘されていますが、きちんとした知識を持って未然に感染を防ぐ対策を行なうことが重要です。

さまざまな感染症が世界各国で流行する可能性が高まっている要因のひとつとして、簡単に遠距離を行き来することができる世界の航空事情などが挙げられています。これらのことは、便利さを求めて技術の革新を行なってきた人類への警鐘なのかもしれません。これまでウイルスの研究や予防策の開発は一部の専門家の仕事と思われてきましたが、今後、新たなウイルスのリスクに対して国民全体で情報を共有し、国や専門機関との連携による危機管理意識の向上が不可欠といえるでしょう。

加藤 康幸氏

高崎 智彦氏

前田 健氏

宮川 昭二氏