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2013.12.06

【報告】ヒューメインエデュケーション・寄り添う心を創る(2)

ヒューメインセンタージャパン(HCJ)事業 講演とワークショップ

ヒューメインエデュケーション・寄り添う心を創る

2011年11月12日

 HCJ主宰の「ヒューメインエデュケーション・寄り添う心を創る」の初日・大阪は、関西国際空港の玄関口にあたる国際副都心・りんくうタウンに開設された大阪府立大学りんくうキャンパスで開催されました。残念ながら、急な体調不良により、フランス在住のアメリア・タルジ氏の来日が中止となりましたが、インド在住のディーパシェリー・バララム氏とイギリス在住のジョイ・レネイ氏が来日され、公益社団法人 日本動物福祉協会の山口千津子氏を中心に、関西で動物福祉の教育活動を行っている行政の取り組みを紹介するため、兵庫県動物愛護センター淡路支所/獣医師の犬伏源氏、奈良県桜井保健所・動物愛護センター/獣医師の藤井敬子氏がパネリストとして参加して下さいました。

マース ジャパン
リミテッド
望月様
大阪府立大学
笹井和美教授
  
 10時からの開始に際し、会場をご提供下さった同校の笹井和美教授とこの講演会の開催を支えて下さっているマース ジャパン リミテッドの望月様からご挨拶を頂きました。この講演は、大阪・東京共により活発な意見交換が出来るように、会場に日英同時通訳を準備させて頂きました。

 

      まずはじめに、ACTAsiaのディレクター・バララム氏から「ヒューメイン教育とは何か?」という基本的な定義、そしてその意義、目的などを「動物福祉の原則」「ヒューメイン教育の原則」「ヒューメイン教育のプロセス」という項目に分けてお話をして頂きました。

 

  
 「ヒューメイン教育」とは、動物福祉の分野だけに限らず、全ての生き物に対して多分野のカリキュラムの中で、「尊厳とは何か」「責任、優しさ、思いやり」について考える切っ掛けを与える教育であるということです。子供たちが、自分の身近にある事柄に対して自分で考え、人権や環境、そして「いのち」について考える目を育む教育なのです。このことは、単に動物を幸せにすることだけが目的ではなく、あらゆる暴力に対する警鐘でもあるのです。昨今大きな問題となっている児童虐待などの暴力行為の根っこには、弱者に対するヒューメインな感性の欠如、他者に対する共感の欠落があるのです。

 そして次に、今回の講演の参加者のほとんどが教育を行う側の立場にある方たちであるため、こうした教育を具体的にどのように進めて行けばより効果的であるのかというテーマを取り上げて下さいました。また、啓発活動やキャンペーンなどで、どのように訴えて成果を挙げてゆくのか…こうした内容は、活動に携わっていれば必ず直面する課題でもありますので、諸外国での啓発の具体例を知ることが出来るのはとても貴重なことです。人の心に響く短い言葉を提示し、そしてそれを見た人たちが自ら考えることが出来るメッセージを提起することこそが「ヒューメイン教育」の基本でもあるのです。

  
 最後に、アルバート・アインシュタイン博士の「私たちの務めは、この牢獄から自らを自由にすることだ。それには全ての命ある物と自然の全てを、その美しさの中で包み込むような共感の輪を広げることだ」という言葉が引用され、最初の講義が終了しました。

 

   次に、ACTAsiaのコンサルタント・レネイ氏の推薦で、私たち人間と動物がひとつの地球上でどのように繋がって生きているのかということを描いたドキュメンタリー映画「Earthlings」が上映されました。
 このドキュメンタリーは、地球に生きる生命の素晴らしさと繋がりを知る為にその一部分のみを上映致しましたが、地球を外側から見たときの地球、そして地球人という視点があり、場内は、しばし、その壮大な生命の繋がりに言葉を失っておられました。

 

     その後、山口氏を議長として、海外のお二人と日本の愛護センターのお二人を交えてのパネルディスカッションへと移ります。それに先立ち、藤井氏から奈良の愛護センターで独自に開発をして愛護教育を行っているルーツが紹介されました。これらのツールは、休憩中に参加者が体験出来るように、会場内に展示してあり、実際にどのように使われているのかを紹介する映像も映し出されました。次に、犬伏氏から兵庫県での愛護教育の指針、ポリシーなどのお話をお聞かせ頂きました。兵庫県からも、実際に使用しておられる教育ツールをお持ち頂き、展示させて頂いており、皆さん参考にしておられました。

     パネルディスカッションでは、会場の参加者から質問を頂き、それぞれのパネリストがそれに答えて行きます。国によって様々な文化があり、それによってヒューメイン教育の方針も変わってくると思うが、その教育の指導を行う指針をどのように選択するべきなのかという質問もあり、海外からの講師をお迎えしたときにしか聞くことが出来ないディスカッションの場となりました。

        兵庫県動物愛護センター・
淡路支所/獣医師
犬伏源先生
  

 

 10時〜17時まで、という長時間に渡る講演とパネルディスカッション、ワークショップですので、ここでランチタイムとなります。

  
 午後の部は、参加者の皆さまが4人ずつのチームに分かれ、ひとつのテーマに対して意見を交換し合うワークショップの時間となります。まず始めに、レネイ氏よりニュージーランド在住の7歳の女の子・グレースが家族の協力の下に作ったドキュメンタリー映画の紹介がありました。この映画は、彼女が隠れた場所で行われているドッグ・ファイト(闘犬)について調査し、それに対して自分は何が出来るのかということを提示しており、全国規模の短編映画に応募し賞も受賞している作品です。

   グレースの映画を観た後に、チームに分かれた参加者は、以下のことについて話し合い、皆の前でバララム氏とレネイ氏にプレゼンテーションを行いますが、その質問内容はとてもユニークなものです。

 

  1. なぜグレースは闘犬についての映画をつくることを決心したのでしょうか?そしてあなたはグレースの選択や行動がどの程度、a)家族 b)学校の先生 に影響されたと思いますか?
  2. あなたは、まだ7歳の子どもが闘犬の残酷な知識に曝されるべきだと思いますか?あなたの意見を述べてください。
  3. あなたはなぜ闘犬のようなことが、世界の先進国でもまだ行われているのだと思いますか?
  4. もしあなたがグレースの担任の先生だったとしたら:どのようにグレースや彼女の映画を使って、彼女のクラスメイトに実践的なヒューメイン教育をするでしょうか?
  5. もしあなたが動物福祉団体だったとしたら、どのようにグレースの活動を使って、一般の人々にあなたの仕事へのサポートを奨励することができるでしょうか?
  6. どのようにしたら、このような活動を他の社会的問題解決の働きかけに使えるでしょうか?
  7. その他実践的なヒューメイン教育について、意見をお聞かせください。

 それぞれのグループが発表する内容について、バララム氏とレネイ氏が質問をしていきます。そして、会場の全員でそのことについて一緒に考えてみます。先ほど、国によって文化が違うという話がありましたが、参加者の多くは「7歳の子供が闘犬の残酷な知識に晒されるのは少し早い」という意見でしたが、果たして私たちはニュージーランドの子供がどのような教育を受け、7歳の子供にどのような感受性があるのか理解をしているでしょうか?こういったことを考える切っ掛けを与えてくれるのも、国内外の専門家を交えて行われたワークショップならではのことでしょう。

   私たちは多くの不安な要素が溢れる現代社会の中に生きていますが、人としてより他者を思いやり、優しさを分け与えながら豊かな心で生きていくために必要なことを模索する必要があります。そして、それに気が付いた人たちが自分に関わっている身近なところから実践し、伝えて行くことこそが「ヒューメイン教育」の原点なのでしょう。長時間に渡る専門的な講義でしたが、「ヒューメイン教育」の理念はそれほど複雑なものではありません。きっと、私たちの一人一人が、他者の傷みに心を寄せることが出来る社会の実現を望むことから始まるのでしょう。