ワークショップⅣ 「ずっと一緒に居ようよ ー飼い主とペットの*日常*を護る為にー」

「ずっと一緒に居ようよ』人とペットの日常を護る為に
ワークショップ主催者挨拶:神戸アニマルケア会議 – ICAC KOBE 2012 事務局

 阪神淡路大震災を乗り越え、復興記念事業として始まった、人と犬が1日楽しく過ごすイベント『りぶ・らぶ・あにまるずフェスティバル』。関係者から、東日本大震災を目の当たりにして出た言葉は、『離したらいかんよね』でした。そこには、ペットと一緒に避難をし、「守るべきもの」のために何とか苦難を乗り越えていこうとする、かつての自分達の姿がありました。そして始まった『ずっと一緒に居ようよ』の活動。飼い主さんとペット達が、ずっと一緒に居られるように、仮設住宅ペット可のお願い及び活動への賛同の署名集めとこれからペットと暮らす住宅への支援に限って、募金を行っています。ペットと幸せに暮らしている日々が、どんなに脆く、また大切なものであるのか、改めて感じておられるのは、私達だけではないと思います。
 しかし、緊急災害時だけが、『穏やかな日常』を失う時でしょうか?半数の世帯が一人世帯であり、ペットの数が、14歳以下の子どもより多い昨今の状況の中、飼い主さんの病気や経済的な激変等、様々な危機が日々に潜んでいるのではないでしょうか。
 飼い主さんの自助努力には,自ずと限界があります。兵庫県の条例では、飼い主責任として終生飼養も求めています。社会システムの中での、ペットと暮らす飼い主さんの位置付けを再考し、縁あって共に暮らす大切な家族とずっと一緒に居られる社会であるよう、人と動物双方が、もっと幸せで居られる社会システムに向けて、議論を深めて頂ければと思います。そして、この「共に生きる」という議論は、人間を取り巻く、様々な福祉のシステムに付いても、大きなヒントとなるはずです。

座長メッセージ

藤田宏之氏
(日経ナショナルジオグラフィック社 編集長)

  みなさんは、ナショナル ジオグラフィックという米国の雑誌をご存じでしょうか。
創刊は、1888年(明治21年)。現在では日本版を含めて33カ国語に翻訳されて、4000万人に愛読されています。12月号では、東日本大震災での原発事故で避難している福島県の人々を取材したレポートが掲載されました。特集の本編はもちろんなのですが、取材した写真家による“取材こぼれ話”のページも興味ぶかいものです。
そこには、一枚の写真が取り上げられています。警戒区域となっている大熊町の道端に七輪をおいて、肉を焼いている人の姿が捉えられています。
「防護服姿でバーベキュー? そんな、まさかだよなあ。。。」と思って、
写真をしっかり見ると、肉の焼ける匂いに誘われて、七輪のそばに集まってきているたくさんの犬たちの姿が写っています。これは、人々が避難してしまった後に取り残されたペットなどの動物の救出活動をしている人たちの姿だったのです。自らの危険を顧みず、動物たちを救おうと奮闘する日本人の姿は、写真家の心を動かしたようです。
 野生動物の生態を世界各地に取材し、迫力ある写真でわかりやすく紹介しているイメージが強いナショナル ジオグラフィックですが、最近は、ペットに関して考察する特集企画も増えてきています。人間とペットの関係についてだったり、遺伝学的な視点から交配を検証してみたり、メディアとしてさまざまな視点から、人類と動物の新しい関係を考えています。
底流に流れる思想は、「保護」から「共生」へ。
そのために、私たちにできることは、まず人類と動物たちの現実をしっかりと見つめることだと思います。日本社会を支配している「効率優先」という概念はしばし忘れ、最前線でたたかっている先生方のお話を真摯に耳を傾け、そこから現実を教わるのが第一歩。その上で、ひとり一人が自分の問題としてじっくりと考えていくべきではないでしょうか。

東日本大震災における石巻の動物救護活動
阿部俊範氏/石巻市・あべ動物病院 院長
阿部容子氏/石巻市 あべ動物病院 獣医師
   

   3月11日宮城県は未曽有の大震災に見舞われました。石巻は震度6強の揺れとその30分後に来襲した大津波により、すべてのライフラインが断たれ壊滅状態となりました。市街地の73%が浸水し、小動物開業獣医師のほとんどが被災(床上浸水)しました。石巻地区の2市1町で死者4,796人行方不明者1,160人の犠牲者が出ています。これに比例して多くの動物も死亡し、また被災しました。石巻の産業、住宅はほとんどが臨海部に集中している為多くの会社・工場・住宅が全壊し、多くの人たちが職、家そして家族を失いました。
震災直後は、各動物病院で入院動物の避難を実施し、次に近隣にある避難所の動物救護に努めていきました。多くの避難所では動物と家族が同じ部屋(多くが教室)で同行避難。ボランティア獣医師が巡回し、ヒアリング、無料診療を実施しました。
宮城県獣医師会は県と市とで交わした協定書に基づき、石巻動物救護センターを設置。全国からのボランティア、仙台市獣医師会、日本獣医生命科学大学の協力を得てセンター運営され、9月中旬に仮設住宅がすべて完成し、センターの動物たちは家族のもと、里親のもとへ行き、10月6日をもって動物救護センターは閉所の運びとなりました。
一方、5/15から仮設住宅動物支援ANNプロジェクトの活動を開始しました。 仮設住宅(動物可)で動物たちが吠える、咬むなどの問題行動を解決するもので(JAHAしつけインストラクターにより)、動物たちのネットワークを作っています。

東日本大震災の現場から  どうぶつ達と生きのびるために・・・

  未曾有の災害となった東日本大震災。どうぶつを家族の一員として生活している飼い主にとって、災害時、人命救助最優先となる社会通念の中で、どうぶつと共に生きのびることは、容易いことではないと感じている方が多いのではないでしょうか。
今回のように巨大地震に続く大津波、着の身着のままどうぶつと共に危機迫る中、ひたすら走り逃げ、その後の避難所生活。「いっそのこと、この子と一緒に津波にのまれてしまえばよかった」と話していた飼い主がいたことも事実です。
幸いなことに、石巻では、ほとんどの避難所でどうぶつと共に過ごすことができる同行避難が行われました。すべての日常を一瞬にして失った飼い主にとって残されたささやかな日常が、どうぶつとの生活でした。飼い主だけではなく、どうぶつ達の周り、には、いつも子ども達の笑顔があり、避難所内の多くの人々が、どうぶつの温かさ、優しさに癒され、ばらばらになってしまったコミュニテイの担い手、復興のための心の支えとして大きな存在となりました。
その後、仮設住宅でもペットの条件なしとの市の通達により、今現在どうぶつ達と共に仮設生活を送っている飼い主の方々が数多くおります。
 被災→避難所→仮設住宅と災害時のめまぐるしい生活移行の中で、日頃からどうぶつ達を家族の一員から社会の一員として育てはぐくんでいくという飼い主の意識と努力がとても大切であると強く感じました。どうぶつ達の習性、行動をよく理解し、人間社会の生活のルールやマナーを学ばせ、誰からも愛されるどうぶつになるように育てること。飼い主といれば安全で、安心で、快適で、楽しい生活が送れるという絶大なる信頼の絆を育てること。これから起こりえる災害に備え、どうぶつのしつけと社会化教育が多くの飼い主に伝わることを心から願っています。 すべては共に生きのびるために・・・。 

神戸市に引き取られる動物達の現状と課題
湯木 麻里 /神戸市動物管理センター主査 獣医師

  動物愛護管理行政を担う全国の自治体では、飼い主が飼育できなくなった犬猫や、飼い主のわからない犬猫を引取る業務を行っています。毎日のように繰り返される飼い主と犬猫たちとの別れや、飼い主からはぐれてしまった犬猫の保護を通して感じていることは、「飼い主を責めるだけでは問題は解決しない」ということです。近年、飼い主が飼育できなくなる理由として最も多いのが、飼い主の病気、入院、死亡です。次に、引越し、そして、ここ数年増えてきているのが、犬が高齢で病気になり世話ができないという理由が続きます。また、飼い主とはぐれてしまった犬猫たちが、無事に飼い主に返るのは、神戸市では、成犬23%、成猫0.8%に過ぎません。この状況を、飼い主責任と行政の引取りだけで解決するのは不可能であり、動物と人双方にとってより良い解決方法を考えていくためには新たな社会システムを作ることが必要ではないかと日々の業務の中で感じています。

  神戸市では、(公社)日本動物福祉協会CCクロとの協働により譲渡事業を実施しており、様々な課題はありつつも、互いに協力し活動することによる効果を得ることができています。動物愛護の資源に乏しい日本においては、行政、公益団体、企業、学校、そして市民がそれぞれの強みを活かし、動物を助けるという視点だけでなく、動物と人が共に幸せに生きるためには何をすべきだろうか、というもう少し大きな視点で共に活動できるシステムが必要です。現実は厳しく道は決して易しいものではありません。だからこそ、このワークショップを通じて、こうなったらいいねを共有することも大切ではないでしょうか。飼い主責任を果たすことのできる“しくみ”と個人ではできないことを社会の責任として行う“しくみ”をどう作りあげていくのか、ぜひ皆さんと共に考えていきたいと思います。

官民協働で取り組む「千代田区“飼い主のいない猫”との共生
香取章子/  ライター・ジャーナリスト ちよだニャンとなる会

   猫は、大自然に生きる野生動物ではなく、人が終生、責任を持って飼育すべき伴侶動物です。にもかかわらず、数多くの猫が戸外で“飼い主のいない状態”におかれているのは、大きな社会問題ではないでしょうか。飼い主のいない猫は、地域の課題として、官民協働で取り組まなければなりません。東京・千代田区は、2000年から“飼い主のいない猫の去勢・不妊手術費助成事業”を行っています。事業を始めるにあたって、区は、区民を対象に“普及員”(ボランティア)を募集。この呼びかけに応じて保健所に集められた住民らがネットワークを強め、発足したのがボランティア・グループ“ちよだニャンとなる会”です。同会および住民・在勤ボランティアが保健所と連携・協力して飼い主のいない猫にTNR(Trap/Neuter/Return=捕獲/不妊・去勢手術/元の場所に戻す)を実施しています。助成の限度額は、雄が1万7000円、雌が2万円、妊娠中が2万5000円。現在では、保健所の承認を得て手術を行えば、区内在住・在勤者でなくても助成を受けられます。また、区内外どこの動物病院で手術を実施しても助成が可能です。現在までに、およそ2千頭の手術が助成されました。12年間の取り組みによる効果はめざましく、猫についての苦情・トラブルは激減。‘10年以降、千代田区内から東京都動物愛護相談センターへの猫の引取・収容はありません。つまり、“殺処分ゼロ”ということです。近年では、区内での猫の繁殖が少なくなったため、子猫が見つかった場合は、すべて保護・譲渡が行われるようになりました。傷病の猫についての相談が保健所に寄せられた場合は、職員と同会ボランティアが動物病院へ搬送。猫の検査・治療・ワクチン・薬剤等の費用は、同会に寄せられた寄付によってまかなわれています。