お知らせ
NEWS開催日:2024年10月31日(木)
開催場所:奈良県うだ・アニマルパーク振興室 動物学習館
主催:奈良県うだ・アニマルパーク振興室/公益社団法人Knots
後援:奈良県教育委員会/公益社団法人日本動物病院協会/公益社団法人奈良県獣医師会
参加人数:20名
・主催者挨拶(うだ・アニマルパーク振興室長 中森功征室長/公益社団法人Knots 冨永佳与子代表理事)
・授業見学 (小学生プログラムⅠ 気づき) ~A 小学校~(45分授業)
・授業見学(小学生プログラムⅡ 共感) ~B小学校~(45分授業)
・「いのちの教育」の経緯に及び取組について
・模擬授業 (小学生プログラムⅢ 責任)(45分授業)
・小学生プログラムの現状と評価(アンケート結果)報告
・意見交換
・動物愛護センター施設見学(希望者のみ)
・「いのちの教育」中高生プログラム概要紹介(希望者のみ)
公益社団法人Knotsは、2012年から奈良県と包括連携協定を締結し、奈良県「いのちの教育」プログラムの普及展開事業を行っています。奈良県と当法人が共催で全国の自治体職員や教育関係者を対象に、毎年11月に「いのちの教育」研修会を開催しており、今回は募集開始後すぐに定員に達しました。近畿圏内だけでなく、四国、九州、東海など、遠方からもご参加いただいており、全国の動物行政や教育関係者の皆様が関心を寄せておられることがうかがえます。
研修会では、小学生が実際に授業を受けている様子の見学及び、参加者自らの模擬授業受講を通して「いのちの教育」プログラムのⅠ〜Ⅲの全ての内容を体験していただきます。その他、スライドを使ってうだ・アニマルパーク振興室での取り組み内容や経緯、子どもたちのアンケート結果からのプログラムの分析の報告、そしてそれらの効果などを説明しています。
意見交換の場では、それぞれの自治体の現場における教育の取り組みや課題について意見交換し、自治体の枠を超えて情報共有する場が持たれました。これから動物愛護センターが新設される自治体からの参加もあり、啓発・教育や事業運営をどのように進めていくか、悩んでいること等を相談できる貴重な場でもあります。
主催者挨拶では、うだ・アニマルパーク振興室・中森功征室長が、奈良県での「いのちの教育」プログラム実施校の先生方の満足度が高いことにも触れられ、「この研修会に参加された皆様の今後の取り組みに活かされるよう、有意義な研修会としていただきたい」と挨拶されました。
次に、当法人の冨永代表理事から、実際に授業で使用するアイテムの「ハートマーク」と「涙マーク」を皆様に見ていただきながら、「私どもは様々な課題の涙マークをどのように解決して、ハートマークに変えられるのかと考えながら事業を進めております。一人では課題は解決できない、これまでのやり方では解決できないけれど、解決できない課題はないので、今日ご参加の皆様とのこの連携をまず一歩として、共に進んでいきましょう」とお伝えさせていただきました。
うだ・アニマルパークは、およそ 10 ヘクタールという広大な敷地に動物とふれあうことのできる公園エリア、動物について学ぶための教室やバター作りなどの体験ができる施設を備えた動物学習館、奈良県の動物行政の拠点となっている動物愛護センターがあり、県内外から多くの方が来園されています。
奈良県「いのちの教育」は、張り子を使った「いのちの教育」プログラムを軸として、「体験」や「ワークショップ」の実施、総合的な学習としてインターンシップや職場体験の受け入れなど、複合的な内容で「自分を含めたあらゆるいのちに共感し、いのちを大切にする心を育む教育」を目的に実施されています。
「いのちの教育」プログラムは、「気付き」「共感」「責任」の3つのプログラムから構成されています。奈良県の「いのちの教育」プログラムは県の教育委員会との連携の下に進められており、実際の授業は現役の小学校教員が行っています。また、実施校の拡大に伴い、自校式と呼ばれる、それぞれの学校の先生が独自に授業を行う方法も導入されています。
「いのちの教育」プログラムの実施内容や教育効果等の分析、普及展開に関する仕組み作りに関しては、「いのちの教育」研究協議会(会長:国立大学法人奈良女子大学・天ヶ瀬正博教授)が設置され、Knots代表理事の他、教育委員会や学校関係者、うだ・アニマルパーク振興室の職員などの委員が定期的に協議を重ね、ブラッシュアップを図りながらより良い内容になるよう連携体制を構築しています。
「いのちの教育」プログラムの内容については下記をご参照ください
https://www.pref.nara.jp/28335.htm
「小学生プログラムⅠ・気づき」「小学生プログラムⅡ・共感」の授業見学では、子どもたちは研修会参加者の大人が多数で見学しているにも関わらず、集中して授業を受けていました。子どもたちの集中力が途切れそうなときは、先生が注目して再び集中できるように笑いの要素を取り入れたり、話すテンポを速めたり、様々な工夫がされていました。子どもたちの興味・関心を引き出すように語りかける授業展開、張り子の動物やパネルなどを使った授業の進め方など、「いのちの教育」プログラムの評価が高い理由を実際に学ぶことができました。
模擬授業の「プログラムⅢ・責任」では、先生からの「小学2年生になってください!」との言葉に、研修会参加者全員が積極的に手を挙げて発言しておられ、先生方の手法を学ぶ意欲の高い方ばかりでした。
「小学生プログラムの現状と評価(アンケート結果)」報告ですが、奈良県では、プログラム実施前と実施後のアンケートの自由記載欄に書かれたコメントからキーワードを抜き出し、子どもたちの視点がどのように変化したのかを集計して分析を行っています。この意識の変化を数値化するという分析は、どのような効果があり、どの部分がうまく伝わっていないのかなどの改善の指針にもなります。
指導役の教員からは、「まずは楽しませる。聞く姿勢を取らせる」ことが授業展開では大切とのことですが、「いのちの教育」プログラムの授業を受けた子どもたちが、授業を受ける前と受けた後で変化があるのかどうかも聞かせていただきました。
「プログラムⅢ・責任」では、「動物病院に連れていく」という意見は子どもたちから出にくいので、こちらから伝えるようにしているとのことです。子どもたち自身が自分でできることではなく、大人である親がすることと認識しているのではという理由が推察されます。
肉や卵、牛乳など人間の役に立つものを与えてくれる「家畜」に対して自分たちができることとして、受講後は「感謝して食べる」という回答が多く見られるようになり、食育につながる内容として先生方も授業の中でしっかり伝えておられるそうです。
また、「空気や水を汚さない」「野生動物にエサを与えない」「自然を壊さない」など環境についての記述も増えているとのことです。
「意見交換会」の場では積極的に質問が出され、活気あふれる時間となりました。
これから人と動物との関わりについて学ぶ教室を実施される方、実施することは決まっているけれども、漠然としていてどうやって実施したら良いのかわからないという方など、以下のような様々な課題を皆様と共有することができました。
・教室を開催するに当たって誰に相談をしたり、許可を取っているのか
・生体を使ってふれあうこと等を求められる
・学校のカリキュラム上、時間を確保してもらえない など
それぞれの自治体により事情は異なりますが、「まずはできることから地道にやっていく」「奈良県も最初から今のような状況ではなかった」など、実際に携わっておられる職員の方々の経験談を直接聞かせていただくことができました。
「子どもが集中して授業に参加できるようコントロールするのには1クラス20名~30名が理想で、40名が限界ではないかと感じている」と実際に授業を行う先生方から伺うと、参加された皆様も授業見学や模擬授業を体験されたことから同様の実感を持たれたようで、大きく頷かれていました。
「いのちの教育」プログラムに当初から関わっている冨永代表理事からは、「自治体の動物愛護センター等の施設では、獣医さんが主体で行われることが多そうですが、獣医さんは子どものヒーローです。獣医さんが教えてくれるよとなると子どもの目がキラキラします。獣医師であるということを活用して、自信を持って取り組んでいただきたい」とこれまでの経験からお伝えしました。
また、「台本を作って授業参観で実施すると受け入れてもらいやすい」「文章だけの書類では伝わりにくいので、資料も付けて、プログラムの内容や効果について学校内の先生方に説明すると良いのでは」「生体が活躍するプログラムと「いのちの教育」プログラムは別々に考えて実施した方が良い」等の実際に現場での意見も教えていただけました。
子どもが心を開きやすい動物を入口とした奈良県「いのちの教育」プログラムは、「他者へ共感する感性と自他の生命を尊重する態度の育成」「思いやりや協調性、道徳的心情などの豊かな人間性の基盤の構築」「社会的規範意識の醸成及び向上」という効果が期待される教育プログラムです。
この「いのちの教育」プログラムの「動物からの学び」は、様々な分野に汎用性のある教育プログラムとして活用できる可能性があります。今後、更に多くの自治体・教育現場で展開されることを願っています。