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2011.06.27

ワークショップ Ⅷ「チャイルドケアとアニマルケア」

 

座長メッセージ

柴内裕子氏
(公益社団法人日本動物病院福祉協会 顧問 / 赤坂動物病院 院長)

 アニマルセラピーという言葉が社会に浸透し、様々なところで耳にするようになりました。動物が人間にもたらす社会的、精神的、生理・身体機能的効果について注目が集まり、福祉や医療、教育の現場で需要が高まっています。
公益社団法人日本動物病院福祉協会は、公益目的事業として、アニマルセラピー(CAPPボランティア活動=Companion Animal Partnership Program)推進のための事業を行っています。本会では、この活動をその目的により次の3つに大別しています。

・動物介在活動(AAA/Animal Assisted Activity)
動物とふれあうことによる情緒的な安定、レクリエーション、QOLの向上等を主な目的としたふれあい活動。一般的にアニマルセラピーと呼ばれる活動の多くはこのタイプです

・動物介在療法(AAT/Animal Assisted Therapy)
人間の医療の現場で、専門的な治療行為として行われる動物を介在させた補助療法。医療従事者の主導で実施します。精神的、身体的、社会的機能の向上など、治療を受ける人に合わせた治療目標を設定し、適切な動物とボランティア(ハンドラー)を選択、治療後は治療効果の評価を行います。

・動物介在教育(AAE/Animal Assisted Education)
小学校等に動物とともに訪問し、動物との正しいふれあい方や命の大切さを子どもたちに学んでもらうための活動。生活科や総合学習などのプログラムとして取り入れる学校も徐々に増えています。

このワークショップでは、JAHAで行っている上記3つのCAPP活動の現場で活躍している、ボランティアとセラピー犬によるデモンストレーションを行います。
ご覧頂いた皆様に、活動の良き理解者となって支援していただけることを願っています。

第I部
「子どもたちに、意義ある動物体験を与えたるために」
 中川 美穂子氏
(社団法人 日本獣医師会 学校動物飼育支援検討委員会委員 /
全国学校飼育動物研究会 事務局長 / 中川動物病院長 /
全国学校飼育動物獣医師連絡協議会主宰)

最近、人間と動物の違いは、額部分の脳の発達にあると言われています。ここは自分の活動の源であり、また知能と行動を司るもの、いわゆる心(自我)があると判ってきました。アメリカで、ある人格者だった人が、額に鉄棒が刺さった事故のあと、全く粗暴な人間になったとの実話がありますが、ここの発達のない人は人格を形成する事が出来ないのです。脳学者によれば、この脳は、興味深いことを自分で追求して何かを発見し、工夫して楽しんでいると良く発達するそうで、何かを無理強いしてストレスをかけ続けていると発達しないそうです。発達できない場合は、何か一つの事しか考えられなくなったり、混乱してしまうようになるとのことです。この脳の発達はほぼ小学生までが大きく、それ以後の発達は容易ではありません。それで、「10才までの子どもを大事に育て、社会から守らなければ、その後はその子から社会を守らなければならないだろう」と言う言葉もあります。
その意味からも「幼児から小学校低学年の教育」は大事です。教育とは感動と感化を与えることと、教育者は言います。いまの教育界は「生命尊重の心を育む・自分で問題を見付け対処できる意欲と生きる力を培う」ことを大きな目標にしています。今、あまりにも酷い事件が多いからです。
また、次世代の理科離れが心配されていますが、あまりに動物と遊ぶ体験も、身体を使っての作業も乏しくなった結果、後に理科を理解する材料が頭にたまっていないからだとも言われています。親御さんとしても、大事なこの時期、色々な材料を子どもの傍にちりばめ、子どもが興味を持って追求する事を大事にしなければなりません。それが生きていく力の源になります。
「体験の伴わない、本や映像だけの知識は、知恵とはなり得ない」、また「得た体験が多いほど、後に教科書で習う事柄も難なく理解できる」、とも教育者は言います。人も動物の一種です。教育者によれば、動物体験は子どもにとって必要な体験の一つです。
なお、“ちゃんと世話ができるのか?出来るまで飼ってはダメ”という言葉をよくききますがそんなことを言っていたらほとんどの子は一生飼えないでしょう。それでは動物に対する理解も進みません。
ぜひ、大人が、子どもを育てる環境に「愛情の交流のできるペット」を置いて、子どもと一緒に育てて欲しいと思います。子どもさんが泣いて頼むならなお更、飼ってあげて感謝してもらってください。動物は子どもの心と直結しますから、おろそかに出来ない存在です。飼ってもらえたら、一生親に感謝するでしょうし、親御さんの都合で飼って貰えなかったら、一生納得しないでしょう。親御さんも一緒になって、小さな命を大事にして、子どもさんに弱い物にたいする庇う気持ちを味合わせてください。

なお、現行の小学校学習指導要領や幼稚園教育要領に「動物を飼うことと、植物を育てることが義務付られましたが、飼育に際しては、「教育施設での動物飼育による教育を支援する」意味で、「地域の獣医師会組織による動物飼育に関する相談等を受け、支援する体制」が必要で、文科省も小学校学習指導要領の解説書に「支援を受けるように」と明記しています。現在、しっかり行政からの委託を受けて活動している獣医師会がみられ、他のほとんどの地方獣医師会でも、その体制に向けて準備を進めています。

「人と動物を大切にするヒューマン・アニマル・ボンド教育の実践」
 前川 哲也氏
(お茶の水女子大学附属中学校 教諭 /
NPO法人 日本ヒューマン・アニマル・ボンドソサエティ(J-HABS) 理事 /
気象予報士 環境カウンセラー(市民))

自然体験の機会が薄れているだけでなく、自然があっても積極的にふれようとしない生徒が増えている。そんな生徒たちを前に、最も身近な自然の一つとしてペット(コンパニオンアニマル)とのつながりを通して自然や生命を大切にしようという気持ちを育みたいと考えた。そのような中で、HAB(ヒューマン・アニマルボンド)教育を提唱する獣医師と出会い、これをテーマとした授業を2年間にわたり企画・実施した。
1年目は、中学生向けのHAB教育入門編として、言葉では表しにくい「生命」「生きていること」というものを体感・体得し、気づくことをめざす授業を行った。
2年目は、「人と動物の関係」により深く注目し、「野生動物はペットではない」「動物との死別」「動物を悪者にしない」の3つのテーマを設け授業を行った。
中学生ならではの既習知識や経験を生かし、生命や人と動物の関係について考えることで、人と動物のみならず、人と環境、そして人と人の関係が良くなることを願っている。

第II部
「21世紀 子どもたちを支える動物たち
公益社団法人 日本動物病院福祉協会CAPP活動から」
  柴内裕子氏(公益社団法人日本動物病院福祉協会 顧問 / 赤坂動物病院 院長)

 

「人と動物の健康と福祉と教育に役立つ伴侶動物(子どもたちと動物)」

はじめに
近年様々な場面で、人と動物との関わりが注目されています。理由は多岐に渡りますが、今、都市化の進む中、社会環境や家族の構成が都市を中心に著しく変化し、育ちゆく子どもたち、独居の人々、孤独な高齢者等が、自然を感じ、息づく命にふれることの出来ない少子高齢化、核家族化と集合住宅化の中にいる現状です。加えて、家庭や地域社会の崩壊、幼少児から高齢者にまで鬱病は増加し、情動の安定を欠き、判断力を失った人々が増えていることです。そのことは多くの障害を生み、更には低年齢化する非行や犯罪、その発生の温床が拡大していることです。それは、親になる自覚を失い、妊娠中、幼少時の子どもに哺乳類として受け継ぐ様々な絆、母乳、スキンシップ、家族の団欒などを見失った結果であり、学齢まで脳のハードが完成する社会化の感受性期に、体感・体得すべき家族としての教育が出来ていないことにあります。

永い歴史を共に歩んだ動物
人類は太古の昔から、豊かなそして時には危険な大自然の中で様々な動物たちとふれあい学び人間としての感性を身につけて来ました。近年、都市化が進み自然は遠のき核家族化の進む先進国では多くの問題を抱えるようになりました。
これらの問題の解決の一助に、伴侶動物が重要な役割を持つことが実証されて、人の健康や福祉、教育にも活用され始めました。
育ちゆく子どもたちは健康な動物たちとふれあい、暮らすことによって優しい言葉、思いやりの動作、忍耐や自尊心を育み、命に気付きます。
また、障害を持つ方や高齢の方々は動物とふれあうことで、心が和み、能動的になり、脈拍や血圧の安定、心臓発作後1年目の延命率の増加、生活のリズムを整える等々が医学的にも立証されてきました。動物たちは緊張を除き、人に内在する豊かな感性を上手に引き出す名手でもあるのです。
1978年に設立した、日本動物病院協会(現)公益社団法人日本動物病院福祉協会は1986年に医学と獣医学を通じて社会に貢献する活動として、Companion animal Partnership Program (CAPP活動)をスタートしました。CAPP活動は世界共通の理念と基準を取り入れ、動物介在活動(AAA)、動物介在療法(AAT)動物介在教育(AAE)を推進してきました。CAPP活動は、依頼された施設と打合せを行い責任者間で覚書を交わし、本会事務局より各地の会員獣医師または資格を得たボランティアがリーダーと連絡を取り、チームを編成して実施しています。

施設会員数(2009年10月現在)・・・169施設
内訳
高齢者施設 121施設
障害者(児)施設 22施設
こども(学校) 1施設
病院 25施設
訪問回数(2009年3月末まで)
のべ訪問回数 10、279回
のべ獣医師参加人数 18,412人
のべボランティア参加人数 84,641人
のべ犬参加数 61,325頭
のべ猫参加数 15,464頭
その他動物参加数 5,829頭
今回はチャイルドケアに焦点を合わせていますので、小児病棟での効果、AAEとしての小学校訪問内容について、画面をもとにお伝えします。

「アニマルセラピーの現場再現」

【内 容】
アニマルセラピーの現場を実際に見ることを希望されている動物病院関係者や市民の方は多くても、ご近所に活動場所がないのが実情です。このセッションでは動物介在活動・療法・教育の現場を実際の作業療法士、理学療法士、ボランティアやセラピー犬たちが参加し再現します。

活動現場再現
1)動物介在活動(高齢者施設など)
一般的に多く行われている介在活動の現場を再現します。

2)動物介在療法(医療施設)
現在、東京都内の病院にて実際に動物介在療法に携わっていただいております、
作業療法士と理学療法士にご協力いただき、同病院で実際に行われています療法現場を再現します。

3)動物介在教育(小学校など)
「3つのお約束」「犬とのごあいさつ」「さわってはいけない時」「こんな時は木になろう」など、
犬との正しいふれあい方について地元の小学生にも参加していただき、再現します。