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2013.03.03

【報告】奈良県「いのちの教育」プログラム公開授業&尾木直樹 講演会

いのちの教育講演会 — 尾木ママと考える「大切な心」

公開授業&尾木 直樹 講演会

実施概要
主催: 奈良県うだ・アニマルパーク振興室/公益社団法人 日本動物福祉協会/公益社団法人 Knots

※(公社)日本動物福祉協会と(公社)Knotsは、共同事業ヒューメインセンタージャパン(HCJ)事業を通じ、「奈良県いのちの教育事業」と連携しています。

日時: 平成25年3月3日(日)
公開授業/13:15~14:15
講演会/14:30~15:40
場所: 宇陀市文化会館・かぎろひホール

 現在、奈良県うだ・アニマルパーク振興室で進めている「いのちの教育」は、
子どもの豊かな人格形成をねらいとして、あらゆるいのちに共感し、いのちを大切にする心を育むことを目標に、昨年の4月から奈良県内の小学生を対象に実施されています。この取組には、すでに50校以上の学校が参加し、のべ4000人以上の子どもが授業を受けています。実施し始めてからまだ1年未満の取組ですが、奈良県外の行政・教育関係者からも高い注目を集めており、昨年うだ・アニマルパークで実施した報告会と研修会には、日本全国の行政関係者が多数出席して下さいました。

「いのちを大切にしよう」という取組は、昨今のいじめや自殺、体罰の問題など、人間同士の関わりとしても社会的に関心が高まっています。今回は、前半にうだ・アニマルパークの「いのちの教育プログラム公開授業」を行い、後半ではテレビ番組などでも広く知られている教育評論家・尾木直樹氏による、『共感する心を育む』というテーマの講演会を開催しました。

公開授業

 奈良県うだ・アニマルパーク振興室には、全国でも珍しい「いのちの教育」を推進していく部署があり、こうした行政の機関が民間の団体と連携をして公開授業を企画し、教育問題に造詣の深い尾木氏の講演会とのコラボレーションを実施する取組は非常にユニークなものであります。こうした取組は、地域の住民に対する新しい地域貢献の在り方を提示するものであり、また全国の動物行政や教育の関係者に対しても、広く奈良県のプログラムを周知する絶好の機会となりました。

人間と動物は繋がっていると思いますか?人間と動物は繋がっていると思いますか?公開授業の前に来場者と一緒に拍手の練習をする松室氏公開授業の前に来場者と一緒に拍手の練習をする松室氏 宇陀市文化会館・かぎろひホールは定員500名のホールですが、公開授業を見学するにはちょうど良い大きさと言えます。この日は全席事前申込制となっていましたが、予約段階で満席となりました。また、公開授業に参加する20名の子どもたちは、事前申込の希望者の中から抽選で選ばれた子どもたちです。500名の観客が見守るホールのステージの上での授業は、実施する側も受講する子ども側も初めての体験ですが、日々「いのちの教育」の指導に力を注いでいる振興室の松室氏が、観客をネコ、ウシ、ヒツジ、カラスのグループに分けて拍手の練習などをしながら、会場が一体になって子どもたちを見守る温かい雰囲気を作り出していました。

ここはどんな場所ですか?ここはどんな場所ですか?インコはペットだと思います!インコはペットだと
思います!
 プログラムの内容は、舞台の上に配置されている20体の様々な張り子の動物を、「家」「牧場」「自然」が描かれた大きなパネルの上に配置していくことから始まります。子どもたちが知っている、犬や猫、ウシやクマなどの動物が、どういった場所に棲んでいるのかを考えながら、二人ペアで相談しつつエリアの場所に運んで行きます。このプログラムはどのエリアにそれぞれの動物が棲んでいるのかを導くだけのものではなく、なぜそのエリアに棲んでいると思ったのかを考え、その理由を聞きながらみんなで相談しながら考えを導き出すことを目的としています。二人で相談しながら動物をエリアのパネルの上に運んでいます二人で相談しながら
動物をエリアのパネルの
上に運んでいます
会場のスクリーンには活き活きとした子どもたちの表情が映し出されていました会場のスクリーンには活き活きとした子どもたちの表情が映し出されていました例えば、インコは外国では山にいる場合もありますが、日本ではペットとして飼われているので住宅街にいます。また、トンビは山で飛んでいる場合もあれば、住宅街の空を飛んでいる場合もあり、子どもたちの多様な意見が交わされました。しかしそれぞれのエリアで、人間と動物がどのような関わり方で生活しているのかを一緒に考えてみると、家では「ペット」として、牧場では「家畜」として、自然の中では「野生動物」として関わっていることが分かってきます。そして、その関わりによって人間の責任の在り方も変わってくるのです。

あなたも動物も同じ命を生きています"あなたも動物も同じ命を生きています次に、そういった動物が生きている証拠を考えてみると、実は私たち人間と同じであることに気が付きます。動物も人間も、「息をする」し、「心臓が動いている」し、「見る」「聞く」「動く」「食べる」「ウンチをする」など、生きている証拠は同じなのです。このように、張り子の動物を動かし、それぞれの動物の境遇を想像しながらみんなで意見を出し合う中で、子どもたち自身の気づきによって動物との関わりを学んでいくことができるのが、このプログラムの特徴です。いつもの学校・学級での授業とは異なり、ステージの上で初めて会った子どもたちばかりの授業だったので少し緊張している感じでしたが、参加した子どもたちは積極的にたくさんの意見を出していました。子どもたちはステージの上でも元気いっぱい!"子どもたちはステージの上でも元気いっぱい!

尾木直樹氏講演会

奈良県南部振興監・畑中氏の挨拶奈良県南部振興監・畑中氏の挨拶 15分間の休憩を挟み、尾木直樹氏の講演会へと移ります。まず始めに、奈良県南部振興監の畑中氏から、奈良県での「いのちの教育」に対する取組の内容と成果が報告されました。

そして、舞台の袖から尾木氏が登場…と思いきや、サプライズで観客席背後の入口から観客席を通っての登場で、会場の観客との距離が一気に身近なものになりました。尾木氏は、教育番組などのコメンテーターだけでなく、法政大学教授・教職課程センター長や臨床教育研究所「虹」所長として教育問題に携わっており、大津市のいじめ問題では第三者委員会の委員としても調査に関わっておられます。そうした現代社会が抱える問題点を踏まえ、今回の講演会で尾木氏がテーマにあげた言葉が「共感力」です。相手に共感できる子どもは、親に愛され、話を聞いてもらえる環境の中から育つということです。共感力という言葉をとても大切にしておられました共感力という言葉をとても大切にしておられましたまた、いじめなどの問題が仮に起きたとしても、相手のことを思いやる共感力のある子どもの場合は、それをストップさせることができる。そこに、子どもと大人、先生と子どもとの信頼関係がなければ、共感力をもった子どもは育ちにくいということでした。こうした基本的信頼感の形成は、赤ちゃんが母親のお腹の中にいるときから形成されており、夫婦仲良く妊娠期を過ごした赤ちゃんと、けんかの絶えない夫婦から生まれた赤ちゃんとでは、生まれた後の赤ちゃんの共感力の形成に大きな影響があり、赤ちゃんがお腹の中にいるときから既に家族の一員として生きているという、興味深いお話を聞くこともできました。

尾木氏は、講演ではワイヤレスのピンマイクを使用され、ステージを降りて観客に意見を求める尾木氏ステージを降りて観客に意見を求める尾木氏両手の身振り手振りを多用しながら、観客との距離を感じさせない講演がとても印象的でした。ときにはマイクを持って観客席に降りていき、直接、観客に質問をしたりメッセージを投げかけたり、観客に考えるための時間を設けたりもしていました。また、途中で「なぜ尾木ママと呼ばれるようになったのか。」や、「漢字の書き順」の話など脇道にそれることもありましたが、それらの話を聞くことによって尾木氏と観客との距離は更に縮まっていくように感じられました。こうした人と人との関係性も、尾木氏が訴えている基本的信頼感の形成の大切さを伝えているのかもしれません。

子どもの教育に於いて、教師や親が最も気を遣うのは「叱り方」ではないでしょうか。尾木氏の講演でもこのことについてのお話がありました。子どもを(または大人も)叱るときには、まず最初に「どうしたの?」と、その理由を聞く。叱らなければいけない状況のときには、子どもにとっても理由があるのかもしれず、それを理解してもらえないのはとてもつらいことなのです。叱るということは、叱られた子どもも叱った大人も、前よりも心に元気が出る状態になることが、一番の目的であると尾木氏は言います。叱らないといけない場面で、如何に褒めることができるところまでもっていくことができるのかということが、親や教師としての最も力量が問われるところなのです。こうした関係性の中にも、やはり相互の共感力が不可欠であり、基本的信頼感の形成が重要な鍵を握ることとなります。

講演時間ぎりぎりまで熱心にお話をしてくださり、最後には一端舞台裏に退席した後に再びステージに戻って来られて、会場の皆さんと一緒に、叱る前の魔法の言葉「どうしたの?」「それは大変だったね…」の練習をして講演会は終了しました。

現在、子どもの教育に関しては世界で一番先進的であると言われているフィンランドの教育方針は、子どもたちに「なぜ」を考えさせるところにあるそうです。大人が決めた正解を学ぶことよりも、なぜあなたはそう思ったのかという理由を求める教育によって、子どもたちの豊かな感性を成長させているのです。こうした指導方針は、うだ・アニマルパークの「いのちの教育プログラム」の中でも子どもたちの自主性と気づきが尊重されており、そういった内容が多くの動物行政・教育関係者に注目されたのかもしれません。人間同士の関わり方や、子どもの教育方針などは時代と共に変化するものかもしれませんが、相手を思いやるという共感力と信頼の必要性は、いつの時代でも、人間同士であっても、人間と動物であっても不変であるということを再認識した一日となりました。

遠路から講演にお越しくださった尾木先生、公開授業に参加した子どもたち、ご来場くださった皆様、そして関係者の皆さま本当にありがとうございました。今後とも、奈良県の「いのちの教育」の取組を温かく見守ってくださいますよう、よろしくお願いいたします。