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【報告】令和5年度「いのちの教育」研修会

開催日:2023年11月9日(木)
開催場所:奈良県うだ・アニマルパーク振興室 動物学習館
主催:奈良県うだ・アニマルパーク振興室/公益社団法人Knots
後援:奈良県教育委員会/宇陀市教育委員会/公益社団法人日本動物病院協会/公益社団法人奈良県獣医師会

参加人数:19名

  • 主催者挨拶(うだ・アニマルパーク振興室 古川弘明室長/公益社団法人Knots 冨永佳与子代表理事)
  • 授業見学(小学生プログラムⅡ 共感) ~A 小学校~(45分授業)
  • うだ・アニマルパーク「いのちの教育」の経緯及び取組について
  • 模擬授業 小学生プログラムⅠ 気づき(45分授業)
  • 模擬授業 小学生プログラムⅢ 責任(45分授業)
  • 小学生プログラムの現状と評価(アンケート結果)報告
  • 今後の動物愛護教育についての意見交換
  • 動物愛護センター施設見学(希望者のみ)
  • いのちの教育中高生プログラム概要紹介(希望者のみ)

 

奈良県「いのちの教育」プログラムの普及展開を目的として、2012年から奈良県と包括連携協定を締結している公益社団法人Knotsは、奈良県と共催で全国の自治体職員や教育関係者を対象に、毎年「いのちの教育」研修会を開催しています。

研修会では、小学生が実際に授業を受けている様子を見学したり、子どもたちのアンケートによるプログラムの分析方法など、「いのちの教育」プログラムの内容と効果をお伝えさせていただいています。

また、意見交換の場では、それぞれの自治体の現場における教育の取り組みや課題について自治体の枠を超えて共有し、相談ができる時間を設けています。

今回は、奈良県知事公室・美しい南部東部振興課より勝井康晴次長が研修会にお越しになり、実際の授業を最後まで熱心に見学してくださいました。

主催者挨拶では、うだ・アニマルパーク振興室・古川弘明室長から、奈良県の「いのちの教育」プログラムはあらゆる命に共感し、命を大切にはぐくむ教育、動物への正しい対処を学ぶことで人との関わりにも繋がるものと考えており、この研修会で人と動物の共生する社会の現実に向けて、全国に周知することを目指しているとご挨拶いただきました。

次に当法人の冨永代表理事より、このプログラムが始まった当初から奈良県と共に歩みを見届けてきた歴史や、今後の展開についての期待や他自治体との連携の必要性についてお伝えさせていただきました。

最初に実施されたA小学校の「小学生プログラムⅡ 共感」の授業見学では、子どもたちが集中して授業を受ける様子を見学し、集中力が途切れないように先生が様々な工夫をして子どもたちに語りかける授業展開や、張り子の動物やパネルなどを使った授業の進め方など、「いのちの教育」プログラムの評価が高い理由を実際に知ることができる場となりました。

このプログラムを受講している子どもたちの姿を初めて見るとおっしゃっていた南部東部振興課の勝井次長も、子どもたちが積極的に授業に参加し、発言している姿を見て大変感銘を受けたと言っておられ、最後まで子どもたちが学ぶ姿を見守ってくださいました。

次に、うだ・アニマルパーク職員の担当者が「いのちの教育」の経緯及び取り組みについてスライドを使ってお話ししてくださいました。

うだ・アニマルパークは、およそ 10 ヘクタールという広大な敷地に動物とふれあうことのできる公園エリア、動物について学ぶための教室やバター作りなどの体験ができる施設を備えた動物学習館、奈良県の動物行政の拠点となっている動物愛護センターがあり、県内外から多くの方が来園されています。

奈良県「いのちの教育」は、張り子を使った「いのちの教育」プログラムを軸として、バター作り体験や餌やり体験などの「体験」、スタンプラリー等の「ワークショップ」の実施、総合的な学習としてインターンシップや職場体験の受け入れなど、複合的な内容で「自分を含めたあらゆるいのちに共感し、いのちを大切にする心を育む教育」を行っています。

「いのちの教育」プログラムは3つのプログラムから構成されていますが、そのうち1回は遠足や校外学習の際にバター作りや乳しぼりなどの「体験」と組み合わせて受講してもらっており、残りの2回はうだ・アニマルパークの職員が学校に行って授業を行うというスタイルをとっています。

また、実施校の拡大に伴い、自校式と呼ばれるそれぞれの学校の先生が独自に授業を行う方法も導入されています。

「いのちの教育」プログラムの内容については下記ご参照ください

https://www.pref.nara.jp/28335.htm

 

続いて実施された模擬授業の「プログラムⅠ 気づき」と「プログラムⅢ 責任」では、今年から着任されたという若手の先生が担当されて、経験豊富な先生のこれまでのノウハウや、多くの関係者によって構築されてきたプログラムが引き継がれていることを実感しました。

Ⅰ〜Ⅲのすべてのプログラムを体験していただいた後に、再度スライドを使って「小学生プログラムの現状と評価(アンケート結果)」報告をしていただきました。

奈良県では、プログラム実施前と実施後のアンケートの自由記載欄に書かれたコメントからキーワードを抜き出し、子どもたちの視点がどのように変化したのかを集計して分析を行っています。この意識の変化を数値化するという分析は、どのような効果があり、どの部分がうまく伝わっていないのか、などの改善の指針にもなり、こうした数値を元に「いのちの教育」研究協議会でも検証を繰り返し、プログラムのブラッシュアップを図ってきました。

奈良県では、奈良県「いのちの教育」研究協議会(会長:国立大学法人奈良女子大学・天ヶ瀬正博教授)が設置され、Knots代表理事の他、教育委員会や学校関係者、うだ・アニマルパーク振興室の職員が定期的に協議を重ね、ブラッシュアップを図りながらより良い内容になるよう連携体制を構築しています。

「人間は、どうぶつがいなくても生きていけますか?」という問いに、「生きられない」という回答の比率は実施後には増加しています。人間と動物との関わりについて学び、食生活にも結びついて考えることができるようになったと言えます。

また、自分たちが動物のためにできることとして、ブラッシングなどの手入れや乳しぼりなどのように自らの体験からイメージしやすい「世話に関する言葉」や、動物に合った餌や新鮮な水など「飢えと渇きからの自由」に関する記述も、事前より事後の方が増加しています。

一方、ケガや病気に対して人間が動物の健康を守るという責任の意識向上については大きな数値の変化が見られませんでした。この課題については、子どもたちが自ら行うこと、自分たちにできることとして認識するよりも、親や大人がやるべきこととして切り離した認識になっていることではないかと推察されます。

また、「どうぶつのために何かできることがあると思いますか?」という問いに対しては、《ペット》に対して「最後まで責任を持って飼う」、《家畜》に対しては「感謝して食べる」、《野生動物》に対しては「自然を守る」「壊さない」など、低学年の授業ではなかなか難しいと言われている「食育」や「自然環境」についての記述が増えており、動物を入口にして幅広い汎用性のある教育効果が注目されています。

平成24年のプログラム開始時は教育委員会から派遣された教員1名、愛護センター職員 1名が「いのちの教育」プログラムの授業を行っていましたが、翌年からは教員2名体制、令和4年度からは教員3名体制での実施となっています。

この研修会では、参加された方々と各自治体の様々な課題について意見交換する場を持っていますが、参加された方々には若い職員が多く見られ、時代と共に変化する社会情勢や課題に対して、次の世代に引き継がれていくことを感じました。

多くの自治体は、少ない人員の中で地域の子どもたちに「いのち」の大切さを伝える教育を行うという課題に向き合っています。どの自治体もツールなどを導入するための予算確保が難しいという現状があり、研修会に参加した自治体担当者からも同様の声を数多く耳にしました。

また、「任期が2年しかなく、やりかけても引継ぎも難しい状況である。ふれあい重視の希望が多く、ふれあう時間が少ないという声が多く聞かれる。そのために5年間もふれあいのための犬がいた。どのようにしたら生体をつかわないプログラムを導入できるようになりますか」との質問がありました。この問題はほとんどの自治体が直面する課題であったようで、皆さんが興味を示されました。

これに対して、奈良県のご担当者から、プログラム実施希望者からは「ふれあいの時間が少ないのでは?」という意見もあるが、噛みつき防止や犬に負担をかけないようにするなどの理由をしっかり説明をし、ふれあい方の講義をしてからふれあってもらうようにしている。

そうしなければ私たちの教育目的を失うので、ご要望をいただいた学校へはこちらの方針をきっちりと示す。この説明だけでも啓発となる。正しいステップを踏まないと良い結果にはならないということを伝え、教育委員会にも協力をお願いしている。

口コミは大切で、「「このプログラムはいいよ」と言ってもらうと自然に広がる」とお話ししてくださいました。

当法人の冨永代表理事は「Knotsは奈良県と連携協定を行っている。「いのちの教育展開事業」を行い、教育活動に必要な教育、ツールの共有事業も行っている。全国に伝えるための橋渡しのためにKnotsがいる」。また、現在Knotsが神戸市から事業運営を受託している「こうべ動物共生センター」で取り組もうとしているプラットフォームの説明をし、官民が連携することによって、少ない予算の中でもできることがあるとお伝えしました。

また、奈良県の教育ツールの制作も担当している小椋理事からは、「生体を使わずいのちについての教育がここまでできるということが、まだ知られていないのだと思う。先ずはその実態を知ってもらうことが大事ではないか。知っていただくことによって門戸が開かれると思う」とお話しさせていただきました。

研修会の最後に、「動物愛護センターの施設見学」、もしくは「いのちの教育」中高生プログラムの概要紹介をオプションプログラムとして選択していただき、2班に分かれて参加していただきました。

「いのちの教育」中高生プログラムは、小学生プログラムを受講した子どもたちが成長し、社会に出て様々な課題に直面したときに、社会の一員として自らのこととして課題に向き合うことができる人材育成としての内容が含まれています。

人と動物の関わりやニーズを理解するための動物福祉について知ってもらい、動物に果たす人の責任について考え、社会の一員として「いのち」を大切にする社会を目指して、自分にできることを考えるプログラムになっており、「基本編」「応用編」「展開編」で構成されています。

「基本編」では、動物福祉の指針のひとつである「5つの自由」をチェックポイントとして、動物福祉の考え方を学びます。

「応用編」では、動物に関わる様々な社会が抱える問題に対して社会の一員としてどのように課題に向き合い、考え、行動することができるのかを考えます。一例として、高齢の夫婦が伴侶の一人が入院をすることによってペットの世話が難しくなった場合というシチュエーションを設定し、その課題を個人の問題として切り捨てるのではなく、社会全体としてどのような仕組みがあれば解決することができるのかを一緒に考えます。

「展開編」は、奈良県動物愛護センターの現状を学び、施設見学やインターンシップに実際に参加することを通して実体験としての学びを得ることで、自分が大人になったときに、個人の問題から社会の問題へと視点を変えることで、社会の一員として行動することの大切さを学ぶきっかけを与えることができるプログラムになっています。

子どもが心を開きやすい動物を入口とした奈良県「いのちの教育」プログラムは、「他者へ共感する感性と自他の生命を尊重する態度の育成」「思いやりや協調性、道徳的心情などの豊かな人間性の基盤の構築」「社会的規範意識の醸成及び向上」という効果が期待される教育プログラムです。

この「いのちの教育」プログラムの「動物からの学び」は、様々な分野に汎用性のある教育プログラムとして活用できる可能性があります。今後、更に多くの自治体・教育現場で展開されることを願っています。