第7回ペットとの共生推進協議会シンポジウム ペットとの“真の共生”を目指して―人と動物の福祉を推進する―
テーマ:「ペットが育む心と体の健康 ~子供の動物介在教育~」
主催:ペットとの共生推進協議会シンポジウム 後援:環境省 主催者・役員団体:一般社団法人家庭動物愛護協会/一般社団法人ジャパンケネルクラブ/一般社団法人全国ペットフード・用品卸商協会/一般社団法人全国ペット協/中央ケネル事業協同組合連合会/日本小鳥・小動物協会/一般社団法人 日本動物専門学校協会/一般社団法人 日本ペット用品工業会/一般社団法人人とペットの幸せ創造協会/一般社団法人ペットパーク流通協会/一般社団法人ペットフード協会
日時:平成30年10月8日(月・祝)午後1時~4時30分 東京大学弥生講堂・一条ホール |
基調講演
「ペットが育む心と体の健康 ~子供の動物介在教育~」 濱野 佐代子氏(帝京科学大学生命環境学部アニマルサイエンス学科准教授)
パネルディスカッション ●パネリスト 須﨑 大氏(DOGSHIP LLC.代表/ヒューマン・ドッグトレーナー) 西田 淳志氏(東京都医学総合研究所) 濱野 佐代子氏(帝京科学大学生命環境学部アニマルサイエンス学科准教授) 山﨑 恵子氏(ペット研究会「互」主宰) 吉田 太郎氏(立教女学院小学校 教頭)
●コーディネーター/司会進行 赤津 功一氏(シンポジウム実行委員長)
|
我々Knotsも協賛団体として参加している『第7回ペットとの共生推進シンポジウム』が今年も開催されました。塾や習い事で忙しく、遊びはスマホやゲームが中心となっている現代の子供たち。動物を通じて「死生観」を感じる場を取り戻し、豊かな心を育んで欲しいという願いを込めて、今回は「ペットが育む心と体の健康 ~子供の動物介在教育~」というテーマで臨床心理士と獣医師の資格を持つ濱野 佐代子氏による基調講演と、専門の先生方によるパネルディスカッションが行われました。
発達心理学と人間動物関係学を専門とする濱野 佐代子氏の登壇では“愛着”についての重要性が述べられていました。“愛着”とは、「人間や動物が特定の個体に対して持つ情愛的なきずな」のことで、生涯の心の発達や対人関係の基礎となる大切なものです。動物を介して子どもの発達を促すためには、単に飼育しているだけではなく、“愛着”を持って接しているかどうかが重要であり、ペットのことを大切に思う気持ちを持って世話をすることで、自尊心や共感性、責任感などが育まれていくということでした。また、ペットと“愛着”がきちんと形成できた子供たちはペットの死に直面したときに怒りや悲しみを表出し、徐々に立ち直る中で人間的に成長していくそうです。このとき大人にできることは、死を隠したり否定したり、代わりの動物を与えるたりするのではなく、一緒に悲しんだり、子どもの話をよく聞いてあげることが大切だとお話しされました。ペットの死という深い悲しみを乗り越えることは「レジリエンス(回復力)」を育むことにもつながり、今後子どもたちが困難を乗り越えていくための一つの重要な経験にもなるということでした。
▲濱野 佐代子氏
パネルディスカッションでは、「子どもたちに生きものはなぜ必要か」「子どもの動物介在教育はどのようにしたら根付くか」「ペットが育む心と体の健康の実現に向けて」を論点にフリーディスカッションが行われました。
- 「子どもたちになぜペットは必要か」
西田 淳志氏(東京都医学総合研究所):ペットの存在が子どもの孤立感を和らげる可能性があることが分かった。経済開発協力機構(OECD)の研究によると、先進国の中で「孤独」と感じている子供たちの割合が日本はとくに多く、若者の自殺も多いとされている。そんな中、犬を飼育している家庭の子どもは社会性が高く、ひきこもり傾向が少ないことが明らかになった。まだ詳しい因果関係は分かっていないが、ペットには人間にはできないことを補える可能性があるのではないか。
須﨑 大氏(DOGSHIP LLC.代表/ヒューマン・ドッグトレーナー):ペットとの関わりは子どもの心をしなやかで健全なものにする。学習指導要領に基づいて開発した「動物介在学習プログラム」の効果検証を行う中で、子供たちは多くの発見、驚きや感動をし、様々な気づきを得ることができた。たとえば、触れ合いの前後の子どもの絵を比較すると、色使いが明るくなり、犬の特徴をより捉える絵に変化していた。また、犬が恐い、アレルギーがあるといった子どもも、実際の授業ではほとんどが自分から犬に触れることができていた。触れ合いをしたらそこで終わらせず、きちんと振り返りをして落としこむことで、さらに子ども達の成長がみられる。
- 「子どもの動物介在教育はどのようにしたら根付くか」
山﨑 恵子氏(ペット研究会「互」主宰):これから親になるヤングアダルト世代の教育が重要。子どもが体験したことに対して、正しい動物観を持った親が耳を傾けて共感してあげることが大切。
吉田 太郎氏(立教女学院小学校 教頭):2003年からエアデールテリアのバディを学校に連れて行って子供たちとの触れ合いを行った。バディの出産や死を経験することで、子ども達は「いのち」の尊さについて考えることができた。動物介在教育が広まるためには、飼育環境や周囲の理解が不可欠。また、獣医師やトレーナーなどの専門家によるサポートや経済的なサポートも必要になってくる。やってみたいと思ってくれる先生が出てきてくれるのは嬉しいが、そこまで広がらなくても良いと思っている。すぐに結果を出そうとせず、子ども達が「学校って楽しい!」と思ってくれるように教員としてできることを続けていきたい。
- 「ペットが育む心と体の健康の実現に向けて」
山﨑 恵子氏:動物介在教育と愛護教育は別のもの。その定義を忘れないでほしい。また、バイオフィリア論にもあるように、動物は環境のバロメーター。動物が不快な思いをしていれば、それは子どもたちに伝わってしまうためAAE(動物介在教育)はできない。常に動物も幸せであるかどうかを確認することが大切。
赤津 功一氏(シンポジウム実行委員長):何か生きものを育ててみることで見えてくるものがあるのではないか。一人一人の動きで社会は変わる、ぜひこのシンポジウムで学んだことを誰かにシェアすることで広めていって欲しい。
私自身も動物介在教育の現場に携わってきたため、先生方の話を聞きながら思わず頷いてしまうような内容がたくさんありました。また、これまでペットを飼ってきたなかで得られたたくさんの学びや気づきを思い出すことのできる機会となりました。
Knots教育部 教育・啓発係 宮脇