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2017.11.24

【報告】平成29年度 奈良県「いのちの教育」研修会

平成29年度 「いのちの教育」研修会報告

開催日:2017年11月7日(火)/9日(木)
開催場所:奈良県うだ・アニマルパーク 振興室 動物学習館
主催:奈良県うだ・アニマルパーク振興室/公益社団法人 Knots(ノッツ)
後援:奈良県教育委員会/宇陀市教育委員会/公益社団法人 日本動物病院協会/公益社団法人 奈良県獣医師会

 

平成24年から実施し始めた奈良県の「いのちの教育」と研修会は、早くも6年めを迎えることとなりました。多くの自治体がそうであるように、奈良県も、もともとは動物愛護センターが実施する教育ツールを使って愛護教育を行っていましたが、「愛護」から「福祉」の観点を取り入れて、人を含めた全ての「いのち」に対する「共感」と「責任」を子どもたちに感じ取ってもらうために、「いのちの教育」を地域振興の部署に組み込み、教育委員会から教育の専門家である教員を派遣してもらって実施をするという抜本的な組織改革を行いました。そのことにより、獣医師と教員が連携をした教育を行うことが可能になり、学校との連携や予算面での課題を克服することができるようになったのです。
その後、「いのちの教育」プログラムの実施内容や教育効果などを分析しつつブラッシュアップするための「奈良県いのちの教育研究協議会」を立ち上げ、国立大学法人奈良女子大学の天ケ瀬正博先生を会長、Knots理事長の冨永を副会長にし、教育委員会や学校関係者、うだ・アニマルパーク振興室の職員などと共に定期的に協議を重ねています。

今年度の研修会の内容は、両日ともに以下の通りです。研修会の日程によって、模擬授業と実際の小学生の授業の組み合わせが変わりますが、今回は、7日は「プログラムⅡ」を宇陀市の小学校1年生、9日も「プログラムⅡ」を御所市の小学校2年生の授業を見学しました。残りの「プログラムⅠ」と「プログラムⅢ」は、参加した大人が子どもの役をしながら実施する模擬授業でプログラムの内容を体感して頂きました。
毎年、日本各地から多くの動物行政に関わる自治体の職員や教育関係者が参加してくださいますが、今年は遠く北海道や石川県からのご参加もあり、このプログラムが日本全国の皆さまからの関心を集めていることがうかがい知れます。

 

・主催者挨拶(うだ・アニマルパーク振興室長、公益社団法人Knots理事長)
・うだ・アニマルパーク「いのちの教育」の経緯及び取組について
・模擬授業 (小学生プログラムⅠ 気づき)
・授業見学 (小学生プログラムⅡ 共感)
・模擬授業 (小学生プログラムⅢ 責任)
・小学生プログラムの現状と評価〜アンケートの分析から
・今後の動物愛護教育について意見交換
・動物愛護センター施設見学

 

【主催者挨拶】
まず、この4月からうだ・アニマルパーク振興室の室長に着任された米田室長からご挨拶を頂きました。平成20年にオープンしたパークは年々来場者数を増やし、平成26年からは毎年20万人を超える来場者を数えるようになりました。いのちの教育に関しても県下196校の小学校の内、現段階ですでに60校ものモデル校があるということですが、今のままの体制ではこの数字が限界であるため、今後は学校の先生に自ら実施をしてもらうという推進体制を取り、将来的には県下の全ての小学生にこのプログラムを行いたいという考えがあることをご報告を頂きました。
続いて、Knots理事長の冨永からは、平成24年の6月から奈良県と連携協定を結んでこのプログラムの普及啓発に関わってきたが、こうしていろんな課題を抱えている自治体の職員が一同に介して集まるという機会があまりないので、この場ではざっくばらんにそれらの課題を共有し、連携をしながら一緒に社会教育の道を切り開いて行きたいという挨拶をさせて頂きました。

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【うだ・アニマルパーク「いのちの教育」の経緯及び取組について】
実際のプログラムを体験して頂く前に、まずは奈良県がこの「いのちの教育」を行うに至った経緯と取り組みの内容について説明があります。
奈良県が県下の小学生に「いのちの教育」を実施する場合、うだ・アニマルパーク振興室と小学校の間に市町村教育委員会を間に挟んで情報のやり取りをしています。そのことにより、どの学校がモデル校になっているのかや、教育効果がどうであったのかを教育委員会が把握できる連携方法を取っています。そうした連携により、平成24年度の開始時には20校だったモデル校が、平成29年度は60のモデル校、146クラス・3878人の子どもたちがこのプログラムを受けるまでに成果を伸ばすことになりました。
これまで「愛護」という観点で教育を行っていた奈良県が大きく舵を切ったのは、生きた動物を使って彼らにストレスを与えるというリスクがある方法から、生体を使わず、アレルギーを持った子どもたちに対する「ヒト」への配慮と、「動物」への配慮、そして動物に過度な負担を強いているのではないかという不安を抱えていた「実施者」への配慮をすることにより、「福祉」という観点を取り入れたときからです。実施実績を伸ばすだけではなく、こうした様々な立場の「いのち」に対して「気づき」と「共感」「責任」を実感することが、この「いのちの教育」プログラムの本質となっています。

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【小学生プログラムⅠ(気づき)・プログラムⅡ(共感)・プログラムⅢ(責任)】
小学生プログラムⅠでは、張り子の動物を使って、それぞれの動物が生活をしていると思われる環境に運ぶことで、人間は様々な形で「ペット」「家畜」「野生動物」と繋がっていることを学びます。自分の力で生きている野生動物は、一見、人間とは何の関係も無いように見えますが、同じ自然環境を共有して生きているという意味で、私たち人間と繋がっていることに「気づく」ことになります。
プログラムⅡでは、「生きている
ということはどういうことでしょう?」という問いかけから始まります。動いたり食べたり、寝たり話したりしますが、ここでは拡張心音計を使って心臓が動いている音を聞いてみます。その音は一人ひとり速さや大きさが違いますが、それは皆が一人ずつ違う「いのち」を持っているという証拠なのです。そして、生きていくためにはただ生きているだけではなくて、「美味しいものを食べたい」「きれいな場所で寝たい」「自由に羽ばたきたい」など、それぞれの動物によって望んでいることや感情があることを学びます。それは人間だけではなくて、動物も同じということに気づき、いのちに対する「共感」を持つことを目的とした内容になっています。
プログラムⅢでは、動物との関わりに「気づき」、いのちに「共感」を持った子どもたちが、彼らのいのちに対して何ができるのかという「責任」を学びます。ここでは小さなホワイトボードを使用しますが、小学生低学年でも黒板に書ききれないほどたくさんの「動物との約束(=責任)」の意見が出てきます。奈良県の「いのちの教育」プログラムでは、張り子というあたたかみを持ったツールを使用したり、ホワイトボードに一旦書き込むことによって発言をしやすくする工夫などが取り込まれていて、学校の教員が驚くほど子どもたちが積極的に授業に参加し、「いのち」に対する学習効果を挙げています。

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【小学生プログラムの現状と評価〜アンケートの分析から】
研修会の参加者の皆さまにプログラムⅠ〜Ⅲを体感して頂いた後、実際、このプログラムを受けた子どもたちにどのような教育効果があったのかを評価するための方法を紹介させて頂きました。
アンケートは、プログラムを受ける前と後に同じ内容で実施し、その回答から個別にキーワードを抜き出すことで数値化し、それまでに気がつくことができなかった視点で、どれだけ「いのち」に対する共感を得られるようになったのかを評価していきます。アンケートの文言や分析のしかたも試行錯誤を重ね、より子どもたちから生きた言葉を引き出せるように何度も研究協議会で吟味を重ね、現在の内容にマイナーチェンジを繰り返してきました。
特に印象的なのは、小学校の学校教育の中で環境問題に目を向けさせるのは中学年ぐらいからですが、このプログラムを受けることによって、低学年においても人と動物が「自然環境」で繋がっていることに気が付き、水や川を汚さないということや、木を植えたりゴミを捨てないなどの環境に対する視点が持てるようになったことが分かってきます。また逆に、病気や医療の必要性に関することなどは、子どもたちが自分でもできることとしての実感が掴みにくいため、なかなか数値として現れてこないという課題も見えてくるようになりますので、事後の分析が如何に大切であるかということがこの報告からも見て取ることができます。

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【今後の動物愛護教育について意見交換】
普段、各地の自治体の中で業務を行っていると、他の地域の職員と意見交換をする機会はなかなかありませんので、この研修会では毎年、それぞれの自治体での取り組みの紹介を兼ねて意見交換会を開催させて頂いています。
この場で最も多く耳にする意見は、日常の業務に追われて教育に関するツールやプログラムを創るところまで手が回らないということや、独自に授業を行っているが、それをどのように発展させて行けばよいのか分からないといったことです。行政の仕組みとして約3年で職員の異動があるというのが現実的な問題ですので、蓄積したノウハウが継続されにくいという課題もあります。こうした課題を克服するためにも、Knotsが取り組んでいる教育ツールの共有事業をうまく取り入れてもらえたらと願っています。
今回の意見交換会では、その場ですぐに答えが出せない意見が子どもたちから出た場合に関しては、プログラム実施後に学校の担任と保護者によるフォローアップを促すということがとても大切であるというアドバイスを頂くことができました。こうした議論を積み重ねることによって、この「いのちの教育」プログラムは少しずつ実績を積み重ねてくることができました。

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アンケートの他に、実施校には担任からのご意見も提出して頂いていますが、実施教員のお一人である巽先生から、それらの中に「給食を残す子どもがほとんどいなくなった」ということや、「子どもたちの日常会話の中に動物の気持ちを気づかう会話が見られるようになった」など、具体的な子どもの変化に対する手応えについてのお話がありました。教員として、わずか3回のプログラムの実施で小学生低学年の子どもたちにこうした具体的な変化が見られるのは、教員としても非常に驚いていると言っておられたのがとても印象的でした。
このプログラムによってすべての課題が解決できるわけではありませんが、多くの専門家が関わることによって課題を見出し、それに向き合うことが学びの意欲を醸成し、学びの意欲を生み出すきっかけになっていることは間違いありません。