「第14回 IAHAIO国際会議2016 パリ大会」報告書
2016年7月11~13日、IAHAIO(International Association of Human-Animal Interaction Organization:人と動物の関係に関する国際組織)が三年に一度行っている国際会議がフランス・パリで開催されました。フランスのAdrienne and Pierre Sommer Foundation (FAPS) が主な後援団体となり、世界各国から450名程の参加者が訪れました。
開会式では、2010年から2016年まで会長を務めていたRebecca Jonson氏から新会長のMarie-Jose Enders-Slegers氏へと引継ぎが行われ、IAHAIOにとっての新たな歩みが始まりました。
会場は、講演会場、ポスター掲示場、休憩場と大きく3つに分かれており、とても分かりやすい配置になっていました。休憩場でも、いろんな国の参加者がさまざまな言語で交流をしておいる姿が印象的でした。発表は全て英語で行われましたが、一番大きな会場では日本語とフランス語の同時通訳がついていました。3日間合わせて、9つの基調講演と、59の学術発表、16のワークショップ、93のポスター発表がありました。5つのお部屋を使って、学術発表とワークショップが同時に行われるため、どれに参加するか非常に悩みました!
【基調講演の内容】
日程 | タイトル | 発表者 | 分野 |
1 日 目 |
動物福祉について:倫理、科学、そして人間側の側面から
Animal Welfare: ethics, science, and the human dimension |
David Fraser氏
ブリティッシュコロンビア大学 教授 |
動物学 |
人の健康に関するHAI(人と動物の相互作用)の研究:
今後の研究における課題 Human-Animal Interaction Research Related to Human Health: Challenges for Future Research |
Erika Friedmann氏
アメリカ メリーランド大学 看護学科 教授 ISAZの創設メンバー |
医学 | |
将来的なHAI(人と動物の相互作用)の専門性の必要性
Vison of needs for future professionalization of human animal interventions of the road to a sustainable future |
Christianne Bruschke氏
オランダの獣医師 ウイルス学者 |
獣医学 | |
2 日 目 |
動物虐待と家庭内暴力:アメリカでの研究と実践の状況
Animal Abuse and Domestic Violence: Status of Research and Practice in the U.S. |
Phil Arkow氏
講師・著者・指導者 動物虐待と家庭内暴力防止プロジェクト 委員長 |
犯罪心理学 |
点と点を逆さに繋いでいく:AAIの兆候
Connecting the Dots Backwards: Reflections on Animal Assisted Interventions |
Aubrey Fine氏
心理学者、アメリカ カリフォルニア州立工科大学 教授 |
教育学 | |
あなたの猫になりたいですか?
Do you want to be your cat? |
Erno Eskens氏
オランダ国際学校 哲学科 代表 |
哲学 | |
3 日 目 |
動物から見たAAI(人と動物の相互作用)
On Animal-Assisted Intervention from the Animals’ Point of View |
Temple Grandin氏
アメリカ コロラド州立大学 教授 |
動物学 |
愛着とHAI(人と動物の相互作用)が与えるポジティブな影響を説明するその他の理論
Attachment and other theories explaining the positive effects of human-animal interactions |
Andrea M. Beetz氏
心理学者、教授 |
教育学 | |
HAI(人と動物の相互作用)もしくはAAM(動物の仲介)
HAI or Animal-Assisted Mediation in France |
Didier Vernay氏
フランスの大学病院リハビリ科の神経学者 |
医学 |
基調講演では様々な分野からの発表がありました。全てをお伝えすることはできませんが、とくに印象に残った一部の講演をご紹介いたします。
2日目にお話しされたArbrey Fine氏は、ADHDや学習障害などの発達障害のある子ども達や親に対して動物を介在させた支援を行う専門家です。Fine氏は、ご自身やご家族、そして子ども達が犬に支えられた体験を振り返ることで得た気づきをお話しされました。Fine氏の「動物が人に与える影響についての研究で結果を出すことは大切だけれど、それ以上に感覚を大切にして欲しい」という言葉はとても響きました。動物がいることで予想もしていなかったことが起きたという経験は、私も現場で何度もあります。そのときの感情や感覚を忘れず、そこを掘り下げていくことが研究にも繋がって行くと改めて感じました。
最終日に私が楽しみにしていたのは、今からおよそ30年前に自閉症であることを告白し、全米の注目を集めた動物行動学者のTemple Grandin氏の講演でした。しかしながら、この日は欠席されることが決まっていたようで、IAHAIO運営メンバーのBrinda Jegatheesan氏が直接ご本人にお会いして行ったインタビューの様子が流されました。同年代の方と比べて視覚的な認知機能が発達しているGrandin氏は、視覚・聴覚・嗅覚といった観点に着目することで、動物の行動から気持ちを読み取ることに成功しました。ご自身が発明した、牛がストレスを感じずスムーズに動くことのできる斬新な施設もこうして動物の視点に立つことで完成したとお話しされました。動物介在の現場でもこのような動物の視点に立った支援が大切であることを強調されていました。ご本人にお会いできなかったのは残念ですが、Grandin氏らしいはっきりとした物言いで分かりやすく解説してくださいました。 日本からは公益社団法人 日本動物病院協会(JAHA)の吉田尚子氏による研究発表と、ヤマザキ学園大学の新島典子氏や帝京科学大学の濱野佐代子氏によるワークショップ、社会福祉法人 日本介助犬協会などの団体による10のポスター発表がありました。アジア圏では日本からの発表が最も多く、日本がIAHAIOを支える重要な国であることを改めて実感しました。 IAHAIOのフルメンバー登録会員の公益社団法人Knotsも、奈良県と共同で行っている「いのちの教育展開事業」の内容と成果についてポスター発表をさせていただきました。ご存知の通り、日本では市民の税金を投入してヒューメイン・エデュケーション、動物愛護教育等を通じて、「豊かな人間性の形成」「命の大切さを伝え、他者と自分を大切にする教育」等に取り組んでいます。多くの国ではそれらの活動は寄付などで運営されていることが多いため、そうした日本からの教育に関する発表ということで高い関心を集めました。平成24年度から始まった奈良県の「いのちの教育プログラム」では、子ども達に動物に対する共感力や責任感を教えるため、体験メニュー、学習メニュー、ワークショップの3つによって構成される「いのちの教育」を実施しています。今回の発表では、学習メニューの一つである動物の張り子を使ったプログラムの内容と、奈良県内の小学校45校に在籍する児童2,712名に対する児童の理解度と共感力について評価した結果をご報告させていただきました。可愛らしい動物のイラストに足を止める方も多く、「フランスでもこのツールは使えないのか?」などのご質問もいただき、たくさんの国の方々に興味をもっていただく貴重な機会となりました。 (「いのちの教育展開事業」について詳しくはこちらをご参照ください)。
会場には訓練中の介助犬やセラピー犬の姿が目立ちました。大会中は座りっぱなしなので、その場に一緒にいてくれた犬たちに参加者や講演者も癒されました。 前回のシカゴ大会に比べると、心理や教育に関する発表や参加者が増えたように感じました。また動物福祉に関する発表も多く、人と動物がより良いかたちで共存するために何ができるか改めて考えさせられる機会となりました。次回の大会開催についての詳細は発表されませんでしたが、今後もこのような発表の場が続いていくことを願っています。 大会初日の夜には会場の近くでConference Banquet(懇親会)が開かれ、大会の参加者同士での繋がりができました。海外での大会を一緒に経験し、その内容を共有し合える貴重な機会となりました。 大会最終日の夜にはIAHAIOの理事の皆さまと一緒にセーヌ川でのディナークルーズ、夕暮れの空とエッフェル塔がとっても綺麗でした! IAHAIOの公式ウェブサイトはこちら。Knots 教育部 教育・啓発係 宮脇