第4回 ペットとの共生推進協議会シンポジウム
ペットとの”真の共生”を目指して一人と動物の福祉を推進する― 報告
● テーマ | 「ペットとの暮らしと社会インフラはどうあるべきか」 |
● 会 場 | 大阪会場 11月14日(土) ハートンホール 東京会場 11月15日(日)連合会館 |
● 主 催 | ペットとの共生推進協議会(役員団体) 一般社団法人家庭動物愛護協会/一般社団法人ジャパンケネルクラブ/一般社団法人全国ペットフード・用品卸商協会/一般社団法人全国ペット協会/中央ケネル事業協同組合連合会/日本小鳥・小動物協会/一般社団法人日本動物専門学校協会/一般社団法人日本ペット用品工業会/一般社団法人人とペットの幸せ創造協会/一般社団法人ペットパーク流通協会/一般社団法人ペットフード協会 |
● 後 援 | 環境省 |
<プログラム>
● 開会の挨拶 | ペットとの共生推進協議会 会長 林 明雄 | |
● 来賓の挨拶 | 環境省自然環境局総務課動物愛護管理室 室長 則久雅司 様 (東京会場のみ) | |
● 基調講演 | 「高齢者の犬の暮らしは、病気の予防、健康寿命の延伸、そして医療費の削減を実現できる! ― その好循環を作る」 講師 太田光明 先生 (東京農業大学 農学部 教授、麻布大学名誉教授) |
|
● パネルディスカッション 「ペットとの暮らしと社会インフラはどうあるべきか」 | ||
パネリスト: | 須田沖夫 先生 (一般社団法人家庭動物愛護協会 会長) 中塚圭子 先生 (人とペットの共生環境研究所 所長 環境人間学博士) 前田敦 先生 (一級建築士。前田敦計画工房代表) 山口千津子 先生(獣医師。RSPCAインスペクター資格取得・東京会場のみ) 野川亮輔 先生 (株式会社日本ペットオーナーズクラブ創業社長進行:シンポジウム実行委員長 越村義男 |
|
● 閉会の挨拶 | ペットとの共生推進協議会 副会長 永村武美 |
今回、4回目を迎えられるペットとの共生推進協議会シンポジウム、昨年に引き続き、2回目の開催となった大阪会場へお邪魔しました。満員の会場で、林会長のご挨拶の後、太田光明先生の基調講演が始まりました。
犬の家畜化のお話があり、数万年に及ぶ人と犬の関係の中で、犬はいつも何らかの役割を与えられており、高齢者の健康への犬の新たな役割というアプローチです。1990年のJudeth SIEGEL の「60歳以上の犬の飼い主は、飼っていない人より1年間に1.75回、病院に行く回数が少なかった」という、WHOが発表して、犬が人の健康に役に立つと意識されるきっかけとなった研究を始め、先生ご自身も関わられた麻布大学の幸せホルモンーオキシトシンの正のループ(人間の母子関係と同様に、犬とのアイコンタクトで飼い主にオキシトシンが分泌、また、その後飼い主に触られることで、犬にもオキシトシンが分泌される)研究など、これまで明らかにされてきた研究成果のご紹介がありました。
*1年間に訪れる病院の回数が少ない。
*犬の散歩は運動効果とともに、癒しの効果がある。
*犬と人両方にとって運動の機会が増え、QOL(生活の質)が向上する。
*血圧、血漿トリグリセリド、血漿コレステロールが減少する。
*犬と良い関係を維持することが、頻繁にオキシトシンの分泌につながり、幸せな気持ちで生活できる。
*犬に「スワレ」など簡単な指示をしたとき、素直に「座る」と、飼い主の脳血流が上昇する。
これから、65歳以上の人口が3割を超える超高齢化社会を迎える日本では、孤独死や認知症の問題とも向き合うことになります。特に社会保障費の問題は深刻です。ペット飼育の効果については、ドイツでは、1年間に7,547億円、オーストラリアでは、3,088億円の医療費の節約効果が報告されており、スイスでのペット飼育と医療費削減に相関関係があるという調査は、オーストリアの国会で報告されたそうです。
日本では、既に超高齢化社会の課題に直面していますが、ペット飼育が対策に貢献するための研究や取り組みは始まったばかりです。残念ながら、飼い主さんの方は、高齢になってからの飼育に不安を感じ、飼育を諦め始めている現状があります。40年をこの分野の研究者として社会に貢献してこられた太田先生は、最後に「犬の飼育者と非飼育者との違い」「他の年齢層(50代など)との違い」「猫との違い」にフォーカスし、「65歳以上の高齢者こそ犬を飼うメリットが大きいことを証明」する研究での貢献を力強く宣言された姿が、印象的でした。
後半は、太田先生、須田先生、中塚先生、前田先生、山口先生が、それぞれの立場からテーマに沿ってご意見を述べられました。前田先生は、建築家の立場から、ご自身が設計されたダックスフンドのための個人のお宅をご紹介されました。社会インフラとしては、環境の面からも、道路がアスファルトであり続けていることや、段差の多さなど、高齢者とペットが歩くこと一つ取っても、整備の余地があると話されました。また、公衆トイレの横に犬の糞の始末が出来る施設を付けるだけで、飼っている人もそうでない人も楽になるのではという提案もありました。
須田先生は、獣医師の立場から、動物の高度医療などが進み、動物の寿命も延びる中、人間同様介護の問題もあり、どこまで面倒をみるかという尊厳死の課題にも取り組む必要があること、狂犬病の接種率が40数%、混合ワクチンが犬は25%、猫は、10%という現状の中、昨今の感染症の広がり、寄生虫の再流行の兆しなど、医学との連携を図らねばならないこと、高齢者だけでなく子どもたちへの動物介在教育の活用など、幅広い課題を提示されました。
中塚先生は、ご自身の研究テーマでの「秋田犬っ子祭り」で、500頭の犬が集まっても事故の起こらない事例を紹介され、犬を人に合わせるのではなく、日本人の特性である「慮る」という文化に立ち返り「犬の習性を慮り、周りを慮る」態度により、新しい、日本らしい共生の姿を創り直していく時が来たのではという提言がありました。例えば、犬っ子祭りでは、昼間は犬連れですが、夜の花火大会には、誰も犬を連れて来られません。これによって、花火に驚いた犬が逸走したりという事故も防げます。大切なのは、「棲み分け」を固定的にするのではなく、状況(TPO)によって、うまく作り出すという手法です。また、社会インフラとして、動物の専門家が、地域に於けるペットの民生委員のような役割を果たすこと、現在、小型犬しか利用できない電車に犬連れ車両を整備したり、ATMを利用できるようにして、犬と出掛けやすい環境を整備していくことも提言されました。
山口先生は、特に公営住宅でまだまだペットを飼えない住宅事情があり、飼い主の方へも、ペットが社会の一員にして貰えるよう、一段のマナー向上を求めたいとお話がありました。同行避難が現実の課題となっている今、地域のサポーターとして、動物の専門家が機能する時代が来ており、人も動物も幸せな社会を作っていかなければと、締めくくられました。
太田先生は、「イギリスには、馬が100万頭居て、その理由を尋ねると「健康の為」と答えられる。動物との暮らしが、健康に役立つことをもっと活用していかないといけない。人材育成は不可欠だが、彼らがそれで食べていける仕組みを作っておくことが大切」との意見を述べられました。
最後に、越村先生からは、幼少時からの奈良県で行われているような「いのちの教育」が大切であること、業界としての取り組みについてお話があり、高齢者を支える人材育成については、専門学校に養成学科の新設も予定されています。この11月に新たに設立された「一般財団法人日本ヘルスケア協会」(代表理事 松本南海雄氏(マツモトキヨシホールディングス会長))の理事にも業界代表として越村先生が就任され、「健康寿命延伸」という社会的医療政策の実現に向け、研究支援なども行っていかれるとのことです。
閉会の辞では、永村先生が、高齢化社会の課題の中で、これまで進んできたペットとの幸せな共生社会が縮まざるを得ない状況へと陥りつつある現状の中で、業界自身も様々な取り組みを考えていく必要があると力強くおっしゃり、熱気の中、閉会となりました。