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2015.10.05

【報告】「なぜ イノシシは都市に出没するのか? 〜世界のイノシシ管理から学ぶ〜」

  • 日 時:2015年8月1日(土) 13:30 〜 17:00
  • 場 所:兵庫県公館 1F 大会議室
  • 主 催:兵庫県森林動物研究センター/ アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)
  • 共 催:第5回国際野生動物管理学術会議/神戸市/兵庫県立大学 後 援:環境省近畿地方環境事務所/農林水産省近畿農政局/農林水産省近畿中国森林管理局/「野生生物と社会」学会
  • 協 賛:(株)野生動物保護管理事務所/(株)一成/(株)ニュージェック/(株)地域環境計画

プログラム

  • 開会あいさつ 兵庫県知事 井戸 敏三 氏
  • 講 演:
    1. 「ヨーロッパにおけるイノシシの管理」
    マルコ・アポロニオ教授 (サッサーリ大学:イタリア)
  • 2. 「アメリカにおける野生化したブタの対策と管理体制」
    マーク・スミス准教授 (オーバーン大学:アメリカ)
  • 3. 「韓国ソウルにおけるイノシシの出没の現状と課題」
    リー・ウーシン教授(ソウル国立大学:韓国)
  • 4. 「六甲山におけるイノシシ管理の現状と提言」
    横山 真弓准教授(兵庫県立大学/森林動物研究センター)
  • バネルディスカッション
    コーディネーター:林 良博先生(森林動物研究センター 研究統括監/国立科学博物館館長)

 

暑い夏の1日、兵庫県公館で開催された本シンポジウムに参加しました。井戸知事が冒頭ご挨拶された通り、大変な暑さにもかかわらず、場内は満杯の参加者で、別の熱さに満ちておりました。Knotsは、理事長が、森林動物研究センターの設置の際の協議会のメンバーであったこともあり、このような素晴らしい国際シンポジウムの開催も感慨深く、出席させていただきました。

兵庫県に住んでいれば、ある種、イノシシは身近な存在でもあります。兵庫県では、イノシシによる農林の被害、淡路島での野生化したイノブタ(見た目は全くのイノシシで地元の方々はイノブタと呼んでいる)の問題、神戸市などの市街地でのイノシシによる人身事故と多様な課題を抱えています。これらは海外とも共有できる課題で、今回は、それぞれの先進地域から、現状と対策の報告がありました。

ヨーロッパでは、イノシシの狩猟が盛んで、毎年170万頭が捕獲されていますが、それでも分布拡大と密度の増加が続いているそうです。イノシシの個体数は、狩猟や捕食ではなく、ドングリ類の豊凶に左右されるそうです。ヨーロッパの農林被害は、年間8千万ユーロ(約108億円)、この他有蹄類(シカやイノシシ)との交通事故も大きな問題です。

アメリカからは、野生化したノブタの分布域拡大の報告がありました。16世紀に家畜として導入されたブタが野生化し、20世紀初頭に20州足らずだった生息域は、45〜47州に広がっているそうです。被害額は、全米で15億ドル(約1800億円)に達しています。

韓国の農業被害は、1千万ドル(約12億4千万円)、また、市街地に出没するイノシシの報告もありました。韓国は大陸なので、日本のイノシシより大きいのです。ビデオを拝見しましたが、警察がビストルで対抗するなど、日本に比べると、ワイルドな印象でした。

兵庫県からは、六甲山のイノシシの餌付け問題が報告されました。被害の80%が餌付け場所から500m以内で発生しているとのことで、餌付け問題の解決が大きなテーマです。ビデオの中で、森の中で健康に暮らすイノシシと餌付けをされ川のコンクリートで寝そべるイノシシのビデオがありました。森の中のイノシシは、機敏な目をして、俊敏に山の中を駆け回っていましたが、餌付けされたイノシシは、毛も抜け、メタボになり、牙も伸びて、力なくコンクリートに寝そべっています。コンクリートに囲まれ、成人病を心配して暮らす自分の姿を見せられたようで、ちょっと、ゾッとしました。

餌付け問題については、野良猫の問題として、伴侶動物の分野でも長年取り組みが進められています。会場でお会いした旧知の先生の「餌付けをしている(主に)高齢者の方の生活のQOLを考えないと、この問題は解決しないのではないか」とのお言葉に、ICAC KOBE 2015で高齢者の家庭動物飼育支援の課題に取り組んだばかりでもあり、「動物の課題は、人の課題」と改めて感じました。

パネルディスカッションでは、海外の先生方が、森林動物研究センターの詳細なデータの蓄積に基づく研究に基づき、兵庫県が施策を実施していることを、大変高く評価されていました。最後に韓国のウーシン先生が、欧米が進んでいるのは確かだが、日本も素晴らしい進歩をしており、欧米とは違うアジアの価値観もあるので、それに基づく日本ならではの方策を作っていって貰いたいというお言葉が、心に残りました。