シンポジウム1《発表要旨》:
「同行避難〜これからの人と動物の緊急災害時」
日時:7月19日(日)14:30〜17:30
会場:コンベンションホール
主催:実行委員会
趣旨:緊急災害時に際しては、家族の一員である動物との同行避難を原則とすることが、国(環境省)から打ち出されました。人と動物が共に暮らす社会で、家族の一員である動物の同行避難は不安ばかりの中に人と動物の双方の安心を提供するだけでなく、拒否すれば人の避難をも難しくし、残された動物による公衆衛生上の問題等様々な問題も引き起こします。過去の対応例を踏まえつつ、今後起こりうる緊急災害時における避難のあり方について考えます。
座長メッセージ
座長:笹井 和美氏(公立大学法人 大阪府立大学 獣医学類 学類長・教授/国立大学法人 大阪大学大学院 工学研究科 招聘教授/公益社団法人 大阪府獣医師会 監事/農学博士・獣医師)
地震、津波、台風など自然災害が多発する日本において安全・安心を得るためには、国民一人ひとりや企業等の発意に基づく「自助」、地域の多様な主体による「共助」、国・地方公共団体の「公助」の連携が不可欠であり、過去に大きな災害に見舞われ、その対策は徐々に進んでいるが、明日起こるかもしれない災害に対して、十分な備えがあるとは言いがたい状況である。
国は、災害対策基本法を改訂し、平素からの防災への取組を強化することが重要であるとした。さらに、2013年の9月の「防災の日」を前に、環境省は災害発生時、ペットを原則、同行避難させることを明記した初めてのガイドライン「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」を公表した。
本シンポジウムでは、過去に大きな災害に直面し、その時、動物に関わる対応の中心的な役割を担われた行政担当者の方や動物に関連した各種の法改正やガイドラインの策定に関わられた講師の先生からの講演を通じて、「同行避難」をキーワードとして、人が動物と共に生きていくことの一助となる活発な議論がなされることを目指します。
災害時におけるペットの救護対策ガイドラインhttps://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/h2506/ippan.pdf
「阪神大震災時の状況を踏まえた今後の取り組み」
平成7年1月17日午前5時46分 兵庫県南部地域をマグニチュード7.3の大地震が突然襲い、死者数6,434人、行方不明者数3人、負傷者数43,792人、住宅被害639,686棟、焼損棟数7,574棟という甚大な被害が発生し、被害総額は9兆9268億円(国予算の1割規模)というものでした。こうした中、震災発生4日後の1月21日、当時の(社)兵庫県獣医師会、(社)神戸市獣医師会、(社)日本動物福祉協会阪神支部が「兵庫県南部地震動物救援本部(以下、「救援本部」という。)」を設置。兵庫県、神戸市はこれを支援することとしました。救援本部では、神戸市内、三田市内の2箇所にシェルター施設を設置し、①避難所への餌等物資の配布、②放浪動物の保護・収容及び保護動物の情報提供、③負傷動物の治療、④所有権放棄動物の保管、飼育困難動物の一時預かり、⑤新たな飼い主探し(譲渡)、⑥動物に関する相談 等の活動を行い、この間、犬、猫等の動物を1,556頭保護収容し、その後飼い主への返還、新たな飼い主への譲渡等を行い、1年4ヶ月後の平成8年5月29日、救援本部を閉鎖しました。この間、延べ21,769名のボランティアが救援本部活動に参加し、2億6,679万円の寄付金が寄せられました。この活動は、組織的に行った最初の官民協働での動物救護活動と言われています。この大震災においても、犬、猫等ペット動物を避難所に連れてきた人は多くいいましたが、ペット飼育に伴う鳴き声、臭い等の問題や、長期化する避難所生活の中で、ペットと今後どのように生活していくのか等多くの課題が生じていました。
「静岡県災害時における愛玩動物対策行動指針」について
寺井 克哉氏(静岡県健康福祉部 生活衛生局 衛生課 動物愛護班)
東日本大震災では、飼い主がペットを置いて避難した場合や、避難所での動物飼育の取り決めがなかったため、動物飼育に苦慮した自治体がみられた。
このことから、国は動物愛護管理法の改正により、自治体において災害時における動物対策が適切に行なうことができるよう体制整備を図ることを定めた。
これに対して、静岡県では避難所へ同行避難する被災動物数は、全県で最大約12万頭と想定しているものの、同行避難受入の決定市町が少ないことから、災害時におけるペット対策のルール化が必要と考えられた。
そこで、平成26年6月、静岡県地域防災計画に所有者責任を基本とした同行避難を行うこと等を修正追加し、ペットの取扱い等に関する位置付けを明確化した。内容等については、県の危機管理部と連携して、市町、関係団体及びボランティア等への説明、意見交換会を実施し、飼い主とペットの同行避難が円滑に進むよう取組みを行った。そして、平成27年3月、「災害時における愛玩動物対策行動指針」を策定した。
この指針では、飼い主、行政、獣医師会、ボランティア等の担うべき役割を、日頃からの備え、同行避難及び避難所における飼育管理などについて定めた。
今後は、この指針を飼い主初め関係者に周知しつつ、飼い主とペットの避難所への同行避難及び飼育管理が的確に実施されるよう取組を行っていく。特に、飼い主には、迷子札等の所有者明示、フードや水等の備蓄、健康管理、しつけ等の普及啓発、市町には、同行避難、避難所等におけるペットの受入れ等の明確化をお願いしていきたい。さらに、避難所での飼育管理支援やトラブル防止のために、ボランティアリーダーの育成も実施していきたい。
「中越大震災時における同行避難動物への対応 ―避難所及び仮設住宅における受け入れについて」
2004年10月に起こった新潟県中越大震災は、死者68名、負傷者4,795名、住宅被害約12万棟など大きな被害をもたらした。
この災害による避難者は最大時約10万人で500ヵ所の避難所が開設された。当時は、同行避難という言葉も一般的ではなく、体系的な準備もされていなかったが、余震が続く中、多くの動物たちが避難所へ連れてこられた。動物の取り扱いは避難所の責任者の判断に任されており、犬猫は屋外に置くよう指示されるケースが多く、自転車置場を活用したり、軒下につながれたりといった状況であった。
県では、市町村災害対策本部に動物の相談窓口の開設や飼育用品の配布など支援メニューを提示していたが、被災者には伝わらないことが多く、500ヵ所もの避難所にどれくらいの動物がいるのか把握することは困難であった。
新潟県の基本的な方針として、動物も家族の一員であり、被災動物の支援活動が被災者の心のケアや生きる力となること、できるかぎり早期に被災者と動物が一緒に暮らせる環境をつくること、そのために仮設住宅等でも希望すれば、動物と暮らせるようにすることを掲げ、様々な活動を行った。
県から市町村災害対策本部に仮設住宅での動物飼育を認めるよう要請文を出すとともに、仮設住宅での飼育ルールを定め、マナーを守りトラブルを防止するよう保健所、獣医師会、動物愛護協会スタッフが全面的にサポートする旨を伝えた。その結果、すべての市町村で仮設住宅での動物飼育が認められた。
今後の災害に備え、地域防災計画には同行避難を前提とした避難所設置を、仮設住宅の建設にあたっては、動物との同居を組み込むよう働きかけるべきである。
また、避難訓練などの際には動物同行避難を取り入れ、住民や関係者にそれが当たり前との意識付けをしたり、避難所で作成する避難者名簿の書式に、あらかじめ同行動物の有無や種類の記載欄を設けるなどの取り組みを進めていく必要がある。
「大災害で問われる日頃のペットとの関係」
大西 一嘉氏(神戸大学大学院工学研究科 建築・都市安全計画研究室 准教授/神戸大学都市安全研究センター 協力教員)
防災の基本は、日常と非常時の統合にある。災害時の同行避難に伴うトラブルは、①飼育者の自覚、②ペットのしつけ、③地域の協力・啓発、④避難所運営、等の欠如によるものが多いと考えられ、日頃の人と動物の関係づくりが重要である。
高齢者や障がい者等の災害時の避難支援や、避難所環境整備を定めた「神戸市における災害時の要援護者への支援に関する条例」(平成25年4月1日から施行)に、策定段階から関わった立場から、ペットの同行避難においては、愛玩動物を地域における新たな「災害時要配慮者」としてとらえ直す事を提案する。この場合、地域社会の被害をいかに軽減するかという減災の枠組みで緊急災害時の地域避難のあり方を再定義することが必要である。災害における飼育者の負傷や閉じ込めはペットにとっても致命的であり、自らの身の安全の確保が同行避難の前提条件となる。
防災対策というと「役立つ防災用品」を買いに走り、動物ケージを揃えると言った「ツール」を確保する事でなんとなく安心しがちだが、安全はホームセンターで買える「モノ」ではないとことを再認識する。災害が起こった後に何をすべきか考え、日常の行いや仕組みを「大災害」という視点で常に見直す事が重要である。
ペットとの日頃の関係のどこに問題が潜んでいるかを発見し、課題解決に向けたアクションプランを飼育者、地域、行政で共有する。関係者で設定したタイムテーブルに沿って不断の取り組みを継続し、達成評価をコミュニティレベルで実施する。
1.早期避難:要配慮者の避難には手間と時間がかかる。同行避難者は、避難すべき兆候が現れたら躊躇せず率先避難できる体制を整える。
2.近隣との関係:留守の時に誰がペットを救助するか、避難途上での手助け
3.イメージトレーニング:防災訓練の避難所体験などを参考に、課題の抽出と共有をはかる。避難所でのペット共生のための住民の理解を深める。
「同行避難の必要性と実現に向かっての準備」
東日本大震災後も噴火・土砂災害等、日本各地で次から次へと自然災害が発生し、住民の避難が続いています。東日本大震災における被災動物への対応の反省に基づいて環境省は「原則同行避難」を打ち出しましたが、共に暮らす動物たちの避難・救助は今も問題になりマスコミでも取り上げられております。2014年の統計では、現在、犬10,346千頭、猫9,959千頭(一般社団法人ペットフード協会)が飼育されていますが、ほとんどは家族の一員として強い絆で結ばれた存在であり、置いて避難することは考えられない存在になっています。
被災者も被災動物も大きな不安とストレス下にありますので、お互いが傍にいることでその不安は少しは和らぎますし、逆に同行を拒否すれば、避難そのものを拒否する方も出るでしょう。同行を拒否されて動物が危険地域・立ち入り禁止区域に残されれば一般人は入れず助けにいけません。また、放浪・徘徊動物になってしまえば疾患の伝播や人に対する危険・迷惑となることもありますし、公衆衛生上の問題が起こることもあります。ですので、原則同行避難することで、このような問題も、救助に回らなければなければならない動物の数も、危険にさらされる動物の数も減少します。
ただ、避難所には、被災による不安やプライバシーがないこと等大きなストレスをかかえて人が集まりますので、感染症等が蔓延しやすく精神的に不安定な状況が生まれやすくもなります。同行避難する動物は普段からしっかりと動物福祉を踏まえて心身の健康管理をし、飼い主責任(動物に対する責任・社会に対する責任)を遂行してトラブルや事故が起きないようにしておく必要があります。また、各自治体もいろいろなケースを想定した受け入れるためのマニュアルを作成し、市民に周知徹底するとともに、市民、獣医師やボランティアとともに訓練をして人と動物の絆を大切にした緊急災害対策に向かって準備する必要があると思います。
【分科シンポジウム1】
7月19日 14:30~17:30/コンベンションホール
「同行避難~これからの人と動物の緊急災害時」
阪神・淡路大震災で大きな課題となった動物との同行避難ですが、その後の中越大震災、東日本大震災などの災害を例に、兵庫県、新潟県、静岡県の行政の担当者と、都市の安全計画の専門家、そして、災害時に現場で救助・復興のアドバイスを行なった専門家によって集中的に議論が行なわれました。
複数の災害事例を持ち寄り、多角的に議論を行なう機会はそれほど多くありません。これらの発表の中から垣間見えるのは、災害が発生した地域によって対応や必要とされている支援の内容が違うということです。兵庫県動物愛護センターの杉原氏からは、阪神・淡路大震災当時のスライドを紹介しつつ、どのような被害の中で動物の救護活動が行われたのかが報告されました。当時集まった義援金の残金は、緊急災害時動物救護本部へと引き継がれ、今後の国内での災害時の動物救護初期経費として活用されることになりました。活動を通して実際に経験した、初動時の経費不足に苦慮したことが今後に活かされた事例です。
静岡県健康福祉部の動物愛護班・寺井氏は、東日本大震災での経験を踏まえ、「動物愛護」「被災者の心のケア」「人への危害防止」の観点から同行避難の必要性を示されました。同時に多くの人が被害に遭う災害では、基本的には避難所での飼育管理は飼い主の責任となりますが、飼い主そのものが被害を受けている中で、如何にその責任を全うしてもらえる仕組みを地域の中で作っていくのかが、今後の行政の大きな課題となっています。
また、新潟県動物愛護センターの遠山氏の報告では、柏崎市が発表した避難所開設運営マニュアルの中には、はじめからペットを連れて同行避難をすることが前提になったチェック項目があり、犬の大きさや飼育頭数などを記載する欄が設けられています。動物との同行避難という課題はけっして動物を飼っている人だけの問題ではなく、地域全体の問題として人と動物の両方に手を差し延べるべき課題であるという指針が示された好例といえるのではないでしょうか。
そして、神戸大学大学院研究科で都市安全計画の専門家でもある大西氏からはこれらの話を受けて、日常生活の中でどこにどのようなリスクが潜んでいるかを把握し、日頃から万が一のためにイメージトレーニングをしておくことの重要性が伝えられました。被害に遭うのは必ずしも在宅時ではないことが多いので、さまざまな状況に応じたシミュレーションをしておくことが大切です。
最後に、日本動物福祉協会の山口氏から同行避難について誤解されやすい部分についての具体的な説明がなされました。同行避難の基本は、飼い主が平時から備えておくということです。国や自治体は、あくまでも法律やマニュアルなどを策定し、救護および避難所への受け入れ態勢を整備することにありますので、家族の一員であるペットの命や幸せを守り、社会に対する責任を全うするのは、やはり最終的には飼い主なのです。そのために、日頃から各自で非常時に備え、地域の安全を自治体で守り、国がそのシステムを整備するということが強く求められているのです。