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2014.12.04

【報告】平成26年度 奈良県「いのちの教育」研修会

平成26年度 奈良県「いのちの教育」研修会 報告

奈良県が取り組む 動物のいのちを通した子どもへの「いのちの教育」

 

主催:奈良県うだ・アニマルパーク振興室/公益社団法人 Knots(ノッツ)
   ※2012年6月より連携協定を締結しています。
協力機関:桜井保健所動物愛護センター
後援:奈良県教育委員会/宇陀市教育委員会/公益社団法人日本動物病院協会/公益社団法人奈良県獣医師会

 

 

 平成20年4月に開所した奈良県うだ・アニマルパークには、広大な敷地の公園の中にウシやヒツジ、ヤギ、ウサギなどの動物が飼育されており、県内外から多くの来場者を集める場所として知られています。また、その同じ敷地の中に県の動物愛護センターが併設されており、公園に遊びに来たご家族に愛護センターの取り組みを紹介することができる全国でも珍しい環境の施設です。

 このように、身近に様々な動物に接することができる施設として、奈良県うだ・アニマルパークでは、平成24年から、あらゆるいのちに共感し「いのち」を大切にする心を育む「いのちの教育プログラム」が展開されています。本年度は、奈良県下にある小学校・約200校の内45校がモデル校となってプログラムが実施されました。
 また、これらの取り組みをより多くの自治体に知って頂き、日本の新たなヒューメイン・エデュケーションの道筋を示すため、公益社団法人Knotsは奈良県と連携協定を結んで事業を展開し、全国の動物行政に関わる職員や教育の専門家の皆様を対象に、毎年、春と秋に研修会を実施しています。この研修会では、モデル校の学習風景を見学してもらったり、参加者を対象に模擬授業を行ったりする機会も設けています。

 

 

10月3日(金)

 この日は、午前中にプログラムⅠ〜Ⅲの授業をすべて見学するという、盛りだくさんのスケジュールとなっています。まず最初にプログラムⅠの学習をしたのは、小学3・4年生19名の学校です。この学校では、「友達集会」という集まりを実施しており、嬉しいことがあったら全校で話し合う取り組みをしている元気一杯の子どもたちでした。

 プログラムⅠは、「街」「牧場」「自然」の3つのエリアに分けられた場所に、20種類の大型の張り子の動物を運ぶ作業から始まります。普段自分たちが街の中で見かける動物や、自然の中で見かける動物など、彼らが棲んでいると思う場所に移動させます。そして、それぞれのエリアの動物と、私たち人間はどのような関わり方をしているのかを考え、その動物に対してどのような責任があるのかを考える内容です。

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 次に、プログラムⅡを受講したのは小学1年生19名の学校です。

 このプログラムでは、45分の時間の内最初の三分の一ぐらいの時間を使って、前回のプログラムの「ふりかえり」を行います。子どもの教育に於いて、この「ふりかえり」の時間はとても重要で、しっかりと彼らの心の中に伝えたいメッセージを定着させるための有効な手段です。

 プログラムⅡでは、人間と動物の「生きている証拠」を考えながら、人間も動物の同じ「いのち」を持っているということを考えます。「生きている証拠」のひとつとして、拡張心音計で心臓の音を聞き比べ、同じ「いのち」でも一人一人が皆違う「いのち」を持っていることを実感します。

 そして、パネルのイラストを見ながら、その動物がいったいどんな気持ちなのかをホワイトボードに書いて発表をし、動物にも、人間と同じように「こころ」や「感情」があることを学習します。

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 初めて見るプログラムの内容に、見学者の皆さんも興味津々です。ビデオを撮ったりメモを取ったりしながら、真剣に見入っている姿が印象的です。

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 プログラムⅢは、6月にプログラムⅡを学習した1年生28名です。ここでも「ふりかえり」には十分な時間を取ります。4ヶ月前に学習したにも関わらず、ほとんどの子どもたちが、これまでに学習した重要なポイントをきちんと覚えていてくれました。

 プログラムⅢでは、私たちが動物のためにできることを一緒に考えます。森が少なくなり、ゴミだらけになった自然環境の中で困っている動物たちのイラストを見て、これらの動物はどんな気持ちなのかを考えます。そして次に、この動物が安心して暮らすことができるようにするために、「動物との約束」をホワイトボードに書き込んでもらいます。こうした「約束」は、「責任」という意味でもあることをお伝えして、3つのプログラムは終了します。

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 午後からは、動物愛護センターの施設見学を行い、その後に、現在奈良県が企画開発を行っている中高生向けのプログラムの概要説明がありました。高学年のプログラムでも、いのちの大切さや動物との関わりについて伝える内容は基本的に同じですが、「責任」という部分をより掘り下げたプログラムになっています。ここでは参加者の皆さん
に生徒役になってもらい、体験してもらいながら実施しました。

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 最後に、参加者の皆さんを交えて意見交換会を行いましたが、こうした場で各地の動物行政に関わる担当者が交流を持つという機会は、残念ながらなかなかありません。しかし、どこの自治体も「いのちの教育」というテーマには高い関心があることを伺い知ることができました。そして同様に、実際に地域の子どもたちにどのような手法やアプローチで教育を行えば良いのか…という共通の悩みがあることも伝わってきます。そうした課題に対して、この場で話し合ったことが少しでもヒントとなり、同じ目的意識を持った仲間としてお互いに良い刺激を与え合えるようになれば、この研修会は大成功です。

 

 

11月4日(火)

 秋の研修会の第2回目となるこの日は、小学生の授業の見学は無く、8名の参加者を小学生役に見立てて模擬授業が行われました。内容は10月3日と同じく、プログラムⅠ〜Ⅲまでのすべての内容を体験して頂きました。大人と言えども、相談をしながら大型の張り子の動物を移動させる作業はとても楽しそうです。

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 模擬授業を見ていて改めて気が付くのは、要所要所で手を挙げて発言をさせたり、パネルの言葉を声を揃えて一緒に読み上げたりして、子どもたちの集中力を持続させる工夫が成されていることです。また、自分の意見が黒板に書かれることによって、認められたと感じさせることや、ホワイトボードに書いた後に発表させることによって意見を出やすくなるなど、興味を持って学習をする仕掛けが随所に散りばめられています。子どもたちの記憶の中には、教員の言葉による説明だけではなく、一緒に読み上げた言葉のリズムや視覚的な色、形、そして動作などを伴って記憶されていくのかもしれません。

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 そして午後からは、うだ・アニマルパークの施設概要と共に、奈良県が目指す「いのちの教育」についての説明が行われました。10年前の愛護教育では、奈良県でも啓発犬として生きた犬を学校や施設に連れていくプログラムが行われていましたが、動物への負担が大きいため、現在では生体を使わない教育に方向転換しています。この張り子のプログラムを使用することにより、動物へのストレスもゼロになり、またアレルギーの子どもでも同じように学習することができるようになりました。

 また、奈良県では「いのちの教育プログラム」の方向性を示し、実施成果を調査するために研究協議会を設置し、アンケートの実施内容から理解度や共感度を数値化する試みを行っています。こうした取り組みによって、県下の教育委員会との連携を図り、学校教育の総合的な学習の時間に組み込んでもらう工夫などを行っているのです。

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