『~自然と動物たちに囲まれた児童養護施設~グリーン・チムニーズ特別講演会』報告
講師:マイケル・カウフマン氏(グリーン・チムニーズ&ファーム サム&マイラ・ロス研究所 所長)《欠席》
木下美也子氏(グリーン・チムニーズ&ファーム サム&マイラ・ロス研究所 教育プログラム部長)
日時:2014年7月15日(火)13:00~17:00
会場:帝京科学大学千住キャンパス
主催:帝京科学大学/公益社団法人日本動物病院協会(JAHA)
後援:一般社団法人J-HANBS
―参加報告―
帝京科学大学および公益社団法人日本動物病院協会主催の「グリーン・チムニーズ特別講演会」に参加させて頂きました。
残念ながら、ご都合により来日できなくなってしまった、グリーン・チムニーズ&ファーム サム&マイラ・ロス研究所所長のマイケル・カウフマン氏から参加者にビデオメッセージを頂いていたので、はじめにビデオが上映されました。人と動物を通じた体験教育の素晴らしさと、今後の社会のキーポイントとなる「共生」の重要性を、日本の皆様にも是非学んで欲しいという温かいメッセージを頂き講演会が始まりました。
写真:マイケル・カウフマン氏 写真:木下美也子氏
この日ご講演を頂いたのは、グリーン・チムニーズ&ファーム サム&マイラ・ロス研究所で教育プログラムの部長を務めておられる木下美也子氏です。木下氏からは、グリーンチムニーズに関するお話だけでなく、動物倫理やヒューメイン教育全般に関することにまで話は広がり、人と動物の関わりを通した教育について関心を持つ参加者にとって、非常に有意義な時間となりました。また、グリーンチムニーズでは体験教育を重視していることもあり、動物倫理に関するクイズでは参加者がグループに分かれて意見を出し合い、理解を深めるという手法も実施されました。
○グリーンチムニーズとは
ネイチャーベースドプログラムを中心とした寄宿制治療施設です。施設内には、寄宿舎の他に特別支援学校や農場、ナースセンター等が併設されています。施設内の建物や教室には窓が多く設置されており、自然や動物が視界に入るように工夫されています。特別支援学校では、約6名の生徒に対して修士課程以上の学位を持つ教員2名で対応しています。
○グリーンチムニーズの歴史
グリーンチムニーズは、1947年にロス博士が農場を買い取り幼児向けのキャンプを開始したことから始まります。建物の煙突が緑に塗られていたことからグリーンチムニーズという名前が付きました。その後時代の変化に伴い、グリーンチムニーズに来る子ども達も変化していきました。60年代には暴力的な子ども達の更生を行うようになり、政府の協力も得られるようになりました。90年代には発達障害のある子どものニーズが増え、現在はコミュニケーションが困難な子や自閉症の子ども達が通っています。
○グリーンチムニーズの子ども達
グリーンチムニーズには約200名の子ども達が在籍しています。そのうちの65%がアスペルガーや自閉症児で、10%がPTSDを伴っています。また、子ども達のほとんどがADHDや行動障害などいくつかの障害をあわせ持っています。自傷や他傷行為があり、自分をコントロールできない子や、2年以上勉強が遅れている子もたくさんいるため、五感を使った体験学習が重要とされています。原則として肢体不自由や重度の知的障害のある子は入れません。子ども達が安全に生活できるように、トレーニングを受けた約650名のスタッフが関わります。
○グリーンチムニーズで取り入れている哲学
アメリカでは、科学的に裏打ちされた方法でなければ政府からの援助を受けられないため、グリーンチムニーズではいくつかの哲学を取り入れています。
- ミリュー(環境)セラピー:優しい環境に置いておくことで、子ども達も優しくなる。
- グリーンケア:人間には緑が必要である。
- 野外活動:体験学習と環境教育。屋外での活動において意図的に教育的要素を取り入れる。
- エコ心理学(Nature Human Bond):地球と個人の幸福は親密に繋がっている。
- バイオフィリア説:人間は潜在的に他の生物との結びつきを求める傾向・本能がある。
○体験学習の重要性
教室で講義を聞くだけでは10%ほどしか身に着かない知識が、実際に練習をしたり人に教えたりすることで、75~90%になるという研究報告があります。また、文部科学省の調査では、自然に触れる体験をした子ほど勉強に対してやる気になるといった報告や、自然体験の多い子どもほど正義感が強いといった報告があります。
写真:体験学習の重要性を示すピラミッド
○5つの効果
①思いやり・信頼関係
②自分自身の感情や行動のコントロール
例)子ども達が羊を移動させるときには、1人がエサを持って羊の前を歩き、1人が後ろからついていきます。ここでは、走らないように自分自身をコントロールする力が着き、うまくできると自信へと繋がります。
③学習、教育
例)鶏のたまごの製品化や野菜の販売には算数が関わってきます。また、就労スキルの獲得にも繋がります。最近では、車やトラクターの運転についても勉強させています。
④身体、健康
⑤理解、知覚
例)馬に踏まれ、「この馬は自分のことが嫌いなんだ!」と泣く子どもには、馬の視野が体験できるマスクを着用させ、わざと踏んだわけではないということを体験させます。また、子ども達に馬のボディーランゲージを教えることで、人に興味をもつことがあります。
動物が死んだときには死の悲しみや、死は自然の一環であることを知り、生の喜びを感じることができます。
グリーンチムニーズは、1947年にサミュエル・
ロス博士によってニューヨークに創設され、様々な人の努力によって68年間かけて現在の形に造り上げられた施設です。日本とアメリカでは制度や寄付金による援助の方法などの違いも多く、日本で同じような施設が簡単に実現できる訳ではありませんが、日本の教育現場でも参考にできる点がたくさんあるのではないかと感じました。私自身、インターンとして5か月間グリーンチムニーズに滞在したことがありますが、今回の講義を受講して、今になって「そういうことだったのか!」と気づかされることがたくさんあり、改めてグリーンチムニーズの教育方法について学ぶことができました。
Knots教育部 田沼