和歌山県セミナー「1.17 阪神淡路大震災からの教訓」 報告
今年で3回目となるこのセミナーは、過去の災害を教訓にしようと開催され、<子供の部>では、子供たちに“防災”を身近に感じてもらう疑似体験や災害時に自分はどう行動すれば良いのか、わかりやすく学ぶプログラムが実施されました。また、今回は7頭のボランティア犬と共に、動物から学ぶ「いのち」の大切さ、動物とのふれあい、災害時のマナーなどを学びました。
<大人の部>では公益社団法人 日本動物病院福祉協会・相談役の柴内裕子先生により「人と動物の絆 災害時に人の気持ちを守るための もう一つの命」と題して基調講演が行われ、その後、各専門分野から参加された9名のパネリストによるパネルディスカッションも行われました。高齢者の参加も多く、客席は満席で、和歌山市民の皆さんの防災に対する関心の高さがうかがえました。
<子供の部>
講師:特定非営利活動法人 震災から命を守る会 理事長:臼井 康浩氏
和歌山市保健所 動物保健班:渡邊 喬氏
和歌山県動物愛護推進員/アニマルセラピー和歌山チームリーダー/犬のしつけ幼稚園園長:石田 千晴氏
和歌山県動物愛護推進員の皆様 ボランティア犬7頭
主催:特定非営利活動法人 震災から命を守る会
助成:独立行政法人 国立青少年教育振興機構/子どもゆめ基金助成事業
後援:環境省 近畿地方環境事務所/和歌山県/和歌山市/和歌山市教育委員会
<子供の部>は、保育園児・幼稚園児を対象に行われました。はじめに、阪神・淡路大震災の犠牲者に思いを馳せ全員で黙祷し、会場に集まった子供たちは、まずピアノがひっくり返っていたり、棚が倒れている写真などを見ながら“防災”について触れ、普段から災害に備えることの大切さを学びました。続いて、瓦礫に見立てた卵の殻の上を裸足で歩き「痛い痛い」と言いながらも、楽しみながら全員が疑似体験をしました。しかしこれが実際に瓦礫やガラスなどだと怪我をしてしまうので、避難の際には履物を履くことが大切だと教えられ、枕元に靴と帽子をおいて横になり、「災害だ〜!」の声を合図に素早く靴を履き、帽子をかぶる練習も行い、もしも1人の時に災害が来ても、負けない強い人になろうとの呼びかけに園児たちは元気一杯に「はい!」と答えていました。そして、体力を温存するために、むやみに助けを呼ぶのではなく、物音がしたら大きな声で「お〜い」「助けて〜」と叫ぶように教えられ、普段からご近所の人に挨拶をして関係作りをすることが自分のいのちを救うことに繋がることも学びました。
休憩の後は7頭のボランティア犬と共に、動物の「いのち」について考え、触れ合う時を持ちました。はじめに、心音計を使って人間と犬の心臓の音を実際に聞いて、みんな同じ「いのち」なのだという事を実感しました。続いて様々な様子をした犬の絵を見て、その犬が今どんな気持ちなのかを想像し、近づいてもいいのか、触っても良い状態なのかを考えました。地震の時などには、飼い主とはぐれている犬がいるかもしれないとのお話があると、子供の方から「触らない!」との声が上がりました。そしてそんな時には手を組み、目を閉じ、口を閉じて「木」のようにじっとしていることを学び、実際に会場で実演し、ボランティア犬が園児たちの周りを歩きました。その後、今度は犬と仲良くなる方法をみんなで学びました。7頭のボランティア犬を相手に、まずは飼い主さんに挨拶、そして必ず「触ってもいいですか」と聞くこと、「いいですよ」と言われてから初めて犬に触ることを知りました。犬との挨拶は手をグーにして匂いを嗅いでもらうこと。そして犬がクンクン匂いを嗅いでくれたら、手を開いて喉もとの方から優しく撫でてあげましょうと教えられると、子供たちは目を輝かせながらそれぞれのワンちゃんと触れ合っていました。
最後に、見学をなさっていた公益社団法人 日本動物病院福祉協会・相談役の柴内裕子先生から「犬も家族の一員。優しい気持ちで接してあげてね。そして同じように隣のお友達にも優しく接しましょう」とのお声がけがありワークショップは終了しました。子供たちは口々に「楽しかった」「かわいかった」「あたたかかった」と言いながら開場を後にしました。
<大人の部>
講演:公益社団法人 日本動物病院福祉協会・相談役:柴内 裕子氏
司会進行:公益社団法人 和歌山県獣医師会・会長:玉井 公宏氏
パネリスト:和歌山県環境生活部 県民局 食品・生活衛生課:村上 毅氏
和歌山県動物愛護センター:小寺 澄枝氏
和歌山市 保健所動物保健班:渡邊 喬氏
公益社団法人 日本動物病院福祉協会・相談役:柴内 裕子氏
公益社団法人 Knots理事長:冨永 佳与子氏
特定非営利活動法人 動物愛護社会化推進協会・事務局長:西澤 亮治氏
公益社団法人 日本動物福祉協会・獣医師調査員:山口 千津子氏
笑福会(東日本大震災の影響で和歌山県に避難して来られた方々の親睦会)会長:佐藤 勉氏
松江地区連合自治会・副会長:背山 三郎氏
主催:特定非営利活動法人 震災から命を守る会
後援:環境省 近畿地方環境事務所/和歌山県/和歌山市/和歌山市教育委員会/公益社団法人 日本動物病院福祉協会/公益社団法人 和歌山県獣医師会/公益社団法人 Knots/特定非営利活動法人 動物愛護社会化推進協会/笑福会
基調講演「人と動物の絆 災害時に人の気持ちを守るための もう一つの命」
公益社団法人 日本動物病院福祉協会 相談役 柴内裕子先生
災害時のために普段からしつけをするのは飼い主、また社会の責任です。そのことによって、動物の命は守られるのです。しかし、避難所の指揮をとる人間の考え方によって大きく左右される場合もあります。避難所に犬を入れてもらえずに、やむなく校庭の鉄棒に犬を繋いでいた飼い主が、目の前で犬が津波に流されて行くのを見たといったような悲しい事例もありました。
私たちは、普段から災害時に動物を助ける方法を考えておかないといけません。避難時に使用する段ボール箱に慣れさせる、誰でも抱っこができるようにしておくこと、健康管理をしておくこと、近所に顔見知りを作っておくことも大切です。そしてマイクロチップや迷子札の装着、不妊、去勢、各種ワクチン接種を済ませておくこと。長毛種にはタイトな服を着せることも大事です。毛が、倒れた木などに引っかかるなどして犠牲になった長毛種がたくさんいます。そして、普段からクレートに緊急用品などを結びつけておきましょう。特に首輪とリードは命綱となりますので、とても重要です。猫の場合には、フードとトイレ、特にトイレ(猫砂)は絶対に必要です。
こんな話もあります。あるヨーキーを連れた飼い主さんが避難所で、「家は6人と1匹です」と答えた所、係の人が「入っちゃって」と犬を中に入れてくれたことで、皆の心が緩んだというのです。誰にでも優しい犬がいると、避難所が明るくなり、会話が生まれ、労りあう心が生まれることもあるのです。犬は何歳になっても躾けられます。叱るのではなく褒めて躾けます。犬や猫は社会の一員、人と同じように暮らせるよう躾けておくことが重要です。それから、特に病気の子は薬やフードの備蓄をしておき、6ヶ月ごとにチェックしておくことを忘れずに。
「Human Animal Bond」と言う言葉があります。これは人と動物の絆と言う意味です。およそ1500年以上前のナイル流域の壁画には、すでに犬と一緒にいる人間の絵が描かれています。またイスラエルの墓所の遺跡では、犬と一緒に葬られている少年の骨が見つかっています。私たちと動物の絆は遥か昔から築かれてきたものなのです。
犬がいることによって、人は能動的になります。例えば、欧米ではほとんどの子供が、何でも話せる相手は犬だと答えています。また、老人の家に犬がいると大きな役割を果たします。朝、起こされ、散歩に行くなど、老人の能動的な行為を促します。それに心臓発作で入院した人の退院1年後の生存率は動物と暮らしている方が2倍近く高いという結果も出ています。そして小さい頃から犬や猫と暮らすことによって、アレルギーの発症が低くなるという報告もあります。このような様々な効果は、CAPP活動(人と動物のふれあい活動)によっても証明されています。動物たちは人にとってなぜ効果的なのでしょう。動物たちは死を恐れたり、老後を心配したりしません。飼い主が悲しむとそれを見てシュンとするのです。反論しないし、他言しないので何でも打ち明けられます。また、自然に行動を誘ってくれます。動物たちは人に内在する優しい言葉や思いやりの動作をごく自然に引き出す名手なのです。そして、私たち人類は地球上の全ての命の責任者です。
パネルディスカッション
パネルディスカッションでは、まず和歌山県環境生活部 県民局 食品・生活衛生課の村上氏より過去の地震の経験を生かしつつ、有識者の意見を聞き、方針、方向性を固めていきたいとの発言がありました。和歌山県で大きく動いたことは2つあって、1つは災害時における動物の扱いを被災者支援の一つとして考えること。2つ目は津波などを対象にした避難所に動物を受け入れていくということ。東北では受け入れ拒否が多く、やむなく動物と共に車中で過ごしエコノミー症候群になった人もいるとのことでした。しかし、受け入れる際に考えてもらいたいことは、管理は飼い主の責任であるということ、動物が苦手な人やアレルギーを持つ人に考慮すること。現時点では、同じスペースに入れるかどうかは各避難所の判断に任せることになっているそうです。
和歌山県動物愛護センターの小寺氏からはペットに鑑札、迷子札、マイクロチップの装着をすること。ワクチンや不妊手術等の健康管理をきちんとして欲しいとの発言がありました。
また、実際に東日本大震災を経験された笑福会(東日本大震災の影響で和歌山県に避難して来られた方々の親睦会)会長の佐藤氏からは、自らも奥さんと犬と車で避難をした経験が語られ、ペットを飼っている人のほとんどは車で避難されたということでした。助けが来た時の第一声は「ペットは置いていけ」というものだったが、実際に飼っている人はペットを手放すことなど出来ない。ペットを置いていった人のストレスはいかばかりか…と強い語調で話されました。
直接避難所を回られた経験のある公益社団法人 日本動物福祉協会 獣医師調査員の山口氏からは、始めは避難所にペットがいてもあまり気にされないが、2日、3日と日が経つにつれ、イライラを募らせた人がペットにあたるということが起こるとの発言がありました。また大きなシェルターを建てても、人手や経費がかかることが大きな問題点です。やはり一緒に避難出来るのが一番だと話されました。そうするためには、人と犬の絆が大事であること、地域の人が同じ場所に避難出来ることが好ましいことなどの意見があげられました。いろんな工夫をしながら動物が受け入れられる避難所作りをすることが大切で、やはり一番大事なことは飼い主の責任意識であると述べられました。
公益社団法人Knots理事長の冨永からは、ペットと言う存在は日常であること。震災の問題とは、一瞬にしてこれまでに積み上げて来た人生の多くを無くしてしまうこと。一番取り戻すことが必要なのは日常であり、行政がそれをどうコーディネイトしていくかが大事で、コミュニティで問題を摘出しておいてシミュレーションを行い、一人一人が何をしなければいけないかを整理しておくことが大切との発言がありました。
そして最後に柴内氏より、和歌山県は行政がとても熱心に取り組んでいるし、何か形として残して行くことができれば今日のセミナーに意義があり、和歌山の地から更なる情報の発信をして欲しいとの意見が述べられ、パネルディスカッションは終了しました。
質疑応答では、被災地に残された動物は愛護団体に助けられる可能性があったりするが、問題なのは避難所での動物への対応が不十分な点であるなどの意見が出され、行政側からは、現段階で出来るだけ応援、支援していこうという動きがあり、今、まさにそういった話をしている所で、災害時のマニュアルの中にペットに関するチェックシートを含ませたことなどが紹介されました。
セミナーが終わった後も別室にて関係者による情報交換会が行われ、有意義な意見交換がなされました。今回の反省点としては、動物が苦手な人の意見があまり出なかったことなどがあげられました。そして、今回参加してくれた7頭の犬と飼い主さんの絆の強さ、一日中ワンとも言わず、飼い主さんに集中していたことに多くの人が驚き、賞賛の声が上がりました。
その後、柴内氏から3年生を対象にしたCAPP活動のレクチャーが行われました。まず参加するボランティアは薄い色の服を着る、髪はきちっと止める、高級なアクセサリーはつけないこと。子供には、突然走らない、触らない、大きな声を出さないことを約束してもらいます。ボランティア犬と飼い主によって、アイコンタクトや「待て」などのデモンストレーションを行うと、子供たちはとても喜びます。子供に自分のペットについて話してもらうことも有効です。そして犬との触れ合い方ですが、まずは飼い主さんに挨拶、「触ってもいいですか」と聞くこと。その時、飼い主はすぐに返事をするのではなく、自分の犬の状態をまず確認することが大切です。大丈夫そうであれば肩の所にしゃがんでネックカラーを持ちましょう。触れ合い方を学んだ後は、触ってはいけない状態の説明をします。飼い主に抱っこされている、コンビニなどの前に繋がれている、車や垣根から顔を出している、飼い主のいない犬、盲導犬など。知らない犬が近づいてきたら、「木」になること。手を組んで、目を閉じ、口を閉じます。転んだ場合も同じです。そうすれば、決して犬は咬みません。
このプログラムは人数、学年、犬の頭数を考えて決めます。子供には少し大きな犬を触らせることが大事です。その場で答えることができない質問などが出た場合はそのままにしておかないで、後日、きっちりと回答を送りましょう。また、子供たちに作文を書いてもらうのも良いでしょう。このプログラムではボランティアが大きな役割を果たします。飼い主は、常に笑顔で参加しましょう。そうすれば、先生方の顔も変わります。時間がない場合には犬を抱っこして握手して触らせてあげます(必ず全員が触れるようにすること)。4年生以上では心音計を使うことも有効です。小型犬、大型犬の鼓動の数を数えて比べてみます。また縄跳びを用意しておいて、子供に縄跳びを30回させてみて、運動する前と後で鼓動の数が変わることを教えます。血液が酸素を運ぶために動くことを知り、心臓はポンプであって、気持ちは胸にあるものではないことを教えます。心は脳の中にあります。それぞれ大事なものは堅いもので守られています。全てのプログラムが終了したら、最後は一列に並んで挨拶をして終わります。
遠方からもご参加下さった関係者の皆様、ボランティアの皆様、そしてこのセミナーに参加して下さった皆様、本当にどうもありがとうございました。和歌山県でのこういった取り組みが、今後、近い将来に必ず起こると言われている南海トラフ巨大地震での被害を少しでも少なくし、人と人、人と動物の絆を強くすることに役立つことを願っております。
後日、産經新聞のコラムで当日の様子が紹介され、ペットとの同伴避難が市民の日常を守ることと直結しているということを伝えて下さりました。また、朝日新聞にも掲載され、デジタル版で全文を読むことが可能ですので、下記のURLからアクセス頂きご一読ください。
朝日新聞デジタル版:http://www.asahi.com/area/