自然災害の被災者
トラウマ後の患者の、セラピー犬との絆によるリハビリプロセス
アローン・ワッサーマン博士 リハビリ心理士、動物介在セラピスト:イスラエル
はじめに
職業的背景
私の仕事は、臨床心理士と講師です。私のクリニックでは、様々な年齢の様々な患者さんへの治療を行っています。軽・中度のライフイベントで苦しんでいる普通の患者さんをはじめ、トラウマ後の患者さん、頭部外傷の患者さん、死に至る病気を抱えた患者さんなどのような、重度の障害を持った患者さんもいます。
私のクリニックでは、私のペットとの絆が大きな意味をなしています。私は2匹のセラピー犬と1匹の猫を持っています。セラピーにペットを導入することは、私の専門の独特な部分です。
私はイスラエルのレビンスキー大学にて、動物介在セラピストのプログラムを教えています。学生たちは少なくとも2年間、次のことを関連させながら勉強しなくてはなりません。心理学、動物学、人間動物関係学、そして小児・成人との臨床治療学。
国家的背景
私はユダヤ人で、イスラエルに住んでいます。イスラエルの生活は、主に安全問題から、とても複雑になっています。ユダヤ人は、世界中から迫害された長い歴史をもっています。そしてこの65年間、イスラエル国家は近隣諸国とのたくさんの戦争をしてきました。これらの戦争により、多くの犠牲者が双方に出ましたし、生き残った多くの戦士もPTSDを発症しています。戦争と並行して怒った多くのテロ攻撃は、市民たちをPTSDに陥れています。自然災害やほかの原因によるPTSDの患者もいます。
講演の流れ
1)PTSD:一般的な説明
2)サブ母集団:自然災害による被害者
3)イスラエルにおける動物介在療法(AAT)と、日本への提案
4)セラピー犬の役割
心的外傷後ストレス障害(PTSD)
(人間の能力としての)不安、不安性障害、そしてPTSDの特徴を簡単にレビューしましょう。不安性障害には、パニック障害、恐怖症、強迫性障害、PTSD、そして一般的不安が含まれています。
命が脅かされるようなことに出会った患者は、大きな情緒的ストレスを経験します。
私的なこと(例えばレイプやアクシデント)もありますし、公共的なこと(例えば自然災害やテロ攻撃)もあります。
PTSDの症状には、トラウマの再体験(悪夢やフラッシュバック)、トラウマを思い出させることの持続的回避、持続的な過覚醒などがあります。一般的に関連してくる症状は、鬱状態、不安、そして認知的困難性です。
ここでは、抗し難い自然脅威によって、現実に急に命が脅かされた一般市民に焦点を絞りましょう。身体的外傷や誰か愛しい人(たち)の喪失をする人もいます。
自然災害による被害者
普通の人生を歩んでいた男性や女性たち。彼らは普通の生活をし、普通の共同体に属していた人たちです。
そこに、命を脅かすような特別なことが起こり、それがトラウマになります(例えば、2011年3月11日の午後)。それには私的・国家的な特徴があります。
マスコミ報道は、リハビリのプロセスに影響します。
再度同じことが起こらない保証はありません。
必要なこととは・・・
異なった領域に起こっている問題に対処するために必要なサポート
・ 心理的(不安、抑うつなど)
・ 行動的(回避、攻撃など)
・ 認知的(注意、記憶、構成など)
勉学や仕事、そして家族や友人との時間が欠けている場合、これらは困難となります。
治療・・・
・サポート、教育、対処メカニズムによる危機介入
・事象に関連したストレスへの暴露
・ストレスマネージメント、リラクゼーション
・認知技術を利用した多彩な対人精神療法
・薬物療法
動物介在療法(Animal Assisted Therapy:AAT)
・人間と動物の絆の理解
・AATの簡単な歴史
・セラピーに用いる動物について
・セラピーに犬を用いることの長所
セラピストは、犬の行動をコントロールする能力が必要である。犬はコミュニケーション能力が高く、情緒的な生き物であり、犬はセッションを好む。ちょうどよい大きさであり、数も豊富で、倫理的な問題もない。
・セラピー犬は、特別なセラピストが使用するために個々トレーニングされている。
・犬は、治療現場を、ひとつに結合させることができる。相互作用の三つのパートを一つにまとめ上げる。つまり「患者」「セラピスト」「犬」。
・セラピストの飼っている犬
・いくつかの、もしくはすべてのセッションに犬が存在する。
・存在するとしても、セッションすべてに犬がいる必要はない。
・セラピストが開始するときは・・・
・一緒に遊ぶ・・・不安解消、気分向上、責任感、不穏行動のコントロール、共感能力の向上、など
・成人向けのプレイセラピーになる
・セラピストが犬の福祉に配慮することが、役割モデルになる。
・犬は情緒状態に反応する:泣く、怒る、イライラ、躁的、喜び
・多くのPTSD患者は、心理士のところに行くことに気が進まない。とても恐ろしい体験だと考える者もいる。イスラエルでは、動物介在療法師は、心理士でいる必要はない。心理学・教育学・ソーシャルワーク・言語聴覚士などの学位を持つ人たちへのAAT免状を我々は発行している。そこで学ぶ者たちは、少なくとも2年間学ばねばならず、またスーパーバイザーのもとで、臨床実践をしなければならない。
・PTSDの患者が私のところにやってきて犬を見たとき、不安レベルは急激に下がる。トラウマ後の悪い状況を否定する患者も多いが、犬は感情表現を引き出すことに長けている。いい場合も悪い場合も。同時に、特に患者が破滅的な状態の場合、共感性の問題を持つ患者もいる。感情コントロール不能が一番の症状の場合、犬を呼んでもらい従わせるのが効果的である。会話の最中に犬を撫でていてもらうと、部屋での緊張を和らげるのに役立つ。
この講演において、2011年の巨大地震と津波の被害者のPTSDという特殊な状況におけるPTSD患者に対して、どういうふうに働きかければいいかを、私は述べたい。こういう患者さんのニーズに立ち向かうのに、いかに犬の存在が役に立つかをお示ししたい。
男性サバイバーとのドッグセラピー
山口修喜 カウンセリングオフィスPomu
少年の頃性的虐待を受けた男性とのドッグセラピーについてのテーマで発表する。まず、簡単に男性サバイバーの特徴について。そして、トラウマ、PTSDを理解するためにいくつかのモデルを紹介する。最後に、男性サバイバーにとって犬を介在させることがどのようにトラウマ回復につながるのかを説明する。
まず、性的虐待を受けるとPTSDを発症することがかなり多い。そして、虐待が繰り返されると解離症状が強く、複雑性PTSDとなる。多くの男性サバイバーは過去のことがフラッシュバックになり、神経のシステムが過覚醒やシャットダウンという意味での解離が起こる。
そして、トラウマやPTSDを理解するに当たって、多重迷走神経理論(Polyvagal Theory) を紹介する。この理論は何度も繰り返されるトラウマや虐待により、過覚醒と解離のシステムを繰り返し行き来することを説明している。その過覚醒と解離を、身体感覚に働きかけ、落ち着かせることでトラウマからの回復が可能になる。
最後に、犬の役割について。サバイバーが過覚醒や解離していると犬が何らかの反応をする。カウンセラーに気付かされるより、犬がサバイバーに教えてくれる。犬がクライアントの神経システムの鏡となる。そして、悲しみ、怒り、寂しさなどの感情のプロセスにも犬の存在が助けになる。実際の事例を多く挙げる。
被虐待児への動物介在療法(ドッグプログラム)
海野干畝子
兵庫教育大学 人間発達教育専攻 臨床心理学コ−ス 准教授
発表者は、被虐待児童の愛着形成を目的にした犬による動物介在療法を実践したので報告する。対象は、情緒障害児短期治療施設の6歳から12歳までの小学生女子6名である。方法は、施設での支援内容に、ドッグプログラム介入群と、ドッグプログラム介入無群にわけて、その介入前後での被虐待児童の行動と情緒の様相について、質的量的に比較した。
ドッグプログラムの構成は、グル−ププログラムと個人プログラムに分かれており、個人-プログラムは、犬一匹(筆者の所属犬)と児童、と施設職員1名が居る中で、被虐待児童への心理療法(インテ−ク面接、思春期解離体験尺度の変法、生育史聴取)を行った。
結果については、施設職員へのインタビュ−調査の結果の印象では、ドッグプログラム介入群は、ドッグプログラム介入無群に比較して、より早急な愛着形成と信頼関係の構築が可能であると示された。量的には現在分析継続中であり当日発表により報告する。
現時点の考察は、児童は、ドッグプログラム開始後、CDC(子どもの解離チェツクリスト)の数値は増大し、その後、解離症状が消失、復活と循環した、9か月後地点で数値は低レベルで落ち着く、という変動の経過をたどった。このことから、ドッグプログラムが、より児童の身体と情緒に変動を与え、感覚統合が促進することが示唆された。
Nature Catastrophe Victims:
The Rehabilitation Process of Post Traumatic Patients with the Aid of a Therapy Dog (A transcript for the Japan lectures)
Dr. Alon Wasserman, Rehabilitation Psychologist, Animal Assisted Therapist, Israel
Introduction
Professional background:
o I work as a psychotherapist and as a lecturer. In my clinic I give service to a wide variety of patients of all ages. Starting from normal patients who are struggling with minor-moderate life events, through patients with severe disturbances such as post traumatic patients, brain injured patients and life threatening illness patients.
o A major part of my clinical work is done with the aid of my pets. I have two therapy dogs and a cat. The embedding of the pets in therapy is a unique part of my expertise.
o I teach at the program for animal assisted therapists at the Levinsky College in Israel. Students are enrolled for at least two years of studies which combines psychology, zoology, human-animal relationship and practical therapeutic work with children and adults.
National background:
o I am Jewish and live in Israel. Life in Israel is very complicated mainly because of security problems. The Jewish people have a long history of prosecution all over the world, and in the past 65 years, the state of Israel had many wars with our neighbor countries. These wars left many casualties for both sides, and many soldiers who survived developed PTSD. Alongside to the wars, there were many terror attacks which left civilians with PTSD. There are also people who are suffering PTSD due to natural catastrophes and other causes.
Lecture Layout
1. Post-Traumatic Stress Disorder (PTSD): General explanation
2. Sub population: Natural Catastrophe Victims
3. Animal assisted therapy in Israel and implication to Japan
4. Roles of the Therapy Dog
Post-Traumatic Stress Disorder (PTSD)
A quick review of anxiety (as a human resource), anxiety disorders and the specifications of PTSD. Anxiety disorders include Panic Disorder, Specific Phobia, Obsessive-Compulsive Disorder, PTSD and Generalized Anxiety.
o Patients have experienced a major emotional stress due to a life threatening event.
o Private (e.g., rape, accident) vs. Public Events (e.g., natural catastrophes, Terror attacks).
o PTSD Consists of: Re-experiencing the trauma (nightmares, flashbacks), Persistent avoidance of reminders of the trauma, Persistent hypervigilence. Common associated symptoms are depression, anxiety and cognitive difficulties.
o Here we focus on civilians who were in real and immediate danger to their lives due to an overwhelming natural force. Some of them were physically injured and/or lost a loved one (or more).
Natural Catastrophe Victims
o Females and males across the whole life span, who have developed in a normal way.
o Who performed or took part in normal activities.
o The trauma was caused at a specific moment in life (e.g., the afternoon of March 11, 2011), and has personal and national characteristics.
o Mass media coverage influence the rehabilitation process.
o There is no guarantee that it will not happen again.
Needs –
Support is needed to cope with problems in different domains:
o Emotional (anxiety, depression, etc.)
o Behavioral (avoidance, aggression, etc.)
o Cognitive (attention, memory, organization, etc.)
These difficulties cause lack of function at study, work and at home with family and friends.
Treatment –
o Crisis intervention with support, education and coping mechanisms.
o Exposure to stress related events.
o Stress management, relaxation.
o A mixture of interpersonal psychotherapy with cognitive practices.
o Medication.
Animal Assisted Therapy (AAT)
o Understanding the bond between mankind and other animals.
o A brief history of AAT
o Relevant Animals in Therapy.
o The advantages of dogs to therapy – the therapist’s ability to control the dog’s behavior, highly communicative and emotional creature, the dog enjoys the sessions, suitable size, abundance of dogs, no ethical issues.
o Therapy dogs are individually trained for the use of a specific therapist.
o The dog becomes an integrated part of the therapeutic setting, and a part of the communication triangle that interacts: Patient – Therapist – Dog
o Therapist’s private dog.
o Present at some or all sessions.
o When present, not necessarily for the whole session.
o Initiations of the Therapist –
• Playing together – reducing anxiety, mood uplifting, responsibility, controlling disturbing behavior, improving empathy ability, etc.
• Play therapy suited to adults.
• The therapist concern with the dog’s well-being serves as role modeling.
o The dog’s response to emotional situations – crying, anger and aggression, manic attacks, joy.
o One problem we have is that many PTSD patients are reluctant to go to a psychologist. Some of them think of it as very frightening experience. In Israel an Animal Assisted Therapist, does not have to be a psychologist. We have diploma AAT studies for graduates of BA in psychology/education/social work/speech therapists, etc. The students studies for at least two years and doing practical therapeutic work under supervision.
o When a PTSD patient comes to me and sees my dog – there is a sudden drop of the anxiety level. Many of them also deny their bad situation after the trauma, so the dog promotes expressing feelings in extreme – for the good or for the worse. Also, some of them have a problem with empathy, especially if one has a catastrophic reaction to his or her situation. When the sense of loss of control is a major feeling – it is over whelming to call a dog that comes and obey you. Also padding the dog while speaking, promotes relaxing in the room.
o In the lectures I will explain specifically how to work with PTSD patients, considering the special circumstances of the PTSD victims of the great earth quack and tsunami of 2011. I will show how the presence of the dog helps to tackle the needs of these patients.
Dog therapy with male survivors
Nobuki Yamaguchi
Counseling Office Pomu
Graduate School of Education – Human Development Education
Clincal Psyocholgy Assoiceate Professor