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2011.06.24

ワークショップ Ⅷ「食の安全を考える」

 

「食の安全を考える」
ワークショップ主催者挨拶:神戸アニマルケア会議 – ICAC KOBE 2012 事務局

O-157が、牛のレバー内部に存在するというニュースが飛び込んできました。「食の安全・安心」について、またひとつ、新たな課題となることでしょう。
現代のように社会が近代化する前は、多くの動物がそうであるように、人間もまた、そのほとんどの時間と労力を「食」に集中させていたと思います。社会の分業化が進み、豊かな「食」に囲まれるようなった昨今、「食」の生産の部分は、消費者から随分遠くなりました。「食の安全・安心」についても、どことなく「人頼み」的なものとなっていることは否めないのではないでしょうか。
しかし、最終的にそれを口にし、自身の糧としていくのは、他でもない私達ひとりひとりです。もう一度、「自身が口にするもの」について、ただ求めるのではなく、「正しい知識を持ち、共に考える」意識を向けていく時が来ているのではないでしょうか。
「食の安全・安心」に付いて、最新情報を学び、また、消費者としての私達に求められる役割に付いても、考察を深めたいと思います。

座長メッセージ

吉川泰弘氏
北里大学獣医学部 教授/東京大学 名誉教授/日本学術会議 会員

日本人が食糧危機を脱して、十分な栄養価のある食品を、安定して1日3回食べられるようになったのは、第2次大戦を経て10年~20年後ではなかったろうか?戦後、感染症が猛威を振るい、身の回りに腸チフスやパラチフス、赤痢、結核、日本脳炎、はしか、ポリオ・・・と、デパートの売り場のように沢山の感染症があり、食中毒の危険性は、それほど順位の高いものではなかった。また、現在のように衛生管理が行き届いていたわけではなく、「安全神話」などは存在しなかった。市民は、経験知を生かし、自分の責任で安全なものを見分けて食べるのが習慣であったと思う。
それから半世紀がたち、飽食時代を経て、「食の安全」が人々の主要なテーマになった。食品にリスクがあってはならず、ゼロリスクを求めて生産者、加工・流通、販売者が最善の努力を果たし、行政は出来る限り高いハードルで規制を行う。安全性が高まるほどに「安全神話」が出来上がり、一時的に皆が責任を回避した平穏状態に住むことができる。しかし、神話は崩れた瞬間にパニックと風評被害、バッシングの嵐となり、信頼は崩壊する。
ゼロリスクがないならば、どの程度のリスクが残るのか?それは、受け入れられるレベルのリスクなのか?ステークホルダー(生産者、消費者、リスク管理する行政者、リスク評価者等)が皆で、責任を持って真剣に議論しなければいけない。相手に責任を押し付けてゼロリスクの安全地帯に逃げ込む限り、問題の解決にはならないのではないか?BSEも放射能汚染も、どこに安全レベルを設定するのかが見えてこない。今回のワークショップが、この問題に少しでも答えられればいいと思っている。

 

畜産現場における安全性確保の取り組み
酒井 淳一 山形県農業共済組合連合会 参事

 

豚は紀元前8000年、牛は同じく6000年ごろに野生種から家畜化されたと考えられている。それから長い間、家畜は家族的な環境のなかで飼養されてきたが、近代になって飼養頭数を増やした集約的な畜産管理技術が台頭すると、科学の進歩とあいまってさまざまな農薬や動物用医薬品などが使われはじめ、家畜の生産性は飛躍的に向上した。しかし、一方では、畜産物への薬物混入という新たな問題が発生し、ときに人の健康を脅かす事態にもなっている。
このような状況を踏まえて、畜産現場では、生産性を維持しながら畜産物の安全性を確保するための取り組みが行なわれている。農場HACCPの導入はそのひとつである。これは、日常の作業工程の中にある畜産物の安全性を脅かす要因(危害)をあらかじめ設定し、それらを管理することで危害の発生を未然に防止しようとするものである。この方法は、検査によって安全でないものを抜き取る従来の方法に比べて格段に効率的だが、導入には農場作業者の高い衛生観念、多項目にわたる日常的な点検と記帳、多方面の専門的知識、さらには多くの労働力が必要となる。
もうひとつは、家畜を健康に飼養することで主に動物用医薬品の使用を減らし、危害が発生する機会を少なくしようという考え方である。この場合、疾病の専門家である獣医師の役割が大きくなり、家畜の管理と疾病に関する広範な知識と十分な経験、農場の実情に合わせて指導できる応用力、農場側のモチベーションを高めることができるコミュニケーション能力など、高レベルな臨床的総合力が求められる。
これらの取り組みは、常に生産者と消費者との連携のもとで行われることが、実効あるものとする最大の条件である。さらに、安全性確保の仕組み構築と効果的な運用と支援は、畜産の専門家、加工・流通業界や社会教育の関係機関などの後押しと協力が必要である。

毎日食べる”お肉”の安全性
森田幸雄 /東京家政大学食品衛生学第二研究室 準教授

 

   食中毒を予防する三原則は、食中毒菌を「つけない」、「ふやさない」、そして食品を「加熱し食中毒菌をやっつける(殺す)」ということです。これらが守られないと食中毒になります。
1.食肉の基本と我が国の食習慣
健康な家畜のみ食べることができます。そしてお肉が食中毒菌に汚染しないように処理・加工・調理します。また、日本人は生食の習慣があります。生卵、刺身、レバ刺、とりわさ(鶏肉のさしみ)、ユッケ等、生で食べる食品が多数あります。
2.日本の食肉検査と流通食肉の現状
牛肉、豚肉、鶏肉、馬肉、羊肉はすべて食肉検査が行われています。また、家畜の腸内に生息する食中毒細菌(カンピロバクター、サルモネラ、腸管出血性大腸菌等)の食肉への付着防止は食肉処理場での「HACCPシステムの考え方に沿った衛生管理」で実施されています。1996年、腸管出血性大腸菌による食中毒の多発以降、様々な対策が行われ、以前よりも安全な食肉が流通しています。
3.食中毒の現状
2010年の食中毒患者数の第1位はノロウイルス(13,904人)、第2位はサルモネラ(2,476人)、第3位はカンピロバクター(2,092人)、第4位はウエルシュ菌(1,151人)です。お肉等を原因とする食中毒はカンピロバクター、サルモネラ、ウエルシュ菌で、家畜の腸内(カンピロバクターは腸と肝臓内)に生息しているものが何らかの経路で食品と一緒に口の中に入って食中毒を発生させます。
4.食中毒の防止
 「つけない」:農場から食卓までの全工程で食肉への二次汚染を防止することです。「ふやさない」:常に10℃以下を保ち細菌を増やさないということです。「加熱する」:食肉は十分に加熱してください。生食は「つけない」、「ふやさない」の2つで衛生管理を実施しなければならないのでより難しい管理が必要です。

 

食品のリスク評価−食中毒原因微生物、放射性物質−
新本英二 内閣府食品安全委員会事務局情報・緊急時対応課長

私たちは「食」を一日も欠かすことができません。私たちが口にする食品には豊かな栄養成分とともに、わずかながら健康に悪影響を与える可能性のある危害要因(ハザード)が含まれています。このため、食品を食べることによる人の健康に悪影響が生じる確率とその深刻さの程度である「リスク」を科学的に評価し、適切な管理によって悪影響を健康に支障のないレベルに低く抑えることが必要です。
食品安全行政は国民の健康保護が最も重要であるという基本的認識の下で行われることが求められる中で、科学的知見に基づいて中立公正なリスク評価を行う機関として平成15年7月に内閣府に設置された食品安全委員会は、食品に含まれる可能性のある化学物質や食中毒原因微生物などの危害要因が人の健康に与える影響について評価を行っています。このリスク評価は、厚生労働省、農林水産省などのリスク管理機関からの要請を受けて行うほか、自らの判断により評価を行うものもあります。また、国民の関心の高いリスク評価の内容などについて、ホームページなどによる情報提供や意見交換会の開催などによるリスクコミニュケーションに取り組んでいます。
これまでに行われたリスク評価の案件数は、農薬、動物用医薬品、遺伝子組換え食品、食品添加物などで1千件を超えています。国民の関心が特に高かった案件例としては、「BSEに係るリスク評価(平成17年)」、「体細胞クローン家畜由来食品(平成21年)」などがあります。平成23年には、死亡者も出た食中毒事件を契機とした規格基準の制定に関連して「生食用食肉(牛肉)における腸管出血性大腸菌及びサルモネラ属菌」の評価が8月に取りまとめられ、また、福島原発事故に伴う食品規制に関連して「食品中に含まれる放射性物質」の評価が10月に取りまとめられました。リスク管理機関において、評価結果を踏まえたリスク管理措置が実施、検討されています。