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2011.02.08

ヒューマン・アニマル・ボンドの分野での活動のまとめ

ヒューマン・アニマル ボンドの分野での活動のまとめ
エリザベス・オームロッド氏 BVMS  MRCVS

コンパニオン アニマル研究協会(SCAS)会長。

2004年10月6日~9日、英国グラスゴーで開催される、IAHAIO国際会議「第10回ヒューマン・アニマル インターアクション: 人と動物、永遠の関係」運営委員会および実行委員会に携わっている。

保健およびソーシャルケア施設におけるコンパニオン アニマルについての、コンパニオン アニマル福祉カウンシル/SCASの協力研究への参加。

SCAS 1998~2002年度副会長。

1986年、SCAS実行委員会メンバーに選出される。

1988年 「チャーチルフェロー」の奨学金を与えられアメリカにてヒューマン アニマル ボンドの勉強をする。

英国介助犬プログラム、「ケーナイン パートナーズ」の共同創立者となる。

「パースウェイ」設立メンバー。UKペット イン ハウジング連合.

1991年~1995年、スコットランド刑務所ペットセラピーのアドバイザー。

ヒューマン アニマル ボンド(人間と動物の絆)について、多方面からプレゼンテーション、講演を行っている。またラジオ、テレビ、新聞、雑誌などを通じて「人間と動物の関係」について貢献する活動を続けている。


ヒューマン アニマル ボンドの初めての経験
都市内クリニック勤務で得た知識
エリザベス・オームロッドはスコットランド人獣医で、1975年グラスゴー大学を卒業。グラスゴー大学小動物の学内獣医のポストを1978年まで勤める。この期間、カーギルクリニック獣医部長に任命される。このクリニックは、大学市内動物クリニックで、プライベート(私)の治療が支払えないような人々のために、治療を提供している。彼女はここで、ヒューマン アニマル ボンドの威力について認識し、コンパニオンアニマルが人間に与えてくれる社会的なサポートの多様性について着目した。彼女は、ヒューマン アニマル ボンドが、人生の中で大きな問題や転機に直面したとき、その緩衝剤になってくれることを確認した。そしてまた、ペットの飼われ方を調べることで、その家の家族の状態や健康がわかることも学んだ。動物のケアの仕方を人間と比較しながら教えることで、飼い主は、ペットの、そして自分の子どもたちや自分たち自身の病気予防に関する大切なことがらを学ぶこともわかった。飼い主たちはペットケアについての情報を得ることに熱心で、人間の健康と比較することで非常に関心を持ってくれる。エリザベス・オームロッドは、このような方法であれば、人間の予防医学も威嚇的でなく、受け入れられやすい、印象深い形で教えられるのだということも発見した。しかし同時に、複数人数(グループ)での授業、学校児童へのアニマルケアのレッスンの導入、最も恵まれない地域を対象にした指導が特に効果的であることも認識した。

小さな街でのヒューマン アニマル ボンド活動
1984年から現在までのプライベート(私)動物治療活動
1984年、彼女と獣医病理学者である夫は、ヒューマン アニマル ボンドについて本格的に解明する目的で、英国ランカシャーの小さな漁村で動物病院を購入した。エリザベスは、さまざまな推測を立てては、その小さな町で積極的にヒューマン アニマル ボンドに関する試みを行った。人口が3万人しかいないその町は、目的のためには理想的で、学際的交流の場を数多く提供してくれるものになるであろうと思われた。この町には、回復期患者用病院と、主に老人性痴呆を扱う精神疾患に対応する病院の2つの病院がある。また身体障害者用の居住型センター、そして知的障害者用の居住型センターおよびデイケアセンターもある。海沿いの町であることから、退職者や老人向けのホーム施設が数多くある。中・高等学校が3校と小学校が10校ある。

調査項目は以下の通り。
・ 施設における動物の役割
・ 教育の中での動物の役割
・ 地域衛生、教育、ソーシャルケアの中での獣医の役割:地方自治体へのアドバイザー的役割:動物、住宅問題、動物福祉、野生動物、地方自治体とエコシステム(生態系)などに関するアドバイス。
・ ソーシャルサポート(社会的援助)を提供する「ボンド(絆)」の可能性
エリザベスはヒューマン アニマル ボンドについてほかの介護ケアの専門家との情報交換に積極的であった。たとえば、他の専門家たちは、虐待のサイクル、動物のネグレクトや虐待と児童虐待との関連などの知識を得るし、ヘルスケア従事者はセラピーにおける動物の役割について、学校の先生は教育における動物の役割について知る必要がある。

この19年間、ヒューマン アニマル ボンドの役割、地域をサポートする獣医の役割について日々調査、研究がなされた。

コミュニティー アウトリーチ
コミュニティーアウトリーチの活動は、まず、健康やソーシャルケアに携わる専門家仲間をつなぐネットワークを開発することから始まった。専門家仲間たちは彼女のヒューマン アニマル ボンドのリソースライブラリー(情報図書館)にアクセスでき、プログラムなどを開発する際にはアドバイスや援助が受けられる。
このような学際的ネットワーキングは、飼い主にも動物にも、そして獣医にも利点があることがわかった。アプローチをしてきた大半の人々が、ヒューマン アニマル ボンド、道徳教育、アニマル アシステッド セラピーなどの情報を歓迎した。またこの活動の予想以上の利益として、エリザベスにはこれらの専門家仲間のネットワーキングが、かけがえのない社会的サポートを与えてくれている。

教育における動物
エリザベスは、地域の小、中学校で授業を行っている。子どもたちはどの年齢でも、動物、そのケアや福祉について学ぶことに熱心である。とても重要なことも、動物をたとえにして子どもたちにしっかり伝えることができる。病気予防の注意についてなどには、非常に有効な方法である。子どもたちには、動物と安全に接する方法、噛まれたり引っかかれたりを避ける方法を教える。これらのレッスンを最も効果的にするには、動物に関連した教育を、価値を教える教育として子どもたちに、思いやりや理解を通して、人間は動物や植物、他人そして我々が共有する環境を尊敬するものだという、道徳(人道)教育として行うことだとエリザベスは言う。

施設における動物
フリートウッドにある大半の施設ではすでに動物が飼われており、中には訪問動物を受け入れている人もいた。しかし、それらの動物はすべて、何の基準もなく選択されたものであることが懸念される点でした。いくつかの施設では、不適切で信用のないところからの犬の訪問を受け入れているところもあった。数箇所の施設では、プログラム運営のガイドラインをまとめているところや、スタッフへのAAAやAATの指導書を設けているところもあった。

エリザベスは、病院、学校、居住型ケア施設、シェルター住宅、刑務所など、さまざまな環境にAAAやAATを導入してきた。プログラムの導入および継続の有無については、その施設のマネージャーの姿勢や、キーパーソンの関心や協力による。また病院では感染管理オフィサーの意見も尊重される。マネージメントは数年ごとに交代するので、プログラムは入居者やスタッフにとって不利益なものになってしまうこともある。

動物の選択基準やケア、そしてスタッフおよびボランティアの研修用ガイドラインの必要性は明確である。

住宅におけるペット
地域の老人向けシェルター住宅におけるペットの規則はかなりまちまちである。
ある地域の住宅協会は、ペットを全面的に禁止していたが、非常に進歩的なペットポリシー(方針)に変更した。その集合住宅のマネージャーはある日、一人の住人が規則に反して猫を飼っていることに気がついた。彼はすべての住人に、28日以内にペットを処分しない者は立ち退きを命じると指示を出した。そこには6名のペットオーナーがおり、その指令は彼らに身体に支障をきたすほどの大きなストレスをもたらした。住人たちは、ペットキーピング方針を採択し、それに老人にとって動物と接触することで得られる健康や社会的利益に関する情報を添付し、管理委員会に提示した。委員会は直ちに現行の方針を取りやめ、提案された方針を受け入れた。今この集合住宅は、街で最良のペットポリシーを持っている。

いくつかの住宅協会はペットを禁止しているが、このことをいつも入居予定者に明確にしていない。かなりの労力は必要だが、個々のケースバイケースでこれらの規則を改正することはできる。一つのケースを解決するのに大体一ヶ月かかる。また、入居の老人に規則を変えるのだという心構えがない限り挑めない問題である。多くの老人は、罰せられるのではないかという不安から、規則を変えることを恐れる。

英国には前向きなペットキーピング政策が必要なことは明確である。またペットを飼ったり、植物を育てたりできる(公)の住宅設計の必要性にも迫られている。「育てる」機会を失わされている老人や障害者が多すぎることは問題である。

ATTと違反者・犯罪者
80年代の半ば、エリザベスはフリットウッド刑務所の保護監察官、メアリー・ワイアムに招かれ品行の悪い、要注意青年グループに道徳教育を行った。青年たちは大変良く反応し、後に野生動物の保護キャンペーンに携わるまでになった。エリザベス。オームロッドとメアリー・ワイアムはその後も協力して仕事を続けたが、獣医学とソーシャルワークの技術が相乗効果を生んだ。メアリー・ワイアムはSCASの前会長であり、現在はランカシャーのアシスタントチーフ保護監察官である。最初の共同プロジェクトは、厳重警備刑務所のためのAATプログラムを開発することであった。それは受刑者、その家族、スタッフそして動物にもそのプログラムの利益が認められた。

その後の共同研究では、施設、英国や海外における更正施設の中での動物の役割についての検証であった。英国の施設には、刑務所を含め、動物を持ち込むことに関する正式なガイドラインがなく、そのことがAATの可能性に、特にレジデント動物の必要なプログラムに制限をもたらのす。刑務所でのプログラムの存続は、善意と刑務所長の協力にかかっている。しかし、刑務所のスタッフ交代が頻繁なことと、ポリシーやガイドラインが存在しないことで、プログラムは短命になりがちである。これは違反者・犯罪者の更正にとっては逆効果となりかねない。

スコットランドでの刑務所制度を研究中にエリザベスは、刑務所特殊ユニットへのAATアドバイザーに任命された。ここは最高警備ユニットで、ここで彼女は普通の刑務所では収容できない、最も難しい、興奮しやすい受刑者たちのために数年間働いた。動物と触れ合うことは、個人ペットを持とうとしなかった人たちも含め、この特殊ユニットの全員に明らかな成果が見られた。

ボンド(絆)中心の動物病院
獣医学的な動物病院では、ボンド(絆)中心で、動物とオーナー(飼い主)たちのニーズに関わる。たとえばペットの選択をする際のアドバイス、子犬の発育クリニック、行動カウンセリング、色々な家族の変化期にあるペット対応へのアドバイスやペットが死亡した際のサポートなどを行っている。このような医院はコミュニティーの財産である。また経験を得たい希望者にはオープンな方針をとっている。動物と仕事することについて学習したい地元の学校の子どもたちを招いたり、他のケアの専門家が、ヒューマン アニマル ボンド(人間と動物の絆)についてより深く理解するために活動を観察する機会の場にもなっている。ペット死亡の際のカウンセラーには何年も実践に携わった人が当たる。ヒューマン アニマル ボンドに関する情報図書館は、健康やソーシャルケアの専門家やジャーナリストがアクセスできる。

「保護の場」としての動物病院
動物病院は人間にとっても動物にとっても「安全」な場所であらねばならないというのが気風である。引き取り手のない、または捨てられた動物は、リハビリを受け養子縁組の準備ができるまで面倒を見る。人々には、個人にとっても社会にとっても動物は大切であり、命は大事であり、動物は捨てられるものではないという、ヒューマン アニマル ボンドについて教えられる。この考え方は、我々のコミュニティーにおける動物の地位を向上させるものである。昨年一年で病院は、猫92匹、犬10匹、ネズミ14匹、ウサギ8匹、アヒル3羽、フェレット1匹、チンチラ1匹の面倒を見、リハビリを施し、飼い主を見つけた。また150匹以上の野生動物と野鳥の世話をしている。

このような保護的アプローチは、コミュニティーにおける動物の地位を向上させるものである。動物の地位を向上させるということは、コミュニティーにおいて人間自身の価値をも向上させるとも考えられている。保護の場としての役割を保ち、健康な動物を殺さない方針が獣医チームのストレスを下げる。動物、人間共に貢献することの成果(保護活動、コミュニティーアウトリーチプログラム、健康およびソーシャルケア専門家とのネットワーキング)の他の利点は、地元コミュニティーで獣医チームの尊敬と信用を育てたことである。飼い主たちとの関係も非常に良い。

クライアントは時に個人的な問題の相談を持ちかけることもある。そのような場合は必要に応じて関係機関に照会する。

海外での研究
1988年チャーチル フェローシップを受賞し、ヒューマン アニマル ボンド、アニマル アシステッド セラピー、道徳教育について実践し研究しているアメリカ中の優れた施設を訪問する機会を与えられた。

訪問した主な施設および専門家
グリーン チムニーズ スクール ファーム
(情緒不安定な子どもを収容しているセンター)Dr.Sam & Myra Ross
アメリカン ヒューメイン協会 (デンバー)Michael Kauffman, Dennis White, Carol Moulton
カリフォルニア大学ヒューマン‐アニマルプログラム
サンフランシスコSPCA Lynette & Ben Harte, Bonnie Mader
サンフランシスコ James Harris DVM (ヒューマン アニマル ボンド獣医)
人道教育のためのレーサム財団 (サンフランシスコ)Steve Nagy
ミネソタ大学センシェア RK Anderson, Joseph Quigley, Ruth Foster
デルタ協会 (シアトル)Linda Hines, Maureen Fredrikson
デンバー ヒューメイン ソサエティー
ヘンネピン カウンティー ヒューメイン ソサエティー
シアトル キングス カウンティー ヒューメイン Clover Gowring
アニマル メディカル センター(ニューヨーク)Susan Cohen MSW (ソーシャルワーク長)
ロートン刑務所 Dr. Earl Strimple DVM(ワシントンDC ピープル・アニマル・ラブの創設者
パーディー刑務所プログラム (ワシントン州)Dawn Jecs, Marsha Henkel
HSUS 米国ヒューメイン ソサエティー本部(ワシントンDC)
NAAHE 国立人道教育推進協会 (コネチカット)
Phil Arkow パイクス ピーク ヒューメインの教育長、教員のための大学院コース、人道教育コースに出席
ワシントンDC ヒューメイン ソサエティー

この時期に学習し、得た知識は、現在の日々の業務にも役立っている。その後も機会あるごとにプログラム訪問も含めて渡米している。

介助犬
1986年ボストンで開催された介助犬を伴ったIAHAIO国際会議で出会ったアン・コンウェイと共同研究を行うこととなる。アン・コンウェイは英国の有名な犬のトレイナーで、英国聴導犬チャリティー協会の設立メンバーである。英国やオランダの介助犬プログラムを調査研究した後、英国の介助犬プログラム、ケインパートナーズを立ち上げた。エリザベスは2002年まで理事を務めた。

会議に出席することは、ヒューマン アニマル ボンドの理解をいっそう深め、国際的なネットワークを広げる。SCASは毎年様々な会議を主催する。ボストン、ジュネーブ、モントリオール、プラージュ、リオで開催されたIAHAIOを含むヒューマン アニマル ボンドの国際会議、米国で開催されるデルタ ソサエティーや、アメリカン ヒューメイン協会の会議、そしてヨーロッパでは、スペインのピュリナ財団、オランダのユートレック大学、イタリアのサン パトリナーノ(SAN PARTIGNANAO)主催の会議などに出席してきたことは、彼女にとって有意義であった。

最近のアニマル アシステッド セラピー(AAT)プログラムのための海外訪問には、アメリカのプロジェクト プーチやイタリアのサン パトリナーノがある。両方のプログラム共犬をトレーニングしたりリハビリ(訓練)することを通して、若者を更正させるものであり、このようにして調教された犬もAATの中で他の施設にいる人たちを訪問したり、またはコミュニティーに住んでいる家族のコンパニオン犬として、社会に前向きに貢献する。自分たちの、そして犬たちの状況は彼らに明白である。「犬が変わることができるのなら、自分にもできる。」

プロジェクト プーチは、オレゴン州、ポートランドの青年違反者・犯罪者のためのプログラムで、ここでドッグ トレーニング プログラムを終了した若者は再犯率0%を誇っている。これまでに89名の若者がプログラムを終えて釈放されており、最初の釈放は1993年であった。予測されていたこの青年グループの再犯率は29%であった。

サン パトリナーノは、ドロマイツのトレントの近くである。これは薬物中毒者用の画期的なプログラムである。中毒者は4年間のボランティアプログラムに参加を志願し、そこで回復した元薬物中毒者の世話を受ける。「命が命を癒す」というのがこのコミュニティーの考え方である。動物と植物が回復段階の中で中心的なものである。若者たちは、禁断症状期間中、動物とのインターアクションが彼らの心を落ち着かせると語っている。何人かの若者はレベルの高い救助犬を訓練し、老人ホームにAAT訪問したりしている。馬や家畜動物も、リミニの近くのサン パトリナーノセンターでは取り入れている。
住居の中のペット
エリザベスは、英国ペット住宅連合、パースウェイの設立メンバーである。パースウェイは地元行政、家主、そしてテナントにペットと住宅の問題について情報提供したいと考えている。家主とテナントのためのガイドラインも出版している。子の組織の活動は進行中である。諸外国では人がペットを飼う権利を守る法律が制定されつつあるが、英国ではそのような法律はこれまでにもない。

コンパニオンアニマル研究協会(SCAS)
コンパニオンアニマル研究協会(SCAS)は1979年、英国と米国の複数の医師、ソーシャルワーカー、獣医によって、人間とコンパニオンアニマルとの関係の関心を高めるために設立された。設立当初より、SCASはヒューマン アニマル ボンドについての研究を推進し、意識の向上に大きく貢献し、情報提供や最新の発見などを出版してきた。SCASには現在、あらゆる分野の健康やソーシャルケアの専門家400名以上のメンバーがいる。

SCASは現在もたくさんのプロジェクトを進めている。
・会議  2003年10月 「子どもと動物と市民社会」
・働く動物(警察犬、軍用犬など)についての会議  2004年春
・第10回IAHAIOヒューマン アニマル インターアクション会議
「人間と動物:永遠の関係」2004年10月
・老人とコンパニオンアニマルに関する様々な研究プロジェクト
・子どもとコンパニオンアニマルに関する両親、教師向け出版物
・健康やソーシャルケア施設における教育やセラピープログラムで働く動物の福祉についての調査 −コンパニオンアニマル福祉カウンシルとの共同プロジェクト

エリザベスは1986年SCAS実行委員会メンバーに選ばれた。1998年には副会長、2002年1月に会長に任命された。