令和元年度「いのちの教育」研修会報告

令和元年度「いのちの教育」研修会報告

開催日:2019年11月8日(金)/18日(月)
開催場所:奈良県うだ・アニマルパーク 振興室 動物学習館
主催:奈良県うだ・アニマルパーク振興室/公益社団法人 Knots(ノッツ)
後援:奈良県教育委員会/宇陀市教育委員会/公益社団法人 日本動物病院協会/公益社団法人 奈良県獣医師会

 

  • 8日(金)
    ・主催者挨拶(うだ・アニマルパーク振興室 藤井室長/公益社団法人Knots 冨永理事長)
    ・うだ・アニマルパーク「いのちの教育」の経緯及び取組について
    ・模擬授業(小学生プログラムⅠ 気づき)
    ・授業見学(小学生プログラムⅡ 共感)~小学生の授業見学~
    ・模擬授業(小学生プログラムⅢ 責任)
    ・小学生プログラムの現状と評価〜アンケートの分析から〜
    ・今後の動物愛護教育について意見交換
    ・動物愛護センター施設見学(希望者のみ)

 

  • 18日(月)
    ・主催者挨拶(うだ・アニマルパーク振興室 藤井室長/公益社団法人Knots 小椋教育部長)
    ・うだ・アニマルパーク「いのちの教育」の経緯及び取組について
    ・授業見学(小学生プログラムⅡ 共感)~小学生の授業見学~
    ・模擬授業(小学生プログラムⅠ 気づき、Ⅲ 責任)
    ・小学生プログラムの現状と評価〜アンケートの分析から〜
    ・動物愛護センター施設見学(希望者のみ)

 早くも7年目となる奈良県うだ・アニマルパーク振興室での「いのちの教育」研修会。毎年秋に2度開催されるこの研修会には日本全国から多くの自治体職員や教育関係者が集まり、奈良県で実施している「いのちの教育」プログラムの実施状況を見学したり、これまでの経緯や組織の成り立ちなどをお伝えする場となっています。

 うだ・アニマルパークは、広大な敷地に適正に管理された動物がいる公園として、昨年は22万人以上の来園者があるほどの人気がある施設です。そうした恵まれた環境を活かして小学校の遠足や学習の場としても利用されており、プログラム1〜3の3回セットの「いのちの教育」プログラムの実施場所としても活用しています。子どもたちが実際に生きた動物と接することや、責任のあるお世話の仕方を目にすることで、プログラムの内容がより説得力のあるものとして心に響くようになっているようです。

 奈良県には現在196校の小学校がありますが、将来的にこれらすべての学校で「いのちの教育」プログラムを実施するという目標を掲げています。奈良県での取り組みは、動物愛護センターの獣医師と県の教育委員会から派遣された教員が連携をして、このプログラムを実施するためだけの専任の職員がいるという恵まれた環境にありますが、それでも200校近くある学校を少人数の職員で回るのには限界があるため、教育パックを貸し出して、学校の教職員が自ら実施をしてもらえるようにするという新たな方針を打ち立てています。動物を飼育している学校や家庭が減少している中で、教員と生徒が共に「いのち」に向き合う授業を行うのは画期的な手段といえるでしょう。

 また、この「いのちの教育」プログラムを自校式で実施することにより、学校現場での『道徳』=「いのちを考える」「人権学習」だけでなく、『国語』=「お礼の手紙を書こう」「みんなに伝えよう」、『図工』=「動物の絵を描こう」、『生活』=「校区探検」「生き物を育てよう」など、様々な授業のバリエーションでの実施が可能だそうです。

 さらに、『動物愛護』という観点だけでなく、『食育』『環境教育』『表現力』『人権教育』『生命尊重』など、多くの分野で生徒の意識の変容が見られるという報告が届いています。

 これらのプログラムの内容や教育効果などの分析、普及啓発に関する仕組み作りに関しては、国立大学法人奈良女子大学の天ケ瀬正博先生を会長、Knots理事長の冨永を副会長、その他、県の教育委員会や学校関係者、うだ・アニマルパーク振興室職員などが連携をして「奈良県いのちの教育研究協議会」を設置し、定期的に協議を重ねてより良い内容になるような議論と分析を続けています。

そうした中、これまではうだ・アニマルパークでの授業風景の見学でしたが、本年度は初めての試みとして、実際に学校の授業で実施をしている現場に参加者と共に参加するバスツアーを実施いたしました。学校教育現場の中に「いのちの教育」プログラムが浸透している現場を肌で感じることができましたので、参加した各自治体の職員にとっては大いに刺激になったのではないかと思います。

 


【うだ・アニマルパーク「いのちの教育」の経緯及び取り組みについて】

 うだ・アニマルパークは、9.9ヘクタールの広大な敷地の中に「ふれあい広場」「動物学習館」「動物愛護センター」が混在する複合施設です。県内外の市民に親しまれている公園を活用して、「体験メニュー」「学習メニュー」「ワークショップメニュー」の3種類のメニューによって「いのちに共感し、いのちを大切にする心を育む教育」が実施されています。

 奈良県でも、かつてはふれあい学習として生体を使った愛護教育が行われていましたが、車での移動や子どもたちに触られることへの動物のストレスなどに配慮し、「いのちの教育プログラム」では生体を使わない内容に変更しました。新たに導入したプログラムでは、その教育を行うことが動物福祉を満たしているのかということが基準になっており、福祉を満たしていない内容は逆にマイナスの教育効果を与える可能性があるとして、生きた動物を使わないという選択をすることになりました。

 

【「いのちの教育」小学生プログラム】

 小学生プログラムは、プログラムⅠ~Ⅲの3つのプログラムで構成されています。これらの3つのプログラムは、基本的にはうだ・アニマルパークの職員が2回は学校に行って授業を行いますが、1回はパークに遠足として足を運んでもらい、上記の体験メニューと組み合わせて受講してもらっています。そうすることで、実際に適切に飼育されている動物の姿を見ることにより、子どもたちが直接、福祉の意味や人間の飼育管理の責任などを実感することができるようになっています。

 プログラムⅠでは、大型の張り子を「街」「牧場」「自然」エリアに自ら運び、それぞれの動物がその環境や人間とどのようにつながっているのかを考えます。

 プログラムⅡでは、Ⅰで学習した「関わり」から、動物にも感情があり、人間と同じようにたったひとつの「いのち」を持っているということを学びます。ここでは大型張り子の他にイメージを喚起させるためのイラストパネルやホワイトボードなども活用し、積極的に子どもたちが参加することができるように工夫されています。プログラムⅠとⅢは参加者が子ども役になる模擬授業でしたが、Ⅱは実際の小学生の授業を見学し、子どもたちがこのプログラムに対してどのような反応をしているのかを実感していただくことができました。

 そしてプログラムⅢは、私たち人間がそれぞれの動物に対してどのような責任を持っていて、彼らのために私たちができることを考えます。

 こうして実施した3回のプログラムの内容は、実施後に子どもたちが「ふりかえり」を行うことができるようにプログラムの概要をイラスト化したクリアファイルを配布したり、実施時に子どもたちから出た意見を一覧にして掲示できる資料として配布したりする工夫もなされています。「奈良県いのちの教育研究協議会」の天ケ瀬会長からは、この「ふりかえり」の重要性が指摘されており、それを行うことになって長期的に子どもたちの記憶の中に学習効果が定着するそうです。

 

【アンケート結果の評価と分析】

 子どもたちの「こころ」の部分に関わる教育ですので、その学習効果を数値化するのは非常に難しいのですが、奈良県ではプログラムの実施前と実施後のアンケートからキーになる言葉を抜き出し、子どもたちの視点がどのように変化をしたのかを集計して分析を行っています。

 例えば、小学1、2年生で学習する「環境」は身近な範囲にとどまるので、このプログラムを受講する前には「環境」について意識を持っている子どもはほとんどいませんでしたが、受講後は、人と動物が自然環境によって繋がっているということに目を向けることができる子どもの数が、かなりの割合で増加しています。また逆に、動物の健康を人間が守るというケガや病気に対する責任の意識向上に関しては大きな数値の変化が見られませんでした。この課題については子どもたちが自分たちにできることとして認識するよりも、大人(親)がやることとして伝わっている可能性があるため、今後、更に分かりやすい伝え方が必要な項目であるということが分かります。

 

【意見交換】

 ほとんどの自治体は、少ない人員の中で「いのちの教育」という課題に向き合っていますので、なかなか新たなプログラムを企画開発したり、導入するための予算の確保が難しいのが現状です。また、社会の課題と実際にこなさなければいけない業務との間でジレンマを感じることもあり、それらの共通の課題を一同に介して話し合える場はなかなか無いのが現状です。

 各自治体の職員からは、「生体を使わない教育方針を取り入れたいと思っているが、実際に動物を連れて行かなくなると極端に受け入れ校が減った」という話や、「モデル校になってもらうためにどのように交渉すれば良いのか」「ソフト面でどのような内容を実施するのか検討できていない」など、自らが抱えている課題に対して他の自治体はどのように対応しているのか、どういった解決策があるのかということを意見交換することにより、自治体の枠を超えてより良い運営方法が構築される場となっています。