平成30年度 「いのちの教育」研修会報告

平成30年度 「いのちの教育」研修会報告

開催日:2018年11月2日(金)/6日(火)
開催場所:奈良県うだ・アニマルパーク 振興室 動物学習館
主催:奈良県うだ・アニマルパーク振興室/公益社団法人 Knots(ノッツ)
後援:奈良県教育委員会/宇陀市教育委員会/公益社団法人 日本動物病院協会/公益社団法人 奈良県獣医師会

 

 『「いのちの教育」について一緒に考えてみましょう』というキャッチコピーを掲げて、平成24年から奈良県うだ・アニマルパーク振興室で、全国の自治体の動物 行政関係者や教育関係者の皆さまを対象にした研修会を実施しています。毎年11月頃に2回開催されるこの研修会には、これから「いのちの教育」に取り組もうとしている自治体や、すでに実施しておられるがその内容を見直したいと検討されている自治体、新たに動物愛護センターをリニューアルするにあたってソフト面でも工夫を凝らしたいなど、さまざまな理由で参加してくださっています。

 奈良県では、県下約200校ある小学校のうち60校がモデル校および普及啓発重点校としてこのプログラムを受講しており、現在の職員の数ではすでに困難になってきています。そこで、奈良県ではこれらのプログラムを学校の先生が自主的に実施して頂けるための研修を実施し、教育パックの貸出をはじめました。いずれの小学校でも、動物のみならずすべての生き物に対する「いのち」への共感はとても重要な課題であるため、学校の先生が自ら「いのち」に向き合う授業を行うのは非常に有効な手段といえるでしょう。

 これらのプログラムの内容や教育効果などの分析、普及啓発に関する仕組み作りに関しては、国立大学法人奈良女子大学の天ケ瀬正博先生を会長、Knots理事長の冨永を副会長として「奈良県いのちの教育研究協議会」を設置、教育委員会や学校関係者、うだ・アニマルパーク振興室職員などが共に定期的に協議を重ねて、常にブラッシュアップを繰り返しながらより良い内容になるような連携体制を構築しています。こうした奈良県での取り組みの詳細を知っていただき、各自治体の現場が抱えている課題を共有することによって、それぞれの担当者が自分の地域に合った内容のプログラムに取り組んでいけるようになることを願っています。

 平成30年度の研修会では、初日に小学生プログラムの「プログラムⅠ(気づき)」「プログラムⅡ(共感)」「プログラムⅢ(責任)」を実施し、2日目は中高生プログラムの「基本編」「応用編」「展開編」の模擬授業を行いました。当日の開催内容は以下のとおりです。

● 2日(金)
・主催者挨拶(うだ・アニマルパーク振興室米田室長、公益社団法人Knots 冨永理事長)
・うだ・アニマルパーク「いのちの教育」の経緯及び取組について
・模擬授業(小学生プログラム 気づき)
・授業見学(小学生プログラム 共感)~小学生の授業見学~
・模擬授業(小学生プログラム 責任)
・小学生プログラムの現状と評価(アンケート結果)報告
・今後の動物愛護教育について意見交換
・動物愛護センター施設見学

● 6日(火)
・主催者挨拶(うだ・アニマルパーク振興室米田室長、公益社団法人Knots 小椋教育部長)
・うだ・アニマルパーク「いのちの教育」の経緯及び取組について
・模擬授業(中高生プログラム基本編)
・模擬授業(中高生プログラム応用編)
・模擬授業(中高生プログラム展開編)
・今後の動物愛護教育について意見交換
・動物愛護センター施設見学

 

【うだ・アニマルパーク「いのちの教育」の経緯及び取り組みについて】
 うだ・アニマルパークは、9.9ヘクタールの広大な敷地の中に「ふれあい広場」「動物学習館」「動物愛護センター」が混在する複合施設です。この公園は、年間22万3千人もの来訪者(平成29年度)がある奈良県下でも屈指の人気の場所として知られています。そうした県内外の市民に親しまれている公園を活用して、「体験メニュー」「学習メニュー」「ワークショップメニュー」の3種類のメニューによって「いのちに共感し、いのちを大切にする心を育む教育」が実施されています。
 奈良県でも、かつてはふれあい学習として生体を使った愛護教育が行われていましたが、車での移動や子どもたちに触られることへの動物のストレスなどに配慮し、「いのちの教育プログラム」では生体を使わない内容に変更しました。新たに導入したプログラムでは、その教育を行うことが動物福祉を満たしているのかということが基準になっており、福祉を満たしていない内容は逆にマイナスの教育効果を与える可能性があるとして、生きた動物を使わないという選択をすることになりました。 

 

【「いのちの教育」小学生プログラム】
 小学生プログラムは、プログラムⅠ~Ⅲの3つのプログラムで構成されています。これらの3つのプログラムは、基本的にはうだ・アニマルパークの職員が2回は学校に行って授業を行いますが、1回はパークに遠足として足を運んでもらい、上記の体験メニューと組み合わせて受講してもらっています。そうすることで、実際に適切に飼育されている動物の姿を見ることにより、子どもたちが直接、福祉の意味や人間の飼育管理の責任などを実感することができるようになっています。
 プログラムⅠでは、大型の張り子を「街」「牧場」「自然」エリアに自ら運び、それぞれの動物がその環境や人間とどのようにつながっているのかを考えます。
 プログラムⅡでは、Ⅰで学習した「関わり」から、動物にも感情があり、人間と同じようにたったひとつの「いのち」を持っているということを学びます。ここでは大型張り子の他にイメージを喚起させるためのイラストパネルやホワイトボードなども活用し、積極的に子どもたちが参加することができるように工夫されています。プログラムⅠとⅢは参加者が子ども役になる模擬授業でしたが、Ⅱは実際の小学生の授業を見学し、子どもたちがこのプログラムに対してどのような反応をしているのかを実感していただくことができました。
 そしてプログラムⅢは、私たち人間がそれぞれの動物に対してどのような責任を持っていて、彼らのために私たちができることを考えます。
 こうして実施した3回のプログラムの内容は、実施後に子どもたちが「ふりかえり」を行うことができるようにプログラムの概要をイラスト化したクリアファイルを配布したり、実施時に子どもたちから出た意見を一覧にして掲示できる資料として配布したりする工夫もなされています。「奈良県いのちの教育研究協議会」の天ケ瀬会長からは、この「ふりかえり」の重要性が指摘されており、それを行うことになって長期的に子どもたちの記憶の中に学習効果が定着するそうです。

 

【中高生プログラム】
 中高生プログラムでも、学習する内容は基本的には動物福祉をベースにした観点での「気づき」「共感」「責任」という部分は同じですが、こちらでは欧米での動物福祉の指針となる「Five Freedoms(5つの自由)」という概念を用いています。
 「基本編」では、小学生プログラムのⅠとⅡにあたる部分を学習し、「伴侶動物(ペット)」「産業動物(家畜)」「野生動物」が人間とどのようにつながっていて、動物にも感情やニーズがあることを学びます。その方法として、「イヌ」「ネコ」「ウサギ」「ハムスター」「インコ」のグループに別れて、「自分がもしその動物だったら、よりよく生きるために必要なことは何か」を考えます。そのうえで、「5つの自由」が満たされているのかを検証します。
 「応用編」では、人と動物との関わりの課題は、私たちが社会の一員として向き合わなければいけない問題であることを具体的にイメージしてもらうために、『ペットを飼い続けることが困難になった高齢者の夫婦』『野生動物の被害を受けている里山の農家』という事例を用いて考えます。
 そして「展開編」では、動物愛護センターの取り組みについての説明とセンターの見学の後に、飼い主が飼えなくなった動物や迷子になったり飼育放棄をされた動物を減らすためには、社会全体として取り組む必要があることを学びます。

 

【アンケート結果の評価と分析】
 子どもたちの「こころ」の部分に関わる教育ですので、その学習効果を数値化するのは非常に難しいのですが、奈良県ではプログラムの実施前と実施後のアンケートからキーになる言葉を抜き出し、子どもたちの視点がどのように変化をしたのかを集計して分析を行っています。
 例えば、小学1年生ではまだ「環境」に対する学習が始まっていないので、このプログラムを受講する前には「環境」について意識を持っている子どもはほとんどいませんでしたが、受講後は、人と動物が自然環境によって繋がっているということに目を向けることができる子どもの数が、かなりの割合で増加しています。また逆に、動物の健康を人間が守るというケガや病気に対する責任の意識向上に関しては大きな数値の変化が見られませんでした。この課題については子どもたちが自分たちにできることとして認識するよりも、大人(親)がやることとして伝わっている可能性があるため、今後、更に分かりやすい伝え方が必要な項目であるということが分かります。 

 

【意見交換】
 ほとんどの自治体は、少ない人員の中で「いのちの教育」という課題に向き合っていますので、なかなか新たなプログラムを企画開発したり、導入するための予算の確保が難しいのが現状です。また、社会の課題と実際にこなさなければいけない業務との間でジレンマを感じることもあり、それらの共通の課題を一同に介して話し合える場はなかなか無いのが現状です。
 各自治体の職員からは、「生体を使わない教育方針を取り入れたいと思っているが、実際に動物を連れて行かなくなると極端に受け入れ校が減った」という話や、「モデル校になってもらうためにどのように交渉すれば良いのか」「ソフト面でどのような内容を実施するのか検討できていない」など、現実的な意見が出るとともに、「山間部なので、完全に野生で育った野犬(のいぬ)は捕獲も困難だし譲渡は不可能」という捕獲業務に関する相談なども聞くことができました。そうした課題に対して他の自治体はどのように対応しているのか、どういった解決策があるのかということを意見交換することにより、自治体の枠を超えてより良い運営方法が構築されることを願っています。

 毎年開催される研修会に参加してくださる各地の職員の皆さんが、その後、奈良県のプログラムを導入して実施を始めたり、新たなプログラムを開発して取り組みを始めたという話を耳にすると、改めてこの研修会の場があることの意義を実感することができます。地域や自治体の枠を超えて、「いのちの教育」が現代を生きる子どもたちの「こころ」により響く内容になっていくことを期待しています。