第37回 動物臨床医学会年次大会「市民公開シンポジウム」報告

第37回動物臨床医学会年次大会 市民公開シンポジウム

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司会の林 良博先生
(国立科学博物館)

〇動物とのふれあいが子供や高齢者に与える影響と具体的効果

司会:林 良博(国立科学博物館)

1.人と動物達とのふれあいによる、幼児・青少年への効能・効果
山根 義久((公財)動物臨床医学研究所)

2.人と動物達とのふれあいによる高齢者への効果・効能
太田 光明(東京農業大学)

3.人と動物達とのふれあいによる効能・効果をより確実にするため何をすべきか
冨永 佳与子(公益社団法人 Knots)

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 【山根先生ご講演】

pic_0078はじめに、九州大学名誉教授で「ヒトの教育の会」会長の井口潔先生が作成された【心の成長生理チャート】を紹介されました。その中で特に大事な期間が、感性のめざめが起こる0~3才です。感性は刺激を与えなければ育ちませんが、人間はどうしても知性が強くなりがちです。一方、動物は感性が強い生き物です。これを踏まえて山根先生は、3才まで犬や猫のような動物と一緒にいることで感性を育てることを提案されました。

 そして先生は、それ以外に私たち人間が今まで動物たちから得てきたものを紹介されました。

具体的には直接的には、労働・衣料・薬品・食料など、間接的には、動物たちと接することで起こるホルモン(オキシトシン・βエンドルフィン等)分泌の増大、脳波のα波状態の維持、制御性T細胞の増大です。特にオキシトシンは、自閉症児への治療法としての研究が進み、臨床応用されることが期待されています。

 日本に動物と目線を同じくした民話がたくさんあり、「醍醐味」のような言葉やマタギの文化が残っていること、日本の企業に動物名が多く使われていることなどにも、動物たちを大事に思い、共に暮らしてきた歴史が現れています。

 動物と接することによる効果について語られる上で、柴田恵美子先生の「名古屋市における獣医師による学校飼育支援活動後に得られたアンケート回答にみる動物飼育の教育的効果と今後の課題(動物臨床医学 2015)」という論文も紹介されました。

その中で学校飼育動物の効果を紹介された一方、責任の所属や飼育方法などの問題点もあげられました。

 先生の財団が運営されている動物保護施設「アミティエ」には、小学校だけでなく動物看護学校の学生や、保護観察中の子供たちも見学やボランティアにこられるそうです。その子ども達や学生達の様子や変化、またそこに暮らす動物たちが子ども達に優しい目で自分の体を触らせる様子などをみて、山根先生が日々幼児・青少年へ動物たちが与えている効果を感じられている具体例を挙げ、講演を締めくくられました。

 

【太田先生ご講演】

pic_0074飼い主さんへの意識調査などを通して、ペットを飼育することで得られる効果はたくさんあることはわかってきていますが、それを直接的に表している論文は多くありません。

 先生はご自身の研究の中で、犬たちとその飼い主さんとの触れ合い前後の唾液中オキシトシン濃度を測定され、犬の唾液中のオキシトシン濃度が高いと飼い主さんのオキシトシン濃度が高いという傾向がみられたことを報告されました。

また、星旦二先生の論文では、わが国の高齢者における犬猫飼育と二年後累積生存率が報告されています。その論文の中で、犬猫の世話をよくしている人は非常に生存率が高く、ほとんどしていない人は生存率が低いと報告されています。

この結果は、先ほどの先生の研究結果である、犬のオキシトシン濃度が高いと人のオキシトシン濃度が高いという意見と一致します。

オキシトシンと同様に、ドーパミンと相互作用するホルモンがテストステロンです。先生は心拍数とテストステロン濃度と脳波の関係も研究されており、心拍数が適度に上昇すればテストステロンが上昇し、それに伴いドーパミンやオキシトシンの上昇が引き起こされることを予想されています。

ご自身が犬を飼っていらっしゃるご経験からも、スポーツ選手が試合前に適度に緊張することがいい結果を生むように、犬猫のお世話をし、日常が適度に緊張することで体にいい効果を生むのではないかと考えられておられます。先生のご研究が進み、科学的にも人と動物達とのふれあいがもたらす効果をさらに証明されることが期待されます。

 

【冨永先生ご講演】

pic_0072まずはじめに、公益社団法人Knotsが行っている「ずっと一緒にいようよプロジェクト」の紹介が行われました。このプロジェクトでは、被災者の方々がペット可住宅へ入居される際に支援金が送られます。しかし熊本大震災の発生後に各自治体への公営住宅へのペット同行避難に関しての問い合わせをしたところ、公営住宅ではペットとの同行避難不可とのことでした。

行政措置は基になる法律があって対策があるわけですが、人の対策の観点からも、動物の対策の観点からも、飼い主は飼養の責任を負う存在であり、救済の対象とはならず、救済の仕組みもありません。公的支援からこぼれ落ちるというわけではなく、制度の中にその仕組みがないのです。

しかし、飼い主の責任を果たすという観点から、公的支援を受けることができます。

熊本市の応急仮設住宅入居申し込み書には、ペット飼育の有無やペットアレルギーの有無が記載されています。行政の担当の方に意識があれば、このような支援が行われていきます。また今回の震災では、熊本市が環境省の動物愛護管理室と連携され、避難所で飼い主さんが入院された際には動物を一時預かりし、その後退院した際には動物を返すという仕組みが作られたそうです。

熊本市が今回のことで一番大事だと思われたたのは迷子札の存在です。迷子になったら愛護センターに連絡しようという意識を持ってもらうことで、犬に関しては返還率が70%まで到達しました。しかし猫はタグやマイクロチップがないことから、3%程度の返還率でした。

冨永先生はこれを受けて、ネコにもマイクロチップを入れたり、狂犬病の予防接種も検討すべきではないかという提案をされました。

また冨永先生は内閣府が行っている高齢者の日常生活における意識調査およびICAC KOBEシンポジウムでのデータの比較も行われ、日本の高齢者は約3割が日常生活に不満をもっている一方で、ペットを飼育している高齢者の生活の満足度はとても高く、不満は低いことを示されました。これは太田先生のオキシトシンの結果も踏まえるととても興味深く、今後さらなる研究が期待されます。

ペットと暮らす高齢者は、そもそもペットと暮らすのがとても楽しく充実した生活を送っている一方で、ペットの将来を心配しています。神戸市動物管理センターのデータでは伴侶動物の引き取りの理由の36.4%が飼い主の死亡・病気となっており、信頼しあった命の最後が、管理センターでの別れというのはいかがなものかという疑問も呈されました。

高齢者は動物を飼うことで規則正しい生活ができ、地域の方々や仲間ともコミュニケーションがとれ充実した生活を送る一方で、現状はあきらめの境地で、老後の不安を感じており、老後に不安がなく動物たちと暮らせる社会が求められています。この解決策としてICAC KOBE 2014で提案されたのが、地域包括支援システムの中に伴侶動物の暮らしも取り入れるということです。山根先生が紹介されたアミティエをイメージすると、高齢者に限らず獣医師が地域および動物たちに果たす役割がイメージしやすいと思われます。

例えば神戸市では、18名の獣医師が行政獣医師として勤務をされています。獣医師が行政として働けることは社会の中で大きなアドバンテージです。また、現在の動物病院数を考えると、地域社会に身近に動物病院が存在しており、意識があればなんらかの形で獣医師が関わることができるシステムは作れるはずです。

最後に冨永先生は、獣医師は地域の中で大きなキーとなるため、そのような場が整備されれば、女性の獣医師の活躍の場や、新たなビジネスの機会としても実現するのではないか。飼い主と動物が安心して暮らしていけるような場を提案し、飼い主と動物達を一つのかたまりとして存在させるという考え方の浸透が、人と動物達とのふれあいによる効能・効果をより確実にするために必要だと述べられ、講演を終えられました。

公益社団法人 Knots ・田舞 理央