「日本ペットサミット」設立記念シンポジウム 報告
主 催 | 日本ペットサミット(J-PETS) |
開催日時 | 2015年11月25日(水) 14:00~17:00 |
場 所 | 東京大学農学部 弥生講堂一条ホール |
基調講演 | 日本ペットサミット設立にあたって」 西村亮平(日本ペットサミット会長) |
シンポジウム |
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懇親会 | アブルボア東京大学(東京大学農学部キャンパス内) |
「どうぶつ達と共に暮らす幸せな社会をつくる会ーNippon ペットサミット(J-PETS)」の設立記念シンポジウムが、186名の参加を得て、東京大学で開催されました。会場は満員で、東京大学という日本最高のアカデミアの場で、いよいよペットについて考える場が設置されたことへの大きな期待が伺えました。
J-PETS では、主に以下の5つのテーマに沿って情報発信をしていかれるとのことです。
1.子どもとペット
子どもがペットと暮らす効用の発信と安心して暮らすための啓発。活動団体への支援
2.高齢者とペット
高齢者がペットと暮らす効用の発信と安心して暮らすための啓発。活動団体への支援
3.働くどうぶつ(補助犬,警察犬,麻薬探知犬,障がい者乗馬のウマなど)
働くどうぶつ達の社会貢献のアピールと活動団体への支援
4.見捨てられたペットの保護
捨てられたペットや飼主がいなくなったペットのための保護・譲渡活動団体への支援
5.ペットと暮らす楽しさ
ペットと暮らす楽しさを伝えるとともに,日本の事情に合った暮らし方を提案
基調講演では、西村亮平会長(東京大学)より、1万年以上前からの歴史を経て、どうぶつが多くの人のなくてはならない存在になったのは、一言で言えば、「お互いに居心地がいいから」であり、プラス面、マイナス面はあっても、社会全体で考えれば、「どうぶつ達と暮らす社会」は、精神的にも、肉体的にも豊かであることはまちがいなく、今存在する問題を少しでも減らし、人々が精神的により豊かに暮らしていける歯車の一つになりたいと、設立の意図が話されました。
この会のモットーは、「いい加減」とのこと。一つの方向に向かってベクトルを向けるのは、力を結集して良いのだけれど、より豊かになるにはバランスも必要で、少しベクトルをずらすことを赦しあい、寛容に受け入れていく社会的寛容性が必要になる、そのような社会的な「良い加減」を目指されるそうです。実際のご講演では、分度器のような図にベクトルの変化だけが書かれたスライドで、流石!と感心してしまいました。
引き続いて、5つのテーマに沿ってそれぞれのご講演がありました。こちらも、「なぜこの方々」ではなく、「まずはこの方々が出て下さった」という「良い加減」の第一歩です。
「子どもとペット」では、テレビでご活躍のタレントの松本さん等を中心とした小学校の訪問活動、「高齢者とぺット」では、1986年から続く、公益社団法人日本動物病院協会(JAHA)のCAPP(コンパニオン・アニマル・パートナーシップ・プログラム)による高齢者施設での獣医師、動物看護師のボランティアの実際が報告されました。
「働くどうぶつ」では、「盲導犬の現状と育成ポリシー」と「馬によるセラピーと健康社会」についてのお話でした。盲導犬の育成に関しては、繁殖、飼育、訓練、ユーザーと各工程管理による質・量の向上を図られておられます。求められるタスクが、他の補助犬に比べ、犬の本能と関係が低く、また、見えない人、見えにくい人が使う、世話をする盲導犬は、最高の家庭犬であることを求められ、育成過程で培われた技術(訓練、繁殖、社会化、犬の評価)は、お話しされたように、今後の家庭犬育成に対しても、大きな貢献となられると思いました。
馬によるセラピー(ヒポセラピー)では、海外では主に脳性麻痺児の姿勢制御や姿勢バランスの改善などに効果があるとして研究が進んでいるそうで、局先生の障害者の歩行運動改善研究がご紹介されました。日本では、知的・発達障害対象が多く、補完医療(パラメディカル)としての価値が高いとのことです。馬は、6歳から25歳が多く従事しており、年齢が上がると現場を熟知しているそうです。寿命が長いので、共生関係が築きやすい面もあります。
「今どきの動物の保護活動事情」では、日本初の動物関連限定のオンライン寄付サイトー公益社団法人アニマル・ドネーションの事業紹介があり、資金面で困難な部分の多い動物保護活動について、資金提供していくための様々な工夫を紹介されました。
最後に、ペットフード協会の石山会長より、「犬の飼育頭数の減少と解決」というペットの根幹に関わる課題についてのご講演です。2006年の法改正で動物取扱業は登録制になりました。この影響が大きかったのではという調査結果を報告されました。JKCの登録ブリーダーは、年間10頭以下を繁殖していたホビーブリーダーが、2004年の25,171人から、2014年には4,984人になり、11頭以上では、8,894人が4,659人です。その結果、子犬の繁殖数に占める割合は、24%対76%だったものが、7%対93%になり、多くの子犬が、中・大規模ブリーダーから供給されるようになりました。また、ブリーダーは高齢化されており、平均年齢57歳とのことです。ブリーダー減少の原因は、ホビーブリーダーでは、手続きの煩雑化、中・大規模ブリーダーは、ブリーダー事業の利益性の低下と高齢化です。皮肉なことに、子犬の供給量が低下したために、2015年のオークションの子犬価格は、2005年を100とした場合、90%以上(関東)の価格上昇となりました(ただし、オークション落札価格には季節性があり)。2004年時点では、80万頭の子犬が供給されていましたが、2014年は、50万頭に減り、供給源も、2004年では、ペットショップから20.1%、ブリーダーから26.4%、友人・知人から30.2%、シェルターなど5.8%と比較的バランスよく分散していましたが、2014年には、ペットショップから46.5%、ブリーダーから19.4%、友人・知人から22.8%、シェルターなど9.6%となり、ペットショップからの人が大幅に増えており、その反面、ブリーダー、友人・知人からの供給が大幅に減っています。シェルターなどからは、割合は増えていますが、実際の頭数は増えていません。
飼育頭数については、1歳以下の子犬の全体に占める割合が7%を切ると現状維持ができない予測ですが、現在は、3.4%であり、残念ながら、今後も飼育頭数に関しては、悲観的な予測となっています。
イギリスでは、1822年のマーティン法(家畜の虐待と不適当取り扱い防止条例)から100年以上をかけて文化を構築しており、実質的に2000年以降スタートの日本では、それを20年でやろうとしており、システムの変化に業界がついていけていない現状ではないかという危惧を話されました。
その解決へ向けての取り組みとして、今後は、オークション、ブリーダー、小売店では、将来へのビジョンを掲げ、倫理、繁殖、犬舎管理、終生飼養などについて自主基準を策定し、行政、業界などでも、西洋のコピーではなく、日本版の動物福祉行政の在り方を検討し、このJ-PETSの目的でもある社会的合意形成へ向け、情報発信していく必要性について述べられ、最後は、喜望峰(Cape of GOOD HOPE)の美しい写真で締めくくられました。
近年では、1995年の阪神・淡路大震災での日本初の組織的動物救援事業が、大きな転換点だったように思います。動物に限らず、都市型の震災被害は、日本の社会の在り方全般について、市民の態度を変える契機となりました。その後の1999年の動物愛護法改正により、価値観の転換は、加速度的に進んでいます。日本の行政は、感染症制御を中心に構成された組織が、家庭動物との共生へと目的変更し運営がなされています。家庭動物に関して、獣医師が従事する動物愛護センターのような事業を行政が行っている国は余りなく、来日して見学される海外の動物福祉団体の方は感嘆し、日本に情報発信をしてほしいと期待されます。Knotsは、今年15周年を迎えましたが、そのような意味でも、私達は、大きな歴史の流れの転換点に遭遇し、未来への責任に直面しているのだと、改めて感じました。
今回の講演を拝聴し、例えば、「殺処分ゼロ=持ち込まれる命ゼロ」であり、高齢者の飼育支援等とともに、飼育困難犬をなくすことも重要な対策です。その為には、健康で気質の良い犬が供給されることが肝要であり、最後の石山会長の課題を思うとき、例えば、最高の家庭犬である盲導犬の繁殖技術をブリーダーが学んだりと、この新しいJ-PETSの枠組みの中で、新たな取り組みや連携が生まれるのではないかと、大きな期待を致しました。
懇親会にも多くの方が出席しておられました。研究者、業界の方、団体の方、関連企業の方、プレス関係など本当に多様な属性の方がお集まりになり、中には、Dream Plan Presentation 2015のプレゼンターになった方もおられ、東京大学というアカデミアが中心になられることへの大きな可能性を感じました。