第36回 動物臨床医学会年次大会 報告

開催日時2015年11月22日(日)
会  場

大阪国際会議場(グランキューブ大阪) 大阪市北区中之島5-3-51

主  催動物臨床医学会・公益財団法人 動物臨床医学研究所

 

〇山根義久先生 モーニングセミナー 「動物社会と人間社会」


2015-11-22 12.50.06 公益社団法人 動物臨床医学研究所 理事長の山根義久氏は毎年様々なテーマで獣医師および企業を対象としてモーニングセミナーを行われていますが、今年は動物社会と人間社会をテーマに講演をされました。

 動物たちと人類の関係を話されていく中で、人類は動物たちからたくさんの恩恵をもらっているが、動物たちに与えたものはほとんどないのではないか、ということを述べられていました。

 具体的な例として、直接的には労働力、衣料、食料、薬品など、間接的にはホルモン分泌の増大や脳波のα波状態、心身の健康、感性の芽生えなどをあげられました。

 ホルモン分泌(オキシトシン)に関しては現在研究が進んでいますが、動物たちと接する時間が長ければ長いほど分泌は増大します。これにより人との調和が取れるようになり、幸福感がうまれ、親子関係・夫婦仲の改善や自閉症の子供たちにも効果があるそうです。

 感性の芽生えに関しては、人間は脳重量が成人とほぼ同じになる3〜5才までに感性が芽生えるということを強調されていました。最近、人間は知性を育てることに力を入れており、感性を育てることは疎かにしているようです。動物たちは理屈ではなくほとんど本能で動いており、そういう動物たちと幼少期に接することで人間の感性が芽生えるということを述べられていました。

 また、過剰な免疫反応を抑制する働きのある制御性T細胞に関しても触れられました。2~3才から家畜と一緒に生活しているアーミッシュ民族の人々は血液中の制御性T細胞の数が多く、アレルギーの人がほとんどいないことから、子供たちが清潔すぎる環境で生活することに対して危惧を感じられていました。

 最後に、人間は勝手で動き、動物は本能で動くという言葉でまとめられました。財団が運営している動物保護施設「アミティエ」の紹介もされ、動物たちへの感謝の気持ちと共に今後は不幸な動物たちを救っていきたいという思いを伝えられ、セミナーが終了しました。

 

〇市民公開シンポジウム

「動物達と共生することによる効能・効果を考える」
(平成27年度科学研究費補助金 (研究成果公開促進費)「研究成果公開発表(B)」)

 ●司  会 : 林 良博 先生 (国立科学博物館)

  1. 人と動物との接触や生活を共にすることの効能・効果
    局 博一 (東京大学)

  2. 国内外における人と動物との関係における効果的事例
    太田光明 (東京農業大学)
  1. 人と動物の関係を模索する動物保護施設における実践報告と今後のありよう
    高島一昭 (公益財団法人動物臨床医学研究所)

 2015-11-22 14.47.55 2015-11-22 14.47.00


 

<局 博一先生 ご講演>

2015-11-22 12.49.57 現在の社会の課題は、単に寿命を延ばすということだけでなく、「健康寿命」を延ばすことへと移行しつつあります。「未病」という概念は、明らかな症状が出る前の体の中に潜んでいるわずかな身体的変化の状態であり、病気になる前に如何に体を健全にコントロールするかといったことに関心が寄せられています。その基本要素は、「バランスの良い栄養」「適度な運動」「精神的な支え(目標)や幸福感」「強いストレスの回避やストレスの緩和」などがあります。

 近年、医療関係者を含む科学者の間でも、ペットとの共生による健康効果に関心が持たれるようになっており、「ペットの飼育者は非飼育者に比べて日常の運動量が増すこと」「地域社会でのコミュニケーションの機会が増えること」「ペットが同伴することで通院患者や入院患者の痛みの感覚や不安感が薄れ、満足感が増すこと」「自律神経機能や循環機能に改善効果があること」「教育現場での子供の精神的安定」「集中力が高まること」などの研究報告があるそうです。

 このような流れは、「動物介在教育」「動物介在療法」として注目されており、心身ともに最後まで健全な社会構築のためには、このような動物達の存在意義も高まり、この分野での研究の発展と成果の市民への提供の期待も高まるという観点からも、獣医学をはじめとする動物分野での教育や研究推進、人の医療に関わる分野の専門家と動物をつなぐ境界領域の教育制度の整備の必要性も話されました。

 


 

<太田光明先生 ご講演>

2015-11-22 14.48.151990年代に誕生した「人と動物の関係学(Anthrozoology)」の4つの基盤研究のご紹介がありました。

  1. 1980年、E. フリードマンらの研究。犬を飼っている心疾患の患者は、1年以内の死亡する見込みが非飼育患者より著しく低く、散歩による運動効果より、動物の飼育そのものが延命効果をもたらした。

  2. 1990年、J. シーゲルは、ストレスの多い犬を飼っている人は、飼っていない人に比べて、1年間に病院に行く回数が1.75回少ないことを見出した。2008年、B. ヒーディーは、医療費の17%削減になることを明らかにした。F. グッツヴィラーとD. ターナー博士による、1年間、9295世帯の収入と支出の調査では、犬と猫の飼育が医療費を削減する効果があった。

  3. 1991年、J. サーベルの調査。イギリスの「王立医師会機関誌」に掲載された。ペットを飼い始めることで、人々が軽度の健康問題について抱く不満の度合いが著しく下がり、QOLの値が改善される。犬を飼っている人の歩行量が10ヶ月間に渡って増えている。

  4. 1992年、W. アンダーソンら(ベイカー医療研究所—予防医学のための世界的な保健センター)の心臓血管疾患の研究。「オーストラリア医師会機関誌」に掲載。ペットを飼っている人は、そうでない人に比べて、リスクファクターと認識されている項目(血圧、血漿トリグリセリド、血漿コレステロール)のレベルが低い。

2000年、WHO(世界保健機関)は、「動物は、われわれ人間の健康に良い効果をもたらす」と公に発表、NIH(アメリカ国立衛生研究所)も同様の発表をしており、アメリカでは、高齢者の健康不安に、医師が「犬を飼う」処方箋を出すことを認めているそうです。

2006年、本岡らの研究により、犬との散歩が副交感神経活性を上昇させる(安らぎをもたらす)ことが明らかになり、アメリカでは実際にプロジェクトを始める研究者も出ています。太田先生ご自身も、永澤らのオキシトシンの一連の研究(2009年、2011年、2015年)に関わっておられ、犬と飼い主との交流で、両者にオキシトシンが分泌されることにより、犬の特性が人の健康に良い影響を与えることを明らかにされています。

このような成果をまとめた2012年「Attachment to Pets」の日本語訳も間もなく刊行とのことで、是非、皆様にも読んで頂きたいと思いました。

 


 

<高島一昭先生 ご講演>

2015-11-22 12.57.062013年、公益財団法人動物臨床医学研究所が自ら動物愛護活動を行うため、鳥取県倉吉市に「人と動物の未来センター・アミティエ」を開設されています。

アミティエへの訪問者数は、だんだん増えてきているということです。

保健所とは違い、獣医師がしっかりと管理をした動物を譲渡している施設だということが認識された結果だと述べられていました。一般の方々からすると財団の知名度は低く、なかなか信頼が得られなかったそうですが、動物病院の獣医師が施設を運営しているということを伝えることで里親さんの信頼が増したとのことでした。普段動物病院で診療をしているスキルや信頼がとても役に立つとのことです。

動物を受け入れて譲渡するにあたり、時間や手間、コストが多くかかりますが、これを削ろうとは思わないということ、そして動物たちを処分する現状にちょっとでも寄与したいという思いを熱く語られました。

老齢動物の受け入れは現状ではできていないが、アミティエでは里親さんの年齢制限や譲渡する動物の年齢制限をもうけず、高齢者の里親さんが安心して動物を飼えるよう、今後老齢動物の受け入れもやっていきたいと述べられていました。

アミティエは、鳥取県と連携し、鳥取県動物愛護センターとしての機能も果たしておられます。民間の獣医師と、行政、市民の皆様の協働が、これからの地方活性化にも大きな力を発揮されるのではないでしょうか。

 


主催者の山根義久先生は、この素晴らしいシンポジウムに感謝され、来年の開催についても、場内に約束され、この分野を広く社会に浸透させていかれたい意気込みを伝えられました。

最後に、司会の林良博先生が、「太田先生の発表にあったE. フリードマンがこの報告をした時、彼女は、まだ学生で、場内は、報告を受け入れるような雰囲気ではなかったが、この報告は、今やこの人と動物の関係学(Anthrozoology)での起点となる報告としての地位を確立しており、E. フリードマンは、ISAZ(International Society of Anthrozoology)の会長である。若い人は、どんどん、意欲的な研究を発表して欲しい」と力強く締めくくられたのが印象的でした。