『平成27 年度・奈良県「いのちの教育」研修会』報告

『平成27 年度・奈良県「いのちの教育」研修会』報告

 

開催日時:2015年11月9日/13日
場所:奈良県うだ・アニマルパーク振興室・動物学習館
主催:奈良県うだ・アニマルパーク振興室/公益社団法人 Knots
   ※2012 年6月より連携協定を締結しています。
協力機関:協力機関中和保健所動物愛護センター
後援:公益社団法人日本動物病院協会/奈良県教育委員会/宇陀市教育委員会/公益社団法人 奈良県獣医師会

  

 

 平成24年度から始まった奈良県の「いのちの教育プログラム」。県下にある200校の小学校の内、初年度のモデル校は20校でしたが、昨年の26年度には45校の小学校がモデル校として登録されており、「来年もまた実施してほしい!」という多くのリピート校が誕生しています。

 同様に、学習館や動物愛護センターがある公園 うだ・アニマルパークは、市民の憩いの場として昨年は21万人もの人が来場し、県内外から多くの利用者が集まり、教育とレクレーションの両方の面で相乗効果をあげている施設として、他府県の関係者からも高い関心を集めています。また、今回の研修会には、最終的にスケジュール調整の都合で参加は叶いませんでしたが、海外からの参加希望者からの問い合わせもあり、これまで一方的に欧米諸国からノウハウを学ぶ立場だった日本の愛護教育が、逆に海外から関心を持って注視される立場になっているようです。

 今年度の「いのちの教育」研修会では、初日の9日はこれまでに小学生用のプログラムを見学したことがある経験者向きの研修内容として、さらにステップアップした中高生プログラムの紹介や他府県での動物愛護教育の取り組みの報告会、そして今後の動物愛護教育に関する意見交換会の場として開催され、13日はこれまで通り、小学生プログラムの開発経緯と実際に小学生に実施されているプログラムの授業の見学および模擬授業体験という内容で実施されました。

 両日とも、はじめにうだ・アニマルパーク振興室の矢冨室長から挨拶があり、「中山間地域を多く抱える県東部の観光拠点施設としての機能」「動物愛護センターとしての機能」「動物たとのふれあい体験を通し、いのちの大切さを学ぶ教育拠点施設」という3つの役割について説明がありました。遠方まで集まって頂いた各地の自治体および教育関係者の皆様に、積極的に今後の取り組みに関する議論をしていただきたいというご挨拶がありました。

 続いて、2012年より奈良県と連携協定を結び、共に「いのちの教育」の普及啓発に尽力してきた公益社団法人 Knotsの冨永理事長から挨拶がありました。大変な広がりを見せているこの事業に対して、これまでにこの研修会に集まって下さった皆様の思いがベースとなっていることが伝えられました。昨今、アクティブ・ラーニングという言葉が注目を集めていますが、参加して自ら答えを考えるというこのプログラムは、まさにその趣旨に適った内容といえるでしょう。

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11月9 日(月)
・小学生プログラムの現状と平成26年度アンケート結果報告
・学習シートによる模擬授業および動物愛護センターの学習ツール等の紹介
・中高生プログラムの概略
・他県の動物愛護教育の取組について
・今後の動物愛護教育について意見交換
・動物愛護センター施設見学(希望者のみ)

 

 初日は、すでに小学生プログラムの内容をご存知の方が対象になっているので、それらの内容については復習程度の説明とさせて頂き、プログラムについてのアンケート結果と分析などについて、動物愛護・ふれあい係の巽先生から報告がありました。
 アンケートの分析方法については、奈良女子大学の天ヶ瀬准教授を会長とした研究協議会で協議された内容で、プログラムの受講前と受講後での意識の変化を分析し、その後のブラッシュアップに役立てています。「はい」「いいえ」を選択するだけの調査だけではなく、自由に記載された文章の中からキーワードとなる文言を抜き出し、①生活、②こころ、③環境、④その他に分類をして、受け取ったメッセージに対して理由を説明できるところまで理解が深まっていることを数値的に分析する方法が取られています。

 そして次に、「学習シート」の紹介が行われました。動物愛護センターの小渡さんが指導者役となって、参加者の皆様を生徒に見立てた模擬授業です。
 さらに、動物愛護センターでは以前から独自に企画開発をしたツールを用いた子供たちへの教育が行われていますので、開発当時センターの職員だった藤井さんからそれらのツールの説明をして頂きました。以前は、奈良県でも生体を用いたふれあい教室などが行われていましたが、動物へのストレスや子供たちのアレルギーの問題などを勘案して、現在は生体を用いない形での教育に方向転換をして効果を挙げています。

 続いて、小学生プログラムの次に開発された中高生プログラムの紹介がありました。このプログラムは、国際的に広く知られている動物福祉の指針となる「5つの自由」を満たすために、我々人間が守るべき責任がテーマになっています。小学生プログラムで学習する「伴侶動物」「産業動物」「野生動物」というそれぞれの関わり方をベースにしつつ、①餓えや渇きからの自由、②恐怖や不快からの自由、③不快からの自由、④ケガや疾病からの自由、⑤正常な行動をする自由について考え、生徒からの意見を引き出して一緒に考える内容になっています。小学生とは違って、積極的に手を挙げて意見が出にくい中高生から意見を出してもらいやすくするための工夫が成されています。

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 午後からは、参加してくださった各自治体の皆様がそれぞれの地域で実施しているプログラムの紹介が行われました。対象が小学生の自治体もあれば幼稚園児の場合もあり、それぞれの年齢や実施時間の枠などによって工夫が凝らされていて、各地での実施状況を具体的に知ることができる貴重な機会となりました。参加者の中にはすでに何度もこの研修会に参加してくださっていて、参加するたびに奈良県で刺激をもらって帰り、またご自身の地域で工夫を重ねるという良い連携が生まれています。今後、こうした自治体間での連携がますます求められることとなるでしょう。

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11月13 日(金)
・経緯及び取組の報告
・授業見学(プログラム Ⅰ)
・授業見学(プログラム Ⅱ)
・模擬授業(プログラム Ⅲ)
・小学生プログラムの現状と平成26年度アンケート結果報告/
 動物愛護センターの学習ツール、学習シートの紹介
・今後の動物愛護教育について意見交換
・動物愛護センター施設見学(希望者のみ)

 

  この日の研修会は、例年通り初めて小学生プログラムに触れる方が対象になっていて、実際にうだ・アニマルパークにプログラムを受講しに来る小学生の授業を見学しながら概要をお伝えします。回を重ねるごとに各地の動物行政に係る職員や、小学校の教育関係者などが多数参加してくださるようになり、今回も早い時期から定員が一杯になるほど、奈良県での「いのちの教育」が認知されるようになってきました。

 はじめに、うだ・アニマルパークの組織的な成り立ちやパークへの来場者数の推移、「いのちの教育」の実施状況などの概要が説明されましたが、参加者の皆様がそれらのデータに大きな関心を示しておられ、熱心にメモを取ったり写真に記録を残しておられる姿が印象的でした。そうした姿から、どの自治体でも同じような悩みや問題を抱えつつ、これらのテーマに向き合っておられるのだろうな…ということが伝わってきました。

 今回の研修会はラッキーなことに、最初にプログラム1を受講する小学1年生のクラスを見学し、次にプログラム2の別の小学2年生のクラスを見学することができました。そして、プログラム3は参加者を子供に見立てた模擬授業を行いましたので、1〜3すべての内容を順番に体験することができ、実際の子供たちの反応なども直接間近に感じることができる一日となりました。
 授業風景を初めて見学する参加者の皆様は、実施者である奈良県の教職員の力量とプログラムの完成度の高さ、そして小学生プログラムでメインのツールとなっている張り子の動物たちへの子供たちの関心度の高さに驚いておられたようです。実際、このプログラムには「張り子の動物を動かす」「ホワイトボードに書いて発表をする」「それぞれの心臓の音を聞く」といった教育的にも有効な手段が織り交ぜられており、子供たちが自ら気づき・共感する工夫が成されています。

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 そして、初日同様にこれらのプログラムに対するアンケート結果の分析と評価内容の報告と、愛護センターのツール紹介が行われました。
 最後に意見交換が行われましたが、日本動物福祉協会の山口千津子先生からは、毎回研修会に参加して見学をするたびに新しい発見があり、内容がブラッシュアップされてどんどんレベルアップしているという感想が寄せられ、教育関係の参加者からは、動物の命のことだけでなくいじめや自殺の問題など、人を育てるプログラムにも繋がる大きな可能性があるという見解も示されました。また、同じ動物行政に関わる担当者の方からは、これまでに至る道程での問題点や、実際にクリアしなければいけなかった課題などについて質問が寄せられ、いずれの自治体でも同様の悩みを抱えつつ、各地で皆様が奮闘しておられる姿が伝わってきました。

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 2015年の2日間にわたる研修会では、プログラムの分析と評価がかなり具体的に示されました。アンケートの結果、動物の「いのち」に対する意識の変化も然ることながら、自然環境に対するキーワードを回答する子供が圧倒的に増加するなど、指導者として新たな教育効果と改善点も見えてくる結果となっています。また、小学生プログラムから中高生プログラムへと繋がる流れも示され、今後の新たな奈良県の「いのちの教育」の展開が期待される内容となりました。