シンポジウム「ペットとの防災を考える」〜同行避難に備えて〜 報告

シンポジウム「ペットとの防災を考える」〜同行避難に備えて〜

 

日時:2015年2月15日(日) 13:30〜16:00
場所:兵庫県動物愛護センター 愛護館多目的ホール
主催:ペットの防災実行委員会
内容: 
1. 講演「ペットとの同行避難を考える」
  山口 千津子氏(公益社団法人日本動物福祉協会 特別顧問)
2. 講演「発災時の行政の対応に関する課題」
  平野井 浩氏(福島県県南保健福祉事務所 課長)
3. パネルディスカッション

 

 

 20年前の1995年1月17日、我々の想像を遥かに超えた被害をもたらした阪神・淡路大震災。あの日、阪神間に住む多くの人と動物が被災し、住む場所を奪われました。それまで、ほとんど耳にすることがなかった被災動物という言葉が一般的に使われるようになったのは、この震災からと言っても良いでしょう。
 そして、2011年3月11日の東日本大震災では、さらに大規模な地震によって東北地方の広範囲に被害をもたらしました。この震災では、地震の被害だけではなく津波によって壊滅的な打撃を受け、さらに我々がこれまでに経験したことがない、原子力発電所の放射能漏れという深刻な事態が追い討ちをかけました。
 今なお、東日本大震災で被災した多くの人と動物が避難生活を余儀なくされている中、阪神・淡路大震災から20年目を迎えたこの年に、私たちはこれらの震災から何を学び、そして次に起こるであろう巨大災害に何を備えるべきなのかを考えるシンポジウムが、兵庫県動物愛護センターで開催されました。

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 会場となった愛護館多目的ホールには、予定されていた定員を大幅に越える参加者が集まり、ペットとの同行避難というテーマへの関心の高さを伺い知ることができました。

 

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【開会】

 このシンポジウムの司会は、FM宝塚「わんにゃんハッピーラジオ」のパーソナリティー・小林かおりさんが務めてくださいました。
 小林さんの紹介で、主催者であるペットの防災実行委員会・委員長の立田壽氏から開会の挨拶を頂きました。ペットの防災実行委員会は、ペットの防災、とりわけペットとの同行避難について県民に周知・啓発を行うことを目的として、兵庫県動物愛護管理推進協議会を母体として組織された団体です。立田氏からは、動物救護センターで保護された1,556頭の動物とそれに関わる人との絆の強さや深さについて語られ、その教訓と経験を忘れず、次の備えに活かすことの大切さが述べられました。その後、震災で犠牲となった動物のために、参加者全員で黙祷が捧げられました。

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【表彰】

 講演に先立ち、兵庫県で動物愛護センターと連携をして譲渡犬の飼い主との親睦・交流や情報交換を行う活動をしている飼い主の会「オンリーわん倶楽部」の冨永会長と西川氏に立田氏より感謝状が送られました。西川氏は震災当時、動物救護施設にボランティアとして参加し、その後も20年間欠かさず震災の日には慰霊碑に花を届け続けておられます。このシンポジウムの会場で、当時の施設の責任者と感動的な再会の場面も見受けられ、二人で抱き合う姿に、震災当時の困難な状況を垣間みる思いがしました。

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【講演】

 まずはじめに、公益社団法人日本動物福祉協会・特別顧問の山口千津子氏から「ペットとの同行避難を考える」というテーマで講演を頂きました。山口氏は、日本でも数少ない英国王立動物虐待防止協会(RSPCA)のインスペクターの資格を持っておられ、国内でも数多くの災害現場で動物救護についての指導を行ってこられました。
 ここでは、1991年の雲仙普賢岳噴火、1995年の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)、2000年の三宅島噴火災害、2006年の新潟中越地震など、過去の大規模災害での動物救護活動の事例を示しながら、それぞれの災害での被害状況と、そこで働く人たちがどのようにその危機を乗り越えて来たのかを、写真を交えながら説明されました。
 過去の離島の災害では、人間は避難できてもペットは船に乗せることができずに、やむを得ず島に残さざるを得ない状況になったこともあったそうですが、残された動物たちを救うために行われた行政による措置の紹介や、その他、避難所での課題なども具体的に説明が行われました。ペットと共に避難所に入れず長期間狭い車の中で生活をしていた飼い主が、エコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓症)で亡くなったという話は記憶にある方も多いのではないでしょうか。こうした経験を踏まえ、新潟県中越地震のときには全ての仮設住宅でペットとの入居が可能になったという例もあります。また東日本大震災では、ペットと共に迷わず避難所に来たという方が相当数おられ、ペットと共に同行避難をするという考え方や受け入れ態勢が少しずつ整ってきているという報告も聞くことができました。
 山口氏は、家族を亡くし家や財産も全て無くなったけど、一緒に避難することができたペットと共に避難生活を送ることができるのは、その後の困難を乗り越えていく大きな力になると言います。それだけでなく、被災地に置いて来なければいけなかったペットを救護するために、危険な地域に後日立ち入らなければいけないリスクや人手の確保、予算を大幅に軽減できるため、今後、緊急時には国と自治体が連携をして、ペットと共に避難をするための体勢作りが望まれます。
 一方、保護される動物の多くはまだマイクロチップが挿入されている例が少なく、飼い主さえ分かればすぐにでも帰ることができるペットが、多数救護施設に残ってしまうという現状もあります。これらのことを同時に進めることが、飼い主との絆を維持した本当の意味での救護となるのでしょう。
 最後に、阪神・淡路大震災で被災したあの日から、大吉という犬と共に生きた飼い主との絆を綴った絵本が山口氏によって朗読されました。そこには、大吉がいてくれるだけでいい…どんな困難でも乗り越えられるという深い絆が切々と描かれており、会場に集まった人たちの心に響きました。

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 次に、福島県県南保健福祉事務所の課長・平野井氏から、東日本大震災発生時に行政が行った対応に関する課題についてのお話をして頂きました。
 東日本大震災では、皆さんご存知の通り地震の発生〜大津波襲来〜原子力発電所の非常事態と、刻々と変化する状況の中で国と自治体、住民それぞれが厳しい決断に迫られた災害です。まずはそうした当時の状況を、スライドを使いながらご説明頂きました。まるでドキュメンタリーを見ているかのように、当時の緊迫した記憶が呼び起こされる平野井氏の話に、会場の皆さんにもピンと張りつめた緊張感が感じられました。
 福島県では新潟中越地震の教訓を踏まえ、圏内で災害が起こったときの救護マニュアルを策定し、被災ペットへの対応方針を定めていたようですが、東日本大震災ではその想定を遥かに越えた複雑な要素が絡み合う被害が発生しました。被災地に残された動物の救護活動に加えて、放射線のスクリーニングと除染作業に追われることとなったのです。それに加えてガソリンが無い、食料が無い、ガソリンを運ぶための国道は、海岸線から3kmも内陸まで海水に浸かって寸断されるといった状況で、全てが手探り状態の中でも作業となりました。
 国の決定により、福島第一原発から半径20km圏内は警戒区域として厳しく立ち入りが規制されました。取り残された被災ペットの保護について、飼い主からの要望や国民からの厳しい非難が集まったにも関わらず、県の職員としてどうすることもできない状況が続きました。しかし、そういった状況の中でも、原子力災害対策特別措置法の中に掲げられている「地域における社会秩序の維持」という項目に着目し、警戒区域内の被災ペットの実態把握という名目で救助活動を始めることになったのです。被災したペットのスクリーニングと除染を繰り返しながら救護施設へと移送し、少しでも多くの命を救うための努力が続けられたのです。
 平野井氏は震災前の状況を、県として、県民に同行避難の必要性を事前に十分に伝えられていたのか…と振り返ります。多くの飼い主はすぐに家に戻って来られると信じてペットを自宅に残してきたにも関わらず、放射線の影響で長期間立ち入ることができなくなる状況になってしまったからです。家族の一員であるペットと離ればなれになってしまった飼い主の姿を見て、改めて同行避難の必要性を感じたと語ります。
 この震災が、福島県の動物愛護対策に与えた影響は計り知れません。思いもよらぬ大きなダメージを与え、あまりにも多くの人と動物の命が奪われました。福島県では地域防災計画を見直し、同行避難に必要な地方獣医師会との連携や被災ペット救助ボランティアの位置づけなどに関する記述を追加しました。さらに避難の順位では、傷病者、高齢者、幼児などと並列にペットを位置づけるなどの修正をし、内閣装置大臣に報告を行っています。
 こうした経験を、災害に見舞われる可能性が高い日本全体に伝えて活かすことこそが、これからの福島県の役割であると語られました。福島県は、「ふくしまから はじめよう。」というスローガンを掲げ、継続的に情報を発信していく決意を固めています。

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【パネルディスカッション】

 パネルディスカッションに入る前に、関西の阪神地区では圧倒的な人気がある阪神タイガースの元投手・下柳剛選手からのビデオメッセージが上映されました。愛犬家としても知られる下柳氏は、日頃からペットと共に避難ができるようにケージに入れるトレーニングをしたり、避難場所の確認をしたりすることに気をつけているそうです。

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 そして次に、オンリーわん倶楽部会員の檜垣氏の愛犬・マルちゃんが宝塚の小学校の同行避難シミュレーション体験をしたときの様子が上映されました。地域の防災訓練の一環であるこの体験学習は、実際にペットと共に避難をするルートを歩いてみて、その難しさや問題点を見つめ直すという取り組みです。簡単そうに思えていたことが、実際に体験してみると思ったようにはいかないケースがたくさんあることが分かります。

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 パネルディスカッションには、山口氏と平野井氏、檜垣氏に加え、兵庫県動物愛護センターの副所長・杉原氏が加わり、兵庫県健康福祉部健康局生活衛生課主幹の三谷氏の司会で進められました。
 会場からは、長期化した避難生活の中での動物の飼育についての質問がありましたが、ペットを飼っている人も飼っていない人にとっても同行避難という言葉が特別なものではなく、日頃からご近所のお付き合いや地域での備えなど、お互いに助け合うことの大切さが伝えられました。また、一ヶ所に全ての避難用具を備蓄した場合、家屋の倒壊などで取り出せない場合もあるので、分散した備蓄の必要性など、具体的なアドバイスも伝えられました。

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【閉会】

 閉会の挨拶はペットの防災実行委員会副会長の中島克元氏から挨拶を頂きました。中島氏は、阪神・淡路大震災のときにご自身の自宅が全焼し、経営する動物病院が全壊するという経験をお持ちです。そういた経験から、ペットとの同行避難や地域での助け合いの必要性を人一倍実感しておられます。今後、起こりうる大規模災害への備えの必要性と、困難に直面したときにこそ、守るべき命を寛容な心で受け入れるという支援の必要性をメッセージとして、このシンポジウムの結びとなりました。

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