第35回 動物臨床医学会記念年次大会・市民公開シンポジウム (平成26年度科学研究費補助金(研究成果公開促進費) 「研究成果公開発表(B)」) 「日本における動物愛護活動の実態と今後のありよう 」 報告

第35回 動物臨床医学会記念年次大会・市民公開シンポジウム
(平成26年度科学研究費補助金(研究成果公開促進費)
「研究成果公開発表(B)」)
「日本における動物愛護活動の実態と今後のありよう」 報告

開催日時:2014年11月16日(日) 13:00〜14:45

会場:大阪国際会議場(グランキューブ大阪) 大阪市北区中之島5-3-51

主催:動物臨床医学会・公益財団法人 動物臨床医学研究所

共催:小動物臨床血液研究会/小動物臨床栄養学研究会/動物のいたみ研究会/日本獣医臨床眼科研究会/日本小動物歯科研究会/日本小動物内視鏡推進連絡会/野生動物救護獣医師協会(WRV)/エキゾチックペット研究会/日本獣医内視鏡外科研究会/人と動物の比較疾患研究会/日本犬糸状虫症研究会

後援:農林水産省/文部科学省/環境省/大阪府/公益社団法人 日本獣医学会/公益社団法人 日本獣医師会/公益社団法人 大阪府獣医師会/公益社団法人 大阪市獣医師会/公益社団法人 鳥取県獣医師会

 

【内 容】

司会:山根 義久(公益財団法人 動物臨床医学研究所)

1. 日本における動物愛護行政の現状:田邉 仁(環境省自然環境局)

2. 諸外国(特に欧米)の動物愛護行政の実態と取り組み:冨永 佳与子(公益社団法人 Knots)

3. 今後の日本における動物愛護と福祉のありようについて:山口 千津子(公益社団法人 日本動物福祉協会)

 

 

 公益財団法人 動物臨床医学研究所は、「獣医学に関する臨床的研究を行い、併せて獣医療技術の向上のための教育と知識の普及を行うことにより、 動物臨床医学の発展と、さらに、人と動物の接点の探求及び動物愛護思想の啓発普及を図り、 もって社会の福祉と学術の発展に寄与する」ことを目的として発足した団体で、獣医学に関する臨床的研究をはじめ、獣医医療のスタッフの教育・養成、野生鳥獣や自然資源の保護など、広範囲の活動を行っています。

 中でも「動物臨床医学会記念年次大会」は、日本の動物臨床医学の関係者が一同に会する場として高い関心を集めている大会で、2014年の科学研究費助成事業(通称:科研費)応募が10万件以上の中から採択された格式の高い学術大会でもあります。第35回となる今回の大会では、大会3日目に一般市民の参加可能な形で市民公開シンポジウムが開催され、「日本における動物愛護活動の実態と今後のありよう」というテーマで開催された今回のシンポジウムは、当財団の理事長・山根義久氏が、何としても自分が司会を務めたいという強い思いを持って実現した内容です。

 冒頭の挨拶では、被災動物の現状や悪質なブリーダーが野放しになっている現状など、現代社会の様々な場面に於いて動物たちが置かれている状況に対して、「人間として、日本人として大切なことを忘れかけているのではないか…」という強い危機感を持っておられ、獣医師としてこの問題に立ち向かわなければならないという使命感があると述べられました。

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 まず始めに、環境省自然環境局の田邉仁氏から「日本における動物愛護行政の現状」というテーマでお話がありました。

 現在、日本では約2000万頭のペットが飼育されていると言われていますが(一般社団法人ペットフード協会調べ)、平成24年度の行政における引き取り頭数は約21万頭で、平成16年度に比べるとその数は半減しており、これまでに行ってきた「基本理念」に基づく施策の結果が数字となって表れているのではないかと述べられました。しかしながら、その内の80パーセント近くは殺処分をされており、その数は決して少ないとは言えません。

 こうした現状を改善して行くためには、①国民全体としての意識の向上 ②引き取り数を減らす ③返還と譲渡の推進 の全てに於いて向上を目指す必要があり、そのために、環境省は平成24年11月に「人と動物が幸せに暮らす社会の実現プロジェクト」を立ち上げ、翌年にアクションプランを発表しました。プロジェクトの最終目標は殺処分を無くすことを掲げていますが、この目的のベースとなるのは、やはり「人間が責任を持つ」という基本的な社会の構築であり、飼い主、ペットショップなどの事業者、ボランティア、NPO団体、行政等が一体となって取り組みを推進する「恊働」が重要なポイントとして挙げられています。

 まずは飼い主が「飼い主責任を果たす」という意識の向上はもちろんのこと、ペットを飼っていない国民も「人としての責任」を認識するという、「命に対する人間の責任」をより明確にする社会の構造を作るための啓発が必要であるという考え方を示されました。

※プロジェクトの内容は、こちらの環境省のサイトで見ることができます。

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 次に、公益社団法人 Knots理事長の冨永 佳与子より、「諸外国(特に欧米)の動物愛護行政の実態と取り組み」の報告をさせて頂きました。まず最初に、Knotsの団体概要と、これまでに取り組んで来た事業内容の説明をさせて頂きましたが、Knotsの事業理念は「人を含む全ての動物の調和」をテーマとしており、それぞれの関係性の中でバランス良く生きるということが重要であると考えています。

 欧米の動物愛護(福祉)団体の紹介として、英国のRSPCAと米国のハワイアン・ヒューメイン・ソサイエティ(HHS)を紹介させて頂きました。世界で最も有名なRSPCAの活動を改めてご紹介するまでもありませんが、団体の基本理念は「虐待防止」がベースになっており、主な使命は「動物の福祉を守ること」です。RSPCAの運営には全く行政の予算が入っておらず、一般からの寄附や費用の徴収、財務運用でまかなわれており、寄附の大きなものは遺産です。収入総額は200億円以上であり、遺産を寄附するという文化が根差していない日本とは、かなり文化的背景そのものが違っています。HHSは、人道上の立場からのシェルター運営で、郡の動物管理業務を受託しており、郡からの委託料が予算の30−40%を占め、他はRSPCAと同様です。日本の動物愛護センターと同様の規模で、事業内容もほぼ同じであり、今後の動物愛護センターの運営には、大変参考になる事例です。オアフ島のペットの飼育率は、58%(犬は45%)であり、日本にも、未だ増加の余地があるのかもしれません。一方、日本では行政機関として各地に動物愛護センターが設置され、公務員によって譲渡事業や啓発・教育などの業務が行われており、制度的にも大きな違いがあります。

 日本の参考事例として紹介した奈良県では、先般、RSPCA国際部門の責任者であるポール・リトルフェアー氏が奈良県うだ・アニマルパークで講演をされた際、同施設を見学されましたが、「これまで見た施設の中で最高のシェルターである」という評価を頂いています。県の教育委員会とも連携し、教育のプロである教職員と獣医師の連携によって、子どもたちに先進的なヒューメイン・エデュケーション「奈良県いのちの教育プログラム」が実施されています。この取り組みは、生体を使わない教育方法として全国の動物行政の関係者から高い関心を集めており、研修会にも多くの参加者が集まります。

 

 これまでは、「欧米の動物愛護は先進的で日本は遅れている」という考え方が一般的な見解だったように思いますが、欧米の寄附による運営を行っている団体から見ると、市民の税金によって行政が運営している施設でこれらの事業が行われているということは、まさにアンビリーバブルな素晴らしいことだそうです。日本の動物行政は、狂犬病予防法を基にした感染症予防から、動物愛護法により、虐待防止・動物福祉の観点へと基本概念を転換させることになり、その意味では、欧米に比べると、日本での動物愛護(福祉)に関する行政の歴史はまだ浅いものかもしれませんが、欧米とは異なるシステムでこの十数年の短期間で劇的な成果を挙げているのも事実です。現在の動物行政の動きは、行政と民間の団体が恊働で連携し、「さらに殺処分数を減らし」、「未来を担う子どもたちや社会への教育等を通じて心豊かな市民育成を図り」、また、「社会環境の変容に合わせた新たな市民サービスを行う」といった方向です。このことは、ICAC KOBE 2014 シンポジウムⅣで議論されたように、今後、人と動物双方の福祉を向上させることができる新たな社会システムとなる可能性があるという証でもあります。

 大切なことは、欧米型・日本型共に、市民の心情に寄り添い、いざとなれば支えてくれる場所として社会に溶け込んでいるシステムであることが重要であり、日本は、まだまだ、欧米から学ぶ必要がある部分でもあります。

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 最後に、日本に3名しかおられないRSPCAのインスペクターでもある公益社団法人 日本動物福祉協会の山口 千津子氏から「今後の日本における動物愛護と福祉のありようについて」というテーマでお話を頂きました。

 1999年の法改正後、国民を啓発指導する立場の動物行政の福祉に関する観点が少しずつ向上し、その結果、引き取り件数や殺処分数が減少するという数値として着実に成果をあげています。しかし、昨今、頻繁に耳にするようになった「殺処分ゼロ」という言葉の陰で、動物の福祉に反する頭数を福祉に反する方法で保管せざるを得なくなった施設や、引き取り拒否の陰で無責任に遺棄される動物が増えるといった現象も現れはじめており、本当に人として動物の「いのち」に対する責任が果たされているのだろうか…ということには、疑問を感じざるを得ない状況も残されています。

 「殺処分数はゼロになったのに、動物の福祉もゼロ」という国にならないためにも、今後、子どもから大人までの年齢層に合った、あらゆる「いのち」に対する共感を育む教育・啓発が不可欠であり、飼い主としての責任を自覚した人を育てることが、人と動物が共に暮らしやすい社会システムを作る近道であると話されました。こうした教育を継続的に行うことにより、動物の命のみならず、人として「いのち」に共感をすることができる人格の形成にも繋がっていくのです。これらの教育と法律の整備は車輪の両輪であり、平行して整備をすることによって、安心・安全な社会が守られていくことになると力を込めて伝えられました。

 動物と共に生活する効能はすでに広く知られていますが、飼い主の責任を追及するあまり、動物と共に生活をすることができない社会になってしまっては本末転倒です。私たち人間が幸せに暮らせる社会は、動物の好き嫌いに関わらず「いのち」に対して優しい社会であり、これらの取り組みを国の施策として押し進めて行くことが、幸せで豊かな社会の実現に繋がるのではないかと述べられました。

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シンポジウムの最後に、司会の山根氏からは、もう一度若返ってこれらの問題に一生かけて取り組みたいという思いが伝えられました。様々な分野に於いて、獣医学ほど国民の生活に密着した学問はなく、その道を志した人間としての責務があり、来年の大会でも是非このテーマを取り上げたいという熱い思いが語られ、シンポジウムが終了しました。