基調講演 2014

概要 基調講演 ご挨拶 アドバイザー
プログラム シンポジウム 発表要旨 プロフィール
ご支援のお願い 参加登録受付 ICAC記録集 ICAC2012
English
ps

—基調講演—

「インフルエンザウイルスの生態:
鳥インフルエンザとパンデミックインフルエンザ対策のために」

  

喜田 宏氏
profile_button1se

日本学士院 会員
北海道大学 特別教授
北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター 統括
OIE世界鳥インフルエンザレファレンスラボラトリー長
WHO指定人獣共通感染症対策研究協力センター長

 

 

“鳥インフルエンザ”や“新型インフルエンザ”など、用語の誤りが誤解と妄想をひき起こしている。「鳥インフルエンザ」は鳥のインフルエンザウイルス感染症で、ヒトの病気ではない。また、紀元前から人々が悩まされてきたインフルエンザに新型も旧型もない。「H5N1鳥インフルエンザウイルスがニワトリに感染を繰り返すうちに、“変異”してヒトにパンデミックを起こすのは“秒読み段階”」との警報が、10年以上、鳴り続いている。2008年には、水酸化アルミニウムアジュバントを添加した不活化H5N1ウイルス全粒子ワクチンが6,000人の医療従事者と小児に接種された。2009年には、ブタのH1N1インフルエンザウイルスがヒトに伝播して、瞬く間に世界に広がった。日本政府は1億ドースものワクチンを外国企業から購入したが、使用せずに廃棄した。さらに、2012年には、日本に“新型”(パンデミックの誤訳)インフルエンザが入ってくれば、64万人が死亡するとのシナリオが閣議で了承され、新型インフルエンザ等対策特別措置法が2013年4月から施行された。これらの間違いはすべて、誤解と妄想の結果である。

 

 高病原性鳥インフルエンザウイルスは、感染した“ニワトリ”のほぼ100%を斃す。インフルエンザウイルスの病原性は、宿主動物のウイルス増殖に対する反応の程度をもって測られる。鳥インフルエンザ対策の基本は、「感染家禽の早期摘発・淘汰により、被害を最小限にくいとめるとともにヒトの健康と食の安全を守る」ことである。我々は、国際機関と各国に働きかけ、一刻も早くアジア・アフリカからこのH5N1高病原性鳥インフルエンザウイルスを一掃する努力を続けている。

 

 人々に免疫がないHA亜型(新型)のウイルスは、ヒトの間で直ちに広がる恐れがある。すなわち、「伝播性」は高い。しかし、ヒトの体内で激しく増殖しない限り、ヒトに対する「病原性」は低い。パンデミックインフルエンザの第二波以後、すなわち季節性インフルエンザを起こすウイルスの方がパンデミックウイルスより病原性は高い。季節性インフルエンザによる死亡者は、日本だけで、年に数千から2万人と見積もられている。したがって季節性インフルエンザ対策の改善、特に免疫力価が高いワクチンを供給する努力こそが、パンデミックインフルエンザ対策の基本である。

 

 2013年3月末に、中国におけるH7N9ウイルスのヒトへの感染が報告されて以来、同年内に137名の感染が確認され、うち45名が死亡した。中国政府は、ウイルスが検出された生鳥市場の鳥を淘汰し、施設を消毒した結果、ヒトの本ウイルス感染はなくなったと宣言した。しかし、2014年に入って、200人を超える感染患者と前年以上の死亡例が認められている。このH7N9ウイルスがパンデミックを起こす可能性は否定できないので、監視を継続する必要はある。ただし、パンデミックの第二波、すなわち季節性インフルエンザを起こすまでに免疫力価が高いH7N9ウイルスワクチンを準備すれば良い。

 

 現行のインフルエンザワクチンは、エーテルスプリットワクチン(通称HAワクチン)である。副反応(実は免疫応答)を除くことに主眼がおかれ、免疫力価を犠牲にして開発されたものである。これが1972年に採用されて以来40年以上、改良されず今日に至っている。メディアは、「日本はワクチン後進国」と決めつけているが、なぜ斯様な現状となったかを考えれば、世論を誤誘導したメディア自身にも責任がある。ワクチンの本質的議論を怠り、副反応の本体を見極めることもせず、現行ワクチンの免疫力価の低さに目を瞑り、これを放置した行政の責任については言うまでもない。