ワークショップⅦ「ペット動物の栄養学~腸の健康が体全体に及ぼす影響」

座長メッセージ

左向敏紀氏
(日本獣医生命科学大学 獣医学部 獣医保健看護学科臨床部門 教授)

 動物が生きて行くためには食事はなくてはならないものである。動物種にあった安全でバランスが取れたものを口にしていれば動物は健康に暮らして行ける。しかし、どんなに栄養学的に優れた食事を与えても、その栄養を吸収する腸が健康でない限り、その動物は、必要な栄養素を吸収することが出来ず、健康を保つことが難しい。
 そこで、本ワークショップでは、特にペット動物に対して、腸の健康を保ち、消化吸収が健全に行われることで動物の健康へどのような影響があるのかについて講演していただく。また、ペットの胃腸の病気をどのように見つけ出していくかを専門家の先生に解説していただく。
 また、ただ健康的に食べていれば良いと言うことではなく、食べ過ぎによる肥満という問題がある。人間でも同様であるがメタボリックシンドローム、肥満がどのように動物に影響があるかを解説し、そこから進行する代表的生活習慣病、糖尿病についても解説して行く。

「子犬のストレスに対する自然抗体の有効性について」
ジル・クライン 氏
 (ネスレピュリナペットケア株式会社 製品技術センター 科学研究者)

子犬は生まれた最初の一年の間に多くのストレス要因を抱えるが、これが子犬の健康に悪影響を及ぼす場合がある。最初の一年の間に子犬は新しい家への移住、初めての入浴、ワクチン接種など多くの変化を経験する。このようなストレス要因のすべては腸内ミクロフローラに悪影響を及ぼす。また今後のこの様な過酷な成長発達時期において栄養が何より大事であると示唆している。初乳は腸内の善玉細菌と悪玉細菌のバランス調整に役立ち、結腸内ミクロフローラが促進する栄養吸収を助けるだけでなく、感染や下痢、腸炎の発生率を低下させる。最近の研究では初乳に含まれる自然抗体やその他の生物活性成長因子は子犬の未熟な免疫システムを強化させることが明らかになった。

幼犬における消化管の免疫機能 
 消化管の保護機能は病原体や悪い基質の侵入の阻止に役立つ。出生時に腸の働きが羊水の処理から乳の消化へ転換することから腸バリア機能に急激な変化が起こる。生後12週から22週までの間で物理的バリアー機能が完全なものへ移行する。
・腸管関連リンパ組織(GALT)は体の中で最も大きな免疫器官である。新生犬にも機能する免疫システムは備わっているが、出生時はまだまだ未熟な状態である。各免疫刺激に対しても初めての暴露であることから免疫グロブリンを作り出すためには長い期間を要する。初乳には免疫グロブリンを初め消化管の発達を促すその他の成長因子が含まれている。
  新生犬に犬の初乳が与えられない場合はウシの初乳を適切な代用物として与えることが出来る。完全に離乳した子犬の場合でもウシの初乳は有効である可能性がある。消化管防御システムのもう一つの重要な要素は腸管腔に居住する常在ミクロフローラである。新生犬の消化管は無菌状態だが急速にミクロフローラの蓄積を始める。この微生物集団の構成は免疫の健全性に大きな影響を与える。生後1ないし2日の内に環境や主に母犬の初乳から得られた微生物が新生犬の消化管全体に住みつくようになる。離乳に伴い腸内ミクロフローラの構成に大規模な変化がもたらされる。病原性または有益な微生物の定着能力が非常に高まるのはこの腸内ミクロフローラの遷移時期である。腸内ミクロフローラは宿主動物の免疫システムの発達において重大な働きをし、また腸管関連リンパ組織の発達を促す主な刺激要因にもなっている。内在する腸内ミクロフローラは病原体と競い合い、有益な微生物が住みやすい環境を整える。消化管粘膜の物理的バリアーや腸管関連リンパ組織の免疫力に加えて腸内ミクロフローラは体の自然防御システムの一部として非常に重要な役割を果たしている。

調査研究により確認された自然抗体の有効性
 我々の機関で行われた最近の研究で自然抗体の有効性が確認された。調査では超免疫処理を施した卵粉を自然の抗体源として使用した。管理された運動プログラムを行い、超免疫処理を施した卵粉を加えた以外は全く同じ餌を与えられている18匹のアラスカンハスキー(生後12~16週の子犬)2グループを対象に実施した。餌に卵粉を補給した場合以下の事項が確認された。
a)腸管ミクロフローラの安定化。これは栄養吸収の最適化、ストレス誘発性、または関連性下痢の改善を促進する。
b) 消化管の粘膜免疫刺激があったことを示す糞便に含まれる免疫グロブリンAレベルの増加。これは腸の保護機能をサポートする。
c) 糞便のpHの低下。これは腸をより健全な状態に導く有益な腸バクテリアのレベル向上に関わる。
  また最近の別の研究において我々は犬の免疫および腸の健康を高める上での初乳の能力評価を行った。犬には対照餌と初乳を補給した対照餌のいずれかを与えた。超免疫処理を施した卵粉の場合と類似し、自然抗体とその他の生物活性物が含まれていることで初乳が評価された。
  初乳に由来する自然抗体やその他の生物活性物を含む餌を与えた場合、犬ジステンパーウイルスの追加免疫ワクチン接種に対して著しくより高い反応が見られた。これは対照餌を与えられた犬と比べてこの餌を与えられた方の免疫状態が強化されていることを示している。ワクチン接種に対する免疫反応は強まったが、この調査では免疫システムの過度刺激は認められなかった。C反応性タンパク及び免疫システムの基準である血漿中 IgG、 IgM 、IgAの値にはいずれも対照と比べ違いが認められなかった。従って初乳を含む餌を与えられた犬の免疫システムは病原菌や通常の獣医医療の中で行われるワクチン接種に対してより有効な反応を示す傾向がある。
  腸管内の微生物集団は細胞の代謝回転や養分利用性(離乳時の食物の導入)、腸内微環境の相互作用などにより一定流量に保たれている。初乳に含まれる自然抗体とその他の生物活性物は腸管の有効なバクテリアと有害である可能性のあるバクテリアのバランスをとるのに役立つ。腸管のバクテリアを一定に保つことで、初乳は結腸ミクロフローラが促進する栄養吸収に作用し、感染症や下痢、腸炎にかかる可能性を軽減する。
  新しい研究で初乳に含まれる自然抗体とその他の生物活性物や乳漿タンパク濃縮物、超免疫処理を施した卵粉が犬の健康に対し有益な効果があることが明らかにされている。これらの化合物は過剰刺激をもたらすことなく、問題に対処するための幼犬の未熟な免疫システム強化、腸内ミクロフローラの安定化、感染やストレスに由来する下痢の軽減に役立つ。

「胃腸器疾患における画像検査の意味:専門医からのメッセージ」
宮林孝仁氏
 (iVEAT総合診断センター センター長兼代表取締役
  アメリカ獣医放射線学会認定専門医・獣医学博士)

 胃腸器疾患は下痢や嘔吐などのよく見られる臨床症状を作り出します。しかし、下痢と嘔吐の原因がすべて胃腸器疾患であるとは言えません。そのために、開業医の先生はワンちゃんやネコちゃんの体調を見て、『対症療法』、つまり、制吐剤や下痢止めを処方し、様子を見られることもあれば、『原因療法』、つまり、原因が何であるかを見極めるための検査をして、その原因を取り除く治療をされるかもしれません。当然、後者の場合は多くの検査をすることがありますから、費用が高くなってしまいます。

  今、開業医の先生が禀告を聞き、身体検査をし、仮診断の中に、何か異物などによる閉塞病変があるかもしれないという可能性を考えた際には、レントゲン検査をされると思います。費用的には8,000円前後の検査になると思いますが、レントゲン検査により、腸管の拡張を見ます。また、腹部のディテイルを見ます。その結果から、さらに、腹部超音波検査を行うこともあれば、CT検査が必要になる事もあります。専門医の立場から、このような症例でなぜ費用のかかる画像検査が大切か、症例をお見せしながら、解説したいと思います。

「伴侶動物の肥満と健康障害」
石岡克己氏(日本獣医生命科学大学 獣医学部 獣医保健看護学科 准教授)

肥満は、先進国で見られるもっとも一般的な栄養障害である。ヒトの医学領域においては、肥満はさまざまな生活習慣病の原因になることが知られており、診断・治療法の研究が大きく注目を集めている。一方、獣医領域においても、現在都心で飼われている犬や猫の1/4から1/3が肥満であるといわれており、臨床現場で様々な問題を引き起こしている。犬や猫の肥満は健康にどのような影響を及ぼすのか、また、ヒトの肥満と犬、猫の肥満はそれぞれどこまでが同じでどこからが違うのか。比較医学・獣医学という観点から解説してみたい。

「糖尿病に“ならないために”そして“なったら”」
  左向敏紀氏(日本獣医生命科学大学 獣医学部 獣医保健看護学科臨床部門 教授)

 人のメタボリックシンドロームが注目されていますが、それは糖尿病を中心とした「生活習慣病」になりやすいからです。日本人では糖尿病が疑われる人が890万人、予備軍が1320万人といわれ、50歳代以上は25%以上に上ります。犬猫には「糖尿病」は居るのでしょうか?人の糖尿病とどう違うのでしょうか?犬猫も糖尿病になり易い体質、生活が有るのでしょうか?またはならない方法が有るのでしょうか?また、「糖尿病」または「メタボリックシンドローム」の状態になったらどうすればよいのでしょうか?“糖尿病にならないための”“なってからの”食事管理や生活について解説したいと思います。