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2010.12.05

【報告】りぶ・らぶ・あにまるずシンポジウム 2010「子ども達の無限の可能性と明るい未来を取り戻すために ~動物介在療法と子ども達の心の危機管理」

りぶ・らぶ・あにまるずシンポジウム2010
『子ども達の無限の可能性と明るい未来を取り戻すために
~動物介在療法と子ども達の心の危機管理』

 

 

■開催日時:2010年12月5日(日) 13:30~16:00
■開催場所:神戸ポートピアホテル南館地下1階「トパーズの間」
■主  催:公益社団法人Knots
■共  催:特定非営利活動法人 RDA  Japan  / 一般社団法人 日本障害者乗馬協会
■目  的:傷ついた子ども達の心の治療の一つとして行われている、動物介在療法及び子どもの心の危機管理に関する最新の情報を提供することで、子ども達の健全かつ安全な成長に寄与します。
また、人と動物のより良い共生モデルを通して、人をも含めた動物の福祉向上の一助とします。
■特別協賛:
■後援:環境省 / 兵庫県 / 神戸市 / 兵庫県教育委員会 / 神戸市教育委員会 /社団法人 兵庫県医師会 / 社団法人 神戸市医師会 /社団法人 兵庫県獣医師会 / 公益社団法人 神戸市獣医師会
■司会:横山章光氏 / 帝京科学大学生命環境学部アニマルサイエンス学科准教授・医師
■スピーカー
「話題提供」
1.「グリーンチムニーズにおけるAAA(動物介在活動):トラウマによる心の危機へのケアと対応」
木下美也子氏 / グリーンチムニーズファーム教育活動部長
2.「心に傷を負った子ども達のケアについて」
中尾 繁樹氏 / 関西国際大学 教育学部教育福祉学科 准教授
学長補佐 教育福祉学科長
「質疑応答」
・ 木下美也子氏
・ 中尾繁樹氏

本シンポジウムは、心に障害のある子ども達の教育施設として、63年の歴史を誇る「グリーンチムニーズ」でファーム教育活動部長を務めておられる神戸ご出身の木下美也子氏と、2005年に開催致しましたシンポジウム「犬と拓く子ども達のコミュニケーション」で様々なご示唆を賜りました、関西国際大学准教授の中尾氏のお二方をお招きし、子ども達の心身ともに健全な成長と明るい未来の為に私達大人に出来ることは何か、考えていくために開催致しました。
まず、Knots理事長の冨永より、開会のご挨拶を申し上げ、司会をお務め下さいます横山氏をご紹介させて頂きました。
横山氏は帝京科学大学生命環境学部で准教授をお務めになっておられ、精神科医でもあられます。動物介在療法や子どもと動物の関係に関する論文や著書も多数ご発表しておられます。


横山氏の司会のもと、木下美也子氏の話題提供が始まりました。
最初に木下氏が所属しておられますグリーンチムニーズについてご説明がありました。グリーンチムニーズでは、学習の一環として動物と植物が取り入れられていますが、動物に関わる療法は全体の15~20%程度とのことです。子ども達の教育にあたっては、教師、寮の先生、ファーム、看護師、医師、家族、教育委員の皆さんでチームを組んで取り組みます。また、国の機関とも連携しています。


木下氏が担当しておられる、馬介在活動は、障害者乗馬だけでなく、馬具、厩舎の掃除や餌やり、馬の身体の勉強など多岐に渡ります。子ども達が興味を持ったり、好きなものから、取り組んで伸ばしていきます。子ども達は様々な作業を行う中で、物事の順序を覚えたり、忍耐力を養い、チームワークを培いながら、最終的に命の大切さを学びます。
また、アニマルセラピーと作業療法や理学療法、心理療法との違いについて、作業療法や理学療法は、目的地を決めてそこに向かう旅行であり、アニマルセラピーは、目的地に行く方法、つまり、「動物」は目的地に速く簡単に到着する為の方法の一つであるとご説明されました。動物が好きな子ども達の場合は、アニマルセラピーを行うことで、飛行機に乗って目的地に到着することが出来るのです。
グリーンチムニーズでは、日常に起こることや人とのふれあいを意図的にセラピーの一環とする、「ミリューセラピー」という方法が取り入れられています。これは、環境セラピーとも言われ、子ども達の接する環境の全てが、子ども達の社会性、自尊心の向上に役立つようデザインされています。グリーンチムニーズでは、直接子どもと接することのない、経理、清掃関係のスタッフも全て子どもに関する教育を受け、声をかけたりして、子ども達を見守っています。

心に傷を受けた子ども達が起こす問題行動は、氷山の見えている部分で、水面下にその行動を起こす気持ちがあり、そこに対応していかないと問題行動の対処だけでは、本当の解決にはなりません。但し、心の傷は治すことができます。的確なケアをしていくと問題行動は減っていきます。完治しなくても、傷は薄くなっていきますので、傷にあった治療を行っていくことが大切です。その手助けをしてくれるのが、動物です。木下氏は実際に動物達が関わることで、子ども達の心にどのような変化が生まれたかを事例を挙げてご紹介下さいました。人を信頼出来なかった子どもが、動物を通して、少しずつ、人へも心を開いていったり、動物の世話をすることで、算数や読み書きをいつの間にか学んでいる場合もあります。
動物と関わることで生き甲斐が出来、明日への希望を見出し、将来は動物と関わる仕事に就きたいと思う子どももいます。動物は人の心の扉となり、人と人との架け橋となり、命の大切さを教えてくれる存在であると、木下氏は話されました。

次に関西国際大学准教授の中尾氏より、現在の子ども達が置かれている状況についてお話がありました。中尾氏は、この50年で子育ての環境が大きく変わったことを指摘されました。核家族が進み、母親の育児の負担が大きくなっています。多くの母親は、孤独から来る不安や漠然とした社会への不安感などの中で子育てを行っています。また、情報化が進んだ関係か、価値観や生活意識の変化から、密着型の子育てが減って来ていて、例えば、授乳時に、右手で携帯を打ちながら、左手で子どもの口に哺乳瓶を突っ込む、というような状況があります。子どもを抱きしめる、子どもに触れる、特に母親との情愛的な絆は、「触れる」ことで生まれます。ほ乳類は、密着してほ乳するのが基本です。この密着がないと、「人」への関心が薄れ、人を大切にするという気持ちが育たず、「情」や「絆」がうまく人と結べない子どもが育ってしまうそうです。
「触感覚」は、愛着形成の基礎となり、対人関係の基礎ともなる大切な感覚であり、これが、子ども達の睡眠や食事にも大きな影響を与えるとのことです。
子どもの養育に関わる大人達の精神状態が、子どもの成長には大きく関係しています。
中尾氏は、子育てを行っている養育者へのサポートが急務であることを話されました。

また、50年前に比べ、子ども達の受け取る情報量は、4倍に増えているとのこと、これは子どもの脳に大きな負担となっているようです。
中尾氏は、ADHDを取り上げ、子どもに多い障害についても話され、障害に的確に養育者が対処出来ない場合に、子ども達がどのような症状に陥っていくかをご説明下さいました。1歳半と3歳の健診が如何に大切であるか、予防の必要性を強調されました。また、いじめや虐待が子ども達の心の発達にどのような影響を及ぼすかを、事例を伴いご紹介下さいました。
最後に、子どもを触る時の手の当て方について、お話しされました。手を通して、体へ、心へ伝え、相手の気持ちを感じ、手を通して相手と解け合う。この手が、「動物」に代わると、動物を通して、体、心を感じ、一緒に解け合う、関係を築く上でのベースになっていくのではないか、と結ばれました。

   その後、短い時間でしたが、質疑応答が行われ、シンポジウムは終了致しました。
最後に、理事長の冨永より、2002年に開催したシンポジウムでスピーカーをお務め下さいました、昭和大学医学部小児科教授 飯倉洋治先生が、「小児科医がもっともっと子ども達の為に頑張らないといけない」とお話されたことを紹介致しました。飯倉先生は、その3ヶ月後に胃がんでお亡くなりになりました。
子ども達が安全な環境で心身ともに健やかに成長をしていく為には、もはや、保護者や関係者のみの力では及ばないところまで来ています。
本シンポジウムが、全ての大人が子ども達の為に、出来ることは何か、何をしていくべきか、考える良い機会となったのではないかと思います。
ウェルカムパーティ

スピーカーの木下氏は神戸のご出身です。今回、各地で講演をされ、神戸が最後となりました。神戸へ戻って来られた木下氏のウェルカムパーティとKnotsが公益社団法人に認定されたお祝いを併せて開催致しました。
会場には、今までKnotsがお世話になった方々が沢山お越し下さり、温かい祝辞を賜りました。会場には、お花や祝辞も沢山届きました。また、オペラやコンサートなど素敵な音楽のプレゼントも頂き、とても心温まるパーティとなりました。