今回は、米国の少年院内でシェルター(保護施設)の犬を新しい飼い主に渡す前のトレーニングや世話を少年達に任せるというプロジェクト・プーチという更生プログラムについて、そのプログラムの責任者であるジョアン・ドルトン氏を招聘し、話題提供をして頂きました。
このプログラムの特徴は、更生中の少年が一度は人に見捨てられた犬の世話をし、トレーニングすることを通して、責任を持つこと、忍耐、他の命への思いやりをもつこと、そして自分が必要とされていることなど沢山のことを学ぶという点です。トレーニングは、力を使うのではなく、ほめてしつける「陽性強化法」で行なわれます。このトレーニングを通して少年は、自分の行動をコントロールすることを学びます。また、少年と犬との間に生まれる心のつながりを通して、無条件の愛を体験することとなります。これが、将来人間関係を築く上でとても大切な体験となります。また、犬のトレーニングや世話をすることで、トリマー、しつけインストラクター、ペットシッター等の技能を学ぶことにもなります。プロジェクト・プーチを受けた少年達は、受けなかった人と比べリーダーシップ、目的意識を持つこと、問題解決能力が上回っているという結果が出ています。
そして、最大の利点はプロジェクト・プーチを受けた少年達の再犯率が「ゼロ」という点です。この数字がこのプログラムの素晴らしさを証明しています。
ドルトン氏のプレゼンテーションに来場者は皆熱心に耳を傾けておられました。最後にプロジェクトプーチを紹介するビデオが流されましたが、プーチを卒業した少年のエピソードに多くの来場者が涙される場面もありました。
次に休憩を挟んでパネラーのお一人である法務省奈良保護観察所の青山所長より、まず少年院の現状についてお話頂きました。平成11年に少年法が厳罰化されたにも拘らず、非行は減少せず、少年院では過剰収容の状態が続いていて、少年一人一人のケースに合わせて十分な矯正教育を行なうには、大変厳しい状況にあるとのことです。
今回、プロジェクト・プーチが日本で紹介されたことで、収容少年に大きな感銘を与え、少年院教育に一石を投じる機会となれば、とのことでした。また、日本特有の更生保護システムとして、保護司と呼ばれる方々のご説明をされました。更生保護とは、国が民間の人々と連携し、犯罪や非行をした人が地域の中で早期に更生できる様助けると共に、地域の犯罪・非行の予防を図る活動です。保護観察官と連携して更生保護活動をされる民間のボランティアの方々を保護司といいます。日本には48,000人の保護司の方がおられます。これは日本特有の素晴らしいシステムです。
次に東京工業大学 影山教授よりご専門の犯罪心理学に基づいた日本の殺人者率、傷害者率、暴行者率や米国の殺人者率等のデータをご紹介頂きました。日本では犯罪の件数は減少傾向にありますが、10代の女性の傷害者率は増加しているというショッキングなデータも報告されました。また、興味深いデータとして米国で報告されたものですが、不仲の両親が揃っている家庭より、情愛深い母子家庭で育った子どもの方がはるかに重大犯罪を起こす確立は低いという結果が出ているそうです。影山氏は青少年の犯罪を防止する為には、早期介入が有効な手段であると思われ、また、更生プログラムにおいてもそれぞれのケースに即したプログラムを行なうことが有効であろうとお話されました。
最後に、(社)日本動物福祉協会 獣医師調査員の山口氏は、人間も動物であり、人間の福祉と動物の福祉は一緒であると話されました。プロジェクト・プーチでは動物を救うことで子どもも救われます。そして、最後に動物が幸せになることが子ども達に大変良い影響を与えていると考えられます。日本では何かとブームに乗る傾向がありますが、動物を介在とした様々なセラピーが行われる時、動物達が幸せであること、そして動物達の福祉が最大限に確保できる状態でないと、プロジェクト・プーチのような素晴らしい成果は上がらないであろうと話されました。
その後、座長の山ア氏による進行の下、パネルディスカッションと質疑応答が行われました。
最後に山ア氏は、素晴らしい成果を上げているプロジェクト・プーチを日本で導入する場合、プロジェクトに関わる人材というソフトウェアの部分が大変重要であると話されました。プログラムに参加する少年達の心身のケアや犬達の幸せと福祉が最大限確保された状態での犬の世話、トレーニングなど、関わるスタッフやプログラムの理念が確固たるものでないとかえってネガティブな結果を招きかねないことを警告されました。
今回は、昨年に引き続き定員を大幅に上回る来場者の方々で会場が埋めつくされました。特に遠方の他府県からや学生の方が多数参加されていらっしゃいました。また、時間を延長しての開催となりました。
青少年による悲しい事件が続いている昨今、今回のシンポジウムを通して関わる関係者の方々は勿論のこと、今後、これ以上加害者も被害者も増やさない為に大人達が子ども達や動物達の為に何が出来るのか、何をすべきなのか考え、実行して頂ける機会となることを願って止みません。
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