りぶ・らぶ・あにまるず国際シンポジウムの翌日の7月12日、ジョアン・ドルトン氏、今西乃子氏(ドルトン氏の行なわれているプロジェクト・プーチを本にて紹介された著者)と共に奈良少年院を訪れました。 この訪問は、実はとても不思議なご縁があって実現したものです。 11日に開催された神戸21世紀・復興記念事業継続事業 りぶ・らぶ・あにまるず国際シンポジウム2004 「子ども達と動物達を救うために〜犬と歩む更生の道」にパネリストのお一人として参加して頂きました法務省奈良保護観察所長の青山氏はシンポジウムに参加されることを奈良少年院の柳生院長にお話されました。すると、柳生院長より、実は奈良少年院に、プロジェクト・プーチを紹介された「ドッグシェルター〜犬と少年たちの再出航」を読んで感想文を書いた院生がいる、とのお話がありました。感想文を書いた少年は、1歳時父親の暴力から実母は蒸発。以降養護施設で生育し、小学校4年時に現れた実母と義父に引き取られますが、家族になじめず家出と非行を繰り返し、少年院収容生活に至っています。以前に別の少年院を出院し、現在は2度目の収容となっています。この少年が、収容少年の読書感想発表会で次のような発表をしたそうです。「犬を愛し、犬と共に過ごした少年院の子供達は、再犯を犯さなかった。それはジョアンさんと共に犬を通して行く中で無条件の愛を感じられたからと思います。私はこれまで親の愛を受けたことがなかったように思います。・・・・この本を読むことで親が子供に与える愛の必要さを知った上で、私は子供に対して無条件の愛を教えられるような人間になりたいです。」 平素は無気力・無愛想な少年が、声を震わせて熱弁を振るった姿が印象的だったとのことでした。 そこで、ドルトン氏の来日の機会に是非少年院で少年達の為にお話をして頂けないかというご依頼がありました。ドルトン氏は喜んで引き受けて下さいましたので、12日に奈良少年院をご訪問する運びとなりました。 奈良少年院に到着後、早速体育館にて100名近い全院生の前でまず、今西氏より少年達にメッセージが送られました。今西氏はご自分の経験も踏まえ、人は弱いところを持っているもので、自分の弱さは弱さとして認めてあげればよく、それは決して恥じることでも隠す必要もないのです。この弱さを認めた上で、しっかり生きていって下さい。とお話されました。 ドルトン氏は、実際プーチのプログラムを受けた少年達のお話やプーチ以外のプログラムについても触れられ、更生プログラムの多様性や可能性についてお話されました。 その後、少年達より質問を受けそれに答える形で進行しました。少年達からは沢山の質問が寄せられました。中には「プーチに参加した少年は更生して立ち直ることが出来て良かったかも知れないが、被害者の方への贖罪はどのようにされているのか」と言った質問もありました。ドルトン氏は一つ一つの少年達の質問に丁寧に温かく対応されていました。 最後にプーチに参加したある少年が書いた作文をドルトン氏が紹介されました。それは、プーチに参加するにあたり少年達全員に自分と犬との関わりについて今までの経験や想いを書いてもらっているものだそうです。少年が小さい頃に1匹の犬スークを家族に迎えました。少年はスークをとても大事にしていつも一緒にいたそうです。ところが、思春期を迎え少年は薬物に溺れてしまいました。そして少年院に収容されます。あんなに仲良しだったスークとも会えなくなってしまいました。少年の家族は少年ほどにはスークの面倒を見てくれませんでした。そして、あるとても寒い日スークは亡くなってしまいました。この時少年は、思ったそうです。「僕はスークが一番必要とする時に傍にいられなかった。スークが死んだことで、他の人を恨んだりはしない。悪いのは僕だ。このような道を選んだ僕が悪い。もう一度チャンスがあれば、スークを放っておいたりしないで、スークが一番必要とする時に僕は必ず傍にいるのに・・。」 この少年は、プロジェクト・プーチに参加し、一度は人に見捨てられた犬の世話をし、その犬が新しい飼い主の元で幸せになることでとても救われたそうです。 今西氏、ドルトン氏のお話は1時間30分に渡りましたが、院生の皆さんは大変熱心に聞いておられました。 講演終了後、少年院の施設内を見学させて頂きました。 少年院では、少年の教育の必要性に応じて、生活訓練課程、職業能力開発課程、教科教育課程(義務教育を行う課程)が設けられています。施設内には溶接を行える場所や小型建設機械の操縦や窯業等を学べる場所があったり、屋外の農場では院生一人一人が畑を持ち、様々な作物を育て収穫しています。また、地元の陶芸家や書道家のご協力の下、院生達に陶芸や書道、音楽や美術に親しむスペースも設けられていました。
神戸21世紀・復興記念事業継続事業 りぶ・らぶ・あにまるず国際シンポジウム2004 『子ども達と動物達を救うために 〜犬と歩む更生の道』