「動物園におけるエンリッチメントの実際」 上野 吉一氏(名古屋市緑政土木局 東山総合公園 企画官)
近年、動物行動学や比較認知科学の発展により、動物の内的世界について我々の知識は徐々に深まってきた。動物の福祉を考える上で、繁殖が上手くいくとか、病気や怪我をしないといった身体の健康に加え、苦痛や要求への配慮といった“こころ”の健康も重要な課題であることが科学的に明らかになってきた。すなわち、飼育動物の福祉を確立するためには心身ともに健康に保つように、生活環境を考える必要があると言える。その実践的な方策として「環境エンリッチメント」は考えられる。種毎に異なる環境への要求を理解し、制限された飼育環境の中にその機能を増強するということである。 より豊かな環境で、動物が本来の振る舞いをすることは、動物の福祉を考える上で重要なことである。同時に、動物園を訪れるものにとっても、そうした姿を見ることは楽しいものであり、また動物やそこから広がる自然の理解を促進するものになるだろう。環境エンリッチメントは、動物園で動物を飼育管理していく上で必須の技術と捉えられる。