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ハリウッドのルーファス1998年の2月にルーファス君はロスアンジェルスのわが家にやってきました。年齢は8歳から10歳ぐらいだったと思います。犬種はゴールデンリトリバー、オスです。

彼に初めて会ったのは友達の犬のデイケアセンターでした。その時彼はすでに7ヵ月間もそこにいたのでした。前のオーナーは彼を預けてたまま引き取りに現われなかったのです。わが家に来る前に2、3回会いましたが寂しそうにしていたのを覚えています。

彼はどこだかは分かりませんが大学の寮で複数の学生に育てられたそうです。そして、彼等が卒業後、その中の1人が引き取ったのだそうですが、仕事が忙しく出張が多くなり面倒を見ることができなくなったそうです。

初めは彼を引き取るつもりはありませんでした。なぜなら、犬を飼うことは大きな責任があるし、また最後まで面倒を見てやれる確信がなかったのです。しかし、何時も彼のことは気になっていました。なんとかレスキューしてやりたいと思っていました。そこで1ヵ月考えた結果、新しい家を捜してやろうと取り敢えずわが家に連れてきました。ところが、3日間一緒にいてボクのベッドで寝たら情が湧いてしまいました。そして4日目に彼に言いました。

”わかった、最後までボクがルーファス君の面倒を見てあげるから、もう心配しなくてもいいよ”

その夜は呼んでももうベッドにはきませんでした。リビングルームで1人で寝てました。
安心したのでしょうか。

何回か留守番をさせたことがあるのですが、2、3ヵ月たったある日、彼を5時間程家に置いて帰ったら外にいました。ちょうど友人が来るというので鍵を預けていましたので、てっきり彼がいるのだと思いましたが、ドアを締めるとドアに開いた穴から外が見えました。一瞬なにが起こったのかわかりませんでしたが、すぐにルーファスが噛ったのだとわかりました。

”ルーファース”と叫んだらこそこそとベッドルームに逃げてしまいました。大きな穴で今では犬用のドアになってます。その時からどこに行くにも一緒でした。毎日、仕事場にも連れて行きました。1年330日以上、ほとんど24時間一緒でした。

一度スタジオからいなくなって青くなったこともあります。家にきてからあまり時が経ってなかったと思います。5分程目を離した隙にどこかに行ってしまったのです。あちらこちらと探しまわりましたがどうしても見つかりませんでした。もう会えないかと覚悟を決めました。

本人はまだボクをおとーちゃんと思っていませんから、その辺を散歩しているつもりだったのでしょう。近くのオフィスの中をガラスのドア越しに覗いていたそうです。そこにいた人が犬好きで、道路にもし出てしまうと危ないので中に入れてくれたのです。
その時にはまだ名前のタグを付けていませんでした。付けていたタグはデイケアセンターをしている友人がサンタモニカ市に登録していた番号だけでした。その登録番号をたよりにオフィスの人が友人を見つけだして、電話をかけてくれたのです。

彼女もルーファス君は、ボクのところにいるものだと思ってましたから、最初はなんの話か分からなかったようです。
ゴールデンリトリバーだと言われて、その犬はルーファス君だと理解したそうです。そこのオフィスの人は親切にも彼をわざわざ車で彼女のところに届けてくれたのでした。
彼女からルーファス君が彼女のところにいると、電話がかかってきたのは、彼がいなくなって2時間程時間が経った後でした。ほっとしました。
あとからチョコレートを持ってお礼に行きました。

彼の脱走はこれが始まりでした。ハリウッドヒルズの知り合いの家からもいなくなったこともあります。
庭のゲートが少しだけ開いていたそうです。第1回目の脱走のあとに名前のタグを付けていましたので自宅に電話がかかってきました。
その時、 ボクはロスアンジェルスから車で2時間程のところにいました。暑いところだったので彼は連れて行かなかったのです。幸いにも簡単に見つかって友人が車で迎えに行ったところ、他人の家の暖炉の前でそこの家の犬のような顔をして寝そべっていたそうです。
名前を呼んだら、”おう来たか”みたいな顔をしていたそうです。

小さい脱走は何回もありますが、毎回うれしそうな顔をして連れられて帰ってきました。彼はエスケープアーティストだったのです。なかなか落ち着かなくて、ドアを開けていても逃げなくなるまで1年半程かかりました。

彼はひょっとすると自分を人間だと思っていたのかもしれません。彼がボクの家に来た年の夏、キャンプに連れて行きました。友達2人、計3人と1匹でテントで寝ました。朝起きると友達が

”知ってる?朝方小さい動物がテントの周りをクンクンと匂いをかぎながら歩いていたよ”

ボクは知りませんでしたが、ルーファス君も寝ていて反応しなかったそうです。皆からあきれられていました。

さて、ボクはフォトグラファーですのでスタジオで、彼の写真を撮ることにしました。初めは彼だけだったのですが、何か物足りないような気がしてカメラを首に、サングラスを顔にかけさせてみました。
いやがるかなと思いましたが全く気にせずにおとなしくモデルになってくれました。この時撮影した写真を日本に帰った時に、いつもお世話になっている写真家の方にみせたのが、彼が写真を撮るきっかけになったのです。

ハーネスを特注で作ってもらってそれにカメラを付けて、ロスアンジェルス近郊のドッグショーやドッグパーク、ドッグカフェ等に行って、2人で写真を撮りました。ただ面白くて撮っていたのです。どこに行ってもよく声をかけられたものです。ルーファス君は人気ものでした。ボクの名前は覚えてもらえなくても彼の名前はすぐに皆に覚えてもらってました。顔が笑ってました。特に女の人が好きでした。なんてったってオスでしたから。

彼は実際は何才だったのでしょう。相当な年寄りであることは知ってました。そこで、去年の5月を最後に撮影の仕事から引退させました。後ろ足が悪かったのです。それからしばらくして階段の登り降りも1人でできなくなってしまったのです。
散歩は以前は長い距離を歩いていましたが、だんだんと短くなって自宅の周りだけとなってしまいました。
それでも出かける時はいつも車の後部座席にいました。窓からは首は出しませんでしたが、後ろのドアを開けると後部座席から顔だけをだしてこっちを見つめていました。
ドライブが好きで車の中ではおとなしくしていました。

 

弱っていくのを見るのはつらかったですが仕方がありません。あちらこちらと悪くなってきたのです。そして、去年の12月20日頃、突然、後ろ足がたたなくなってしまいました。

どうしても納得がいかなかったので、病院に連れて行ったところ、こういうことも起こりうると言われ、そろそろ眠らせることを考えた方が良いと言われてしまったのです。
アメリカでは歩けなくなるとすぐに眠らせてしまうのでしょうか。ボクはルーファス君が苦しむのだったら仕方がないけれども、そうでないのならば、眠らせることはしたくないと思ってました。それに、名前を呼べばこちらを向くし、食欲もあったので全然シリアスに受け止めていませんでした。

”眠らせることは来年考えます”

ボクは お医者さんに言いました。彼がつぶやきました。

”来年までもつかな”

”おっさんいいかげんなこと言うなよ”

心のなかで ボクはどなってました。

もう起き上がることも出来ませんでしたので、下の世話も大変でした。けれども、半年でも1年でも世話をするつもりでした。
歩けなくなって次の日、オシッコをしないので心配しました。家の中ではするなと躾てますので我慢していたのだと思います。タオルを下腹部にあてて揉んでいたらジワッとあたたかい液体が出てきた時には安心しました。でも、つい最近までひとりでできたのに、と思うと切なくて涙があふれてきました。

そのうちに、食欲も目に見えて落ちてきました。あれほど好きだったパンも食べなくなってしまいました。
鼻に近づけても顔を背けるのです。
2003年1月1日には3日間何も食べていないのに真っ黒のウンチを4回もだしたのです。もうこれはと思いました。そして、1月2日の早朝、ボクが彼の体を撫でている間に、自分のベッドで息を引き取りました。
少し苦しんだので眠らせた方が良かったのか、悪いことをしたなと後悔しています。

今、思っています。ルーファス君はボクと一緒にいて幸せだったのでしょうか。彼はしゃべらないのでわかりません。
友達はグッドリタイアメントライフだったはずだよと言ってくれました。少し気が楽になりました。また、別の友人はこれからはボクの心の中に彼はいるんだね、と言いました。
そんな浅いところにルーファス君はいないよ、彼はボクの魂の中にいるんだよ、と叫んでました涙が出てきてそれ以上話せませんでした。

人といっしょにいるのが大好きでした。大きかったですが、温厚で優しくて仕草のかわいい良きパートナーでした。人や犬を噛むなどということは、彼の頭の中にまるでありませんでした。友人の柴犬に耳を噛られたこともありましたが、全然怒らないないのでもどかしく思ったこともあります。

ボクは、彼の世話をしていたつもりでしたが、実は彼に”やさしさ”というものを教えてもらったような気がします。
出来ることなら、彼が子どもの頃から一緒に過ごしたかった。ころころとしてカワイイ犬だったと想像しています。

毎年多くの犬や猫が捨てられています。ペットは残念ながら飼い主を選ぶことはできません。
不幸にして捨てられてしまった彼等はどうすればいいのでしょう。
子どもの時から、暖かい家に迎えられる幸せなペットがいる反面、かわいそうなペットがいるのも事実です。
これからもボクはレスキューするつもりです。しかし、もし、もしですよ、万が一、何かの理由で諦めなければならなくなったときには、彼らの為に新しい家を探すつもりです。

最後に、ルーファス君、どうもありがとう! 君のことは、一生忘れることはないでしょう。







My name is Rufus. I am a photographer.
兼本 玲二 写真・著 ISBN 0-9746448-8-9

 ルーファス君と著者が共に過ごした時間が写真と共に描かれています。
 その写真は、写真家のルーファス君の目線で写されているもので、犬の視線を体感することが出来ます。
 犬と過ごすという素晴らしさを改めて考えさせてくれる素敵な本です。



 ルーファス君の本は下記のWEBサイト内の 「BUY MY BOOK」 でも入手できます。
 Rufus Cam : http://www.rufuscam.com/  BUY MY BOOK
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