お知らせ
NEWS2023.08.25
保護中: 奈良県「いのちの教育」プログラムの紹介
奈良県「いのちの教育」プログラムの紹介
〜動物からの学びが汎用性のある教育プログラムへ〜
奈良県「いのちの教育」プログラムの入り口は、動物や自然です。動物からの学びは、自分以外の他の存在に気づくこと、他者の心を知り、共感したり感情移入することで、関わる他に対して果たすべき責任があることなどを学ぶことができる高い汎用性を持っており、この学びを活用してあらゆるいのちを尊重し、愛し、共感する心を育てる人道教育となっています。
このプログラムの大きな特色は、ふたつあります。
ひとつは、教育委員会との連携により授業の実施は現役の小学校教諭が行っており、子どもたちがしっかり授業に集中して伝えたい内容が効果的に伝わり、記憶の定着化を図れる質の高い授業を行っていることです。
そしてもうひとつは、このプログラムを開始した2012年から10年以上にわたって奈良県と当法人が「いのちの教育展開事業」として連携協定を結び、共にプログラムの普及展開について連携して事業を行ってきたことです。そうした連携により、奈良県のプログラムは全国複数の自治体でも導入され、大きな広がりを見せることが可能となりました。
奈良県「いのちの教育」プログラムは、以下の3つのプログラムによって構成されています。
・プログラム Ⅰ 『私たちと動物との関わり(気づき)』 ・プログラム Ⅱ 『動物の「いのち」と「ニーズ」と「気持ち」を考える(共感)』 ・プログラム Ⅲ 『動物のために私たちができること(責任)』 |
プログラム Ⅰ 『私たちと動物との関わり(気づき)』
プログラム Ⅰのキーワードは「気づき」です。
私たち人間が、動物といろいろな関わり方をしているということを理解するために、「街」「牧場」「自然」 という3つのエリアを扇形のボードで示し、「ペット」「家畜」「野生動物」というそれぞれ違った関わり方があることに、自ら「気づく」ということを目的としてた内容です。
このプログラムは、20体の張り子を子どもたちが2人以上のグループになって「すみか」に運ぶことから始まります。
どれを運ぶか、どこに運ぶかは、グループになった相手の意見を聞いたり相談したりしながら運んでもらい、それぞれが運んだ動物についてなぜそこを選んだのか、それぞれの子どもたちの意見を尊重しながら進めます。周囲から違った意見が出た場合は、一旦、エリアの外に置いておき、後から「街」「牧場」「自然」 という3つのエリアと、そこで生活する「ペット」「家畜」「野生動物」が人間とどのような関わりを持っているのかを理解した上で、一緒に正しい「すみか」を見つけていきます。そうしたことを自ら考えることにより、「気づき」が生まれます。
「街」で暮らす動物は、人間がその動物が死ぬまで大切にお世話をし、「ペット」と呼ばれています。ペットの世話をすると楽しかったり、癒やされたりとてもいい気持ちになるので、私たちはペットと「心」でつながっていると言えます。
「牧場」で暮らす動物は、人間の役に立つために育てられている動物で、最後まで人間がお世話をしていて、「家畜」と呼ばれています。人間は、家畜から肉や卵、牛乳、毛糸などをもらって生活をしていて、私たちは家畜からもらうものをとおして体が丈夫になり、快適に生活ができるようになるので、「健康」でつながっていると言えます。
「自然」で暮らす動物は、自分の力で生きていますので人間とは関係が無いように思いますが、自然環境という共通のフィールドで生きています。ここで暮らす動物を「野生動物」と呼んでいます。
私たちと野生動物とが一緒に使っている自然が豊かできれいでなければ、私たちも野生動物も安心して暮らすことができません。野生動物とは、自然をとおして「安心」でつながっていて、自然環境を守ることは人間の責任でもあることがわかります。
このように、それぞれの場所の動物を定義づけ、具体的なつながりを示すことで、動物が好きな人も苦手な人も、動物とさまざまなかたちで関わっているのだということに気づきます。
プログラム Ⅰの最後には、「人間と動物はつながっている!」と大きな声で、子どもたちと一緒に確認をします。このプログラムでは、パネルを効果的に使って重要なキーワードを唱和するようにしています。こうすることで、子どもたちの記憶の固定化につながり、次のプログラムでの学びにつながります。
プログラム Ⅱ 『動物の「いのち」と「ニーズ」と「気持ち」を考える(共感)』
プログラム Ⅱのキーワードは「共感」です。
それぞれの動物には、私たちと同じように「生きるために必要なもの」というニーズがあり、「気持ち」があるということを学びます。
まず、子どもたちに「生きている証拠」を考えてもらいます。「食べる」「寝る」「うんちをする」「心臓の音」などたくさんの生きている証拠が集まりますが、動物も同じようにそれらの「生きている証拠」を持っているということに気づきます。
次に、2枚のパネルに描かれている犬の気持ちを想像してもらいます。1枚目の楽しそうな雰囲気の犬のパネルのときには挙手をして意見を発表してもらいますが、2枚目の少し寂しそうなイラストのパネルは、子どもたち一人ひとりに小さなホワイトボードを渡して書き込んでもらいます。子どもたちがその犬が置かれている状況に感情移入して、ホワイトボードに書ききれないぐらいたくさん「気持ち」を汲み取って書いてくれます。
ホワイトボードに書くという行為は、手を上げて意見を言うのが苦手な子どもでも書くことによって意見を出しやすくなり、ふりかえりの記録にそれらの意見を残すことで、授業に一緒に参加したという実感を生む効果があります。
「もし自分がこの犬の立場だったら…」と想像することは、そのまま「もし自分が隣の席の○○君だったら…」想像をして、相手の気持ちを思いやるということに置き換えることができるのではないでしょうか。
プログラム Ⅲ 『動物のために私たちができること(責任)』
プログラム Ⅲのキーワードは、「責任」です。
前の2つのプログラムで、私たち人間は「ペット」「家畜」「野生動物」とそれぞれ違ったかたちで関わりを持っており、人間と動物は同じ「いのち」を持っているということを学習してきました。プログラム Ⅲでは、これらの動物が幸せに暮らすためには、私たちは何をしなければならないのかを考えます。
このプログラムでは、「責任」のことを「わたしたちと動物とのやくそく」という言葉を使って、動物たちの心がハートマークになるように、私たちが動物にできることを考えます。
ペットであれば、「生涯にわたっての適正なお世話」が必要です。家畜であれば、「私たちがそのいのちを利用する最後のときまで適切な飼育と管理」をしなくてはなりません。野生動物に対しては、野生動物が快適に暮らしていける「豊かな自然を守り」快適な自然環境を壊さないためにはどうすれば良いのかを考えます。
ここでも、ホワイトボードとイラストのパネルを活用しますが、黒板に書き写しきれないぐらい、野生動物を含む自然環境の保護や食育についての意識が高まっている意見がたくさん出てきます。
また、ただ単に「動物のお世話」という視点だけではなく、動物への思いやりが深まり、「いのち」の大切さを実感することで、思いやりや協調性、道徳的心情などの豊かな人間性の基盤構築がなされています。
最後に、皆で一緒に考えた「わたしたちと動物とのやくそく」の中から、できることから少しずつやってみよう!と約束をして、3回のプログラムが終了します。
奈良県「いのちの教育」研究協議会の設置
奈良県では、奈良県「いのちの教育」を推進するために、奈良県「いのちの教育」研究協議会(会長:国立大学法人奈良女子大学 天ケ瀬正博先生/委員:Knots代表理事 冨永佳与子)を設置し、以下の取り組みを行っています。
【協議会の取り組み内容】
- 取組方策についての研究・協議
- プログラムの効果的な実施方法の検討
- プログラムの広域的な普及を図る方法の検討
- プログラムの評価方法の検討
- 中学校・高等学校用プログラムの検討
- プログラムの検討(評価方法も含む)
- 教育ツールの検討
- 研究内容の情報発信と情報収集
- 国際会議等での発表
- 研修会及び研究報告会等の開催
- 国内外における情報の収集
奈良県「いのちの教育」の評価・分析 —小学生プログラムの評価—
奈良県「いのちの教育」プログラムでは、継続して「人づくり」の教育を行うために実施内容の評価を行い、教育効果の分析を行っています。
教育に関わる有識者等からなる奈良県「いのちの教育」研究協議会を定期的に開催し、プログラムの内容をブラッシュアップしつつ数値的な効果を示すことで、より新たな学校や他の自治体にも取り入れてもらいやすくする工夫をすると共に、年に1度、全国の動物行政および教育関係者を対象とした奈良県「いのちの教育」研修会を開催し、プログラムの普及展開を行っています。
奈良県「いのちの作文コンクール」
子どもたちが考えた「いのち」の大切さについて表現する機会を設けることで、子どもたちの「いのち」を尊重しようとする態度を育むことを目的として、令和4年度から奈良県教育委員会主催の奈良県「いのちの作文コンクール」が発足しました。
奈良県「いのちの教育」研究協議会会長・天ケ瀬先生と共に、当法人代表理事・冨永も審査委員を務めさせていただいております。