りぶ・らぶ・あにまるず ICAC KOBE 2014
第3回神戸アニマルケア国際会議 2014 —人と動物の未来の為に— 報告
■開催日:2014年7月19日(土)/20日(日)
■開催場所:神戸ポートピアホテル
■主催:公益社団法人日本獣医師会/公益社団法人Knots
■共催:公益社団法人日本医師会/一般社団法人兵庫県獣医師会/公益社団法人神戸市獣医師会
■シンポジウム主催団体:人と動物の共通感染症研究会/公益社団法人日本動物病院協会/公益社団法人日本動物福祉協会/動物との共生を考える連絡会/日本野生動物医学会/日本クマネットワーク/応用動物行動学会/公益社団法人日本獣医師会/公益社団法人日本獣医学会/奈良県うだ・アニマルパーク振興室/公益社団法人Knots
■特別協賛:ネスレ日本株式会社 ネスレ ピュリナ ペットケア
■協賛:日本ヒルズ・コルゲート株式会社
■シンポジウム支援企業及び団体:ロイヤルカナンジャポン/ネスレ日本株式会社 ネスレ ピュリナ ペットケア/DSファーマアニマルヘルス株式会社/マース ジャパン リミテッド
■会議支援企業及び団体:アメリカペットフード協会/六甲山カンツリーハウス/アサヒグループホールディングス株式会社
■会議サポーター:個人の方のご寄付
■助成:公益財団法人 中内力コンベンション振興財団
■特別協力:一般社団法人ペットフード協会/北海道大学大学院獣医学研究科/帯広畜産大学獣医学課程/岩手大学農学部共同獣医学科/東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻/東京農工大学農学部共同獣医学科/岐阜大学応用生物科学部共同獣医学科/鳥取大学農学部共同獣医学科/山口大学共同獣医学部獣医学科/宮崎大学農学部獣医学科/鹿児島大学共同獣医学部獣医学科/大阪府立大学大学院生命環境科学研究科獣医学専攻/酪農学園大学獣医学部/北里大学獣医学部獣医学科/日本大学生物資源科学部獣医学科/麻布大学獣医学部/日本獣医生命科学大学獣医学部/帝京科学大学アニマルサイエンス学科
■協力:長崎大学熱帯医学研究所/日本寄生虫学会/日本衛生動物学会/日本熱帯医学会/NPO法人野生動物救護獣医師協会/公益社団法人日本動物園水族館協会/兵庫県動物愛護センター/ニホンジカ有効活用研究会/アニマテック・オオシマ/優良家庭犬普及協会/一般社団法人日本ペット用品工業会/一般社団法人エゾシカ協会/日本動物病院会/一般社団法人日本SPF豚協会/緊急災害時動物救援本部/ちよだニャンとなる会/一般社団法人日本障害者乗馬協会/ヒトと動物の関係学会/一般社団法人日本動物看護職協会/ペットとの共生推進協議会/一般社団法人ジャパンケネルクラブ/日本獣医学生協会(JAVS)
■後援:農林水産省/環境省/厚生労働省/文部科学省/兵庫県/神戸市/兵庫県教育委員会/神戸市教育委員会/神戸市動物愛護協会/一般社団法人兵庫県医師会/一般社団法人神戸市医師会/公益財団法人日本動物愛護協会/公益社団法人日本愛玩動物協会/一般財団法人J-HANBS/駐大阪・神戸アメリカ合衆国総領事館 関西アメリカンセンター
■対象:動物関連事業従事者/公衆衛生関係者/学生/一般
■内容:
〈国際会議〉
◎基調講演
「インフルエンザウイルスの生態:鳥インフルエンザとパンデミックインフルエンザ対策のために」
喜田 宏氏(日本学士院 会員/北海道大学 特別教授/北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター 統括/OIE世界鳥インフルエンザレファレンスラボラトリー長/WHO指定人獣共通感染症対策研究協力センター長)
◎シンポジウム
・シンポジウム Ⅰ 「身近に存在する人と動物の共通感染症」
・シンポジウム Ⅱ 「動物達が開く心の扉 ~CAPP活動15,000回を迎えて」
・シンポジウム Ⅲ 「暴力の連鎖:人間に対する暴力と動物虐待の関連性」
・シンポジウム Ⅳ 「ずっと一緒に居られる」社会へ -飼い主を支えるシステムが実現する豊かな社会」
・シンポジウム Ⅴ 「One World, One Health 〜今、北極で何が起こっているのか? 〜」
・シンポジウム Ⅵ 「畜産現場における野生動物被害」
・シンポジウム Ⅶ 「高度動物医療と終末期動物医療(安楽死処置を含む:平穏死について)」の現状
・シンポジウム Ⅷ 「畜産Now! -食の安全と動物福祉」
・シンポジウム Ⅸ 「奈良県いのちの教育 —子ども達へ「いのち」を伝える試み」
*各シンポジウムは、各専門分野の団体にてご主催頂き、内容も一任致します。
*会議記録集制作:会議終了後、基調講演及びシンポジウムの記録を日英両文で作成し、Knots ウェブサイトで無償提供。英国NPO CABI (農学系データベース)にも掲載予定。
〈ポスターセッション〉
大学院生向けにポスターセッションを開催
〈レセプション〉
会費制にて実施
■アドバイザー(50音順):
植村 興氏(四條畷学園大学 教授)
笹井 和美氏(公立大学法人 大阪府立大学 獣医学類 学類長 教授)
柴内 裕子氏(公益社団法人 日本動物病院協会 顧問 /赤坂動物病院 院長)
玉井 公宏氏(公益社団法人 和歌山県獣医師会 会長)
山口 千津子氏(公益社団法人 日本動物福祉協会・獣医師調査員)
山﨑 恵子氏(ペット研究会「互」主宰)
■ 事務局:公益社団法人Knots
阪神・淡路大震災から15年目となる2009年に産声をあげた「りぶ・らぶ・あにまるず 神戸アニマルケア国際会議(ICAC KOBE)」の第3回が、去る7月19、20日の2日間にわたって神戸ポートピアホテルで開催されました。2年前の第2回のときから副題を「人と動物の未来の為に」として掲げ、我々人間が地球上に生きる全ての生き物のために果たすべき役割を明らかにし、人と動物が寄り添い合って生きることができる未来の実現に向けて、各分野の専門家による議論が行われています。
我々が生きる社会は、パソコンや携帯電話の普及、そしてスマートフォンなどの急速な技術発展によって、より多くの情報をより早く手にすることが可能になりました。しかしその反面、日本における自殺者や孤独死をする高齢者の数は、逆に増え続けています。開会式のご挨拶では、阪神・淡路大震災の被災者が、5年間で200名、10年間で500名もの人が孤独死をしており、その中に動物を飼っていた人は一人もいなかったというお話がありました。
そして、昨年、2013年には台湾で52年ぶりに野生のイタチアナグマの狂犬病が発生し、近隣のアジア諸国に衝撃を与えました。日本では、1956年以降、狂犬病の発生は確認されていませんが、人獣共通の感染症が身近なことであるのを思い起こさせる出来事となりました。
また、「これまでに経験したことのないような…」という言葉が頻繁にテレビや新聞で使われるほど、予想外の災害に見舞われる危険性が高くなっています。現代社会は、技術の進歩とは裏腹に、生きることが以前よりも困難な時代に差し掛かっているのかもしれません。
そうした我々人間の心の不安を癒してくれる存在が、犬や猫などのペットであることは疑う余地もありません。しかし、不安定な景気や加速する高齢化社会の中で、「最後まで責任を持って飼うことができるのだろうか」「万が一、飼い主である自分の方が先に死んでしまった場合は、ペットはどうなるのだろう」といった不安から、ペットと共に暮らす世帯が急速に減少しています。また、人間の営みはペット以外にも様々な動物との関わりの中で成り立っていますが、「安さだけを追究した食の安全は確保されているのだろうか」「外国からの感染症対策はどうなっているのだろう」「野生動物による農作物の被害状況は…」など、多くの不安要素は未だ解決されないままです。
このICAC KOBEでは、特定の専門家の分野であると思われがちな、様々な人と動物との関わりを広く一般市民に告知することによって、地球上に生きる全ての生き物と人間が関わり合って生きているということを発信し、共に未来を考えることを目的として開催されています。
7月19日(土)
【開会式】
この会議が発足した切っ掛けとなった阪神・淡路大震災では、多くの動物たちが被災すると共に、仮設住宅などに入れず、飼い主と離ればなれにならなければならなかったという苦い経験があります。そうした教訓や被災地での様々な思いを忘れないためにも、ICAC KOBEの開会式では、毎回、震災当時の映像を上映し、災害で犠牲になった多くの命に対して黙祷を捧げています。
オープニングでは、主催団体の公益社団法人 日本獣医師会会長・藏内勇夫氏、共催団体の公益社団法人 神戸市獣医師会会長・中島克元氏、そして特別協賛のネスレ日本株式会社 ネスレピュリナペットケアのカンパニー プレジデント・阿部文彦氏にご挨拶を頂き、共催団体の公益社団法人 日本医師会会長・横倉義武氏の祝電をご紹介頂きました。
ご挨拶の中で、「いのち」に対する我々の責任の重さと、人にとって一体何が本当に大切なのかということをお話頂き、また、単なる少子高齢化社会ではなく、昨年、一世帯当たりの人口が二人を下回ったという超高齢化社会に於ける、人と動物との関わりの大切さがより求められているという話が心に残りました。
引き続き、ICAC KOBE開催についての指針を示して下さっているICAC KOBE会議アドバイザーの紹介と、主催団体・公益社団法人 Knotsの運営に貴重なアドバイスをくださっているKnotsアドバイザリーボードメンバーの紹介が行われました。
![]() 阪神・淡路大震災のビデオ上映 |
![]() 黙祷を捧げます |
![]() 藏内勇夫氏 |
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![]() 中島克元氏 |
【基調講演】
ICAC KOBE 2014のオープニングを飾るのは、インフルエンザの疫学研究を地球規模で行い、世界の高病原性鳥インフルエンザとパンデミックインフルエンザ対策や人獣共通感染症克服のための広範な研究を展開しておられる喜田宏先生の基調講演です。開催前から、地元のメディアに取り上げられたこともあり、用意した席が満席となるほどの来場者があり、会場は初日から熱気に包まれていました。
「少し難しい部分もあるかもしれませんが、睡魔が襲ったら安らかに…」と、喜田氏特有の冗談を交えながらの講演で、あっという間に1時間半が経過しました。
現在、厚生労働省や日本のメディアで使用されている「新型インフルエンザ」という言葉や、「パンデミック」という言葉の使われ方などには大きな誤解があり、感染症についての基本的な認識そのものが間違って伝わっているという解説から始まり、インフルエンザが拡大する過程で重要な鍵を握っているカモの生態を調べるため、北極圏に渡って凍土の中で冷凍保存されているフンの調査を行ったエピソードなどが語られました。自然界でカモと共存してきたインフルエンザウイルスは、そのままの状態ではヒトに感染することはありませんが、家畜のアヒルやブタのレセプターと結合することによって変異し、ヒトにうつるウイルスに変化します。私たちが報道などで毎年耳にする「インフルエンザ」という言葉が、地球規模で関係しているということが良く理解出来る興味深い話となりました。
【シンポジウムⅠ/Ⅱ/Ⅲ 開催】
初日の午後からは会場を移動し、「和楽」「生田」「北野」の3つの会場に分かれて、同時進行でシンポジウムが開催されます。各シンポジウムの内容は、それぞれのシンポジウムの座長に一任されており、現在、その分野で一番相応しいと思われる演者が講演を行ったり、パネルディスカッションで意見交換をするといった方法で構成されています。
シンポジウムⅠ、Ⅱ、Ⅲでは、「人と動物の共通感染症」「人と動物とのふれあい活動(CAPP)」「暴力の連鎖」という内容が取り上げられていましたが、いずれも、私たち人間との関わりに深く結びついているテーマです。
《シンポジウムⅠの様子》
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《シンポジウムⅡの様子》
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《シンポジウムⅢの様子》
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【ポスターセッション】
この第3回で初めての試みとなる、大学院生によるポスターセッションですが、国内外からの応募で、13組のチームが選抜されました。人と動物との関わりに関するテーマのポスターを掲示し、基調講演やシンポジウムの合間の時間に、演者や来場者の皆様に自分の研究をアピールする場となります。この国際会議では、普段直接お目にかかることができない様々な分野の専門家が集まるので、参加した学生にとっても、より多角的な視野を得ることができる貴重な場となったはずです。
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【レセプション】
初日の会議終了後、出演および主催者によるレセプションが開催されました。このレセプションには、会場に来場してくださった一般参加者の皆様も参加可能ですので、昼間のシンポジウムを聞いて「この先生のお話をもっとゆっくり聞いてみたい!」という方にとっては、またとない機会となります。フォーマルな会議の場とは別に、こうした場所で人と人との縁が繋がっていくことこそ、ICAC KOBEの魅力なのかもしれません。
開会のご挨拶は、主催者である公益社団法人日本獣医師会 副会長・近藤信雄氏、そして乾杯のご発声は、アサヒビール株式会社 元社長・福地茂雄氏にお願いいたしました。近藤氏からは、ICAC KOBE開催にご尽力くださった皆様への感謝の言葉と共に、ご自身の阪神・淡路大震災での体験と日本獣医師会としての当時の支援状況が語られ、福地氏からは主催団体である公益社団法人Knotsの「結び目」としての役割について、身の引き締まるメッセージを頂きました。
ポートピアホテルの料理に舌鼓を打ちつつ、和やかな雰囲気の中で、海外から来日して下さったトーマス E. カタンザーロ氏、フィル・アーコー氏、アンドリュー D. デルシエール氏、木下美也子氏が紹介されました。そして、ポスターセッションに参加して下さった学生の皆様が紹介され、「ヒルズ・スチューデント・サポート」として彼らの旅費の一部をご支援くださった、日本ヒルズ・コルゲート社社長・ゴードン・ディメシッチ氏より激励の挨拶を頂きました。また、この会議の開催を影で支えているボランティアメンバーと事務局スタッフが紹介され、恒例のソプラノ・隅田あゆみ氏とピアノ・西坂優子氏によるアリア斉唱で会場に花を添えました。
いつまでも話は尽きず名残惜しい夜となりましたが、中締めと共に初日のプログラムは終了となりました。
7月20日(日)
【シンポジウムⅣ/Ⅴ/Ⅵ 開催】
2日目の始まったシンポジウムでは、前日の様子が地元・神戸新聞に掲載されたこともあって、予備の椅子を会場の通路に配置しなければいけないほどの来場者があり、人と動物の関わりについて市民の関心が高まっていることを伺い知ることができました。10時から13時まで、3時間にも及ぶシンポジウムですが、いずれの会場でも参加者が熱心にメモを取り、質問なども多数飛び交う議論が成されていました。
シンポジウムⅣ、Ⅴ、Ⅵでは、「飼い主を支えるための社会のシステム」「北極圏の環境異変」、そして「畜産現場における野生動物の被害」についてが取り上げられました。
《シンポジウムⅣの様子》
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《シンポジウムⅤの様子》
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《シンポジウムⅥの様子》
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【シンポジウムⅦ/Ⅷ/Ⅸ 開催】
午後からのシンポジウムでは、「高度動物医療と終末期動物医療」「食の安全と動物福祉」、そして「いのちの教育を伝える試み」について議論が成されました。参加者の中からは、「終末期動物医療(安楽死を含む)というテーマに特化した話を聞くことができる機会はこれまでになかった」という意見を耳にしました。今後、益々こうした専門的な分野の知識が、一般市民に求められる時代になってきたのではないでしょうか。そして、動物に対する福祉という考え方が、少しずつ浸透し始めていると言えるのかもしれません。
《シンポジウムⅦの様子》
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《シンポジウムⅧの様子》
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《シンポジウムⅨの様子》
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【閉会式】
2日間にわたって白熱した議論が繰り広げられたICAC KOBE 2014のプログラムが、全て終了しました。会議の開催に多大なご尽力をくださったアドバイザーの皆様を代表して、植村興氏から閉会のご挨拶を頂きました。「全ての命を幸せにすることの難しさは、1個20円の卵が60円になるという現実的な辛く難しい壁があるが、我々はそれに立ち向かうためにここに集まっている」という心強いお言葉を頂きました。
そして、アドバイザーの審査によってポスターセッションに参加してくれた学生の中から3組のアワードが表彰され、賞状と副賞が授与されました。将来、彼らの中からICAC KOBEで研究発表をしてくれる専門家が出てくれることを、心から楽しみにしています。
植村氏の「終わりは次の始まり」という言葉通り、Knots理事長の冨永氏から、来年7月に開催が決定したICAC KOBE 2015阪神・淡路大震災20年記念大会開催の告知が行われました。ICAC KOBE発足の切っ掛けとなったこの震災から20年。我々は未曾有の大惨事から一体何を学び、どんな課題が残されているのでしょうか。この2015年大会で、私たちに課せられた責任がより明確になることでしょう。
![]() 植村興氏 |
![]() 閉会式会場 |
![]() ポスターセッション・アワードの表彰 |
![]() ICAC KOBE 2015大会の告知 |
第3回目となるICAC KOBE 2014が無事に終了しましたが、人と動物との関わりには多くの課題が残されています。そして、近い将来必ず起こると言われている南海トラフ巨大地震などの大規模災害に対しても、我々は真剣に向き合わなければならない時代に生きており、すでに多くの自治体でペットとの同行避難や緊急時の対策などの準備が行われています。私たち人間は、こうした不安な時代の中にいるからこそ、逆に見えてくる人と人の絆、人と動物の絆の大切さを知ることができました。そして人間には、困難を克服し、それを乗り越える力があると私たちは信じています。
このICAC KOBEからの発信が、少しでも「人と動物の未来」を明るく豊かにする指針となり、共に生きる勇気を与える切っ掛けとなればこれ以上の喜びはありません。2015大会の神戸の会場で、また皆様にお目にかかれるのを心より楽しみにしております。