ワークショップⅥ「高齢犬のケア」

 

座長メッセージ


小林 英子氏
(社団法人神戸市獣医師会)

開業した30年前は10歳で高齢犬。飼い主を褒めたものです。しかし今は大型犬といえども15歳がいる時代になりました。それに伴い老齢疾患が人並みになりました。よたよた歩いても、1日中寝ていても、夜になると吠えるようになっても、毛が薄くなっても、すべて「年だから」とかたづけられがちです。しかし、それには理由があります。わかってあげてほしいのです。犬の一生と人の一生は同じ様に経過していきます。
 そこで、このたびは多くの病気の中から、見分けやすい症状の代表的な「痴呆」・「関節疾患」・「白内障」について、そして、完全に治らないまでも症状を軽くし、進行を遅らせる対策、犬も飼い主も楽になる介護の方法などについてディスカッションをしたいと思います。飼い主の方々の多数のご参加を望みます。
 喜びをたくさんくれた愛犬を最後までより良い状態で生活させること、これが飼い主の最後のお仕事です。
 あなたとあなたの愛犬が終生よきパートナーであり続けるためのお手伝いができれば幸いです。

「高齢犬の痴呆について」
 石川恵子氏(共立製薬株式会社 学術課)

 犬の痴呆の定義は、「高齢化に伴って、一旦学習によって獲得した行動および運動機能の著しい低下が始まり、飼育困難となった状態」とされている。一般的によくみられる症状に「夜鳴き」「昼はほとんど寝ていて、夜中に起きる(昼夜逆転)」「目的もなくとぼとぼと歩く」「狭いところに入って鳴きわめく」「飼い主の識別ができない」などがある。しかしこれらの症状があるからといって必ずしも痴呆とは限らず、何か別の基礎疾患によるものである可能性もある。
 痴呆の発生は日本犬系雑種に最も多く、次いで柴犬、紀州犬と続き、痴呆犬の8割を日本犬系が占めており、日本犬特有の疾患ともいえる。犬の高齢化に伴い痴呆犬の症例数も年々増加すると考えられるが、実際は94年以降、発生率にさほど変化はない。これは、日本犬系雑種の飼育頭数の減少によるものと考えられる。
 痴呆は治癒するものではないが、脂肪酸サプリメントなどを給与することによって、症状が軽減する事がある。

 
 
「高齢犬の関節疾患について」
 石川恵子氏(共立製薬株式会社 学術課)

 変形性関節症は軟骨の形成と破壊のバランスが崩れ、軟骨が変性することにより起こる関節疾患である。その原因には、老化による原発性のものと、股関節形成不全のような発育期の異常や外傷性に続発する二次性のものがある。また肥満や過度な運動はその悪化要因となる。
 変形性関節症では、「歩きたがらない」「以前ほど遊ばなくなった」「何となく元気がない」「階段の昇り降りが大変そう」「動作が鈍くなった」などの症状がみられるが、これらの様子の変化に気付いたとしても「年をとったからしょうがない」ということで片付けられてしまう事も多い。しかしこの状態を放っておくと症状は進行し、痛みなどにより生活が障害される。残念ながら変形性関節症は完全に治るものではないため、痛みなどの症状を和らげ、それ以上病状を進行させないようにする必要がある。そのためには体重の管理、適切な運動などの日常のケアも重要であり、痛みが強ければ薬物による治療が必要になることもある。また、グルコサミンやコンドロイチンなどの関節用サプリメントを投与することも有効である。

「高齢期の眼科疾患:白内障について」
 山下 真氏(ファーブル動物病院 眼科 獣医師)

ペットの高齢化に伴い、高齢期に入った犬眼科疾患の診察を行う機会が増えています。
私共が病院で遭遇するペットの眼の病気はその多くが遺伝性疾患としての要素を持っています。
 今回のテーマである白内障は犬の場合、その70%以上が2~4歳までに診断・手術を行うことが多いのですが、一方で高齢域での白内障の御相談件数も年々増加傾向にあります。その他、糖尿病など全身的な病気から併発した白内障や眼科疾患の診療件数も増加しています。
  ペットオーナーが“眼の濁り”を感じた場合、まずその濁りが眼のどの部分に起っているかを調べることが必要です。眼には透過体(角膜、前房、水晶体、硝子体)という構造があり、特に水晶体が何らかの理由で濁ってしまったものを白内障といいます。水晶体はカメラのレンズに該当する部分です。ここが濁ると光が上手く通過できなくなり、眼の中で光の乱反射が起り過剰に眩しがったり、遠近調節が上手くいかなくなったりします。白内障により視力が障害された場合、その現れ方は犬の年齢、性格、環境によって異なりますが、やはり行動は著しく制限されることになります。
 白内障と診断された場合、その進行を抑制する点眼薬を使用することが多いのですが、“治療”できるのは、現在のところ手術以外にはありません。犬の白内障に対する手術は過去10年の間で飛躍的に成功率が高くなり、眼の中に埋め込む人工レンズも国内外のものを含め非常にクォリティーの高いものが使用できるようになっています。
 今回のワークショップでは高齢期の眼の異常にフォーカスをあて、特に白内障の診断・治療・対応方法についてヒトと異なる点を踏まえ、詳しく解説を行います。


「高齢犬ケアにおける飼い主の対応策」
 中塚 圭子氏(ドルチェカーネ代表、JAHA認定ドッグトレーニングインストラクター)

現在日本では犬の半数が7歳以上の老犬であるという現状がある。老化に伴い習慣や性格が変化していく愛犬にどう対処していけばよいのかを相談し、解消する場が飼い主にとって重要となってきた。そこで老犬の悩みを解消したい、もう一度老犬でも楽しめる教室をという飼い主の要請に応えて、私は2006年より、「老犬教室」を始めた。今回は、飼い主とその犬たちに起きた様々な老化の悩みの実例とその解決方法、そしてまだあまり情報として紹介されていない犬の老化に戸惑ったときの、飼い主の心構えや老犬ならではの楽しみ方について報告する。

 まず、老犬といえども無理のない運動は必要である。教室でも家でもできる「簡単アジリティ」は犬に身体機能の維持、飼い主と一緒に運動する喜びを味わうことが出来る。

 次に老犬の飼い主が戸惑うのが「食への執着」である。若い頃はしつけで抑えることができたのに、ものを破壊したり、意外な場所に侵入したり、要求吠えをしたりといった状況に陥ることもある。少量でも食べたという満足感の出るような与え方、要求吠えにも「ある程度受け入れる」という、老犬ならではの考え方を紹介する。

最後に、飼い主は同じ経験をもつ飼い主同士の情報交換をすることで心理的な安定を得ることが期待される。老犬ケアや暮らし方の工夫を紹介し合ったり、不安に思っていることを飼い主同士で聞いてもらうといった、ネットワークが、老犬飼い主の心のケアに役立っている。