ワークショップⅠ「緊急災害時の危機管理」

座長メッセージ

植村興氏 (四條畷学園大学教授)

空が崩れ落ちて、大地が壊れても、恐れはしない、・・・、あなたのために何でもするわ、・・・、
岸洋子さんの歌が流れる中でキーボードをたたいています。

 地震、落雷、風水害、疫病、大火、など災害は、多くの場合突然襲ってくる。明日かもしれないし千年先かもわかりませんが、確実にやってきます。
人や動物は、今、この世にいただいている命を死守するようにつくられています。本能ですね。事前に異変を察知し、自己防衛に走る動物の例も多数報告されています。災害の事後に何の手だても講じないで右往左往するものの行方は哀れです。

 災害に備えて対応策を整え、訓練によって防災体制を整える人の「知恵」は、自分の命をまもります。優れたリーダーの知恵は、所属するグループ構成員全員の被害を最小限に食い止めます。この原理は、家庭、町内や村、国家から民族にも当てはまります。
生命体の盟主を意識するヒトには、自己防衛の知恵の恩恵を自然界ならびにすべての生命体に及ぼす責任があります。超人でない私たち一般市民は、力を合わせて家族と地域の全生命を死守します。統制のとれた行動は無類の力を発揮します。
理屈は単純明快、しかし現実はどうなっているのでしょう?

 本セッションでは、まず、過去に国内外で起こった代表的事例を紹介していただきます。多くの動物を救うことができた汗と涙の記録です。これら大変なご苦労の中から得られた体験は、将来のよりすぐれた知恵へ多くのヒントを与えます。ついで、人と動物とが非常事態時に集団行動をとる際に大きな障害となる「人と動物の共通感染症」に関する最新の状況を紹介していただきます。最善の防疫対策を備えておくことは私たちに与えられた最重要の課題です。そして、フロアーからのご意見を頂戴した上で、「緊急災害時の危機管理」に対する参加者の知恵の結晶として本セッションを総括させていただきます。

 人と動物の絆を深め、人ならびに動物の福祉の向上のために行動する(NPO)Knotsの想いが神戸から世界へひろがり、一人でも多くの人々の心に響き渡りますように。

・・・(地域のすべての家族、すべての命)あなたの為に何でもするわ・・・

「ハリケーン・カトリーナ被災地における動物救援活動」
レベッカ・ローアデス氏(カウアイ ヒューマイン ソサエティー エグゼクティブ ディレクター)

ハリケーン・カトリーナからは多くの教訓がありました。最も大切なことは、人々はペットを置き去りにして自分たちだけ安全な場所に避難することを拒むという事実です。その結果、アメリカ連邦政府はPETS法の施行に踏み切り、大規模な災害や緊急時の州や地元の緊急避難対策計画には、個人のペットやサービス動物のニーズについての対応を含むことを保障することとなりました。今回のワークショップでは、ハワイの地域ペット用緊急シェルター計画を含む、緊急災害時におけるペットの取り扱いについての情報をみなさまと共有したいと思います。またさらに、民官の動物福祉団体がどのように協力し合って、コミュニティーを支援し、災害に備えて準備、訓練そして対応すればよいのかを話し合いたいと思います。

 

「阪神・淡路大震災時の動物救護活動を振り返る」
 市田 成勝氏(大震災動物救護メモリアル協議会 会長)

震災は、いつ発生するかも分からないし、突然やって来ます。1年4カ月に及んだ動物救護を振り返ると、主な活動として1)動物救援本部の組織づくり2)サポート体制の確立3)活動資金と里親探し4)飼い主教育等が考えられます。

 1)については(社)兵庫県獣医師会、(社)神戸市獣医師会、(社)日本動物福祉協会・阪神支部とオブザーバーとして兵庫県、神戸市が加わり、此の5団体によって神戸動物救護センターと三田動物救護センターが運営されました。

 2)については動物救護センターの運営にかかわる人々を支えて、仕事をやり易くするためサポート体制が必要です。一般ボランティアや獣医師ボランティアが、宿泊する人、日帰りの人等多いときは1日70~80人にも達していました。また食事、寝所、お風呂、仕事の引き継ぎ、日程調整、ケガ等長期になるとその管理が難しくなります。安定的な管理を確保するには有給ボランティアを確保することが必要であり、行政からの支援も必要だと思われる。

 3)何と云っても資金がなければ何も出来ません。特に初期活動には欠かせません。この度の経験から云いますと、マスコミにのると義援金が入って来ますが、少し時間がかかります。早急に入り用なのです。緊急災害時動物救援本部が管理する基金を活用出来るようになっていますので随分楽になったと思います。また動物の里親探しも順調に行われましたが、病気をもっている犬猫は、獣医師に引き取ってもらうしかなかったようです。皆さんの協力には感謝しています。

 4)については、多頭飼育やしつけ問題、不妊手術や狂犬病予防注射の実施と鑑札、注票の装着等ふだんからやっておくことがまだまだあるように思います。

 以上大震災を振り返ってみますと、いろいろな問題が浮かび上がって来ますが、徐々に改善されて来ましたが、災害が起こらないことを願わずにはいられません。

「日本における過去20年余りに起こった緊急災害時の動物救援活動の変遷」
 山口千津子氏(社団法人日本動物福祉協会 獣医師調査員)

 地震・水害・台風・噴火等自然災害だけでも、毎年日本の各地でいろいろな規模で起こっています。昔から国としても人間の救助には尽力してきましたが、動物の救助までは及びませんでした。しかし、心ある飼主は被災しながらも、それでも、家族である動物のために自分のできる限りの手を尽くしていたのです。
 本格的な官民協働による緊急災害時動物救援活動は阪神・淡路大震災からと言えると思いますが、その前に私がかかわった災害においても、本格的ではありませんが自治体との協力による動物の救護活動がすでに始まっておりました。
 1986年の大島三原山の噴火の時は全島避難の際にイヌを船に乗せることを拒否され、泣く泣く飼主は港で別れました。その為に、飼い主が戻って来るまで東京都の職員がフードを運んでいました。しかし、2000年の同じ伊豆諸島の三宅島の噴火の時には、東京都・東京都獣医師会が三宅島にケージを送り、船に乗せて同行避難するように呼びかけるなど国民の意識の変化と共に救援の状況も変わってきました。これは、阪神・淡路大震災における官民協働動物救援活動において、「被災動物を助けることは被災者を助けることにつながる」ということが理解され、その意識がそれ以降の災害時にも活きているのだと思います。

「人と動物の共通感染症対策について」
 森田 剛史氏(厚生労働省健康局結核感染症課 課長補佐)

人と動物の共通感染症が問題となる背景には、交通手段の発展による膨大な人と物の移動、人口の都市集中、土地開発と自然環境の変化、高齢者の増加や野生動物のペット化等人間社会の変化と人間の行動の多様化が挙げられている。そのような中、今まで知られていなかった感染症が明らかになったり、忘れられていた感染症が勢いを取り戻したりし、人と動物の共通感染症対策の重要性が高まっている。人と動物の共通感染症を引き起こす病原体の多くは、本来、動物が持っているものである。ペットのみならず、ネズミ、ハト、タヌキ、イノシシ等の野生動物、学校等で飼育されている動物、家畜など、人間と近い距離にいる動物に対する日頃からの注意が重要となる。特に、緊急災害時においては、衛生的な環境を維持するのが大変な状況にあることから、こうした病原体に晒されるリスクは増大する。このため、ペット等の飼育動物に対しては、日頃から健康状態を維持するよう注意するとともに、犬の場合には、狂犬病予防注射や登録をしておくことが重要である。
 また、人と動物の共通感染症の感染を予防する方法は、(1)口移しでエサを与える等の過剰なふれあいを控える、(2)動物にさわったら必ず手を洗う、(3)野生動物との接触は避ける等であり、災害時であってもこうした基本をベースに対応する必要があろう。
 さらに、こうした感染症についての知識を得ておくことも重要である。厚生労働省では、ハンドブック等の作成・配布、ホームページ等を通じて各種の情報発信を行っているので、参考にしていただきたい。

「災害時における人と動物の共通感染症等の問題」
 佐藤克氏(社団法人東京都獣医師会 危機管理室感染症対策セクション)

平成12年9月22日、板橋区獣医師会と板橋区は災害時の動物救護についての協定を締結した。この中には、災害時の動物同行避難が明記されている。全国初の災害時の動物の同行避難を決めた自治体として大変注目を集めた。動物が同行することで動物側の一定の安全が保障されたが、避難所における公衆衛生の保持には新たな課題が加わった。
 災害時における避難所は、どうしても衛生状態が悪化しがちである。人と動物の共通感染症は200種類ほどあると言われ、感染症法でも約50疾病が指定されている。これらの病原体を飼育動物のすべてが保有し、常に人への脅威となっているわけではない。しかし、衛生状態が悪くなったり、ストレスなどで人の免疫機能が悪くなったりすれば、感染の機会が生まれる懸念がある。特殊な感染症だけではなく、飼育動物に寄生するノミやダニが、避難する住民の間に広がれば直ちに大きな問題となるだろうし、単に吠え声や、被毛の飛散、排せつ物のにおいなども問題視される懸念がある。さらに、災害時には動物も神経質になっているため、咬傷事故なども起こりやすいと思われる。
 人と動物の感染症の病原体を動物が保有していても、必ずしも症状が出ているとは限らず、確実にすべてを発見して解決することは不可能と言わざるを得ない。しかし、ノミやダニをコントロールしておくことや、被毛の手入れを怠らない、無駄吠えをしないようにしつけをしておく、ワクチンなどで予防できる疾病については事前に接種しておくなどの策は平常時から可能であり、リスクマネージメントの見地から大変重要である。
 災害時の人と動物の感染症対策成功のカギは飼い主一人一人の自覚と住民の理解、さらに事前の備えと言えるだろう。